布袋寅泰35周年プロジェクト、「~GUITARHYTHM伝説’88~ソロデビュー再現GIGS」東京公演
布袋寅泰 | 2016.04.12
1988年に発表された布袋寅泰の1stソロアルバム『GUITARHYTHM』は、当時、話題を集めた問題作だった。
88年にBOΦWYを解散して半年後にリリースされた『GUITARHYTHM』は、布袋のソロ・アーティストとしての意気込みを表わすものだった。全曲英語詞という仕様は、当然ワールドワイドの活動を前提としており、バンドブームの頂点を極めたアーティストの大胆なチャレンジとして話題を呼んだ。
今回、布袋は35周年のプロジェクトのひとつとして、『GUITARHYTHM』の再現ライブに挑んだ。そしてその成果は、この問題作がまったく古びていないことを証明することとなったのである。
代々木体育館を埋めたオーディエンスは、期待を膨らませる一方で、若干の緊張感も漂わせている。それはそうだろう。『GUITARHYTHM II』以降にファンになった者にとっては“幻のアルバム”の再現だからだ。
ステージセットは発表時に東京と大阪の2カ所のみで行なわれたライブとほぼ同じで、セットの上方にはフラッグがはためいている。少々の変更といえば、たとえば当時は蛍光管を使っていたのがLEDに替わったりしている。BGMにはデヴィッド・ボウイが流れている。
19時5分、「LEGEND OF FUTURE」の音に合わせて、ステージ前方のスクリーンに映像が映し出される。ギターを抱えたバラの花がモチーフになっているアニメーションで、これも当時のままだ。CGが手軽に使える以前の作品なので、透過光を駆使している。懐かしい気分になるが、コンセプトがしっかりしているので、古い感じはまったくしない。当時の布袋のテンションが伝わってくる。
アニメが終わって、スクリーンが切って落とされると、オーケストラ・ヒット(80年代のサウンドを代表するシンセ音源)が爆発する。バンド・メンバーの衣装は、すべて黒。いよいよ「POWER」の演奏が始まる。布袋が抱えているのは、もちろん“布袋模様”のテレキャスターだ。
ギター・リフがめちゃカッコいい。布袋のギター・プレイは、いい意味で当時とまったく変わっていない。次の「C’MON EVERYBODY」で、ギターがさらにフィーチャーされる。このエディ・コクランのカバー曲は、その後も布袋のライブで何度も演奏されてきたが、このセットリストで聴くとまた格別の思いがする。布袋のルーツ・ミュージックであり、彼の思うロックンロールの原型がそこにあった。
しかし感慨に浸っているヒマはない。次の「GLORIOUS DAYS」はその後の布袋の“ポップサイド”の方向性を決定付けたナンバーで、緊張気味だったオーディエンスを一気に盛り上げる。
「こんばんは、布袋寅泰です。会いたかったよ。1988年、ここ、代々木体育館でソロ・デビュー・ライブを開いてから28年。今日はそれを再現するライブです。ただ忠実に再現するんじゃなくて、『GUITARHYTHM』の完全化、コンプリート版を見せたいと思います。僕の代表作を楽しんでください」。
その言葉の真意は、次の「MATERIALS」から明らかにされていった。日本のデジタルロックの夜明けと言うべきこのナンバーは、サウンドだけでなく、歌詞にも非常に意味がある。ダークなギター・ソロの間、バックの映像には中東をはじめとするたくさんの国名が文字で表現される。80年代後半の不穏な国際情勢を反映するコンセプトで、最後に「JAPAN?」という文字が浮かび上が る。
僕が最初に“問題作”と書いたのは、『GUITARHYTHM』が真にワールドワイドを狙っていたからだ。バンドブームに浮かれた音楽シーンの大半は、エンターテイメントに特化し、社会的なメッセージを発するアーティストはほとんどいなかった。布袋はそこに『GUITARHYTHM』を叩きつけた。どれほどのリスナーが反応してくれるか、ある意味、賭けたのだと思う。
場内はしーんと聴き入る。見入る。このテロリズムの時代だからこそ、布袋のメッセージを正面から受け取る人が、88年当時よりも多くいたのではないかと僕は感じた。それこそが布袋の言う“『GUITARHYTHM』完全版”なのだ。
近年、“アルバム再現ライブ”が数多く行なわれている。佐野元春の『SOMEDAY』や渡辺美里の『eyes』 など、80年代の名作が、オリジナル・アーティストによって再現されている。いろいろな再現があっていいと思うが、布袋の再現はまさに時代とシンクロし、コンプリートというのにふさわしい内容だった。
