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『ROCKIN’ON JAPAN』の新世代先取りプロジェクト、「JAPAN’S NEXT Vol.12」完全レポート

JAPAN’S NEXT | 2016.03.23

 日本の次世代。直訳すればそうなるだろうか。言葉の意味はもちろんのこと、その響きにも宿る希望と可能性に心が躍る。音楽メディア・ROCKIN’ON JAPANが手がける新世代先取りプロジェクト、通称“ジャパネク”こと“JAPAN’S NEXT”。新たな世代のロック、日々生まれてくる新世代アーティストをオーディエンスとともに盛り上げ、サポートし、一丸となって新しいシーンを作っていこうという主旨のもとに展開されている今プロジェクト、その最大の要として2014年1月にスタートしたライブイベントがこのたび第12回を数えた。昨年11月には特大ジャパネク祭りと称し、豊洲PITで大々的に開催された“JAPAN’S NEXT TURBO”の興奮を引き継ぐかのように、会場もそれまでの代官山UNITから今回は恵比寿LIQUIDROOMへとスケールアップ。新世代を担うにふさわしい強力なバンド5組が集結し、オリジナリティ溢れる白熱のステージを繰り広げた。

 開演に先立ってROCKIN’ON JAPAN副編集長・小川智宏氏が挨拶に現われると俄然場内が色めき立つ。フロアを埋め尽くしているのは敏感なアンテナを持った早耳のオーディエンスたち。新たな音楽との出会いをうずうずしながら待っているのが手に取るようにわかる。イベントの主旨ならびに出演5組についての愛情こもった紹介にフロアの空気が温まったところで、早速登場するのは本日のトップバッター、め組だ。

 菅原達也(Vo・G)が開口一番、「よろしくお願いします!」と威勢よく叫んだのを合図に、線の太いポップチューン「マイ・パルプフィクション」がほとばしる。剛健なバンドサウンドに出嶋早紀(Key)の奏でる鍵盤の音色がキラリと色を挿す立体的な演奏、菅原のまっすぐで情熱的な歌声がオーディエンスを魅了し、瞬く間にフロアを揺れる手のひらでいっぱいにするのだから目をみはってしまう。思えば登場SEからしてラッツ&スターの「め組のひと」という衒いのない直球ぶり、そんなところにもこのバンドの実直さを垣間見る気がする。先述の“JAPAN’S NEXT TURBO”にもオープニングアクトで出演した彼ら、「今日は正式なJAPAN’S NEXTバンドに加入できて大変光栄です!ものすごいバンドさんがガンガン出ますので、我々も1バンド目の責任としてガンガン盛り上げたいと思います!」と意気も揚々に、レゲエ調の横揺れなリズムを基調としつつ壮大に音楽愛を紡ぎ上げる「脳内コンクール」、メンバー全員参加のコーラスも分厚く耳に心地いい「500マイルメートル」と持てる力をすべて注ぎ込むかのようなパフォーマンスで場内の温度を上げに上げ、「大好きなオマエらが本当のJAPAN’S NEXTだ!」と熱く言い残してバトンを次につないだ。

 続くは大阪発の3ピース、ヤバイTシャツ屋さん。バンド名だけでもただならぬ気配が芬々と漂うが、実は昨年、“SUMMER SONIC 2015”の出場権を賭けたオーディション企画“出れんの!?サマソニ!?”を勝ち抜いて見事ステージに立ったことでも大きな話題を呼んだ要注目バンドだ。期待の視線が注がれるステージにふらりとやってきた3人。手書きのフリップを持ち込んでの、まさかのセルフ前説からとは予想の斜め上過ぎた。「じゃあ一旦、僕ら、ハケますんで。ハケたらPAさん、SEを流していただいて、みなさんも手拍子でお出迎えお願いします」と爆笑の渦の中、本格的にスタート。彼らの通う芸大周辺事情を赤裸々に綴った「喜志駅周辺なんもない」の遮二無二ささくれだったアンサンブル、こやま(G・Vo)と、しばたありぼぼ(B・Vo)の絶妙に掛け合うボーカルが中毒性高く聴き手に訴えかけてくる。実は曲の途中までベースの音が出ていなかったという、うっかりハプニングもあったのだが、それを逆手に取って熱狂に変換するという力技も炸裂。演奏中、「ベースが鳴ってる!」なんてシャウトするバンドが他にいるだろうか。荒削りながらも求心力のあるサウンド、トリッキーなようでその実にキャッチーな音楽性、ボケとツッコミが錯綜するMCでハチャメチャに場内を引っ掻き回す様は痛快の一語に尽きる。

 イベント中盤戦の空気をRhythmic Toy Worldがいっそう熱く押し上げる。“JAPAN’S NEXT Vol.7”を始め、昨年は“ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015”“COUNTDOWN JAPAN 15/16”にも出演、遡れば2012年に開催されたアマチュアアーティストコンテスト“RO69JACK 2012”で入賞を果たしているRhythmic Toy World。今日、ここに集ったオーディエンスにとっても彼らに対する思い入れはひとしおらしく、転換中のサウンドチェックですでに自然発生的に手拍子が起こるなど早くもフロアは臨戦態勢だ。「まだまだ力残ってる? 最高の夜にしようぜ!」。「フレフレ」の冒頭を高らかに歌い上げたあと満面の笑みを浮かべてそう呼びかける内田直孝(Vo・G)。朗々としたエネルギーがみるみる場内に充満し、オーディエンスのボルテージのギアもいきなりオーバートップに入る。ハンドクラップにシンガロングの奔流、ガツガツと突き上がる拳に圧倒されてしまうほどだ。「恵比寿、グルーヴがいいですね! 首根っこにニキビができてすごく痛かったんだけど、2曲終わってもう痛くありません!」とライブの楽しさを噛み締める内田。もちろんメンバーも客席も同じ気持ちに違いない。エモーション全開で歌い奏でた「輝きだす」、今日は特別編でいきます、と恒例のコール&レスポンスを“♪ジャジャジャパネク”“♪恵比寿恵比寿”に替えてぶち上がった「いろはにほへと」と実力派の本領を存分に見せつけた。

