amazarashiの“千分の一夜物語「スターライト」アンコール公演”をレポート
amazarashi | 2015.04.21
あまざらし 千分の一夜物語「スターライト」のアンコール公演が中野サンプラザで行なわれた。これは昨年9月にTOKYO DOME CITY HALLで開催された一夜限りのスペシャル公演を一部内容を変更して再演されたもの。通常のライブとは異なり、語りと音楽とを交互に織り交ぜながらひとつの物語が紡がれていく。その工夫を凝らした演出と強いメッセージを内包した世界観が素晴らしく、9月の公演を見たときにも、わずか1回のみで終わるのは惜しいと思っていた。待望の再演。喝采を送ったのは私だけではないはずだ。
オープニングでは、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をモチーフにした映像がまず流れ出した。その賢治が歌詞を手がけた「星めぐりの歌」と共に、星が輝く夜空を列車が駆け抜けていく。そして秋田ひろむ(Vo)が淡々と、静かなトーンで物語を語り始めた。登場人物はヨハンとトマーゾ。ふたりは「夜の向こうに何があるのか」を探す旅に出る。amazarashiの公式HPにも掲載されているその物語に沿って、ライブは五部構成で進んでいく。
秋田が第一章を語り終えると、「光、再考」「ムカデ」というバンド初期のナンバーからいよいよ演奏がスタートした。聴き手の感情をえぐるような秋田の切実な歌声が、会場に響き渡る。通常のバンド編成に4人のストリングス隊が加わったドラマチックな演奏も、amazarashiの楽曲特有のヒリヒリとした焦燥感に一層拍車をかけていた。
だが同時に「隅田川」「ドブネズミ」といった楽曲では、グランドピアノを弾く豊川真奈美と秋田がふたりだけでシンプルに聴かせる場面も多かった。
秋田はインタビューで今回のライブについて、「あまざらし時代(インディーズ時代)の延長線上で(いま)ライブをするとどうなるだろうと考えた」と答えていた。秋田と豊川がのふたりで演奏していた頃の雰囲気とはこんな感じか。そんなことに想いを馳せながらじっと耳を傾けると、ふたりだけの演奏でも、いや、ふたりだけだからこそ発する生々しい楽曲の説得力に、改めてamazarashiのスゴさを思い知らされた気がした。
今回、アンコール公演ということで初演時からの変化も気になるところだったが、基本的な構出やセットリストはほとんど変わらなかった。当時、大きな話題を呼んだメトロノームの演出(バラバラに鳴り出した複数のメトロノームが次第にピッタリと同期して同じリズムを刻む)をはじめ、メラメラと揺らめく炎のなかで秋田がギター1本で弾き語った「ひろ」など、9月の公演のまま。
そんななか、今回から新たに加わった「無題」はとても印象的だった。とある画家の半生を描いたこの楽曲。スクリーンには絵のない額縁が映し出され、「僕らは一人では駄目だ」と題された物語の第二章を、より鮮やかに肉付けする名演だった。
そしてもうひとつこの日のライブではバンド初期のナンバーがとても多かったのも特筆すべき点だろう。これも秋田がインタビューで明かしてくれたが、このライブは「(秋田)自身の過去をめぐる物語」でもあるのだ。絶望の中から希望を見出し、そしてラストは煌びやかな光のなかで鳴る「スターライト」(2014年発売アルバム『夕日信仰ヒガシズム』に収録)へと着地する。そこでお客さんは得も言われぬ感動を味わうことになる。2時間のライブ(物語)がこの1曲、「スターライト」のためにあると言っても過言ではないのだ。
「スターライト」では、最後のフレーズでこんなふうに歌われている。《いつか全てが上手くいくなら 涙は通り過ぎる駅だ》と。辛く苦い“涙”の部分をこれでもかと表現してこそ、その先にある光は悲しいほどに輝きを増す。
amazarashiが絶望を表現するのは決してその傷を舐め合い、悲しみを分かち合うためじゃない。清濁を呑み込んで生きるためだ。バンド自体のメディア露出は極めて少ないにも関わらず、amazarashiというバンドに理解者が多いのは、いつも彼らは表現すべきことに対して不器用なまでに丁寧に、遠回りでも誠実に向き合い続けてきたからだと思う。
公演中、会場に集まったお客さんはイス席で終始じっとしたままステージに見入っていた。いわゆるロックバンドのライブでは珍しい光景だ。ラストナンバー「スターライト」が終わり、映画のエンドロールのようにスタッフクレジットがスクリーンに流れるなか、大きな拍手が鳴りやむことはなかった。そして、最後にamazarashiのバンドロゴが映し出され終演。会場の外で見たお客さんはみなとても清々しい表情だった。
【取材・文:秦理絵】
リリース情報
あまざらし 千分の一夜物語 スターライト(初回限定盤)[CD+DVD]
2015年05月13日
SMAR
1.光、再考
2.ムカデ
3.空っぽの空に潰される
4.隅田川
5.無題
6.さくら
7.つじつま合わせに生まれた僕等
8.古いSF映画
9.夏を待っていました
10.季節は次々死んでいく
11.美しき思い出
12.スターライト
(全楽曲ストリングスを構成にいれたアンプラグドアレンジで再レコーディング)
[DVD]
あまざらし 千分の一夜物語 スターライト
2014.09.09 TOKYO DOME CITY HALL
モノローグ1『情熱、希望なんでもいいけど、僕らはここに居ちゃだめだ』
光、再考
ムカデ
空っぽの空に潰される
モノローグ2『僕らは一人では駄目だ』
隅田川
さくら
ドブネズミ
モノローグ3『夜の向こうに答えはあるのか』
つじつま合わせに生まれた僕等
古いSF映画
カルマ
モノローグ4『故郷のヒメリンゴ啄んだ鳥になるか』
ひろ
夏を待っていました
美しき思い出
モノローグ5『いつか全てが上手く行くなら、涙は通り過ぎる駅だ』
スターライト
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お知らせ
amazarashi 5th anniversary live
「APOLOGIES」
2015/06/09(火)渋谷www
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。