藤井フミヤ、FCツアーファイナル。4/17、Zepp Tokyo公演をレポ
藤井フミヤ | 2016.05.09
『FF 2016 Special Live CORE V』は、藤井フミヤがファンクラブ会員のために行なっている限定ライブで、5回目の今回は久々のものとなる。
ヒット曲を多く持つフミヤは、通常のツアーではオーディエンスの期待に応えて人気ナンバーを要所で歌ってエンターテイメントを形作っていくのだが、“CORE”の場合は文字通りコアなファンが集まるので、ヒット曲よりはむしろマニアックなナンバーを多く取り入れたセットリストでライブに挑む。フミヤにはダンスジェニックなクラブ系のライブスタイルがあるが、今回はもう一つの魅力であるバンドスタイルを前面に押し出し、セットリストには特にロック色の濃いナンバーが選ばれた。
フミヤのファンには、彼の華麗なダンスが堪能できるクラブ・スタイルを好む人もいれば、 パッションあふれるロック・スタイルを望む人もいる。この日のZepp Tokyoは、“ロックなフミヤ”を観に来た人で埋め尽くされていた。だから1曲目の「MY TYPE」が始まった瞬間、会場は踊り出す。
このリアクションの速さは、年季の入ったライブ・ファンたちならではのものだ。しかも観客のリズム感の良さには、驚かされる。たとえば新宿や下北沢のライブハウスでは、ロックの“縦ノリ”のビートには反応できても、少し横に揺れるニュアンスを含んだリズムに合わせられるオーディエンスはあまり見かけない。はっきり言って、フミヤのファンはダンスが上手い。しかもダンスを楽しむためにライブに来ている。そしてその中心にいるのが、フミヤなのだ。こうしたアーティストとファンの関係は、なかなか見られない。
Zepp Tokyoのステージで本格的なロックのグルーヴを発しているのは、このスペ シャル・ライブのために編成されたバンドだ。キーボードの伊東ミキオ、ギターの沢頭たかし、ベースの川渕文雄、バンマスでドラムの大島賢治。フミヤとはまったく異なるシーンで活躍してきたロック・ミュージシャンたちだ。フミヤが彼らを起用した意図ははっきりしている。繊細さよりもパワー優先。ボーカルをサポートするのではなく、ボーカルに拮抗してスリルを生み出す。つまり“バンド感”のあるミュージシャンたちが揃えられている。
もしこのライブを、ファンクラブ以外の人が見たら、あるいは“テレビのフミヤ”しか知らない人が見たら、どんな思いを抱くのだろう。
完全にロックに振り切ったフミヤは、今のJ-ROCKシー ンには比べる者のない優れたパフォーマーだ。今の人気バンドの中に、ダンスを含む身体表現ができるボーカリストが何人いるだろうか。ステージを走り回ったり、頭を激しく振ったりする人はいるかもしれないが、グルーヴと一体になったアクションやダンスで魅了する力を持っている者は、いないに等しい。だからこそ、初めて“ロックなフミヤ”に接したとき、一般の音楽ファンは「珍しいものを見た」ように感じるかもしれない。一方で、「初めて観るボーカル・パフォーマンス」に感動するのかもしれない。
もしこのままの形でフミヤがロック・フェスに出たら、どんな反響を呼ぶのだろうかと考えな がら、僕はこのライブを観ていた。
いきなり6曲のロック・ナンバーで圧倒的に盛り上げた後、フミヤが話し出した。
「ちょっとトバし過ぎたかな(笑)」。
すると客席から「頑張れ!」と声が飛ぶ。
「わかってるよ、頑張るしかないんだから」。
余裕の笑い顔を見せて、フミヤは聴かせるタイプの歌のコーナーに入っていく。そこでフミヤは新曲「この空の真下で」を披露した。この曲はメロディアスなミディアム・ロックで、“ロックなフミヤ”を愛するファンを、別の角度から楽しませていた。
その後も2000年にリリースした アルバム『IN AND OUT』からの「裏どおりの天使たち」など、マニアック なナンバーを演奏していく。ヒット曲以外の選曲は相変わらずだが、もしこれをフミヤを知らないリスナーが見たらどうなるのだろうと、僕は もう一度考えた。彼らにとってこれらのマニアックな曲は、非常にスリリングなロック・チューンに聴こえるのではないか。ヒット曲よりも、 かえってフミヤの魅力を伝えてくれるかもしれない。もちろんファンクラブ限定ライブだから、それはかなわない。しかし、僕は“ロックなフミヤ”の未知なる可能性を強く感じていた。
その可能性がはっきりしたのは、本編の終盤だった。「カラスの冷めたスープ」などで、フミヤ はロック・ボーカリストとしての本領を発揮する。シャウトもボディアクションも、素晴らしく切れがいい。その魅力は、今の音楽シーンにおいて、とても貴重だと確信したのだった。
アンコールでフミヤは、再び新曲を披露する。「GIRIGIRIナイト」はオーディエンスの大歓迎を受けた。ロマンティックな歌詞にワイルドなサウンドが絡むラブソングで、わかりやすさとカッコよさを両立させたフミヤの得意とする曲調が新鮮に響く。フミヤはこの曲を「ニューアルバムのメイン曲です。タイトルがカッコいい! チェッカーズ かC-C-Bかサリーぐらいしか歌えないタイトルだよね(笑)」と紹介したが、このセリフ を「KEYTALKやSAKANAMONぐらいにしか歌えない」と置き換えても成り立つのではないかと思ったものだ。
