盟友同士の真剣2マン――肯定する芯の強さ、心の通った音楽を届けた「HUMANisM~超★盟友編~」を独占レポート!
ircle | 2021.02.10
1月24日に渋谷TSUTAYA O-EASTにて、ircle主催イベント「HUMANisM~超★盟友編~」が行われた。毎年1月に開催しているこのイベントは、本来であれば、ircleと縁の深い多くのバンドが終結したお祭りイベントとなるのだが、今年は世情を踏まえて2マンライブとして敢行された。そして、その相手に選ばれたのは、ircleと10年以上の付き合いがあるSUPER BEAVER。彼らは、2017年に行われた「ircle 2man tour『HUMANisM 決闘編 2017』」でも2マンを行っていたのだが、当時のライブを観ていた側としても、今回ircleが「盟友」と掲げたイベントでSUPER BEAVERが呼ばれたということに対して、“納得”以外の感情は生まれなかった。3年前のライブを観ていた第三者がそう確信できるほどに、彼らの絆は当時から強くて固いものだったし、3年の時を経て再び企画された今回のライブもまさしく、「対バンライブはこうあってほしい」という「対バンの理想」そのものだった。
先攻としてイベントの火蓋を切ったのは、SUPER BEAVER。「ライブハウスでライブをする/ライブを観る」ということが特別になった今、彼らは一体どういうライブをするのだろうか?――そんなことを考えながら始まりを待っていたが、いざ「ハイライト」が歌い鳴らされると、そういった理論的思考回路は停止して「ライブを楽しむ」モードに一瞬でシフトチェンジし、全身を高揚感が支配した。それはオーディエンスもきっと同じで、渋谷龍太(Vo)による「これが16年目の新人、俺たちの戦い方です」の言葉をきっかけに勢いよく鳴らされた「正攻法」では、可動域の限られた場所で各々のエネルギーがガンガン高まっているのがわかった。身体的なモーションは制限されても、心の躍動を抑えつける必要はないんだということを、彼らは「おい、渋谷! ライブハウスだぞ?」という柳沢亮太(Gt)の煽りや、上杉研太(Ba)と藤原“32才”広明(Dr)が繰り出す一本気でエネルギッシュなサウンドで示した。
そして渋谷は、人生の半分以上の付き合いであるというircleとの関係について「“盟友”や“仲間”っていう言葉は、簡単に使っちゃいけないんですよ。ある一点を越えなければとても白々しい言葉になってしまうので、絶対使わないようにしているんですけど、ircleは盟友だと心の底から思っています」と言葉にし、その上で「だから今日呼んでもらったのは、馴れ合いでもなんでもないとちゃんとわかっているつもりでございます。じゃあ、どうするか? 本気の本気でかかっていくんでよろしくお願いします」と気合の入りっぷりを堂々と宣言し、「証明」をプレイした。この「証明」の演奏中に限ったことではないが、ライブ中に渋谷は、ステージの前方だけでなく左右を行き来し、2階席にいるオーディエンスも含めて、しっかりと一人ひとりの目を見るように歌っていた。
続いて演奏された「閃光」や「突破口」のようなスピード感のある楽曲でも、「ひとりで生きていたならば」のようなバラードでも相違なく、音、言葉、その一つひとつが心にズシンと響いてくる。それは、彼らが“自分というひとりの人間”かつ“SUPER BEAVERというバンド”としての責任と自覚を持った言葉を発し、それらを放ちっぱなしにするのではなく、きちんと目の前の一人ひとりに届けるイメージが当然のようにあるからだろう。さらにそれは、オーディエンスと向き合って行われるライブが当たり前ではなくなった今だから生まれたアクションなのではなく、SUPER BEAVERが今まで絶えずやってきたことだ。「こういう状態がいつまで続くかわからないけど、『大丈夫だよ』なんて無責任なことを言うつもりはまったくないんで。お互い一生懸命自分の足で歩んで、戦っていこうね。その点でめちゃくちゃ信頼しています」とステージの上も下も関係のない対等な立場で認め合い、「誰も独りではない」ということを本気で伝えてきたバンドだからこそ紡げたオーディエンスとの信頼関係が、ライブのどの瞬間にも表れていた。
