初のアルバム『strobo』を完成させたVaundyに訊くポップの本質、クリエイティブ論について

Vaundy | 2020.05.27

 現役大学生の19歳。新世代の表現者、Vaundyによる初のアルバム作品『strobo』が届いた。いま聴きたかった言葉やメロディ、サウンドを「これでしょ?」と提示してくれる絶妙なるポップセンス。まばゆい光がフラッシュのように輝く1枚だ。



 昨年秋、YouTubeへミュージックビデオをアップした「東京フラッシュ」1曲で一気にシーンの最前線に躍り出たVaundy。メロディメーカーであり、耳を捉え一聴してクセになる天性の歌声を聴かせてくれるシンガーだ。さらに、セルフプロデュース力に長けた軸のブレないパーソナリティも魅力的だ。メッセージ性、アートワークや映像へのこだわり、デスクトップ上で完結する音楽制作の在り方。表現の幅は広いが、Vaundyが歌うことでひとつの繋がりがみえてくる。

 2020年、大きく世の中が変貌していく中、Vaundyはこの不安定な時代に強い光を解き放つ存在だ。王道感あるナンバーやオルタナティブな楽曲を聴いていると、そのフレキシビリティさにも心惹かれる。“編集”や“発明”というよりも“デザイン”を感じさせる独特なるモノづくりセンス。なぜ、Vaundyに“新しさ”を感じたのか? オンラインで取材を試みた。
――初のアルバム『strobo』、とても素晴らしかったです。完成していかがですか?
Vaundy:ありがとうございます。まだ実感とかないんですよ。でも、これでやっと前に進めるなと思います。
――表現者、アーティストになろうと思ったきっかけから訊いていいですか?
Vaundy:僕が今やっていることは、小さな頃からやっていることの延長線で、 “何かを成し遂げたい”とかじゃないんです。自然に、僕がするべきことだと思っています。
――なるほど。今回、ジャンルにとらわれない音楽センスというか、幅が広いなって思ったのですが、アルバム『strobo』において共通するキーワードやコンセプトはありましたか?
Vaundy:共通する要素はアルバムにはあまりないんですけど、今まで作ってきた曲の総集編です。現段階でのVaundyを知るための詰め合わせパックだと思っています。世界観を統一するために『strobo』というアルバムタイトルに合わせて、アルバムでは「Audio 001」、「Audio 002」というインストを入れてあります。

――ストリーミングで「東京フラッシュ」、「不可幸力」とリリースが続いて、毎回中身が何かわからないプレゼントBOXを開けるようにドキドキしながら新曲を楽しませてもらってきたのですが、Spotifyで「Early Noise 2020」へ選出されるなど評価も高まってきていますね。
Vaundy:選んでもらえて嬉しかったです。まだCD出すかもわからないときだったので、まわりのみんなも驚いてました。まだ曲に関しては全然改善の余地があると感じていて、まだまだこれからだって思っています。
――新型コロナウイルスの影響でライブがことごとく延期になっている状況をどう思っていますか?
Vaundy:1stワンマン・ライブをやっていないのに、10月に2ndワンマン・ライブが発表になりましたからね(笑)。今年はライブを中心に広げていきたかったんですけど、予定が少し後ろにずれただけだと思っています。もともと動画中心の活動だったので、自分の魅力を120%発揮するには完成した作品がいまはわかりやすいのかなって。そんな意味では、普通通りでもあります。
――いま、通っている大学の授業はオンラインですか?
Vaundy:デザイン系の学部で、いま2年生で、昨日からオンライン授業がはじまりました。今日もさっきまで授業していました。社会のネット活用に関しては、今回の騒動で一気にスピードが早くなりそうです。
――Vaundyが広まった流れもオンラインからですもんね。
Vaundy:そうですね。それこそ、僕たちクリエイターが反応して対応することでより伝わっていくのかなって。いまの現状を苦しむより、先にいろいろ考えていきたいです。僕にとっては、去年やっていたことを1年延長している感じでもあるので。ライブ向きな曲も用意しているので、ライブも早くやりたいです。
――お、どんな曲ですか?
Vaundy:「怪獣の花唄」です。コール&レスポンスを意識していて。僕は、ヨコノリだけのライブにはしたくなかったんです。ライブだったらタテノリで盛り上がりたいっていうか。生で歌うのはかなり難しい歌なんですけど(笑)。

