先行きの見えない世界に一筋の光をもたらしたHakubiの生配信ライブ――その一部始終を徹底レポート!
Hakubi | 2020.07.12
放たれる歌のモチーフの多くが不安や不明瞭な現在のコロナ禍の危惧とリンク。そんななかでも自身を保ち進んでいけば、その先には光や希望が待っている。そんなことを強く確信させてくれた一夜であった。
Hakubiが2度目の無観客配信ライブを行った。会場は彼らの始まりの地・KYOTO MUSE。前回の無料配信に対し、今回は有料チケット制。そこには育ててくれたライブハウスへの恩返しも含め収益の一部を地元京都で過去彼らがライブを行ったことがあるライブハウス(MUSE、GATTACA、nano、磔磔、GROWLY、MOJO)へ還元する意図もあった。
前回の配信ライブは3月29日、このメソッドもまだそこまで隆盛ではなかった頃だ。あれから約3ヵ月半、各会場のライブ事情はさらにひっ迫し、疲弊を増した。予想以上の長期自粛や、感染防止のためのライブ中止や延期。片や自粛は抜けど新たに立ち塞がるライブ再開のための新規ガイドラインが、従来の様式に需要的にも収支的にもサバイバルな状況を突きつけてきた。そんななかどう抗い、走り抜け、生き延びていくか……期せずともこの日、Hakubiから発せられた歌の多くは、そこに込められた真意とともに、“現状を生き抜き未来へ生き延びるためには?”と、もう一度自分自身と向き合わせてくれるものがあった。
画面フレーム外から3人の気合入れの声が聴こえる。スモークと白色ライトに浮かぶステージに片桐(Vo/Gt)、ヤスカワアル(Ba)、マツイユウキ(Dr)が現れる。前回に引き続き今回もフロアライブの体だ。内側に向き顔を見合わせるスタイルで、片桐がギターの爪弾きとともに「午前4時、SNS」をゆっくりと歌い出す。そこに溶け込むようにバンドサウンドが加わり、徐々に体温を取り戻していく。<消えたい>と連歌する片桐、その映像は終始表情を映さずソフトフォーカスさせている。どうしようもないけど、それでも容赦なく向かってくる明日に突き進む意志のようにライブが走り出す。「これからライブハウスでライブを始めるぞ! やっとだよ! やっとだよ!!」と宣言する片桐の表情はきっと、「ようやく馳せていた想いが現実になった」――そんな満ち足りた表情をしていたことだろう。
「久しぶりのライブ。KYOTO MUSEから。みんなに届くように」と片桐。ドライブ感溢れるヤスカワのベースと引き連れていくかのようなマツイのドラムが特徴的な「賽は投げられた」に入ると、疾走感溢れるその全体像とともにライブの始動をことさら実感した。<やるしかないだろ/賽は投げられた>のフレーズに込められた気概はまさにそうだ。
「YouTubeでもTikTokでもないライブをするから!」(片桐)と「辿る」がさらにライブを転がしていく。「久しぶりにこの爆音を3人で鳴らすとライブをしている、生きていると実感する。やっぱり自分が自分でいられる場所はここだと改めて気づいた」と片桐が明かすなか、これまでの悶々とした時間をまとめてバスターしてくれるかのような同曲が視聴者も引き連れて走っていく。
場面はあの日、あの頃の学生時代の自身との対峙へと移る。「Dark.」では鋭利な片桐の歌声にヤスカワとマツイの優しく包むコーラスでのオブラートも印象的であった。自身の嫌な面なんてわかっちゃいるが、それでも歩んでいく――そんな強い決意がラストの雄々しいコーラスからも受け取れた。
「非常に厳しい毎日ですが、この3人で、このライブハウスで音を鳴らすことに意義がある」と片桐。ライブ初披露の「大人になって気づいたこと」(「Follow Your Heart & Music Presented by RECRUIT」参加曲)ではストリングスの同期も加わる。“わかっているんだよ。でも変われないんだよ。大人になれないんだよ。正しい選択ってなんだよ。自分はこれで正しいと信じてんだよ。このスタイルで結局私は変わらず生きていく”といった気持ちとともに同曲が雄大に広がり、照明とともに感動的な場面をあぶり出していく。
ここから画面は楽屋へと移動。用意されたキャンドルのみの照明の中、アコースティックスタイルで2曲贈られた。カホン、アコギ、エレべを用い椅子から送る3人。まずは片桐のソロ名義で発表されたばかりの「きみはうつくし」が、原曲のアコギ+DAWスタイルから、この日ならではの編成で贈られる。“君は君、そのままを保ち進んでいけ。そのままが美しい。それこそがかけがえのないものだ。けして消えてなくなるな”と歌われる同曲が励みや安堵感で包んでくれた。また今回は「sommeil」もアコースティックタッチにてプレゼント。傷つけないように、傷つかないように、僕らは必死に生きてきた――そのご褒美のような楽曲が、伝え方による温かさや人間っぽさも手伝い、「もう大丈夫」と響き伝わってくる。
