レビュー
布袋寅泰 | 2016.04.06
布袋寅泰「8 BEATのシルエット」
次々に移り変わるパートは、すべて布袋寅泰の歴史を表わし、見事に展開されるシングルだ
昨年、インターナショナルアルバム『Strangers』で念願の世界進出を果たした布袋寅泰は、今年アーティスト活動35周年を迎える。そのアニバーサリー・シングルが「8 BEATのシルエット」だ。
3年ぶりとなるシングルは、実に布袋らしい輪郭を持っている。布袋はロックとポップの接点をずっと探究してきた。日本の音楽シーンにおいて、まだロックがアンダーグラウンドだった頃から、彼は突破口を追求。ギタリストとして、コンポーザーとして、ボーカリストとして、そしてパフォーマーとして、独自の美学を妥協することなく追い求めてきた。その結果、誰にも真似のできない境地にたどり着いたのだが、今回の「8 BEATのシルエット」はそうした布袋の足跡があちこちに散りばめられている。
イントロは、エキゾティックな音階を含むギター・リフ。これはBOΦWY時代に布袋が初めて80年代のロックシーンに提示したスタイルで、そのスリルとスピードにリスナーに衝撃を与えた。
続いて歌に入ると、Aメロの英語詞部分はニューウェイヴの影響を感じさせる一方、日本語詞部分では布袋独特の節回しで明快に言葉を伝える。たとえば♪暗闇に迷ったら 魂のギターを鳴らせ♪というメッセージ性の強いリリックが、ざくりと耳に刺さる。
Bメロは、ストイックなAメロに比べるとややソフトになる。が、ここまで、あくまで主役は“リズム”だ。
メロディが一気に開けるのが“サビ”だ。「さらば青春の光」などにある哀愁を含む美メロが突然出現し、楽曲のムードが一変する。リズムは倍の大きさで捉えられ、メロディの良さが強調される。が、その一瞬後にリズムは戻り、スピード感と美メロが融合する。
この展開の妙は、まさに布袋。と思っていると、さらに間奏が凄い。美メロのサビが終わると、その余韻のようにゆったりしたパートが現われる。続いて、明るく壮大なメロディのギター・ソロに入る。リスナーの気持ちが整ったところで、今度は切れのいいロックンロールのギター・ソロが待っている。このパートでバックコーラスを務めるのは、コブクロの小渕健太郎だ。小渕が布袋をリスペクトしていることはよく知られているが、アニバーサリーらしいゲストがギター・ソロを盛り立てる。
再び歌に戻って、ラストのサビはギターのみのバックで♪永遠に咲き誇る残像は 8 BEATのシルエット♪というキーフレーズを聴かせる。
めくるめく展開なのに、スッと聴かせるのは布袋の実力だ。次々に移り変わるパートは、すべて布袋の歴史を表わし、それらが見事に1曲を形作っている。ここまでいろいろなスタイルを網羅するシングルは滅多にない。冒頭に「実に布袋らしい輪郭を持っている」と書いたが、スタイルの網羅がシャープな輪郭となっているのだ。
そういえば布袋がデビューしたのは、世界でいちばん有名な“シルエット”を持つバンドだった。それを思うと、このシングルはより深く胸に響いてくる。
【文:平山雄一】