UNISON SQUARE GARDEN、ワクワクを止めないための挑戦を観た
UNISON SQUARE GARDEN | 2020.07.28
7月15日午後8時、UNISON SQUARE GARDENにとって初の生配信ワンマンライブ「USG 2020“LIVE(in the)HOUSE”」を観た。たぶんみなさんと同じ環境、部屋のパソコンの前に座ってしっかり観た。これは延期になってしまったツアー「fun time HOLIDAY 8」の代わり、ではなくて、どんな逆境にも負けず明るい未来を目指すロックバンドの意志を示す選手宣誓だ。セットリストは、あらかじめリスナーから募ったリクエストを参考にすることも発表されている。田淵智也(Ba)のブログの言葉を借りるなら、リスナーとの「共犯関係」をもとにライブは作られる。無観客という不安はあるが、未知との遭遇という楽しみのほうが大きい。開演前の静止画面に楽器のチューニングの音が流れてる。さあ始まる。
ぼんやりと青い闇に沈むステージ。SEはいつものイズミカワソラ「絵の具(r-r ver.)」。手持ちのカメラが楽屋裏からステージへ向かうメンバーを追う、映像ならではのドキュメンタリーな幕開け。タイトルバック。ぴんと張り詰める緊張感を振り払うように、斎藤宏介(Vo/Gt)が歌い出す。1曲目は「mix juiceのいうとおり」だ。明るく弾むビート、笑顔の鈴木貴雄(Dr)、いきなり跳ねまわる田淵。斎藤が「お待たせ!」とひとこと、間髪入れずに「オトノバ中間試験」、そして「桜のあと(all quartets lead to the?)」へ。スピーディーな展開で一気にギアをトップに入れてぶっ飛ばす、歓声が聴こえない以外は普段のライブと何も変わらない。
様々な角度からステージを狙うカメラの数も多いし、上からドラムを見下ろすシーンなど新鮮なアングルが楽しい。野生児・田淵が画面からフレームアウトしまくるのも、カメラマンは大変だろうが見てるこっちは面白い。音質も非常にクリアで、それぞれの演奏技術の高さがよくわかるし、たとえば鈴木の精密な手さばき足さばき、もしくは田淵の荒々しくも正確なコーラスの魅力がはっきり伝わるのも、配信映像ならではの新鮮ポイント。配信、いいじゃないか。
「MCなし。UNISON SQUARE GARDENです!」
そう、言葉よりも今は音楽を聴いてくれ。ファンキーなダンス・チューン「きみのもとへ」から、明るいスカのビートを持つ「君の瞳に恋してない」へ。斎藤がステージ前に飛び出していかしたソロを弾く、そのすぐ横で見守る田淵がほほえましい。「オリオンをなぞる」では、鈴木のドラムスティック離し技をちゃんとカメラが抜いてくれた。「I wanna believe、夜を行く」では、ステージを駆けまわった挙句に田淵がドラム台に駆け上がり鈴木と笑いあう。普段のライブ以上に3人のコンタクトが多い気がするのは、この特殊な、しかし貴重な日を共有体験したい気持ちの表れかもしれない。序盤は明るいアップテンポの曲が多く、軽く体を揺らしながら聴くうちにあっという間に時が過ぎてゆく。
斎藤がゆっくりとギターを爪弾きながら情感込めて歌い出す。ノスタルジックな青さと儚さが漂う「スカースデイル」は、作詞作曲を手掛けた斎藤宏介の繊細で抒情的な内面がよく出た1曲だ。アウトロの田淵と鈴木の息の合ったコーラスも、息はぴったり。同じ抒情でも「静謐甘美秋暮抒情」は、ファンキーでクールな雰囲気をより濃く漂わせた、大人びたムードがなんとも魅力的。一転して「mouth to mouse(sent you)」は、グラマラスなロック・リフに乗って明るく朗らかに。ここまでで10曲50分、いいペースだ。
「オンドラムス、タカオスズキ!」
斎藤の紹介で始まったドラムソロ。スタッフに装着してもらったヘッドカメラが映し出す、鈴木のスティックさばきは臨場感満点。田淵のソロ、斎藤のソロと見せ場を繋ぎ、「Phantom Joke」へなだれ込む展開はスリル満点。ちなみにこの曲、演奏希望リクエストの堂々第1位だ。四拍子と三拍子が目まぐるしく入れ替わるトリッキーなリズム、切なさがバーストする高速哀愁ロックンロールに合わせ、背後のスクリーンにサイケデリックな色彩が溢れ、照明が激しく回転する。今のところ最新シングル、ライブ演奏を初めて観たが実にライブ向きの盛り上がる1曲。
