「アイデンティティ」。ある意味、自分の存在証明とも言える、背負うにはとても重みのある言葉だ。Amelieはニューミニアルバムで、あえてそれをタイトルとして付けた。しかし今の彼らの使うこの「アイデンティティ」は、「これが本質だ!!」と明示してはいるものの、それはその時々や生き方によって、自然と移り変わっていくもの、うつろいでいくものであることも含めて、その自己の存在証明も多岐に渡るものだったりする。
これってすごく正直で真摯で、非常に人間っぽい。人の本質は決して確固たるものだけではなく、時や環境とともに変化していく。そんななか、逆に忘れたくないもの、忘れちゃいけないものに改めて気づいたり、出会えたりする。それを今作では彼らの不変的で確固たる自己とも呼べる、明日へと踏み出す一歩になるバイタリティとともに、今作ならではの丁寧な歌やサウンドを通して、思い起こし、気づかせ、気持ちを重ねさせてくれる。
そんな今作について、ほぼすべての楽曲の作詞・作曲を担うmick（Vo/Gt/Piano）と、収録曲「アイデンティティの証明」で作詞・作曲を共作し、アレンジや表現力でそのアイデンディティの教示を担う直人（Gt/Cho）にあぶり出してもらった。

EMTG：前回のツアーファイナルを拝見させてもらって、あのツアーで改めて気づいたものや発見したものが多々あり、それらが今作に繋がっていった印象を受けました。

mick：あのツアーで初めて2マンで全国を回ったんです。いつもに比べて、あえて小さ目のハコを選んで回ったツアーでもあって。ファイナルのワンマンもあえて東京のホームとも言える渋谷eggmanにしたし。お客さんとの距離感が縮まるだろうと挑んで、各地で自分たちに対する受け入れ態勢をこれまで以上に感じたツアーでした。2マンにもかかわらずワンマンの空気感でやれた場所も多かったし。そんな「ここだったら何をやってもいい!!」っていう、それこそかっこつけなくてもすんなりと自分たちらしいと感じられるライブを毎回やれたことは大きかったですね。

EMTG：「自分は自分!!」という自覚をより持てたツアーでもあったと？

mick：ですね。あと今作に関しては、そのツアーもですが、4月から始まったラジオのレギュラーも大きかったです。

EMTG：Kiss FM KOBE『MUSIC APPLE Amelie Edition』ですね。

mick：月に一度ですが、映画を観て、それに関する曲をオリジナルで作り、1ヵ月後の次の放送で披露するコーナーがあるんです。それがAmelieの曲作りをするよりも、やや気楽にできる面があって。やはり何かしらテーマがあるので。そんななか、そもそもAmelieを組んで曲を作り出した時って、お風呂に入りながらとかトイレに入りながらとか曲作ってたし。少なくとも近年のように「うわーっ、Amelieの曲を作らなくちゃー!!」って追いつめられる必要もなく作れていた頃を思い出したんです。

EMTG：向き合い、見つめ直しての発見ではなく、ひょんなことから振り返り、アイデンティティに改めて気づかされるのも面白い。

mick：「皆さんが期待してるAmelieのmickでいなくちゃ！」「イメージを裏切らない曲を書かなくちゃ！」っていうのが、ここのところどこかで出ていたんでしょう。それが、あのツアーやラジオでの楽曲制作を経て、「自分が好きな自分でいていいんだ！」とか「自分らしくいればいいんだ！」って気づいた感じはあります。

EMTG：直人さん的には、前回のツアーから今作へ反映された部分は、どのようなことがありましたか？

直人：前回のツアーは、キャパも含めて背伸びせずにできたツアーだったこともあり、単純に肩の力を抜いてツアーを楽しむことができたんです。そうやってシンプルにやれた結果、「ああ、これこれ！この感覚！」「これを自分たちはやっていけばいいんだ！」という確信に至ったというか。逆にこれまではいろいろと考え過ぎていたり、「Amelieはこうじゃなきゃ！」という意識を持ち過ぎた部分もあったんです。対して、今作はそれこそ「シンプルにただやりたいことをやっただけ」な内容になりました。一度全部取っ払って、「Amelieでやりたいことをやろう！」と。それが今作に繋がっているし、すごく表現できたと自分では感じています。

EMTG：その改めて感じた「自分たちのやりたいこと」というのは？

直人：Amelieって「熱いことを伝えなくちゃいけない」みたいなイメージを自然と背負っていたんでしょう。でも、それだけじゃなくてもいいのかもって思えるようになって。単純にギターを弾いて楽しい曲――そんな曲があってもいいだろうし。特に今作の「月の裏まで」って曲は、そんな流れでみんなでスタジオで遊んでたらできましたから。

Amelie 「月の裏まで」 Music Video

EMTG：正直、私もこれまでのAmelieには、いわゆる「目の前の壁を乗り越えろ！」的な印象を抱いていましたが、今回はやや違いました。「ついて来い！」ではなく一緒に並走していたり、同じ目線だったりで。それにしても、「アイデンティティ」とはかなり重みのある言葉をタイトルにつけましたね（笑）。

mick：重いですよー（笑）。らしさとか、アイデンティティって、本質は残るけど、わりと変わっていくものなんだなって意味も含めて付けました。「だったら今はこうだよ」「こんなこともできるよ」「こういうことをやったよ」という意味合いも込めて、「アイデンティティ」という言葉へと辿り着いたんです。さっきおっしゃって下さった「壁を乗り越えろ！」モードのAmelieじゃなくてもAmelieだぞって。「アイデンティティの証明」ができて、そこから付けたんですが、この曲って実は制作の最後にできたんです。この曲が完成したことで、アルバム全体が締まったなとすごく感じていて。

