過去、現在、未来――その目に映るものとは。EP「追憶」徹底解剖インタビュー。

Hakubi | 2019.11.14

 過去に向けて、未来に向けて、現在に向けて……まるでタイムカプセルに埋めた手紙みたいな楽曲たちだなと、Hakubiの新作EP「追憶」を聴いて思った。この「追憶」は彼らがこれまでライブでやってきた音源化されていない人気楽曲「午前4時、SNS」を始め、ボーカル・片桐が17歳の頃、原点とも言える弾き語り時代に作った「17」のバンドアレンジ楽曲、ライブでの盛り上がりと一体感を生み出すこと必至な「Dark.(ダルク)」なる新曲も加わった3曲入り。タイプこそ違えど、これまでHakubiが伝え、訴え、理解してほしかった、自らの存在感がアプローチ様々にきちんと歌われている。自身やリスナーが思い描くHakubi像を裏切ることなく最大限に発しつつ、アプローチ的には(斬新さも含め)意外性やいい意味での裏切りもうれしい作品だ。また、どれもライブ映えする楽曲であることもポイント。その3曲を経てHakubiはあなたの心をさらにギュっと掴み、粉塵爆発させてくれる。

Hakubi - 午前4時、SNS【MV】
EMTG:最近のHakubiのライブは、今まで以上に生き急いでいる印象を受けました。
ヤスカワアル(Ba):少し前はそうだったかもしれません。でも今は冬のツアーに向けてのモードにすでに入っているんで。
EMTG:11月8日から始まる「真・粉塵爆発ツアー」? ちょっと気が早いですね。
ヤスカワ:そのツアーを意識して、今回のEPの曲を交じえたセットリストで臨んでます。今回は3曲入りで、うち1曲はすでにライブでやってきた曲ですけど、2曲目の「Dark.」はまったくの新曲なので、より早く自分たちのものにしたい思いもあったりして。
片桐(Vo/Gt):私は、ライブに関しては「あっ、これでいいんだ」的な自分たちの正解が見え始めてきました。いわゆる「自分らしさ」「Hakubiらしさ」が定まってきた感があって。これまではそこが自分たちでもなかなか明確ではなかったんです。会場やお客さん、対バンの雰囲気に合わせてその日のセットリストを組んでいたり、ライブをやっていたので。対して最近は「自分はこの道を進んでいいんだな……」というのが明確になったというか。で、それが実践できている自覚もあるんです。
ヤスカワ:その大きなポイントとして、最近のライブでは、多くのお客さんが自分たちの代表曲として知ってくれている「夢の続き」をやらなくなってきてますから。
EMTG:かなりの英断ですね。代表曲をあえて外すとは。
ヤスカワ:たしかにあの曲は、自分たちの中ではわりと知られている曲ではあります。ファンも多いし、代表曲の筆頭として挙げられますけど、今の自分たちはそこに留まるわけにはいかなくて。逆に今の自分たちが表したい世界観にそぐわない場合も出てきだしたんです。そんな時はあえて入れようとせずに外してます。あとは、それを上回る代表曲と自負している楽曲たちが、今回のEPも含め、最近の作品にも出てきたんで。「夢の続き」を外してもしっかり自分たちの世界観や音楽性は伝えられる――そんな自信からですね。
マツイユウキ(Dr):今は大丈夫ですけど、やらない日ができ始めた時は正直不安でした。サーキットイベントを始め、自分たちを初めて観る方がまだまだ多いなかで、「いちばん多くの人が知ってはる曲を抜いてもお客さんは観てくれるのかな?」って。でも実際は、それでもついてきて下さって。なので、最近は特にサーキットイベントとかで、セットリスト的に本編に入れられない時には、あえてリハーサルでやることにしてます。それによって初見の方も「夢の続き」=Hakubiが明確になって、「ちょっと観てみようか?」って気持ちになってくれたりするんで、むしろ撒き餌(まきえ)として使わせてもらってます(笑)。リハで聴かせて、「この曲知ってる!」っていう流れでライブを観てもらって、ほかの曲たちでもしっかり落とすと。
ヤスカワ:最近のセオリーっすね。「攻めながらもきっちり落とす」って。
Hakubi - 夢の続き【MV】
片桐:最近のライブでは、「夢の続き」をセットリストから外しても大丈夫だなっていう自信がより出てきました。ほかの曲を好きになってくれる方も多くいることがわかったんです。それは逆に自信になったし、さっきの「これでいいんだ」感を後押ししてくれるものになりました。
EMTG:わかります。特にその辺り、今回のEPから感じました。いわゆるHakubiってこうなんだというのが全体的に明確になっていて。それを最新の形で表している印象を受けました。
ヤスカワ:だけど、自分たちのコアな部分は変わらず、しっかりと貫かれているのも特徴です。曲のタイプも3曲まったく違うんで、また幅が出せたし。それぞれレンジの広さも違うんで、これまで以上に自分たちが広がっていけたらうれしいですね。
片桐:いやー、でも今回は大変でした。先に「今年は2枚EPを出す」って春の時点で決めてたんです。だけどなかなか曲が出来なくて。私、半年に1曲のペースぐらいでしか曲が出来上がらないんです。
EMTG:半年に1曲!? それはあまりにも遅筆すぎますね。片桐さんの場合、弾き語りでも活動していたので、てっきり言いたいことや伝えたいことがポンポン浮かんできて、楽曲もすらすら出来る印象が逆にありました。
片桐:まったくそんなことないです……。その時その時を曲にしてきたので、逆に歌詞のストックができないタイプなんです。たとえ書き溜めていたものからいざ歌詞に起こそうと思って挑んでも、「これは今のモードじゃないや」とか、「今は歌えないや」って。結局、その時その時にいちから作る感じなんです。なので、今回も新曲は「Dark.」のみで。あとはライブでやってきた「午前4時、SNS」と、私が弾き語りで歌っていた「17」だったりするんです。