スクリーンではじける爽やかな泡とともに「to the CIDER ROAD」、ヘヴィなリフとポップなメロディが交錯する「場違いハミングバード」と、アクセルべた踏みでテンションが上がる。みんな大好き「シュガーソングとビターステップ」は、たぶんユニゾン最大のヒット曲のはずだが、変な言い方になるがライブの場ではどの曲もみな平等。ユニゾンのライブを盛り上げるワンピースとして、ただ全力で歌われるのみ。プログラミングされたビートに合わせ、鈴木が立ち上がって煽って見せる。無観客って何? 画面の前でわっと盛り上がる人たちの声が聴こえてくるようだ。
「箱庭ロック・ショー」は個人的なこの日のハイライトと言いたい最高の出来で、なんたって1曲丸々ワンカメで通したカメラワークが素晴らしい。ブレても揺れても関係ない、3人の周りを回りながら細かな表情を追い、間奏で田淵がすっ飛んできて斎藤と絡むシーンや、ラストで3人が向き合う瞬間のかっこよさは鳥肌もの。何度もシミュレーションしたんだろう、映像チームの頑張りとセンスの良さが光る、配信映像ならではの名シーン。そして「フルカラープログラム」の、斎藤がマイクを外してアカペラで歌うシーンの美しさ。1曲ごとに必ず名場面を作る、これがUNISON SQUARE GARDENの配信ライブ。やがて音が消え、カメラがゆっくりとパンしてゆくと、見覚えのある客席が映し出される。おお、NHKホールじゃないか。
「今のでライブはおしまいです。ここまで見てくださったみなさんに、ちょっとご報告があります」
「本編」を終え、斎藤がゆっくりと語りだす。未定だったニューアルバム『Patrick Vegee』のリリースが、9月30日に決定したことを発表。「そのアルバムから新曲を」と紹介して歌ったのは、「弥生町ロンリープラネット」と題した、ユニゾンにとってはロックバラードの範疇に入るような、壮大というよりもとても身近な、優しいメロディが光る曲。最後の一行で「そして僕らの春が来る」と歌ったような気がして、そうしたらすぐに「春が来てぼくら」が始まった。スクリーンにきらきらと星が降る。小さな勇気、前に進め。ストレートな歌詞が胸を打ち、ストリングスの豊かな響きが心躍らせる。三分割された画面が3人の生き生きとした表情を映し出す。最後の音が消え、ステージに立つメンバーを残してゆっくりと画面が暗くなる。「春が来てぼくら」のインストが流れるエンドロールは、リハーサルの映像だ。この日のために万全の準備をしているメンバー、スタッフの表情がとてもいい。
結局のところ、この日演奏した18曲のうち「本編」16曲は、すべてリクエスト上位30曲から選ばれた。そして、次は「リクエスト31位~70位」のランキングをもとにした配信ライブ「USG 2020“LIVE(in the)HOUSE 2”」を8月22日に行うことも、ライブ終了後に発表された。この日見せてくれた、ユニゾンらしい配信ライブの新しい使い方をさらに突き詰めれば、もっと面白いものができるはずだ。田淵はこのところ、「ワクワクしてないと心が死ぬ」と事あるごとに言う。そうだ、ワクワクを止めちゃいけない。ロックバンドは止まらない。UNISON SQUARE GARDENの挑戦を一緒に楽しめる僕らは幸せだ。
【Photographer:Viola Kam (V’z Twinkle)】
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リリース情報
Patrick Vegee
2020年09月30日
トイズファクトリー
セットリスト
USG 2020“LIVE (in the) HOUSE”
2020.07.15
- 01.mix juiceのいうとおり
- 02.オトノバ中間試験
- 03.桜のあと (all quartets lead to the?)
- 04.きみのもとへ
- 05.君の瞳に恋してない
- 06.オリオンをなぞる
- 07.I wanna believe、夜を行く
- 08.スカースデイル
- 09.静謐甘美秋暮抒情
- 10.mouth to mouse(sent you)
- ドラムソロ
- 11.Phantom Joke
- 12.to the CIDER ROAD
- 13.場違いハミングバード
- 14.シュガーソングとビターステップ
- 15.箱庭ロック・ショー
- 16.フルカラープログラム
- 17.弥生町ロンリープラネット
- 18.春が来てぼくら
お知らせ
USG 2020 “LIVE (in the) HOUSE 2”
08/22(土)
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。