再度フロアライブの体に戻る。後半戦は最新曲「ハジマリ」で再びライブが走り出した。ヤスカワがハイポジションを活かした運指たっぷりの躍動感溢れるベースラインを、対してマツイのドラムが8ビートと16ビートを交え、メリハリやコントラスト、ドラマ性を紡いでいく。同曲で歌われる、“すがりついても前を向いていく。今いかなくていつ行くんだ!”といった気概が、今後の時世に向けて強いシンクロを感じた。“まだまだこれからだ!”と言わんばかりに続く「夢の続き」では、闇雲でこの先の見えなさを歌っていた当初とは違い、自身の道程が信憑性や信頼度を照らし、今ならではの歌として響いてきた。
「この自粛生活、こんな息をして生きているだけの生活も楽でいいんじゃないか……と途中で思いかけた。でもそれじゃなんか生きている気がしなくて。やっぱり自分たちには音楽が必要。音楽のおかげで改めてここに立つ意味を教えてもらいました。これからどんな時代になるかわからないけど、これからもライブハウスでライブをやっていきます」と多くの人の留飲を下げてくれる宣誓が片桐から告げられる。それを経て、自身を映し出す鏡を叩き割るべく高らかに誇らしげに鳴らされた「mirror」では、曲中で「ここが自分たちの生きる居場所だ。生きる理由だ。私たちはそれに出会い、ここまで強くなれた。そう思えるような明日を、今日を生きていたい。今弱いと思っている人たち、私たちを見ろ! 負けんなよ!!」と片桐が激しくアジテート。その信憑性溢れる言葉たちの中、明日が来るのが怖くて震えていた自分が、いつの間にか楽しみに夜明けを待っている光景へとオーバーラップさせた。
本編最後は「いつか必ずすべてが元通りに戻ってきますように」という願いを込めて、明滅する満天の星のカーテンをバックにミラーボールも回る中、「17」を奏でる。17歳の視点から未来を想い、見据え、睨んだ。まだ出会えぬ同志に向けての共鳴発信のようにも響く同曲がゆっくりと広がっていく。最後に「でもまだ羽ばたき続けなくてはいけないし、羽ばたき続ける。これからもずっと私たちは負けない」と片桐。そこでは信じ歩いた末、そんな同志と呼べる者や歌にようやく出会えた気持ちにさせてくれた。
アンコールの待機中、「速報」と題し、来たる9月9日に3曲入りEP「結 ep」リリースのニュースが。これには多くの視聴者がリアクション。それを受け、「裏切らない作品だから」とヤスカワが力強く誓う。
過去、アンコールをほぼ行ったことがない彼ら。今回は特別に、視聴者からのリクエストを受け「光芒」が鳴らされる。「何よりも大事なのは忘れないこと。何もかもどんどん流れてしまい、いつの間にか薄れていく。そんななかでもずっと忘れないことや戦い続けることが大切」と告げ、まばゆく神々しいライトの下、ギターとともに片桐が歌い始める。Bメロからバンドサウンドが加わるととてつもない生命力が帯びてくる。手探りで進んでいくなか、一縷の光を見つけ、信じ、掴み取って包まれていくような歌や演出が、“そのままでいいから生きていけ”と言わんばかりに鼓舞してくれた。
この日のアーカイブ配信は一切なし。そこには一度限りの生(なま)へのこだわりを感じた。
彼らの歌は見えない未来のなかで、“こんな自分でもやっていけるのか?”といった迷いや葛藤から抜け出していく意志や想い、鼓舞や自愛を感じる歌が多い。状況や立場、年齢や対象は異なれど、その「想い」の根本は今の事態や状況、それに伴う我々の心理とも非常に近い。自分を信じ、この闇雲を突き進めば新しい活路を見出せるかもしれない。今やHakubiの歌はそんなことを強く信じさせてくれるものばかりだ。今後も彼らの歌ってくれた言葉を信じ、ともに進んでいこう。見える光芒が照らす先に、きっと約束の地が待っているはずだから。
【取材・文:池田スカオ和宏】
リリース情報
結 ep
2020年09月09日
NEW KIDS ON THE RECORDS
02.Friday
03.ハジマリ
セットリスト
Hakubi Live Stream 2020
-Noise from here-
2020.07.05@KYOTO MUSE
- 01.午前4時、SNS
- 02.賽は投げられた
- 03.辿る
- 04.Dark.
- 05.大人になって気づいたこと
- 06.きみはうつくし Acoustic ver.
- 07.sommeil Acoustic ver.
- 08.ハジマリ
- 09.夢の続き
- 10.mirror
- 11.17
- EN1.光芒
お知らせ
Hakubi Live stream 2020
-Noise From Here- #2
09/12(土)東京 渋谷TSUTAYA O-EAST
チケット購入URL → http://eplus.jp/hnfh2/
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。