そして、「予感」と「青い春」を経て、2マンライブの醍醐味について語りつつ、「ircleは、この先も共に歩んでいきたい仲間だと思ってます。でも、お互いかっこ悪くなったら対バンに呼ぶのはやめましょう。お互いがお互いに、前を走る背中とか、頑張って走っている姿とかを見せ合える関係性でありたいし、それが仲間だと思っています。馴れ合いはこの先も一切なしでいきたいです」と伝え、最後に対バンライブで初めて演奏するという新曲「アイラヴユー」を届けた。「この曲をぶつけるのがircleで良かった」という言葉に、SUPER BEAVERがircleに対して抱く深い愛情を感じたと同時に、ここまで本気でぶつかり合えるほどの信頼を置ける相手がいることへの羨ましさも感じた。
“こいつらとだから高め合っていける”という確信と希望があるから、対バンは面白い。そんな挑戦状のようでもあり、濃密なラブレターのようでもあったSUPER BEAVERのライブを経て、ircleはどんなライブをするのか? このときの会場から伝わってくる高揚感は絶頂に達していた。
満を持して、後攻として堂々とステージに現れたircle。河内健悟(Vo/Gt)の「2021年、1月24日。久々な感覚や。ちゃんと気持ちが滾ってステージに来れたのがわかるわ」という言葉をきっかけに、その喜びが溢れんばかりの「あふれだす」を届けた。<あなたを愛せたこの世界は/まだ腐っていない>というフレーズが、これほどまでに胸を打つ瞬間が今まであっただろうか? 心からそう思えるほどに、彼らの声にも音にも熱量にも、歓喜と希望と気合が漲っていて、観ていて喉の奥が熱くなった。コロナ禍に入ってから、目の前にオーディエンスがいない状態での配信ライブを何度も行ってきたircleを知っているからこそ、満員のオーディエンスがいるこの光景を前にステージに上がれたことへの彼らのうれしさを悟れたが、本人たちがリアルタイムで感じているその想いは、こちらの想像を遥かに超えるものだろう。そうした高揚感に対しての照れ隠しなんて一切なく、生の現場でその気持ちを受け取れることが何よりもうれしかった。そして、「フロム1987! 正真正銘、唯一無二! ジャパニーズロックの救世主、ircleです! あの衝動を忘れたらいかんやろ!」と、渾身の「呼吸を忘れて」をぶちかまし、途切れることなく「ホワイトタイガーオベーション」を鳴らした。
この日は、2度目の緊急事態宣言が発出された中でのライブということで、開催を決行する側としても本当に多くの葛藤と苦悩があっただろう。それでも「開催したことを謝りたくないし、絶対に悪いことはしてないし、俺らも勇気を振り絞ったんです。これが不要不急の外出ではないと信じているし、俺らもそのつもりでステージに来た」と正直かつ真っ直ぐ言葉にした河内に対し、フロアからは賛同の拍手が湧き起こった。SUPER BEAVERのライブ中に、渋谷も「何かを自分で選んで考えて行動するということは素敵なことだと思ってる」と言っていたが、自分が決めてやっていること、そして、目の前にいる人を信じ、肯定するという芯の強さがあることは、SUPER BEAVERとircleの大きな共通点だと思う。心無いものも含めた様々な意見が行き交う生活の中で、こういう強さを持ったバンドの音楽を知っているということがどれだけ自分の励みになるかということは、今の時代だからこそより感じられたことなのかもしれない。
そして、今回の2マンについて河内が「ircleの20周年となる2021年1発目の『HUMANisM』をやると決めた中で、今、一緒にとことん対バンしたい奴とやると決めたときに、満場一致でSUPER BEAVERになりました。どんなふうになろうとも変わらない奴らだし、SUPER BEAVERとircleの音楽を好きな人は絶対に心があったかい人たちだと思ってる」と告げ、「ラストシーン」と「ルテシーア」、さらに伊井宏介(Ba/Cho)のベースフレーズが太く響く「桃源郷」をプレイした。伊井の堂々としたベースのリズムと、ショウダケイト(Dr)のドラミングが、オーディエンスの足元を揺らして高揚を煽り、ライブに迫力と熱を与えていく。ircleのライブを観る度に「生きている」と実感させられるのは、言葉の力のみならず、そういったバンドの基盤の強さにもある。