EMTG:でも、ややもするとそこに矛盾を感じます。過去の自分の歌をあえて今歌うことこそ、今の皆さんのモードではないんじゃないですか?
片桐:それはすごく感じました。でも逆に、それ以上に自分を形成していたものって実は変わってなかったんだなと改めて気づかされて。基本的に、その時の気持ちは今でもほぼ変わってないなって。それがあって、今回のEPのタイトルを「追憶」にしたところもありました。なかでも「17」は私が弾き語り時代、いちばん最初に作った曲なんです。それこそ17歳の時に。この曲を聴いて、マツイが「一緒にバンドやろうや!」って声をかけてくれた思い入れのある曲で。
マツイ:大学のサークルのライブでこの曲を片桐がひとりでやってて、それを見て感動したんです。元々身内ノリの強かったイベントだったんですが、片桐がこの曲をやってる時はみんなが真剣に聴き入ってて。その場が片桐の「17」の世界観に完全に支配されてたんです。それぐらい説得力のある歌で。
片桐:対して「Dark.」は、昔のことを思い返して「だったら今はどうなんだ?」って考えてみた曲で。それに対して「午前4時、SNS」は現在みたいな感じの時間軸をそれぞれ持っているんです。
ヤスカワ:自分から見て、「17」は非常に片桐っぽい曲、「午前4時、SNS」はHakubiっぽい印象で。逆に「17」はいい曲だし、弾き語りだけである種完成されていた曲でもあったんで、バンドでアレンジするときにむちゃくちゃ悩みました。
EMTG:個人的には「17」のこのバージョンが誕生したことによって、なんとなくこれでライブのラストを飾れる曲が登場した感があったんです。でも、この曲にある転調部分。これがバンドアレンジならではだなって。
片桐:たしかに、弾き語りのときはこの転調はありませんでした。
ヤスカワ:その転調はすごくやりたかったところで。
EMTG:「午前4時、SNS」は1コーラスしかないのに、きっちり4分間聴かせるところがすごいです。
片桐:意識したことなかったけど、ほんまや。でも振り返ると、私たちの曲って1コーラスしかない曲が多いんです。1コーラスだけで詰め込んで終わっちゃう、「以上!」みたいな。
ヤスカワ:前作の「光芒」も「サーチライト」もそうだし。「黎明」も3曲中2曲が1コーラスしかない。
EMTG:言い換えると、昨今のサビに頼る音楽性ではないって証拠でもあって。
マツイ:この曲はむちゃくちゃ前からある曲だし、ライブでもやってきた曲でもあるんで、ある意味待っていた方も多いかもなって。バンドを始めた年の冬、それこそ2年前からあった曲で。歌詞もアレンジもそのまんま。今回レコ―ディンクで細かいアレンジは加えましたけど。たぶん途中からの部分でみなさんも一緒にグワッとギアが入るんじゃないかな。
EMTG:あそこから暴発するようにギアが急に入ってアガります。
片桐:ライブじゃないと言えないことばかり歌ってますから(笑)。最近特に、SNSで暗かったりネガティブなことを書いたら、「そんなこと書いたらあかん」って風潮があるじゃないですか。実際、心情を正直にSNSで吐き出したときも、お客さんから「色々な人が見ているんだから、そこも意識してつぶやいて下さい」って指摘されたり。「ああ、たしかにおっしゃるとおりですよね……」って。この曲はちょうど私が20歳になった時に作った曲なんです。友達が楽しくSNSを活用しているなかで、「私はこれを使って何をしているんやろ?」って、その友達が羨ましくも妬ましくも思えて。この気持ちは今になっても変わらない。今もライブではリアルタイムな気持ちで歌えています。
EMTG:対して「Dark.」はドライブ感や疾走感もあってかなりライブ映えしそうです。
片桐:この曲は「かっこいい曲を作ろう!」と思って作りました。
マツイ:自分たちの曲って、これまで一体感を育める曲ってあまりなかったんです。で、そんなタイプの曲があれば、ライブでもまたバリエーションが増えるだろうなって。
EMTG:ライブでみなさんがプレイしている光景が浮かんできます。
ヤスカワ:プレイしてるときのフロアの光景を思い浮かべながら作りましたからね。これはHakubi史上、最も速い曲でもあって。一体感を生めないとチグハグになったり、気持ちだけ空回りしちゃいそうな曲なので、見せ方はこだわっていきたいですね。
EMTG:この「Dark.」は、後半に現れるシンガロングも印象的でした。
マツイ:自分たちやスタッフ、レコーディングエンジニアさんにも協力してもらって、みんなで入れました。
片桐:この曲は自分の過去への問いかけながら、とても共感を持ってもらえるような気がしていて。同じ気持ちや思いを持っている人たちと一緒に歌っている、そんなイメージでした。不思議でしたよ。当初は孤独な曲を書いていたつもりだったのに、途中からなぜか気持ちが優しくなっていったんです。
EMTG:今作を引っ提げて、また全国を回りますね。タイトルも「真・粉塵爆発ツアー」と、新たに「真」をつけて。
ヤスカワ:これまでのレコ発ツアーに比べれば本数は少ないんですけど、その分濃密なものにしたいです。スケジュール的に余裕を持っているんで、その濃縮させた分を各地で爆発させていきます。
マツイ:今回は全ヵ所、自分たちが呼びたい、一緒にやりたいバンドさんたちとできるんで、それも楽しみです。スタッフも交えてみんなで日本地図を広げて、会議で決めたんですよ。各地のライブハウスで、「このハコでこのバンドに出てもらいたい」とか、今回の共演者とやってる場面を思い浮かべながら決めていきました。はたしてどうなるか? お客さんもですが、自分たちも楽しみなツアーになりそうです。
片桐:各地の皆さんの連鎖爆発も楽しみです。発売早々に完売しているところもすでにあるので、自分たちもより期待されている感があって。それに応えつつ、それ以上に各地で爆発していくので、楽しみにしていてほしいです。