実はニューアルバムは、今回のバンマスの大島がアレンジの大半を手掛けている。リリースは 少し先になるが、フミヤは「いい手応えのあったレコーディングだった」と振り返る。その雰囲気を“CORE V” に活かすために、大島に今回のバンド集めを依頼したという。その結果、“ロックなフミヤ”のライブが実現したのだ。言い換えればこれは、 コアなファンのためのライブであると同時に、ニューアルバムのテストランでもあったのだ。このところフミヤはオーケストラとの共演などのトライをすべて成功させてきたが、それとは真逆な今回のアプローチも大成功と言えるだろう。
“FF 2016 Special Live CORE V”は、「コアなファン限定」と言いながら、はからずもフミヤの歌が若い世代に届く可能性を感じさせてくれた。それが僕にとっていちばんの収穫だった。9月から始まるニューアルバムのツアーへの期待はもちろん、フミヤが今の音楽シーンで存在感を高める予感のするライブになった。
【取材・文/平山雄一】
リリース情報
大人ロック(初回限定盤)
2016年07月13日
XQNA
1.この空の真下で
2.GIRIGIRIナイト
3.愛しいゴースト
4.エデンの起源
5.どっちでもいいよ
6.ひとりごと
7.消えないキャンドル
8.命の名前
9.友よ
10.ふるさと
11.最終目的地
[Disc 2 DVD]
1.GIRIGIRIナイト
2.愛しいゴースト
リリース情報
大人ロック(通常盤)
2016年07月13日
XQNA
1.この空の真下で
2.GIRIGIRIナイト
3.愛しいゴースト
4.エデンの起源
5.どっちでもいいよ
6.ひとりごと
7.消えないキャンドル
8.命の名前
9.友よ
10.ふるさと
11.最終目的地
セットリスト
「FF 2016 Special Live CORE V」
2016.4.17 Zepp Tokyo
- 1.MY TYPE
- 2.方舟
- 3.Style
- 4.Solitaire
- 5.Time Limit
- 6.La La La Stranger
- 7.点線
- 8.さまよう果実
- 9.この空の真下で
- 10.土砂降り
- 11.わらの犬
- 12.裏どおりの天使たち
- 13.廃墟の模型
- 14.どっちでもいいよ
- 15.カラスの冷めたスープ
- 16.JOIN TOGETHER
- 1.友よ
- 2.GIRIGIRIナイト
- 3.Breakfast
お知らせ
FUMIYA FUJII CONCERT TOUR 2016
2016/09/10(土) 大阪フェスティバルホール
2016/09/11(日) 大阪フェスティバルホール
2016/09/15(木) 川口総合文化センター リリア メインホール
2016/09/19(月) 札幌市教育文化会館 大ホール
2016/09/24(土) 福岡サンパレス
2016/09/25(日) 市民会館崇城大学ホール(熊本市民会館)※中止になりました。
2016/10/01(土) 盛岡市民文化ホール 大ホール
2016/10/02(日) 東京エレクトロンホール宮城
2016/10/05(水) Bunkamuraオーチャードホール
2016/10/06(木) Bunkamuraオーチャードホール
2016/10/15(土) 姫路市文化センター 大ホール
2016/10/16(日) サンポートホール高松・大ホール
2016/10/22(土) 神奈川県民ホール 大ホール
2016/10/23(日) 神奈川県民ホール 大ホール
2016/10/26(水) かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール
2016/10/28(金) 岸和田市立浪切ホール 大ホール
2016/10/31(月) 中野サンプラザ
2016/11/03(木) JMSアステールプラザ・大ホール
2016/11/06(日) 常陸大宮市文化センター・ロゼホール
2016/11/10(木) 厚木市文化会館
2016/11/12(土) ロームシアター京都 メインホール
2016/11/13(日) 神戸国際会館 こくさいホール
2016/11/17(木) 幕別町百年記念ホール
2016/11/19(土) 北斗市総合文化センターかなで〜る
2016/11/20(日) 弘前市民会館
2016/11/23(水) 三重県文化会館 大ホール
2016/11/26(土) 市川市文化会館 大ホール
2016/11/27(日) 市川市文化会館 大ホール
2016/12/02(金) 大阪フェスティバルホール
2016/12/03(土) 大阪フェスティバルホール
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。