EMTG：アルバム全体的に「自分のアイデンティティはこれだ！」的なものを表しつつ、曲ごとに個別の「アイデンティティ」を表しているのも面白い。

直人：そこなんです。正直、前作はもっと音楽性を「これだ！」って言えるものにまとめようとしていたことは否めません。でも今回は、そこからまた改めて広がったというか。その経験を通して、やはりAmelieっていろいろとできるバンドなんだな……と気づけたので、バンドの可能性が見えた手応えはありました。自分たちでも新たな発見になったし、アレンジとかも以前に比べてかなりこだわりましたから。

EMTG：わかります。ライブ観はしっかりと保持しつつ、いろいろと細かいところで丁寧なアレンジが施されています。

mick：これまでライブに向けて曲を作っていたんですが、今回はそうじゃなくて、ひとつの音楽作品として成り立つものを作ってみたくて。

直人：とはいえ、元々Amelieが始まった頃は繊細な部分も多々あったんです。それをここでもう一度改めてやってみようと。もちろんメッセージ性はその時とは変わってはいますが、そのうえで、今やれたら強いだろうなって。それこそ今回はめちゃめちゃアレンジにこだわってますから。

mick：繊細は繊細だけど、勢いで言うと、歌以外の演奏は今回も変わらず「せーの！」でみんな一緒に録りました。そこは変わらずです。バンドサウンドとして成立させつつ、それぞれの音やその役割、あと余計な音を入れ過ぎない。そこはこだわりましたね。だからそれほど音数がなくても分離して存在感があって聞こえるし、それぞれの音が際立って聞こえてくれたんだと思います。

EMTG：ですね。すごくスッキリしつつも、各楽曲がしっかりと作品性のあるものになっている印象があります。mickの歌の表現も含めて、聴き手への伝え方、届け方が考えられ、練られたアルバムだなって。

mick：ありがとうございます。これまでは、その内容に合った年齢や性別の主人公を設定して歌ってきましたが、今回に関してはすべて「今のmick」ですね。なので、ウェッティに歌える曲も増えたし、「この曲は元気になりたいから明るい成分多めで歌おう！」とか。だけどそれぞれ無理せず、若作りせず歌えたんで（笑）、歌録りも楽しかったし、表現の幅も広げやすかったです。

EMTG：その辺りって今作の中間部分、例えば「バウムクーヘン」「月の裏まで」「東京」に表れている気がします。これらの曲って、Amelie的にもかなりの新境地だったのでは？

直人：その辺りの曲たちに関しては、それこそ自分たちでも成長を刻むことができたと自負していて。

mick：「月の裏まで」は、これまでの「地声でどこまで声を張り上げられるか？」っていう挑戦に対して、ファルセットを多用して、歌の表現力にこだわってみました。「バウムクーヘン」は、スタジオでみんなでセッションしながら作っていった曲で。

EMTG：「東京」は、「カントリーロード」に対するアンサーソングのような立ち位置の曲のように響きました。

mick：この2曲は今回セットで入れたかったんです。それぞれ私たちの地元・越谷について歌った曲で。越谷のことをストレートに歌ったもの（「カントリーロード」）と、越谷から見た東京を歌ったもの（「東京」）。越谷は自分というものを形成してくれた街だし、東京は私にとってなりたい自分になっていける可能性を秘めた街なんです。そんな思いを込めて作りました。あと、この2曲の歌詞は、内容が繋がっていたり関連しているワードも散りばめられていたりするんです。2曲が対になるような。ぜひその辺りも探してみてほしいです。

EMTG：この「東京」からは、「先人たちの夢破れた屍の上で自分たちはこれからも戦っていく！」「東京よ、私たちをここまで鍛えてくれてありがとう！」というような含みも感じました。今回はこれまで以上に心の機微がきちんと描かれている印象があります。

mick：歌詞は今回、6曲すべてにおいて成長できた自負があります。

EMTG：歌詞面では、mickさんと直人さんの共作（「アイデンティティの証明」）もありましたね。共作は初？

直人：僕単独での作詞作曲はありましたが、このようにふたりで1曲を作り上げたのは初でした。元は僕が歌メロも作って歌詞を書いていたものを、mickが自分なりに消化してかみ砕いて、自分が歌う歌として補完しながら完成させたんです。やはり歌うのはmickなので。そこに自分の気持ちも入れ込んで歌ってもらいました。

mick：「アイデンティティの証明」のAメロなんて、直人さんからもらった時点ではポエトリーリーディングでしたからね（笑）。

直人：この曲も含め、歌を伝える役割としてmickにいろいろと委ねられたのは大きかったです。

EMTG：で、いよいよ今作とともに東名阪をまわるワンマンツアーがあります。なかでもファイナルの東京は、過去2回挑みながら惜しくもソールドアウトに至らなかった渋谷クラブクアトロです。

mick：渋谷に関してはここを乗り越えて、スッキリして次へと進みたい気持ちが強くある反面、渋谷に限らず、全ヵ所で内容にこだわった濃いライブをやるだけです。このアルバムの曲たちも当然やるんで、それらと既存の曲たちをブレンドさせて、今の自分たちのアイデンティティをどう見せるか。どちらかと言えば、そっちのほうに脳みそと心を使いたいなって。

直人：動員も気にしつつ、いい演奏、いいライブに注力していく――どちらかと言えば自分たちの気持ちはそこに向いているので。その先に数字がついてくるでしょうし、それが信じられるようにもなったし。各地で今のAmelieのアイデンティティを感じてほしいですね。

【取材・文：池田スカオ和宏】