コンサート・ホールのドアを開けると、そこには何がある？

　暗転の中、「大金星」が流れる。大事な友人が一念発起して“大金星”というラーメン屋を始めたという。「それじゃあこっちも始めよう」。前川真悟（Vo.B）の声で、明るくなる渋谷公会堂。そのステージには大きな幕があった。シルエットで浮かび上がる前川、新屋行裕(G)、中村洋貴(Dr)、宮平直樹(G)。起きろ、少年少女よ、と歌う「Oh! Today」でハラリと幕が落ち、会場から一斉に拳が上がる。飛べ、高く、と歌う「南風になれ」で客席から熱風が巻き起こる。「東京──!!　渋谷公会堂──!!　ハイサ──イッ!!」。２月20日。かりゆし58の「ハイサイロード~大金星~2014-2015」追加公演のファイナルが始まった。

　３曲目「全開の唄」では曲に合わせて後方スクリーンに“HEY!　まであと3,2,1”というカウントや“（ここで）CLAP!”という文字がアニメで登場。これなら初めての人でも楽しめる。ファミリー客が多いのも納得だ。一方、常連組はジャンプしたり、手拍子したり、人差し指を振り上げたり、両手を右に左にユラユラと振って踊ったりと、それぞれが思い思いに楽しんでいる。

　レアな曲「魚」でもその盛り上がりは止まらない。今日は何をやっても大丈夫。手応えを感じた前川が言う。

　「カチャーシーを一緒に踊りたいけどいい？　大丈夫よ。好きなようにやって。それが踊りよ」

　カチャーシーは沖縄の踊り。型はあるけど、それに縛られないのも沖縄スタイル。「イーヤーサーサー！」「スイ！　スイ！」の掛け声で渋谷公会堂が踊る。加速してもついていく。バラバラな踊りが巨大な渦となる。７曲目「ゆい」。前川、新屋、宮平の「ゆいや~ゆいや~」という雄々しい声が、ひとりひとりを糸で結ぶように結い上げていく。そこに沖縄民謡「安里屋ユンタ」が絶妙に絡む。

　かりゆし58は沖縄を心から誇りに思っている。本番前のSEも大先輩のネーネーズだった。一番の自慢は“人”。戦争で島の形が変わるほどやられたのに、それでも先輩達は「悲しいよ。つらいよ」と言う前に歌を歌ったという。「悲しい傷あとの上にちゃんと温かいものを残した。それが一番大事なことだと思ってるわけ」。前川はそう言って「ウージの唄」を始めた。会場からは「イエーイ!!」と歓声が上がる。スクリーンには偉大な先輩、おばあたちの笑顔。憎むより愛せ、と歌う言葉が胸に響く。「♪僕が生きる今日は／もっと生きたかった誰かの／明日かもしれないから」。代表曲「さよなら」の言葉が突き刺さる。

　「沖縄では旧正月です。こんな日にライヴができるのは、みなさんがいてくれたから」と中村が感謝。ところが宮平が「話、変わるけど、真悟、今日いい服着てるね（会場笑い）」。その宮平はシャツを袖なしにカットしていて、新屋が「青と赤の袖なしあるさ。今日なんで赤？」と尋ね、彼は「ニコ動入ってるから明るめに」と答える。すると突然、新屋が「水、飲んでいい？」と切り出し、トークはグダグダに…（笑）。こんな沖縄らしいユルさがまた心を溶かしてくれるのだ。

　沖縄とレゲエ。彼らはそれをベースにカントリー、ブルースなど貪欲に取り入れてきた。最新アルバム『大金星』はさらにライヴを意識した内容に。それを象徴する「E.D.O Dance」はダンス・ナンバー。前川がブレスのない歌でグルーヴを作り、新屋がコーラスでオート・チューンを披露する。「青の道しるべ」は中村のハネるリズムに乗せ、前川のベースも存在感を出す。ストレートなロックで突っ走るのは「RRC」。「♪RRC！　リアルレッドチャーリー！」と叫ぶ宮平と新屋。会場も踊る、踊る。

　「新しい曲のほうが元気がいいじゃないですかぁ──!!」

　思わず叫んだ前川。続く「カイ・ホー」でダメ押しだ。一斉に飛び跳ねる会場。渋谷公会堂の2階席が揺れている。ところが……。

　「そう。行かないんです。サビに」「ええ―――ッ!!」「最終公演なのでもっと欲張りたいと思うんです。今まで見たことのない解放感を見せてくれますか───!!!!」

　「わ――――ッ!!!!」と火がついた会場は、拳やタオルやニット帽を振り回して、自分のすべてを賭けて「解放───ッ!!!!」と叫んだ。みんな歳を取る。生きてる間にやるだけやっておけ。そう歌う歌詞が、踊る観客の胸に刻まれる。

　「♪もうすぐ今日が終わる／やり残したことはないかい」。誰が頼んだわけでもなく、誰もが自然に歌い始めた。アンコールの最後「オワリはじまり」を歌うその声に前川は「愛してるよ。ありがとう」と笑顔を見せた。「ピュ──イッ!!」と鋭い指笛が響いて、また笑顔。彼は本番中、「あなた達、こんな踊る人達だったっけ？　めっちゃ踊るね！」と驚いた。さらに「コンサート・ホールのドアの外は不自由で理不尽なことが多い世の中かもしれない」と語りかけた。そして「思い出してください。あなたは人の人生を変える力があります。少なくともこの４人の人生を変えたよ。あなたは最高です。あなたをとても好きです」と、それぞれの日々を過ごすひとりひとりを讃えた。

　かりゆし58のツアー追加公演のファイナル。コンサート・ホールのドアを開けると、そこには自由があった。

【取材・文：柳村睦子】