決して嘘はつかないバンド、ウソツキが魅せたrelease Tour 「みんなでウソツカナイト」の終着点
ウソツキ | 2015.12.15
「今日はみんなに伝えたい歌がたくさんあるから、楽しんで帰ってください」。全国11ヵ所、1stフルアルバム『スーパーリアリズム』を携えて回るツアー“みんなでウソツカナイト”。旅の終着点であるこの日、彼らと同じくらい今日という日を待ち侘びただろう満場の観客たちにまっすぐ向かい合い、竹田昌和(Vo,Gt)は繰り返しそう語りかけた。「たくさん聴いて笑って泣いて、たくさん解放して帰ってください」とも。その言葉の通り、1曲1曲余すところなく伝えたい想い、届けたいメッセージが歌に乗り、アンサンブルに宿って客席フロアに降り注ぐ。このうえなく温かく、きれいなその光景を目の当たりにして、これほどに嘘の似合わないバンドもないだろうと改めて思った。嘘は虚飾、虚勢と言い換えてもいい。本音をバチバチぶつけ合うのとは違う、あるいは弱さや情けなさをさらけ出して共感を誘うのともまた違う、凛とした誠実さ、嘘のなさ。おそらくこの日の渋谷クラブクアトロは他のどこよりも澄んだ空気に満たされていたに違いない。
2015年も残すところあとひと月を切った12月3日。雨模様だった天候もライブの開演が近づくにつれ、みるみると晴れた。何気ないことだけれど、やはりうれしいものだ。場内いっぱいに立ちのぼる期待の熱に応えるように、19時05分、スタート予定を少し回って、ゆっくりと客電が落ちた。オープニングを飾ったのは「ミライドライバー」、『スーパーリアリズム』の1曲目でもある推進力に溢れたアップテンポなこのナンバーに早速、フロアがはずむ。
「改めまして、けっして嘘はつかないバンド、ウソツキです。今日は銀河鉄道に乗ってやってきました」
短い挨拶を挟んで「金星人に恋をした」になだれ込むと、場内はすっかりウソツキ色に染まった。きっと彼らがそうであったように、詰めかけたファンもまたツアーファイナルの今日、そして渋谷クラブクアトロという大舞台に臨む気合いは相当なものだったろう。もちろん、いちばんには楽しみな気持ちがあって、それが核ではあるのだけれど、何かしら張りつめたものがその外側を包んでいるように感じられたが、この2曲目が終わる頃にはそんな緊張感もだいぶほぐれたらしい。「改め、改め、改めまして。“みんなでウソツカナイト”ファイナル、渋谷クアトロへようこそ! 始まりました。始まるか、始まるか、と思っていたけど、まさか始まるとは、という気持ちです」という竹田の正直な心情告白もオーディエンスの笑いを誘い、リラックスムードに拍車を駆け、さらには「僕なりのラブソングです」と言って、厳かにスタートした「君は宇宙」でいきなり大胆に歌い間違えるという、観客にとってはうれしいライブならではのハプニングがダメ押しとなって、一気にステージと客席の距離が近づいた。
仕切り直しで改めて聴いた「君は宇宙」から「アオの木苺」「過去から届いた光の手紙」と、序盤戦にして壮大な世界観をたたえた楽曲群、その演奏は圧巻のひと言に尽きた。声そのものにドラマをはらんだ竹田の歌。一打一打が鼓動のごとくサウンドに躍動感を与える林山拓斗のドラム、藤井浩太のベースはしなやかな安定感で縫うように演奏を支え、吉田健二の奏でるギターの旋律は曲に華と叙情をもたらす。4人の音が重なり合って紡がれる音楽は赤裸々で無垢で、時に痛々しいほど切実で、つまりどこにも嘘がない。文学性の高いリリックがやけにリアルに胸に迫るのも、それを綴る竹田に嘘がないからだろう。迫力に息を呑んだこのブロックを終えるや、「いやぁ、(「君は宇宙」では)ごめんなさい。いきなり“君が全て”って歌っちゃったんですよ。すみません、ごめんなさい!」と平謝りの竹田。こんなふうに、すぐ素が現われるのもいい。
曲中、吉田の先導で場内一体となってMVの振り付け(吉田と林山の考案だそう)を踊ったウソツキ初のダンスナンバー「旗揚げ運動」。その完成度の高さと言ったら「もう完璧じゃないですか!」と本人がくしゃくしゃに相好を崩すほど。「体をほぐした次は心をほぐす番です。新しいことへ踏みだそうとしているあなたへ」と竹田が告げて始まった「春風と風鈴」は切なさすらも前向きで、歯切れのよいロックチューン「Roll Roll Roll」へとスムースにバトンを繋ぐ。
「3年前に僕と拓斗君が出会って、2年前に藤井君と吉田君が出会って、今日はここ渋谷クアトロでワンマンができています」
竹田はこのステージに立てた感慨を噛み締めながら、「僕らの最初の曲です」とタイトルコール。手拍子が鳴り響く中、静かに溢れ出した「1、2、3、」が朗々と誇らしげで、観ているこちらの涙腺が緩んでしまう。