 “Break the Rule And Do Image On”。バンド名はこれらの頭文字による造語であり“日常に彩りを加えるエンターテインメント”がコンセプトだというが、たしかに色違いで揃えたカラフルなスーツ姿に、ボーカルがアフロヘアというルックスからして浮世の憂さを吹き飛ばす破壊力あるエンタテインメント性をたたえているではないか。そして、ひとたびそのステージを味わったならば、たちまちソウルフルな夢の世界へと誘われる。そんな音楽体験をさせてくれたのがBRADIOだった。「Golden Liar」のクライマックスでは「オマエたちの胸の奥に眠るファンクなヤツをもっともっと聴かせてもらえるか!」と真行寺貴秋(Vo)が先導し、“♪JAPAN’S NEXT最高”“♪ここに集まった俺たち”“♪そこで音楽が鳴り響く”“♪この瞬間にありがとう”“♪音楽って素晴らしい”と次々に繰り出すフレーズに場内一丸となって歌声を重ねる。濃厚な連帯感が生み出すのは最強のファンクネスだ。あとはもう曲のリズムに乗ってディスコティックなステップを踏み、本能に任せて体を揺らせばそれだけでファンピー(ファンク&ハッピー)。「俺たち、最初はちょっと胃もたれするじゃん? でも、すごくいい顔になってきてる。みんなが作ってくれたこの空気をもっと最高潮にしていきたいから」と大山聡一(G)が口にした言葉通り、ステージを天井知らずの熱気で満たして、トリのSUPER BEAVERへと渡す。

 Cap’N Jazz「Tokyo」が鳴り渡る中、結成10年のキャリアに裏打ちされた堂々の貫禄でステージに登場した彼らを待ってましたと言わんばかりの拍手と歓声が迎えた。SUPER BEAVERの登場は“JAPAN’S NEXT Vol.6”以来、2度目。メンバー同士で向き合い、拳を合わせると「本日、我々が最後! 体力残すなよ!」と渋谷龍太(Vo)が熱狂の火に油を注ぐ。最終アクトの幕を切って落とすは、4人全員のアカペラで始まる「うるさい」。そこからはひたすらに前のめりだった。ステージの床に設えられたモニタースピーカーに何度となく立ち上がっては、言葉に身振りにとオーディエンスを煽る渋谷。彼の歌う一言一句がずっしりと胸に力と温かさを刻み、また耳に手を当ててフロアから飛んでくる歌声に聴き入る仕草にもグッと胸が熱くなってしまった。「東京流星群」の歌詞、“♪誰かが鼻で笑ったのが 僕の宝だ”を“♪恵比寿の宝だ”と替え歌し、「あなたの声を聴かせてください」とフロアにマイクを向ける光景も。「“NEXT”っていうのは精神性だと思うんだ。“あの人たち、これからだね”って死ぬまで言われたい。死ぬまで明日のことを望んで生きていたいじゃないか。流行り廃りもあるだろうけど、そんなもの突っぱねて真ん中にあるものを大事にしたい」。「らしさ」を前に渋谷はそう力強く言った。どれだけキャリアを重ねようが関係ない、ひたすらに走り続けんとする意志が言葉にも音楽にも凛とみなぎったステージは“日本の次世代”を標榜するイベントのフィナーレにこの上なくふさわしい。

 アンコールの「ありがとう」はこの日、ここに集ったアーティスト、オーディエンス、スタッフ全員の想いの集約でもあっただろう。“次”は“今”を支える力だ。日本の未来に鳴る音をワクワクしながら追いかけたいと改めて思えた夜だった。

【取材・文:本間夕子】
【写真提供:rockin’on japan】

tag一覧 ライブ BRADIO Rhythmic Toy World SUPER BEAVER

セットリスト

JAPAN’S NEXT vol.12
2016.3.6@恵比寿LIQUIDROOM


■め組
  1. マイ・パルプフィクション
  2. クラシックダンサー
  3. 脳内コンクール
  4. 余所見
  5. 500マイルメートル
  6. 悪魔の照明

■ヤバイTシャツ屋さん
  1. 喜志駅周辺なんもない
  2. メロコアバンドのアルバムの3曲目ぐらいによく収録されている感じの曲
  3. DQNの車のミラーのところによくぶら下がってる大麻の形したやつ
  4. ウェイウェイ大学生
  5. ネコ飼いたい
  6. あつまれ!パーティーピーポー

■Rhythmic Toy World
  1. フレフレ
  2. 波紋シンドローム
  3. 輝きだす
  4. とおりゃんせ
  5. いろはにほへと

■BRADIO
  1. Flyers
  2. Golden Liar
  3. Super Wonderful
  4. FUNKASISTA
  5. スパイシーマドンナ

■SUPER BEAVER
  1. うるさい
  2. 東京流星群
  3. らしさ
  4. ことば
  5. 照明
  6. ありがとう

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