キネマワンマンを通して考える、yonigeの音楽に浸ることができる理由とは――。
yonige | 2019.12.19
yonigeの東阪ワンマンツアー「上を向いてツアー」の東京公演が、12月3日に東京キネマ倶楽部にて行われた。「キャバレーの跡地でライブをしたかった」という意向に沿った今回のツアーは、本当は東名阪ツアーにしたかったが、残念ながら名古屋にはそういった施設がなかったために組み込まれなかったとのこと。「ここでやってみたいとか、会場に対しての執着がほとんどない。でも、キネマ倶楽部ではずっとやりたかった」と語っていた彼女たちが、「場所」に対するコンセプトを持って行った本公演をレポートする。
キャバレー(演者がダンスやコメディショーなどのパフォーマンスをする舞台が設置された、レストランやナイトクラブのこと)の跡地であるキネマ倶楽部は、1階はフロア、2階は半円の弧を描くようなバルコニーになっていて、柵に沿って布張りの椅子やソファが設置されている。そしてステージの横にはミニステージ、後方には大ぶりのカーテンが豊かに垂れ下がっており、退廃的な様相はあるものの、当時の歓楽施設としての妖艶な空気が今も漂っている。そんな雰囲気のある会場に、牛丸ありさ(Vo/Gt)、ごっきん(Ba)、そしてサポートメンバーである堀江祐乃介(Dr)、土器大洋(Gt)が登壇すると、彼女たちは最初に「リボルバー」を届けた。今年の5月からこの4人体制でライブを行っているyonige。その期間の中で育ってきたグルーヴ感が、ステージとの近さを如実に感じるこじんまりとした会場に力強く放たれていた。MCでごっきんも話していたが、今年1年を通じてyonigeがリリースした新曲は、この日も演奏された「往生際」と「みたいなこと」の配信シングル2曲のみ。しかし彼女たちは、5月からツアーを行い、8月には初の日本武道館での単独公演を見事ソールドアウトで迎えた。リリースを引っ提げなくとも、これまでと変わらずにひたむきにライブを行い続ける彼女たちだからこそ高めることができたであろう「バンドの良さ」が、この日もダイレクトに伝わってきた。
「our time city」「最終回」と続けた冒頭のアッパーな雰囲気から一変、次のセクションでの「2月の水槽」や「バッドエンド週末」のひんやりとした温度感には、すっと背筋を撫でられたような感覚がした。yonigeの楽曲が持つそういった凛とした冷たさは、牛丸が持つ俯瞰的な一面から生み出されているように思う。ふたりで過ごした甘くて色濃い「あの頃」を反芻しながら、そこに戻れないことを憂い嘆くのではなく「ああ、しょうがないよな」と思い至る瞬間。強がりとも諦めともまた違う、自分が自分の本質に触れるそうした瞬間に訪れる、今までの苦しみや痛みが自然と引いていくあの解放感が、彼女たちの音楽にはあるように思う。ふたりでいることを望みながらも、部屋に帰った途端に気付く「私はひとりなんだ」という感覚は、嘆いて突っぱねるべきではないこと。「しょうがない」「どうなったっていい」「なんだっていい」といった言葉たちはネガティブに捉えられがちだが、時に自分自身を守る盾になってくれること。執着がないこと=愛がないことではないこと。そうした「ひとりの時間にこそわかる、自分を守る術」を、yonigeの音楽から気付かされることが多くある。数多の人々の欲望と快楽が入り混じった魅惑の空間の跡地に響く、ワンルームの部屋で紡がれたふたりとひとりの物語。会場に残る面影とyonigeの音楽とのその対比が、彼女たちの楽曲に宿るそういった力をより一層引き立てているように思えた。
そうした空気感のなか、「センチメンタルシスター」や「ワンルーム」など、再度アップテンポなナンバーをプレイすると、ごっきんによる快活なMC(牛丸が暴露した、この日ごっきんが会場スタッフにお弁当屋さんに間違えられたという話は声を出して笑ってしまった)を経て、「どうでもよくなる」をきっかけにライブ後半に突入。ミラーボールが会場を彩ったスローテンポな「沙希」や「サイケデリックイエスタデイ」では、曲が終わってもオーディエンスが楽曲の世界から抜け出せなくなったかのように、拍手がワンテンポ遅れて沸き起こるといった場面もあった。yonigeの楽曲自体は誰かに向かって投げかけられた歌ではないけれど、聴く側としては、だからこそ1曲1曲に自分の意識をじっくりと重ねることができる。その行為を「共感」と呼ぶには少し距離が近すぎるなぁと思うのは、どの曲にも完全に読み解くことのできない余白があるからだろう。
そして、豊かな慈愛に満ちた「春の嵐」を奏で終えると、「またライブを観たいって思ってもらえるように頑張るので、また来てください」という牛丸の挨拶を最後に「さよならアイデンティティー」と「最愛の恋人たち」を届け、念願の舞台での幕を閉じた。さらに鳴り止まない拍手に呼ばれて再度登場した4人は、「アボカド」と「さよならバイバイ」をプレイし、年内最後の都内でのライブということで「良いお年を!」という言葉を投げかけた。
この日演奏された「トラック」の中に、《ハッピーエンドはいらない 望んじゃいない》というフレーズがある。“幸せ”であることが、必ずしも“満足”であるとは限らない。満腹な時よりも喉が渇いている時に飲む水のほうが美味しく感じるし、「何か足りない」と思っている時のほうが感覚が研ぎ澄まされたりするものだ。足りない状態がいいと自信を持って言えるのは、歩んでいく力がある人だからこそだと思う。誰に教えられたわけでもなく、そのひとつの答えをすでにつかんでいるyonigeの来年を、引き続き楽しみにしていようと思う。
【取材・文:峯岸利恵】
【撮影:小杉歩】
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リリース情報
みたいなこと
2019年09月13日
ワーナーミュージック・ジャパン
セットリスト
上を向いてツアー
2019.12.3東京キネマ倶楽部
- 1.リボルバー
- 2.our time city
- 3.最終回
- 4.往生際
- 5.2月の水槽
- 6.バッドエンド週末
- 7.センチメンタルシスター
- 8.悲しみはいつもの中
- 9.ワンルーム
- 10.どうでもよくなる
- 11.また明日
- 12.沙希
- 13.サイケデリックイエスタデイ
- 14.ベランダ
- 15.しがないふたり
- 16.トラック
- 17.みたいなこと
- 18.春の嵐
- 19.さよならアイデンティティー
- 20.最愛の恋人たち 【ENCORE】
- 1.アボカド
- 2.さよならバイバイ
お知らせ
small indies table presents 「small indies table tour 2020」
2020/3/19(木)愛知 Zepp Nagoya
2020/3/20(金)大阪 Zepp Osaka Bayside
2020/3/28(土)東京 Zepp Tokyo
w/ KOTORI / FOMARE
一本締め☆NIGHT
2019/12/31(火)大阪 心斎橋Music Club JANUS
w/ mother / CAT ATE HOTDOGS / ザ・モアイズユー / ソウルズ / Slimcat / The Songbards / SEAPOOL / カネヨリマサル / POT
ARABAKI ROCK FEST.20
2020/4/25(土)、4/26(日)宮城 みちのく公園北地区 エコキャンプみちのく
Age Factory pre 「NOVA CITY」
2020/5/5(火・祝)大阪 CCOクリエイティブセンター大阪(名村造船所跡地)
w/ Age Factory / ENTH / RY0N4(ARSKN) / オカモトレイジ(OKAMOTO’S) / DAWA(FLAKE RECORDS) / TOMMY(BOY) ...and more
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。