クアトロ挑戦の先に見えた、真の存在証明のかたちとは――。
Amelie | 2020.02.25
“自身のアイデンティティや存在証明って、探しているときはなかなか見つからないし、自分では気づきにくいものだよなぁ……”とつくづく思う。
なりたい自分を夢見、憧れ、目指し、向かうも、挫折や苦闘、自問やジレンマを抱き、それらを経て、その理想に辿り着いたり、届かなかったり、時には通り過ぎていたり……。しかし肝心の自己のアイデンティティとなると意外にも、その憧れて目指していたものや場所には無かったりもする。だが代わりに、そこに至る過程や道程に、その類いやキラキラと輝くポイントがあったことに気づかされることも多い。
Amelieはこの日、己にも観衆にも、自己のアイデンティティの在り処を、自身の楽曲やパフォーマンス、ステージ上からの言葉や態度を通して明示し、体現してくれた。
Amelieの東名阪ワンマンツアーが渋谷CLUB QUATTROにて幕を閉じた。彼らにとっては、過去3度ワンマンで立ったクアトロのステージ。残念ながらこれまでの2回は完売までは至らず、個人的には「今度こそは!!」という期待を抱き会場へと赴いた。結果は満場ながら完売までは至らず。当の本人たちにももちろん悔しさはあったろう。しかしそれ以上に、自身が目指していた先に待っていた、改めての自己のアイデンティティに気づけた。そんな歓びのほうが勝っていたように映った。
登場を予期させるSEとともに、まずは直人(Gt/Cho)、あっきー(Ba/Cho)、アサケン(Dr/Cho)がステージに現れる。間を空けmick(Vo/Gt/Piano)も登場し、鍵盤に指を下ろす。《2度とは来ない 今日しかない/かけがえない時間の始まり》を告げる「Enrance」をピアノとともに歌い始めるmick。そこにバンドサウンドが加わり、生命力がぐわっと帯びていく。同曲での会場を交えた雄々しいコーラスがバイタリティーを育ませていくなか、そのまま「カントリーロード」へイン。ライブが走り出していく。ドライブ感と疾走感を擁した同曲が、曲中で歌われる当時の思い描いていた景色と今ここにいる場所とを重ねていく。
「今日はツアーファイナルだし、今年1発目のライブだから過去最高のライブを作っていこう!」とmick。さらにライブを転がしていくように「ゼロじゃない」へ。場内の秘めた可能性とやる気を引き出していくように放射された同曲。それに開眼したが如く会場中から力強いコーラスと呼応が湧き起こる。
「今日が楽しみでしかたがなかった。過去2回に比べ、楽しくてうれしくて……」とmick。その表情には、「3度目の……」的な気負いは皆無そうであった。「今日は心の絆を確かめにきた。200%の気概で挑んできてほしい」と告げ、手と手がガシッと握り合えるような信頼感とともに「手と手」が贈られる。「私たちはいつでもここにいるから手を握りに来て!」と響く同曲が握った手を力強く握り返してくれた。
アサケンが生み出すトライバルなビートとともに場内に飛び込んできたのは「WONDER」であった。駆け抜けるかのようなサビでの疾走2ビートが場内にブレイブ感を寄与していく。対して場内を踊らせたのは「メグリメグル」。ここでは直人とあっきーが向き合いプレイする場面と、その後の直人のギターソロも想い出深い。
「絶望希望も含めこれまでいろいろな景色を見れ、それを締めくくるのがこんな景色であったのがうれしいし感激」とmick。ここからは従来の彼らにはなかった新作の要素を有した曲が続いた。
「月の裏まで」はミディアムでウェットさを帯びながらもmickのファルセットも冴え、直人の秘めたエモさたっぷりのギターソロが味わえた。また、こちらもミディアム、いろいろと自分と重ね照らし合わさせた「バウムクーヘン」での、曲中のダウンビートを交えた辺りはライブならではだ。加えて「サイクル」ではどこまでも連れて行ってくれそうな希望と明るさを得ることができた。
「東京でのワンマンがどんどん特別な場所になっていて、今や聖域に近いものになっている。ずっと続かないことなんてわかってはいるけど、それでもずっと一緒にこのような空間を作り続けていきたい」と告げ、その言葉を体現するかのような「君といま生きている」がピアノとともに贈られた。また「久しぶりに引っ張り出してきました」と初期の「グッバイハロー」も飛び出し、オルガン的な音色と疾走感が特徴的な同曲によって、彼らが当初から持っていたキュンとさせる部分とバイタリティとが同居する彼らならではの特異性を想い返させた。そこには「これぞAmelieのアイデンティティのひとつだよな……」と妙に納得する自分がいた。
会場がキラキラと輝くのを見た「キセキ」でライブが再び走り出せば、それをさらに「ライアーゲームじゃ始まらない」が激化させていく。また会場の大合唱から入った「手紙」では、星になってしまった帰らぬ人の分まで謳歌してやると言わんばかりの気概が場内を雄々しく駆り立て、「君が為に鐘は鳴る」では疾走感を経て現れるラテンポップのビートが場内にバウンスを引き起こしていった。また、いつまでもこの素晴らしい関係が続くようにという願いも込めて「step!」が放たれると、場内がクラップと雄々しいコーラスで呼応していった様も想い出深い。
「これぞAmelie空間って感じでマジ最高です。『楽しい時間よ、まだまだ続いてくれ!!』と願っちゃう。今回も完売には至らなかったけど、それよりももっと大事だし、大切にしなくちゃいけないことに気づいた。それこそが、歌いたい歌があって、それを伝えたい君がいてのこの関係値。それができている今がいちばん最強だ!!」とmick。間を置いて「いろいろ考え迷ったけど、自分は自分のままが最も美しいことに改めて気づけた」と加える。そしてその自らのすっぴんならではの美しさを見せるべく挑んだ「アイデンティティの証明」では、演じ、フリをし、勝手にわかった気になっていたその先で出会えた真理を手に入れた彼らの真の強さや雄姿も印象深かった。