【取材・文:池田スカオ和宏】

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リリース情報

追憶

追憶

2019年11月06日

NEW KIDS ON THE RECORDS

1.午前4時、SNS
2.Dark.
3.17

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

「真・粉塵爆発ツアー2019」
11/8(金)岡山 CRAZY MAMA 2nd room
 w/ Brown Basket / CULTURES!!! / POETASTER
11/15(金)福岡 Queblick
 w/ 橙々 / LUCCI
11/23(土)大阪 心斎橋BRONZE
 w/ the cibo / climbgrow
11/29(金)宮城 仙台enn 2nd
 w/ moon drop / ココペリドット
12/1(日)愛知 名古屋R.A.D
 w/ TETORA / ゆるふわリムーブ
12/14(土)東京 渋谷TSUTAYA O-Crest
 w/ 神はサイコロを振らない / Maki

インストアイベント
11/13(水)タワーレコード梅田NU茶屋町イベントスペース
11/17(日)タワーレコード新宿店7Fイベントスペース


RAD BEANS設立記念&栄R.A.D10th Anniversary まこっつNiGHT-SPECIAL- DAY1
11/11(月)愛知 名古屋CLUB QUATTRO
w/ Atomic Skipper / LEODRAT / moon drop / SAME / THE NIGHT HILLS

w.o.d. presents“スペース・インベーダーズIV”
11/27(水)京都 GROWLY
w/ w.o.d.

「rockin’on presents JAPAN’SNEXT 渋谷JACK 2019 WINTER」
12/8(日)東京 渋谷ライブハウス8会場

the 30th LUCKYラッキーマンデー
12/16(月)千葉 LOOK
w/ QLTONE / DURAN

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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