NHKホールが林檎色に染まった。ホールツアー『椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015』
椎名林檎 | 2015.12.21
このところの超攻撃的なライブを仕掛けている林檎の姿勢を受けてか、開演前から場内のテンションがおかしいほど高い。ライブのスタートを 待ちかねて、オーディエンスはまさに一触即発の雰囲気だ。MANGARAMAというバンド名をモチーフにした3D映像が、ステージ全面を覆ったスクリーンに映し出されると、NHKホールは一気に林檎色に染まる。
林檎がいきなりピアノをバックに♪空よ山よ川よ♪と「凡才肌」を歌い始める。唱歌のようなタッチの歌詞とエキセントリックな歌い方のギャップが、激しく聴く者の心を揺さぶる。2コーラス目からバンド“MANGARAMA”の演奏が加わると、激しさがさらに増す。シンバルの高音域からベース の低音域まで、P.A.も絶好調で、林檎とオーディエンスを隔てるものは何もない。彼女の感情がダイレクトに伝わってくるオープニングだった。
続けて「やさしい哲学」、「いろはにほへと」、「尖った手口」と、人間の生き様を鋭くえぐる曲が並び、アグレッシヴなパフォーマンスに場内が圧倒される。もの凄く興奮しているのに、一見、棒立ちのように見えるオーディエンスたちの様子が興味深い。
最初のピークはシングル「長く短い祭」のカップリング「神様、仏様」だった。音源に参加していた向井秀徳のラップがトラックで再現され、林檎ならではの不良っぽいロックが鮮やかに観客の耳を撃ち抜く。強烈な一撃をくらわせた後、林檎は一度ステージを去る。
映像によるメンバー紹介が始まる。ツアータイトルの“椎名林檎と彼奴等が行く”の“彼奴等”とは、もちろん“MANGARAMA”のこと。玉田豊夢(dr)、 鳥越啓介(b)、浮雲 (g&vo)、名越由貴夫(g)、 ヒイズミマサユ機(key)、そしてブラスセクションは村田陽一、西村浩二、山本拓夫の3人。毎度、「今回が最高!」と思わせる林檎のバンドメンバー選びだが、今回こそ本当に最高で最強だと断言したくなる。特にリズムのタイトさは抜群だ。
濃紺のコートを着て帰ってきた林檎は、その後もナース服に赤のエナメルハイヒール姿や、緋色のシルクランジェ リーなど、次々にコスチュームを変えて歌い踊る。序盤でハードに飛ばした後、中盤に移るとボサノヴァやラテンなど、エレガントな一面ものぞかせる。どんなスタイルの音楽も、林檎独自の色に染め上げるアレンジセンスと、実際にそれを演奏してみせる“MANGARAMA”は変幻自在で、まさに音楽の百鬼夜行さながらだ。
この日、面白かったのは、セットリストの曲の幅が広かったことだった。
まず浮雲が来生たかおの80年代のヒット曲のカバー「夢の途中」を熱唱して観客を驚かせた後、林檎は初期の「警告」、石川さゆりに書いた「名うての泥棒猫」やSMAPに提供した「華麗なる逆襲」を歌う。中でも楽しかったのはレキシとのコラボ曲「キラキラ武士」。ポップなアッパーチューンにオーディエンスは大喜びだ。
そんなバラエティに富んだセットリストを締めくくったのは、「長く短い祭」、「群青日和」、「NIPPON」の3連発。林檎はハンドマイク、トラメガ、エレキギターと、曲に応じて“持ち物”を変えてオーディエンスを煽る。煽ると同時に、林檎自身がこのツアーを楽しんでいるのが伝わってくる。そうした“エネルギーの循環”が“MANGARAMA”の超絶演奏を引き出し、それを聴いてまたまた林檎のテンションが上がっていく。ビシッと決まったアレンジの間隙をぬって繰り広げられる、即興性に満ちた音楽的会話は、言葉に尽くせないスリリングなエンターテイメントになっていた。
アンコールで白のTシャツに蛍光オレンジのタイトスカートで現われて「虚言症」を歌う彼女は、ため息が出るほどチャーミングだった。
女子の欲望をためらいなく実現しながら、男子の秘めたる欲望を絶え間なく刺激する。椎名林檎のぶっちぎりの2015年を象徴するようなライブだった。
【取材・文:平山雄一】
【撮影:荒井俊哉】
セットリスト
椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015
2015.11.7@NHKホール
- 凡才肌
- やさしい哲学
- いろはにほへと
- 尖った手口
- 労働者
- 走れゎナンバー
- 神様、仏様
- 現実を嗤う
- SG
- 熱愛発覚中
- とりこし苦労
- 至上の人生
- ブラックアウト
- 迷彩
- 罪と罰
- 夢の途中
- Σ
- 警告
- マヤカシ優男
- 名うての泥棒猫
- 真夜中は純潔
- きらきら武士
- 華麗なる逆襲
- 御祭騒ぎ
- 長く短い祭
- 群青日和
- NIPPON
- 虚言症