「朝は来る」の前に「悔しくないわけはないだろう」とボソッとmick。そこにはこの日、完売に至らなかったことへの本音が窺え、まさにこれこそ彼らのアイデンティティだと思い当たった。「やっぱりみんなをもっと眺めのいい場所に連れて行きたい!!」という本音の込もった同曲が信憑性たっぷりに皆に贈られる。どんな状況だろうが信じて待っていればきっと世は明ける。それを自ら証明し、信じさせてくれる瞬間だった。
「最強な空間をまた一緒に作りたい」とmick。「東京」はまさにこの東京で、これからもみんなに支えられながらも生きていく――そんな決意の込もった歌が放たれた。歌われる《まだまだどこまでも行けそうさ》は集まった者たちに向けた感謝の意にも受け取れた。最後までみんなの想いを背負い、走っていく覚悟と、まだまだここで満足なんかしてられない、やはりみんなと一緒に見たことのない景色を見たいし、そこに連れていきたいという気概を携え、「フルスピードで」が場内を駆け抜けていった。
アンコール。と、その前に、4月22日にはミニアルバム『シネマクラブ』を発売し、そのリリースツアーの開催も告げられ場内が歓喜した。そして、そこから特別に「雨よ降れ」を先行披露。美しい鍵盤も交え、ミディアムでダイナミズム、生命力を与えてくれそうな楽曲だった。曲中で歌われた、あの人のもとへ自分の足で向かおうという強い決意と覚悟、そして気づけば日が照っていた、そんなストーリーを想起させ、まるでこの日を総括したかのように響いた。「これからもみんなの孤独に寄り添えるバンドや歌でありたい」と、最後は「ヒーロー」が皆の心の中に宿り続け、くじけそうになった時に一緒に戦ってくれるヒーローのような歌やバンドでいたいという理想や憧れも含め贈られた。
ステージを下りる彼らは、どこか憑き物が落ちたかのようなツルンとスッキリとした表情に映った。そこには、ようやく辿り着けた安堵やこれから向かっていく方向、背負うべく者やともに進んでいく頼もしい援軍の存在とこれからも突き進んで行く決意と覚悟が垣間見れた。
この日の最後のMCで、「Amelieはどんどん進化していくし、私個人はもっと大人になりたい(笑)」と告げたmick。であるのならば、ぜひともそれを目指し進んでほしい。しかしきっと、そこでもまたそのAmelieのアイデンティティと称されるものは、その目指す着地点にはなく、そこまでの道程や工程の中にこそ見出せる気がする。帰路、いつの日か再び「やっぱこれだった!!」と自身のアイデンティティに行き着き、誇らしく明示し標榜している彼らの勇姿を夢想した。
Amelieは変わっていく。しかし彼らの本質はけして変わりはしない。なぜなら彼らはこれまで9年をかけてようやく己のアイデンティティを明示できた「愛しき不器用なバンド」なのだから。
【取材・文:池田スカオ和宏】
【撮影:白石達也】
リリース情報
アイデンティティ
2019年11月13日
[NOiD] / murffin discs
2.アイデンティティの証明
3.バウムクーヘン
4.月の裏まで
5.東京
6.フルスピードで
セットリスト
『アイデンティティ』 Release Tour 2019-2020
2020.1.18@渋谷CLUB QUATTRO
- 1.Enrance
- 2.カントリーロード
- 3.ゼロじゃない
- 4.手と手
- 5.WONDER
- 6.メグリメグル
- 7.月の裏まで
- 8.バウムクーヘン
- 9.サイクル
- 10.君といま生きている
- 11.グッバイハロー
- 12.キセキ
- 13.ライアーゲームじゃ始まらない
- 14.手紙
- 15.君が為に鐘は鳴る
- 16.step!
- 17.アイデンティティの証明
- 18.朝は来る
- 19.東京
- 20.フルスピードで 【ENCORE】
- 1.雨よ降れ(新曲)
- 2.ヒーロー
お知らせ
WUCA TOKYO presents [home sweet home]
03/01(日)東京 murffin studio (WUCA TOKYO 2F)
※mickのみの出演
murffin night 2020 in NAGOYA
03/06(金)愛知 名古屋DIAMOND HALL
w/ osage / SAKANAMON / the quiet room / sumika
「シネマクラブ Release Tour 2020 〜Amelie Road to 10th Anniversary〜」
05/02(土)東京 渋谷TSUTAYA O-Crest
TENJIN ONTAQ 2020
03/14(土)福岡 天神地区8会場
FACE IT!!
03/16(月)熊本 Django
w/ KALMA / Half time Old / アイビーカラー
03/18(水)宮崎 SR BOX
w/ ベランパレード / THE BOYS&GIRLS / 泡沫少女
03/19(木)鹿児島 SR HALL
w/ アイビーカラー / ヤングオオハラ / THE BOYS&GIRLS
みきなつみ “会いに行くから会いにきて! 対バンツアー2020”
03/28(土)埼玉 西川口Hearts
w/ みきなつみ / リアクション ザ ブッタ
トアロード・アコースティック・フェスティバル2020
04/12(日)兵庫 神戸VARIT.ほか全9会場
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。