スピッツ、横浜の海風にのせて“真っ直ぐな歌”を届けた16年ぶりの野外ワンマン
スピッツ | 2013.09.27
1997年8月に岩手県・小岩井農場で開催された「THE GREAT JAMBOREE ’97 IN KOIWAI "みちのく夕焼け兄弟"」以来、16年ぶりとなる野外ワンマン・ライヴだ。
初期の頃、スピッツは繊細な世界観を持つバンドとして認知されていたので、野外は似合わないと思われていた。確かにリリックをじっくり噛みしめながら聴きたい歌が多いだけに、それは当然のことだったのかもしれない。だが、バンドはキャリアを重ねるごとにたくましさを増し、野外イベントでもその魅力を発揮するようになっていった。
一方、当のスピッツは、野外というより、大規模ライヴをやらない方針をデビュー時から打ち出していた。派手な演出は無し。バンドの持つ温かさが伝わるライヴを身上としてきたのだ。だから2009年、結成22年目にして初めてさいたまスーパーアリーナ公演を行なった際、大きなニュースになった。そうしてアリーナ・ライヴは大成功。そこには、大会場なのに普段とまったく変わらないスピッツがいた。それはとてもスピッツらしいアリーナ・ライヴだった。
赤レンガ倉庫に夕暮れが迫ってくる。海をはさんで会場の反対側にある公園の斜面には、遠くからスピッツのライヴを楽しもうというファンの姿が見える。15,000人を収容して満員の会場に入りきれなかった人たちなのだろう。会場の中は、これだけの人数が詰めかけているのに、とても整然としている。スピッツとともに成長してきたファンたちは、音楽の穏やかな楽しみ方を知っている。
それでも開演時間が来て、ステージ背後の大スクリーンに入場してくるメンバーの姿が映されると、大きな歓声が起こった。カメラが切り替わって、会場の全景が映し出される。港の古い建物が、スピッツによく似合う。
三輪テツヤがギターでコードを鳴らすと、すかさず草野マサムネがシェイカーを振りながら 「恋のうた」を歌い始めた。続いて「涙がキラリ☆」。オープニングは2曲続けてミディアム・ナンバーだ。“ツカミが肝心”の大規模ライヴをゆるく始めるのが、スピッツらしい。とはいえバンドのアンサンブルは最初の1音から素晴らしい。田村明浩のベース、?山龍男のドラム、 欠かせないサポート・キーボードのクジヒロコが、楽器はもちろん、コーラスがサウンドの要になって、澄んだ音楽が海風に乗って広がっていく。
絶好のスタートを切ったスピッツは、高いテンションでライヴを進めていく。「ハチミツ」は大ヒット曲らしからぬ落ち着きがカッコいい。と 思っていたら、草野が歌詞をトバしてしまい、会場は大笑い。これでバンドもオーディエンスも一気にリラックスして、サビからはハンドクラップが起こったのだった。
「だいぶ暗くなってきました。どーなん、スピッツは? こんなロマンティックな横浜に合ってますか?」と、三輪が切り出す。
「久々に『夏が終わる』を演奏しました。20年前の曲です。1993年は夏が寒くて、お米が足りなくなった年。この曲を暑い夏に向けて作ったんですけど、見事にハズれました。だから暑かった今年に、歌えてよかったです(笑)。ニューアルバムが出ました。そのタイトル曲『小さな生き物』を、今日初めて人前で歌いました」と草野。さらにニューアルバムから「さらさら」を歌う。
それにしても、大きなスピーカーから会場に流れてくる、野外とは思えないハイクオリティなPAサウンドは特筆に価する。僕は中盤、会場の最後方に行ってみたが、そこでもオーディエンスは“いい音”でスピッツのライヴを楽しんでいた。大規模ライヴに慎重なバンドの誠実な姿勢を、改めて感じて嬉しくなった。
ちょうど会場のいちばん後ろまで行ったときに、ニューアルバム中の佳曲「ランプ」が始まった。震災を経験した心あるミュージシャンの誰もが、歌うことの意味を問われた。ギターの美しいアルペジオに乗って、《遠くまででも 歩いていくよ 命が 灯ってる限り》という歌詞に差しかかる頃、海風が涼しく吹き始めた。隣接するレンガの建物のガラス窓や、遠くに見える高層ホテルの窓に灯りが灯る。この歌が、この日最高のナンバーとなった。
アンコールでは田村が「オレらの音楽がいちばん後ろにも届いてるんでしょうか? この歓声を、今、アジカンがライヴやってる横浜スタジアムに届かせよう!」と叫ぶ。そう、スピッツをリスペクトする若手ナンバーワンバンドが、同じ横浜でライヴを同時刻にやっているのだ。会場から大きな歓声が上がる。
続いて草野が語る。「このライヴのセットリストを作っている途中に気が付いたんですけど、これまで出してきた14枚のアルバムから曲が選ばれている。次の曲で全部揃います」。5thアルバム『空の飛び方』からの「ベビーフェイス」は、これもコーラスが心地よく響く。
すべての演奏が終わった後、花火が夜空を彩った。それまで静かに聴き入っていたファンから、大きな大きな拍手と歓声が起こる。スピッツのメッセ―ジが、穏やかに、しかし力強くオーディエンスに届いた野外ライヴだった。
