やまない雨はない。明けない夜はない。――amazarashiの最新アルバム『夕日信仰ヒガシズム』は、ただそんなシンプルなことを伝えるための作品だったんだ、とやっと気づかされた。amazarashiが全国7ヵ所で開催してきた「夕日信仰ヒガシズム」ツアーのファイナルとなった渋谷公会堂は、私にとってそんなライブだった。
　ライブの終盤、唯一のMCで秋田ひろむ（Vo）はこんなふうに言っていた。

　「あと2曲でツアーが終わってしまうと考えると寂しいです。……でも、たぶん今回のアルバムで言いたかったのはそういうことなんだと思います。終わってしまうのが寂しい。だから辛くなったり、苦しくなったり、頑張ろうと思ったり。でも、わいたちはちゃんとこのツアーを終わらせて、次に繋げたいと思います。」

　メディアを通じては一切素顔を見せないamazarashiは、ライブではステージ前方を紗幕が覆い、そこに様々な映像を映し出してライブを進めていく。
　この日もそのスタンスは変わらず。紗幕の向こう側から、幕を隔ててなお越えてくる、ダダ漏れの感情と共にライブは幕を開けた。

　イントロなしで、いきなり歌とバンドサウンドとで始まったのは「後期衝動」だった。曲の途中、秋田が「青森から来ました、amazarashiです」と早口気味にあいさつ。普段は言わない一言に少し驚いた。そして、『夕日信仰ヒガシズム』からアグレッシブな楽曲を次々に披露。「ヒガシズム」では、紗幕の後ろにうっすらとギターをかき鳴らす秋田ひろむの姿が見えた。キーボードの豊川真奈美と、サポートメンバーはギター、ベース、ドラムスの3人。amazarashi特有の焦燥感と物悲しさをはらんだヒリヒリとした演奏に、お客さんは立ち上がることなくじっと座って聴き入っていた。

　みどりの照明、草の茂った森を彷徨うような映像と共に、ぐっとダークな世界へと沈みこんだのは「穴を掘っている」だった。絶望的な言葉をひたすら繰り返すメロディ。徐々に感情を昂ぶらせていく秋田のボーカルが聴き手の心を強く揺さぶった。ここまで正面から絶望やそれに近い負の感情を歌にしてしまうバンドは実は少ない。

　ふっと軽やかな曲が並んだのは中盤「春待ち」から「さくら」という、冬から春へ季節をめぐる2曲だった。ステージはピンク色に染まり、ゆるやかな時間が流れる。そして、Xmasイブ公演ならではの選曲となった「クリスマス」。この日、12月24日の渋谷にはサンタやトナカイのコスプレをした人たちで溢れていたが、そんな街の浮ついた気分を打ちのめす残酷なクリスマスソングが鳴り響いた。
　ピンスポットを浴びた秋田が静かにギターを弾き語り、次第に解放的なバンドサウンドへと広がった「雨男」では、奥のスクリーンに傘をさす少年、手前の紗幕には雨粒が滴る。2つにスクリーンがクロスして築き上げる世界が美しかった。「冷凍睡眠」では、心電図、心臓や血管といった映像と共に会場にはレーザービームが走る。そして、揺らめくろうそくの灯が温かくステージを照らした、亡き友人へ宛てた歌「ひろ」へ。

　そうやってアニメーションも駆使しながら、様々な演出によって楽曲の世界を補強していくライブの中でも、特に印象的だったのは、「それはまた別のお話」で映し出された、鮮やかな“夕日”の映像だった。それが象徴するものは何なのか。
　そして、ラスト2曲。冒頭で書いたあのMCのあと、秋田は、徐々に声を荒げながら叫んだ。「ほっといても終わるものは終わる。ライブも、今日という日も、人生も。夕日が真っ赤に燃えると、ひとつが終わってひとつが始まる。まだ何も始まっていないという名前の、あんたの物語がいまから始まる！ここに湛えよ、愚かな人生を！！クソったれと言えよ、無様な今日までを！！！あんたの人生に幸あれ」。そして、「ジュブナイル」だ。曲が始まったときにあがった歓声はこの日一番大きかった。映像は、逃げる少年と少女。ふたりが最後に、それぞれ鍵盤とギターを奏でるシーンで終わる。きっと、そのふたりは秋田と豊川だったのだろう。そして、ラストは煌めくポジティブな光のなか、「スターライト」を力いっぱい演奏してライブを締めくくった。

　すべての演奏が終わると何のアナウンスもなく、会場には新曲「季節は次々死んでいく」が流れた。それは強い生命力を感じるダイナミックな1曲だった。その曲が鳴り終わるまで、お客さんは誰ひとり席を立たない。この曲は、amazarashiの1stシングルとして、2月18日にリリースされるという。

　会場を出るとき、出口で来場者限定のポストカードが配布された。くるっと表面を見返すと、「あんたの明日に幸あれ」の文字。
　ああ、明日は久しぶりに夕日でも見てみよう、と思った。

【取材・文：秦理絵】