後半戦、最初のクライマックスは「ピースする」で訪れた。「僕らの曲は僕らの分身が主人公になっていて、その主人公は悩んで恋をして、ときには恋に破れていて。そんな一部始終を聴いてくれたみんなはもうただの存在じゃない。きっと友達だと思っています。友達になったみんなに次は少し突っ込んだ曲をやります」と言って披露されたこの曲。じゃんけんをモチーフにしながらも、相手を信じること、その本当の意味を問うて聴く者の目を逸らさせない、生々しい問題提起にハッとさせられる。曲の最後にフロアいっぱい掲げられたチョキ、すなわちピースサインが途轍もない希望に思えた。この日のMCで印象的だったのは、ウソツキのライブは他のバンドと比べて明らかにひとり客、俗に言う“ぼっち参戦”が多いということ。その話をスタッフから聞いたときすごくうれしい気持ちになったと竹田は語った。ライブハウスにひとりで来る勇気、その深いところにはきっと寂しさがあって、それって僕と同じだ、と。寂しさを抱えた、たくさんの“ひとり”が意志を持ってこの会場に集い、ひとり一人の意志でピースを掲げ、それらが大きなひとつの光景になる。これが希望でなくてなんだろう。
「新木場発、銀河鉄道」の高らかな汽笛の余韻を残して4人がステージを去ったあともアンコールを求める拍手は鳴り止まない。そのまま5分ほども経っただろうか。「アンコール、どうもありがとうございます! “ウソツカナイト”が先ほど終わってしまったんですが、みんなのおかげでまた始まることができました!」とまずは竹田と林山が戻ってきた。その後、ツアーTシャツを見事に着こなした(?)吉田と藤井が登場、4人のキャラクターが全開のグッズ紹介に、沸きに沸くオーディエンス。「みなさん、最近、楽しいことありましたか? なかったようですね。そんなネガティヴなみなさんにもう1曲。絶望を希望に変えるバンド、ウソツキです!」という竹田の声がアットホームな空気に火をつけ、「人生5度目くらいのコール&レスポンスをやりたいんですよ」と呼びかけると満場の“ネガティヴ”コールが巻き起こった。曲はもちろん「ネガチブ」だ。渋谷CLUB QUATTROに集った全員が一斉に叫ぶ“ネガティヴ”のなんとパワーのあることか。言葉の意味とは裏腹に元気になれるのだからすごい。
「きっと友達」「ダル・セニョールの憂鬱」と計3曲のアンコールを以てしても、ウソツキを求める歓声と拍手は止もうとしなかった。この時点で世に出ているウソツキの楽曲は残すところあと2曲。当然ながら彼らがこの喝采に応えないわけがない。「ウソツカナイトが先ほど終わりまして、また始まりました。ありがとうございます!」と笑いを誘いつつ、ついに三たびの登場だ。“みんなでウソツカナイト”ファイナルを締めくくったのは「京葉線SOLDOUT」だった。メンバー全員が歌う“♪ガタンゴトン”のコーラスにオーディエンスも声を重ねる。そのきれいなハーモニーに、本編中、竹田がはっきりと口にした「この先、何があるかわからないけど、ひとつ言えることは、僕らはみんなと進んでいきたい」の言葉がオーバーラップした。年が明ければ早々に2016年初となるイベント“Suck a Stew Dry presents Stew Party vol.1”への出演を始め、すでにいくつかのライブが決定しているウソツキ。4月1日、ウソツキの日ことエイプリルフールにはバンドにとって初のホールワンマン“劇場版 USOTSUKA NIGHT”も開催される。ガタンゴトンと彼らが進んでいく先に広がる光景をともに見たいと強く願った。
【取材・文:本間夕子】
【撮影:山野浩司】
リリース情報
セットリスト
1st Full Album スーパーリアリズム release Tour
「みんなでウソツカナイト」
2015.12.3@渋谷CLUB QUATTRO
- 未来ドライバー
- 金星人に恋をした
- 君は宇宙
- アオの木苺
- 過去から届いた光の手紙
- 旗揚げ運動
- 春風と風鈴
- Roll Roll Roll
- 水の中からソラみてる
- 綿飴とりんご飴
- 1、2、3
- 明日世界は終わらない
- ピースする
- 時空間旅行代理時計
- 一日だけヒーロー
- 新木場発、銀河鉄道
- ネガチブ
- きっと友達
- ダル・セニョールの憂鬱
- 京葉線SOLDOUT
お知らせ
A.F.D Que’s COUNTDOWN 2016 2nd stage ~Future~
2015/12/31(土)下北沢CLUB Que
出演:つばき/LOST IN TIME/フリサト/セカイイチ/ウソツキ
Suck a Stew Dry presents
「Stew Party vol.1」
2016/01/16(土)代官山UNIT
出演:Suck a Stew Dry/phatmans after school/ウソツキ
the equal lights Alche(mist)リリースツアー
2016/01/31(日)梅田Shangri-La
出演:the equal lights/SHE’S/HOWL BE QUIET/ウソツキ
HAPPY JACK 2016
2016/03/19(土)&3/20(日)熊本B.9 V1、V2、V3、Django、ぺいあのPLUS’
ウソツキ・ワンマンライブ
「劇場版 USOTSUKA NIGHT」
2016/04/01(金)東京・Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。