もうひとつの山場は、ポップな「DANCING WITH THE MOONLIGHT」から、ラストの「A DAY IN AUTUMN」への流れだった。
祝祭的な「DANCING WITH THE MOONLIGHT」は、徹底的にリスナーを喜ばせる構成を持っている。対して、「A DAY IN AUTUMN」は組曲風の構成になっていて、ボーカルとインストがイーブンな役割を果たす。88年の時点で、布袋はロックにおけるギターと歌のバランスを“互角”ととらえていた。
その後、布袋はCOMPLEXをはさんで『GUITARHYTHM II』に向かうが、それは最初の『GUITARHYTHM』とはまた別の道だったことを考えると、このラストの流れは非常に興味深かった。それはJ-ROCK史上の一大エポックだったのである。
一度、幕を閉じた後、アンコールとして布袋が登場。再現ライブらしい展開だ。そして布袋が『GUITARHYTHM』 の再現の後に選んだのは、デヴィッド・ボウイの「STARMAN」だった。今年、急逝したボウイは、布袋がもっともリスペクトを寄せるロック・レジェンドの一人だ。特にアルバムごとに音楽性やビジュアルを変化させるボウイの姿勢は、布袋に大きな影響を与えた。布袋はまるで自分のナンバーのように「STARMAN」を歌い、ギター・ソロを弾いた。 昨年、インターナショナル・アルバム『Strangers』をリリースし、今、ここでデビュー作『GUITARHYTHM』を再現する布袋の姿が、ボウイに重なっていく。
さらにダブル・アンコールに現われた布袋は、オーディエンスにこう語りかけた。
「35周年を迎えて、自分のたどってきた道を見つめ直す、いい機会になりました。26歳の布袋くんは、ずいぶん思い切った作品を作ったな、と(笑)。昨年はアルバム『Strangers』を出してアムステルダム、ベルリン、パリと300人くらいの小さなクラブでライブをやってきました。僕はライブからすべてを学んできた。そして観客のみんなから、いろんなことを教えてもらいました。大きく変わった部分もあるけれど、何も変わらない自分がいることも誇らしく思います」。<.p>
新曲の「8 BEATのシルエット」が、そんな布袋のキャリアを象徴するように響く。独自の力で手に入れたJ-ROCKの新しいフォーマットと、伝統的なロックの反骨精神が、1曲の中で融合する。間奏にあたる部分は組曲風になっていて、プログレッシブなパートとキャッチ―なロック・パートが両立している。
『GUITARHYTHM』と「8 BEATのシルエット」が並び立つこのライブは、まさに“布袋のコンプリート版”だった。やはり布袋のアーティスト・スピリットは、まったく古びていなかったのである。
【取材・文:平山 雄一】
【撮影:外山繁】
リリース情報
セットリスト
布袋寅泰 35th ANNIVERSARY『8 BEATのシルエット』
【BEAT 2】~ GUITARHYTHM伝説’88 ~ ソロデビュー再現GIGS
2016.4.7@国立代々木競技場 第一体育館
- LEGEND OF FUTURE
- POWER
- C’MON EVERYBODY
- GLORIOUS DAYS
- MATERIALS
- CLIMB
- STRANGE VOICE
- WIND BLOWS INSIDE OF EYES
- WAITING FOR YOU
- DANCING WITH THE MOONLIGHT
- GUITARHYTHM
- A DAY IN AUTUMN
- STARMAN
- サイバーシティーは眠らない
- DIVING WITH MY CAR
- 8 BEATのシルエット
- バンビーナ
- DREAMIN’
お知らせ
布袋寅泰 35th ANNIVERSARY『8 BEATのシルエット』
【BEAT 3】~Power of Music~ FREE LIVE! 自由の音を聴け
2016/07/03(日)高崎市もてなし広場
【BEAT 4】~Promise~ 東北PITツアー with Team Smile
2016/08/04(木)福島 いわきPIT
2016/08/06(土)宮城 仙台PIT
2016/08/07(日)岩手 釜石PIT
beat crazy Presents Special Gig "B.C. ONLY+1 2016"
2016/08/11(木)豊洲PIT
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。