そんな「ircleらしさ」を全身で感じていると、河内は「SUPER BEAVERもircleも、『勝手に聴いてくださいね』っていう身勝手なロックではないんよな。自分たちの音楽を、なんとか温かいまま受け取ってもらえるように4人で話し合いをして。そうやって音楽を伝えたいのよ。勝手に拾ってほしいんじゃなくて、受け取ってほしいのよ。俺たちの共通点って、そこなんだと思う」と、自身の考えを伝えた。「聴いてくれる人のことを考える」という音楽制作のスタンスは、考え方によっては「本当に自分がやりたいこととの乖離があるのではないか?」と思われるのかもしれない。けれど、彼らにとっては、その乖離が起こるだなんて考えすら生まれないほどに、「誰か」の存在が自然で、当たり前になっているのだろう。だからこそ、ircleの曲を聴くと「私は生きている/生きていたい」と思わずにはいられないのだと思う。ircleの音楽にもSUPER BEAVERの音楽にも、「人」への絶対的な肯定と優しさが根本的に宿っているからこそ、それを求めてこの場所にあれだけ多くの人が集ったのだと思う。そして、「灰色の期間が長くなってきたけど、いろんな色や自由を見るために羽ばたいていけるように」という願いを込めて、最新アルバム『こころの℃』から、仲道良(Gt/Cho)の繊細で巧みなギターリフが切なくも美しく牽引する「ハミングバード」を届け、さらに名バラード「あいのこども」を続けてプレイし、会場の空気が優しく穏やかなものに変わっていった。
そして、SUPER BEAVERとの想い出を振り返りつつ、ircleが20周年だということを改めて告げると、会場からは大きな拍手が湧き起こった。さらに、彼らの楽曲に「2000」や「2010」があることも踏まえて、もともとは作る気がなかったものの、この大きな時代の変化の中で「作るしかないやろ」と思い至ったという経緯を語り、「これはただの願いです」と伝えて、新曲「2020」が初披露された。<東京オリンピックどころじゃなくなった2020年の春より>という歌い出しを聴いた途端にぶわっと鳥肌が立ったのがわかったし、「歌う」というフレーズが繰り返されるこの最新曲に、「ircleが大事にしていること/大事にしていきたいこと」という本質的なものが詰まっているように思えてならなかった。そんな新曲披露というサプライズを経て「エヴァーグリーン」、「こういう音楽と出会った人たちを、絶対に腐らせんからな!」と強い約束を結び、ラストに「セブンティーン」を掻き鳴らした彼ら。さらにアンコールでは、「腐らずにいるにはとても体力がいるけど、“体力がいる”っていうことを考えるというのは生きている証拠なので、全部を前向きに変えるつもりです」と、もうこの世にはいない大事な友人へ向けた楽曲「ばいばい」を届けた。
2021年の新曲として、SUPER BEAVERは「愛してる」と歌い、ircleは「歌う」と歌った。愛することと歌い続けること、それらは互いの根幹であるとともに、互いへのエールのようにも聴こえた。音楽を愛し、音楽で繋がり、音楽で信頼を築いてきたバンド同士、これほどまでに美しく、理想的な関係はないだろう。語り合いとしての言葉ではなく、ライブの中で伝わってくるそうした想い合いをこうして体感できたことは、両バンドの音楽を愛する者として誇りに思える――そんな一夜だった。
【取材・文:峯岸利恵】
【撮影:青木カズロー(SUPER BEAVER)、
MASANORI FUJIKAWA(ircle)】
リリース情報
ircle『こころの℃』
2020年06月17日
MURO_RECORDS / JMS
02.エヴァーグリーン
03.ハミングバード
04.メイメツ
05.B.N.S.