打ち上げでメンバーにライヴもニューアルバムも素晴らしかったと伝えると、4人は本当に嬉しそうに笑顔を返してくれたのだった。
【取材・文:平山雄一】
【撮影:上飯坂一】
ビデオコメント
リリース情報
セットリスト
スピッツ 横浜サンセット2013
2013.9.14@横浜・赤レンガパーク野外特設会場
- 恋のうた
- 涙がキラリ☆
- みそか
- ハチミツ
- 僕はきっと旅に出る
- 夏が終わる
- 小さな生き物
- さらさら
- ルキンフォー
- 運命の人
- りありてぃ
- ランプ
- アパート
- 月に帰る
- チェリー
- 渚
- 恋する凡人
- 8823
- メモリーズ・カスタム
- 海を見に行こう
- ヒバリのこころ
- ベビーフェイス
- 夢追い虫
お知らせ
SPITZ JAMBOREE TOUR 2013-2014 “小さな生き物”
2013/11/01(金)千葉県 市川市文化会館
2013/11/05(火)群馬県 ベイシア文化ホール
2013/11/07(木)栃木県 宇都宮市文化会館
2013/11/11(月)宮城県 仙台サンプラザホール
2013/11/12(火)宮城県 仙台サンプラザホール
2013/11/14(木)福島県 いわき芸術文化交流館アリオス 大ホール
2013/11/18(月)新潟県 新潟県民会館
2013/11/23(土・祝)北海道 ニトリ文化ホール
2013/11/24(日)北海道 ニトリ文化ホール
2013/12/02(月)香川県 アルファあなぶきホール(香川県県民ホール)
2013/12/04(水)広島県 広島文化学園HBGホール(広島市文化交流会館)
2013/12/05(木)広島県 広島文化学園HBGホール(広島市文化交流会館)
2013/12/14(土)兵庫県 神戸国際会館こくさいホール
2013/12/16(月)大阪府 フェスティバルホール
2013/12/17(火)大阪府 フェスティバルホール
2013/12/23(月・祝)三重県 三重県文化会館
2013/12/25(水)愛知県 名古屋センチュリーホール
2013/12/26(木)愛知県 名古屋センチュリーホール
2014/01/25(土)静岡県 静岡市民文化会館 大ホール
2014/01/30(木)東京都 NHKホール
2014/01/31(金)東京都 NHKホール
2014/02/03(月)神奈川県 相模女子大学グリーンホール
2014/02/08(土)福岡県 福岡サンパレス
2014/02/09(日)福岡県 福岡サンパレス
2014/02/11(火・祝)長崎県 長崎ブリックホール
2014/02/17(月)埼玉県 大宮ソニックシティホール
2014/02/18(火)埼玉県 大宮ソニックシティホール
2014/02/22(土)和歌山県 和歌山県民文化会館大ホール
2014/02/24(月)大阪府 オリックス劇場(旧大阪厚生年金会館)
2014/02/25(火)大阪府 オリックス劇場(旧大阪厚生年金会館)
2014/03/04(火)山口県 下関市民会館大ホール
2014/03/06(木)岡山県 倉敷市民会館
2014/03/08(土)鳥取県 とりぎん文化会館 梨花ホール
2014/03/13(木)東京都 Zepp Tokyo
2014/03/14(金)東京都 Zepp Tokyo
2014/03/18(火)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)
2014/03/19(水)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)
2014/03/28(金)宮崎県 宮崎市民文化ホール
2014/03/29(土)鹿児島県 鹿児島市民文化ホール第一
2014/03/31(月)福岡県 Zepp Fukuoka
2014/04/05(土)長野県 ホクト文化ホール(長野県県民文化会館)
2014/04/11(金)沖縄県 沖縄コンベンション劇場
2014/04/12(土)沖縄県 ミュージックタウン音市場
2014/04/20(日)北海道 北見市民会館
2014/04/22(火)北海道 苫小牧市民会館大ホール
2014/04/23(水)北海道 Zepp Sapporo
2014/04/28(月)石川県 金沢歌劇座
2014/04/30(水)愛知県 Zepp Nagoya
2014/05/06(火・祝)青森県 リンクステーションホール青森(青森市文化会館)
2014/05/08(木)秋田県 秋田県民会館
2014/05/15(木)滋賀県 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 大ホール
2014/05/17(土)愛媛県 松山市民会館
2014/05/19(月)高知県 高知県立県民文化ホール オレンジホール
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。