小田和正、「本日 小田日和」ツアーの最終日をレポート!
小田和正 | 2015.03.30
昨年6月から始まったツアーも、とうとうファイナルを迎えた。小田の“ホーム”横浜アリーナには、いつも以上に熱心なオーディエンスが詰めかけている。小田自身にとって特別な場所であるのと同じく、ファンにとっても横浜は思い入れのある街なのだろう。ソロに転じて以来、ツアーで訪れる都市をとても大切にするようになった小田は、それぞれの地方の名所を探訪して撮った映像を、『御当地紀行』としてライブ中に披露するほどだ。それも、ツアーの回数を重ねるごとに“ご当地紹介”が上手になっているのが面白い。それは小田が旅と、そこに暮らす人々との出会いを楽しんでいるからだ。この日もそんなツアーの日々のダイジェスト映像からライブはスタート。2日間連続公演の2日目。バンドメンバーがステージに登場し、小田がセンターまで早足で行き、アコースティックギターを抱えたところでファイナルの演奏が始まったのだった。
オープニングは、最新アルバム『小田日和』のメイントラックの一つ、「そんなことより 幸せになろう」だ。会場からは歌に合わせてハンドクラップが起こる。アリーナに設けられた“花道”を縦横に動き回り、オーディエンスと近い距離からコミュニケーションを交わす。3曲目の「やさしい雨」になると、ライブのギアが、早くも一段上がったのだった。
「本日、ここ、地元・横浜で最終日を迎えました。ツアーの先々で励まされ、全国の皆さんに感謝したいと思います。このひと時を楽しく過ごしましょう」と小田が挨拶すると、長く温かい拍手が起こる。「グッバイ」は、メンバーのコーラスが印象的だった。
「最近、音楽の資料を整理したら、メロディの断片を書いた五線譜がたくさん出てきました。どれも陳腐なので捨てようと思ったんですが、わざわざ書き留めているんだから、もしかしたら素晴らしい秘密が潜んでいるかもしれないと思うと捨てられない(笑)。次の曲は、断片になるのをまぬがれて完成した曲です」と言って、ドラマ『吉原裏同心』の主題歌「二人」を歌い始める。
もちろん“断片”というのは小田の謙遜の言葉だが、自分の創作の秘密をもらすことは以前にはあまりなかった。その昔、小田は「自分の作品を説明しない人」として有名だった。しかし、作品を語らせたら、小田は「とても上手い人」なのだ。そうしたMCのお陰で、オーディエンスは歌が始まる前に心の準備をすっかり整えて耳を傾けるから、歌がすっとしみこんでいく。特にこの「二人」は、素晴らしかった。アリーナの天井には水の波紋が照明で描かれ、スクリーンには草原や雲が映写される。僕は端整なメロディに、オフコースを思わせる何かを感じていた。だから、次の小田のMCに驚いたのだった。
「最近は、面倒くさい意味ではなく、昔、好きだったような曲を書いてみたいと思うことがあります」。先の五線譜の話と合わせて、小田の音楽観に少しの変化が起こっているのかもしれない。
小田がウクレレを弾く「この街」が楽しい。そしてアコギで歌った「たしかなこと」は、歌の半ばから表現がぐっと引き締まり、ライブ中盤の大きな山となった。その緊張感が『御当地紀行』で、いい意味でほぐれる。そのままライブは後半へ。 「愛になる」に続く、「the flag」が凄かった。この日の客席を埋めていたのは、小田の音楽と共に人生を歩んできた者たちだ。いい年齢を重ねたオーディエンスと、現場を支える小田のコンサート・スタッフの映像が交互にスクリーンに映し出される。それらがメロディと歌詞と声とに融合して、まさに小田にしか描けない“小田ワールド”が横浜に出現したのだった。
「愛を止めないで」などのヒット曲で、小田は客席内に割って入って歌う。いつもはもっとオーディエンスに歌ってもらうシーンを多く設けるのに、この日は小田自身が歌うことが多かったように思う。「mata-ne」でイヤー・モニターを外した小田は、「言葉にできない」でこの日、いちばんの力強い声で歌う。反対に「今日も どこかで」は、この日、いちばん優しい声で歌った。♪いちどきりの 短いこの人生 どれだけの人たちと 出会えるんだろう♪というリリックが、特別のニュ アンスを帯びて聴こえてくる。
「実感が湧いてこずにいましたが、今日で間違いなく最後。いい感じで明るくコンサートをさせてもらいました。さっき、昔、好きだったような曲を書いてみたいと言いましたが、ぜひ書いて歌えるように頑張りたいと思います。皆さんも元気で、また顔を見せて下さい」。最後は「やさしい夜」で締めくくった。
アンコールで小田は、「僕の好きだった、あ、好きなオフコースというバンドは、その時その時の状況がアルバム・タイトルに出てた。『as close as possible』なら“もっと近く”にとかね。でも『Still a long way to go』で“先は長いぞ”って言ったのに、解散してしまいました(笑)」とユーモアを交えて話す。ラストは「my home town」を地元・横浜に捧げて終わった。
その瞬間、スクリーンに映し出されたツアー・タイトルの“本日 小田日和”の文字が、“明日も 小田日和”に変わる。
『小田日和』の制作にあたって、「最後から二番目のアルバムを作る気持ちで」と小田は語っていた。この日、名残り惜しそうにステージを去ったのは、小田がライブを愛してやまないことを表わしている。次のツアーに出るために、小田はすぐに次のアルバムを作るのか。ツアーもアルバム制作も、膨大なエネルギーが必要とされることを考えれば、そのタイミングを予想することは難しい。ただ、確実に言えるのは、“次の小田和正”には、温かいヒューマニティーが溢れているはずだ。
【取材・文:平山雄一】
【撮影:菊地英二】
リリース情報
セットリスト
KAZUMASA ODA TOUR 2014~2015
2015.3.18@横浜アリーナ
- そんなことより 幸せになろう
- キラキラ
- やさしい雨
- グッバイ
- やさしい風が吹いたら
- 二人
- この街
- 東京の空
- たしかなこと
- 明日
- その日が来るまで
- 愛になる
- the flag
- 風と君を待つだけ
- 愛を止めないで
- Yes-No
- ラブ・ストーリーは突然に
- mata-ne
- 言葉にできない
- 彼方
- 今日も どこかで
- やさしい夜
- もっと近くに
- またたく星に願いを
- YES-YES-YES
- 今のこと
- hello hello
- my home town