yamaが孤独な夜に寄り添う――歌声で魅了した配信ライブ『Versus the night』
yama | 2020.10.20
yamaが10月2日、ソロシンガーとして初の配信ライブ『Versus the night』を開催した。コロナ禍以降増えた「孤独に夜を迎える人々」に向けたメッセージを込めて、ピアノとボーカルのみのシンプルなアコースティック編成で視聴者に寄り添ったライブは、yamaの世界が具現化された見事なものだった。
年齢も性別も、その正体は謎に包まれており、この日もパーカーを深く被り、その素顔は明かさない。yamaと言えばネット発のメディアに顔出ししないアーティストであり、同様にSNSからお茶の間にも知れ渡り「香水」が大ブレイク中の瑛人とのコラボレーションが先日発表されるなど、サブスクリプション型音楽ストリーミングサービスを賑わす存在として、飛ぶ鳥を落とす勢いで注目されているシンガーだ。
ここ数年、大型タイアップもなくヒットを飛ばし、根強いファンを掴むアーティストは少なくはない。令和時代の売れ方として朝の情報番組でも紹介される機会も増えてきたが、yamaも例外ではなく、4月に配信リリースされた「春を告げる」が初のオリジナル楽曲にして、その才能を世に届けた作品となった。同ライブも一目置かれ、待ち望んだファンにとっても一夜限りのアレンジも楽しめる贅沢なひと時であった。
ライブタイトルの『Versus the night』の赤い文字が浮かんだ真っ暗な画面、定刻の21時を迎えると、映像はモノクロへと切り替わり、いよいよライブがはじまった。どこか冷たい空気のビルの外だろうか――。遠くには、サイレンの響く音が聞こえていた。yamaが登場すると、そのビルの冷たく重いドアを開け、地下の部屋へと降りていく。マイクを手にとり、静かに部屋を進む様子が映されると「クリーム」のやわらかなキーボードの音色に乗せて、静かに歌い出した。名前のつけようがない感情も、yamaの手にかかれば、心の底まで撃ち抜いてくれるから素晴らしい。その声に身を委ねる。淡くも芯の強い声が響き渡り、心象風景へと誘う。気がつけば、映像はモノクロから色彩を増し、視聴者を恐ろしいほど虜にした。伴奏をささえるメンバーは、井上仁(ALI)。早くもギアはあがり、その歌唱に酔いしれ余韻に浸っていると、次に演奏されたのは、こめだわら(猫アレルギー)のカバー「優しい人」。鍵盤の強弱といった繊細な変化に呼応して、yamaの持ち味でもあるブラック・ミュージックのリズムや裏声を使った歌唱で魅了する。<もう何もかも消えてしまえば きっと楽になれるのに>と溢れた歌も、沈みゆくサウンドも、何もかもが思うようにいかない夜にずっと隣にある音楽が、yamaの声であって欲しいと感じさせるほど、その声は楽曲に映える。
ブルーのライトから3rdデジタルシングル「Down town」がはじまると一転、赤みのあるパープルのライトに照らされる室内。シニカルな雰囲気にも感情を揺さぶるような歌もさらにヒートアップ、全身に刻まれるかのようにその声はどこまでも刺さる。続いて、恋愛リアリティショー『恋愛ドラマな恋がしたい~Kiss On The Bed~』(ABEMA)の主題歌に起用された10月21日にリリースとなるyamaのメジャー移籍シングルともなる新曲「真っ白」が演奏されると、鍵盤の音色がどこか懐かしい記憶を呼び覚ました。ピアノの伴奏に対峙し座りながら歌うyamaが放つ存在感、空気感は独特で、どこか心地良い緊張感が張り詰めているようだ。部屋に置かれたブラウン管テレビにはノイズのような映像とともに歌詞が流れ、その横に置かれた大きな樹木は、シェードランプと白熱灯の温かいオレンジのライトに照らされ地下室へ夕陽が差し込んでいるかのよう。まるで世界が変わったかのように、ロマンティックに動き出す四季折々の思い出は、憂いを帯びて画面いっぱいに歌と共に広がっていく。祈りにも近い声が切なく響いた。そこから「a.m.3:21」を歌い出した瞬間、視聴者のコメントも一気に沸いた。歌い出しのインパクトもさながら、秋の真夜中に眠りにつくこともできずぶり返す感情が破裂しそうな、そんな歌声だ。夜の静けさは、感情と折り合いをつける特別な時間なのかもしれない。「ねむるまち」で<疲れたよ>、<じゃあ、またね>と楽曲が進むにつれ、夜がぐんぐん濃厚に深まるようだ。息を飲む間もなく引き込まれてゆくのが分かる。TikTokでも多くカバーされた話題曲「bin」で、再びこめだわら(猫アレルギー)の楽曲を披露する。yamaは2019年から猫アレルギーとユニット・BINを結成している。オリジナルもいくつか発表しているが、イラストレーター・トマトも加わり3人で活動中のユニットとして、今後も目が離せない。こういった多くのクリエイターとのタッグも、yamaの魅力を開花させた要因でもあるようだが、BINの世界観もyamaにはぴったりだ。「クリーム」や「春を告げる」など新世代ボカロP・くじらの楽曲も目を引くが、今後クリエイターとの息のあったコラボレーションにより、どのような進化を見せるのか、期待も高まる。
クライマックスに突入すると、未発表曲の新曲「ブルーマンデー」でさらに煽る。歌唱の高い技術によって圧倒させるパフォーマンスは、その実力をはっきりと証明するもの。チャートでもロングヒットを飛ばす理由のひとつは、紛れもなくyamaの歌にある。9月7日にリリースされた最新シングル「あるいは映画のような」、そして最後に代表曲「春を告げる」でMCを一切入れずにグランドフィナーレを迎えると、配信ライブには多くの歓喜の声が寄せられた。ラストのサビで立ち上がり、部屋の外へ。頼もしく、誇らしい歌声は、これからどのように響き渡るのか。非常に楽しみな予感を残し、その才能の行先を追い続けたいと感じさせた。最低な夜をも超える胸を焦がす熱いステージは、憂いを打ち消すかのように音楽で明日を照らした。
【取材・文:後藤千尋】
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リリース情報
Digital Single『真っ白』
2020年10月21日
MASTERSIX FOUNDATION
セットリスト
yama 1st 配信LIVE『Versus the night』
2020.10.02
- 01.クリーム
- 02.優しい人
- 03.Down town
- 04.真っ白(新曲)
- 05.a.m.3:21
- 06.ねむるまち
- 07.bin
- 08.ブルーマンデー(新曲)
- 09.あるいは映画のような
- 10.春を告げる