06.リンネループサティスファクション
07.ルテシーア
08.2人のビート
09.あいのこども
10.瞬(Album ver.)
リリース情報
SUPER BEAVER『アイラヴユー』
2021年02月03日
ソニー・ミュージックレーベルズ
02.ハイライト
03.突破口
04.mob
05.自慢になりたい
06.パラドックス
07.アイラヴユー
08.予感 -Album mix-
09.時代
10.ひとりで生きていたならば
11.さよなら絶望
セットリスト
ircle presents
「HUMANisM〜超★盟友編〜」
2020.01.24@渋谷TSUTAYA O-EAST
[SUPER BEAVER]
- 01.ハイライト
- 02.正攻法
- 03.証明
- 04.閃光
- 05.突破口
- 06.ひとりで生きていたならば
- 07.予感
- 08.青い春
- 09.アイラヴユー(新曲)
[ircle]
- 01.あふれだす
- 02.呼吸を忘れて
- 03.ホワイトタイガーオベーション
- 04.ラストシーン
- 05.ルテシーア
- 06.桃源郷
- 07.ハミングバード
- 08.あいのこども
- 09.2020(新曲)
- 10.エヴァ―グリーン
- 11.セブンティーン
お知らせ
[SUPER BEAVER]
SUPER BEAVER『アイラヴユー』Release Tour 2021 〜愛とラクダ、15周年ふりかけ〜
02/03(水)東京 Zepp Tokyo
02/10(水)愛知 Zepp Nagoya
02/11(木・祝)愛知 Zepp Nagoya
02/19(金)大阪 Zepp Osaka Bayside
02/20(土)大阪 Zepp Osaka Bayside
02/28(日)福岡 Zepp Fukuoka
03/01(月)福岡 Zepp Fukuoka
03/05(金)北海道 Zepp Sapporo
03/06(土)北海道 Zepp Sapporo
03/11(木)神奈川 KT Zepp Yokohama
03/12(金)東京 Zepp Haneda
SUPER BEAVER 15th Anniversary 都会のラクダSP 〜ラクダの里帰り〜
03/26(金)大阪 LIVE SQUARE 2nd LINE
03/27(土)愛知 名古屋CLUB UPSET
03/30(火)東京 shibuya CYCLONE
SUPER BEAVER 都会のラクダSP 行脚 〜ラクダフロムライブハウス〜
04/07(水)千葉 LOOK
04/08(木)東京 shibuya eggman
SUPER BEAVER『アイラヴユー』Release Tour 2021 〜圧巻のラクダ、愛のマシンガン〜
04/28(水)東京 TACHIKAWA STAGE GARDEN
04/29(木・祝)東京 TACHIKAWA STAGE GARDEN
05/01(土)神奈川 神奈川県民ホール
05/07(金)岡山 岡山市民会館
05/09(日)香川 レクザムホール(香川県県民ホール・大ホール)
05/15(土)長野 長野ホクト文化ホール
05/16(日)石川 本多の森ホール
06/03(木)奈良 なら100年会館
06/04(金)京都 ロームシアター京都
06/22(火)宮城 仙台サンプラザホール
06/24(木)東京 LINE CUBE SHIBUYA
[ircle]
HUMANisM外伝〜アンアンアンプラグド〜
02/24(水)大分 clubSPOT
HUMANisM〜東京オリンピックどころじゃなくなった2020年の春より〜
02/26(金)大阪 心斎橋JANUS
03/17(水)東京 渋谷TSUTAYA O-WEST
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。