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クリープハイプはファイナルで“劇場型激情”にたどり着いた。

クリープハイプ | 2014.10.01

 今年4月の初武道館の後、クリープハイプは夏フェスを控えて、ホールツアーに出た。このバンドには、ダイブ&モッシュを呼ぶ激しい曲もあるが、じっくり聴いて心に沁みる歌の魅力がある。「これからの長い付き合いを考えると、今の時点でホールをやっておくべき」と、尾崎世界観はツアー前に意図を語っていた。さらに「次に行くための修行ですよ。だから、こっちは楽しもうと思ってない」とまで言い切った。「お客さんにとっても修行だとしたら、それをこっちが背負って、楽しく帰ってもらえればこっちの勝ち」。強い覚悟で臨んだホールツアーが、ついにファイナルを迎えた。

 オープニングでは、このツアーに対するメンバー4人のインタビュー映像が流される。その中で尾崎は「お客さんが思わずステージに上がってきたくなるくらい伝えたい」と謎のコメントしていたのが気になった。おそらく尾崎は、椅子があることで自由に動けず、ストレスを抱えたオーディエンスを、最後には解放してあげたいと思っているのだろう。

 「寝癖」から始まったライブは、ファイナルらしく、演奏はとても安定していて、観客もその完成度を楽しんでいる。昨年の全国ツアー“クリープハイプの窓”のファイナルは中野サンプラザで行なわれたが、当時と比べると“ホールのクリープハイプ”の音楽的能力は格段に上がっているのが序盤からわかる。ドラムの小泉拓の4つ打ちはどっしりしているし、長谷川カオナシのベースはメロディアスなラインを刻む。小川幸慈のギターワークは、各所で歌にアクセントを効果的に加える。

 最初に度肝を抜いたのは「新曲」だった。レコード会社を移籍したことを歌で伝えながら、バンドとリスナーの真剣なコミュニケーションの必要性を単刀直入に訴える。 “歌いたい歌を歌うから、ちゃんと聴いてほしい。それがバンドの幸せだ”と、クリープハイプの姿勢をはっきり打ち出す。最初は音の勢いに驚いたオーディエンスは、途中から「新曲」のメッセージに気付いて大きな歓声を上げる。ライブハウス“東京キネマ倶楽部”で「社会の窓」を初めて聴いたときと同じ衝撃を、クリープハイプは都内最大級のNHKホールで伝えることに成功していた。

 「グレーマンのせいにする」からの中盤は、“聴かせるコーナー”だ。これはホールでのライブでは不可欠のパートで、ここではツアー前半からの成長を見せつける。課題をひとつひとつクリアしながらオーディエンスを巻き込んでいくのは、尾崎が語っていた“修行を超える修行”なのだろう。その考えの底には「自分たちの音楽を完成させるのには、ファンの参加が必要」というポップ・ミュージックの黄金律が秘められている。

 聴かせる曲ばかりでなく、もちろん激しく畳みかけるナンバーも健在だ。最新シングル「エロ」の前に、「今日は家族が見に来てるんで、ストレートに言っちゃいます。 “お父さん、お母さん、チXコ~!!”」と叫ぶと、尾崎は激情まっしぐら。 続く「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」がよかった。「もしこれが最後に歌う歌だったら」という気持ちを込めて書いたメジャーデビュー・シングルの一言一句、ワンフレーズワンフレーズが絶唱に近いテンションで響く。尾崎は“あのときの気持ち”をずっと抱えたままここにいるのだなと思うと、感動が背中を走った。そして、「この歌はホールにとてもよく似合う」と感じた。きっと尾崎はこんな場面を想像してホール・ツアーに挑んだのだろう。そしてファイナルで、“ホールならではのクリープハイプ”=劇場型激情にたどり着いた。

 アンコールで、ちょっとした事件があった。オーディエンスとおぼしき4人の女の子がステージに上がってきたのだ。すぐにスタッフが彼らを排除したのだが、これは後で映画の撮影だったことが判明。そう、オープニング映像の尾崎の謎の言葉は、このシーンにつながっていたのだ。だとすると尾崎は、このツアーが始まる前から、ファイナルのこのシーンを想定していたことになる。あれだけのプレッシャーの中で、なんてヤツだ!!(笑)

 ホールに現時点でのケリを着けたクリープハイプは、最後の最後で♪光の先へその先へ行く♪と「オレンジ」を歌って、ツアーを締めくくった。その歌の丁寧さは、ホール・ツアーのファイナルにふさわしいものだった。

【取材・文:平山雄一】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル クリープハイプ

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お知らせ

■ライブ情報

クリープハイプ LIVE HOUSE TOUR 2015
2015/01/22(木)本八幡 The 3rd Stage
2015/01/25(日)甲府 CONVICTION
2015/01/29(木)東京 Zepp Tokyo
2015/01/30(金)東京 Zepp Tokyo
2015/02/03(火)大阪 なんばHatch
2015/02/04(水)名古屋 Zepp Nagoya
2015/02/07(土)新潟 LOTS
2015/02/11(水・祝)福岡 DRUM LOGOS
2015/02/13(金)長崎 DRUM Be-7
2015/02/20(金)高知 キャラバンサライ
2015/02/22(日)広島 BLUE LIVE
2015/02/27(金)札幌 FACTORY HALL
2015/03/01(日)青森 Quarter

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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