――それは楽しみです。歌い回しにこだわりのある曲ですよね。聴いていてテンション上がりましたから。アルバムの中では珍しいロック・テイストなナンバーは、もともとVaundyのルーツに近い曲だったりするんですか?
Vaundy:そうですね。僕が作曲をちゃんとはじめた時のサウンドに近くて。高校の時、軽音部に入っていて。バンドじゃなくソロで友達と楽しんでいた感じなんですけど。その時に、邦ロックに触れてバンドサウンドの曲を作るようになりました。「怪獣の花唄」で、久しぶりにロックな曲を作りました。
――めっちゃいい曲で。都会的なシティポップ・センスなVaundyのイメージを持っている人って多いと思うのですが、イメージにとらわれない表現の幅を持っていますよね。
Vaundy:ジャンルレスっていうのは、こだわっているわけではなくて自然にそうなってます。今後、どんどん起こり得るスタイルだと思います。作りたい曲がいろいろあったら表現の幅は広がっていきます。でも、アーティスト性を求めるリスナーって固定観念が強いと思うんですよね。 ひとつの楽曲やジャンル、それこそアーティスト性に縛られるというか。それを逆手に曲を作ったりしてます。だんだん、これっぽいとかあれっぽいとか言われはじめるので。そんな時に「東京フラッシュ」のイメージだけだと、僕のことを理解できてないっていうか。そこに縛られずに活動するためにどんどん頑張らなければいけないなって。

――とは言いつつ、「東京フラッシュ」がいい曲で。都会的なセンスのサウンドで流麗なビート感が気持ちいいナンバー。どんな時に生まれた曲なのですか?
Vaundy:シティポップ系な曲を作りはじめた最初の曲です。ストリーミングサービスとか、いろいろ新曲をレコメンドしてくれるじゃないですか? 聴いているといま求められてる空気感が統計的にみえてくるというか。そこから組み立てています。そこからクセを強めに自分がより作りたいと思ってできたのが「不可幸力」で。
――ああ、そうなんだね。
Vaundy:「東京フラッシュ」では王道を聴かせるサウンドを意識して、「不可幸力」ではより特異なサウンドで。僕は「不可幸力」の方が好きで。「東京フラッシュ」はいろんなものを吸収して生まれたものなので、それこそ“好き!”って言ってもらえないと困るなって曲です。いい曲を、わかりやすく作ったつもりだったので。
――ある種、プロデューサー・センスというか、自分という表現者を俯瞰してみられる感じがあるんですね。
Vaundy:結果、できているかというと、まだまだできてないと思うんですけど、作る作品というのはポップミュージックとして理解しやすいものをデザインしたい気持ちが強いです。音楽家は現代美術家だと思っているんです。僕は、デザインだと思って音楽を作っていて、ルールや工程がありながらも、新しいことを表現していくのがこれからの時代の音楽だと思っています。ある種、音楽表現はやり尽くされているところもあるので。うん、もっと自分なりの世界観を確立してしていきたいです。
――ストリーミングの時代になって、リリース数もアーティスト数も増えてきていますもんね。アーティストらしさ、オリジナリティの確立はすべての表現者において課題だと思います。運任せにはできないというか。
Vaundy:僕たちは、決められたプラットフォームに曲を入れているわけで。同じような曲を作る人がごまんといるんです。その中で、サウンドなのか声なのか、わざと下手にしたり奇妙な音を入れたり。どこで特徴を出していくか、それでも全部やられていたりするので、そこをクリアしていくのもクリエイターの課題のひとつですね。
――発表するだけなら簡単な時代になったけど、注目を浴びる存在、ポジションを確立するにはアイディアが必要ですよね。
Vaundy:ちゃんとフォーマットを勉強して、道筋を考えて、自分なりのセンスを注入するというか。その方が届きやすいのかなって思っています。
――クリエイティブに関して、そういった考え方へ至った理由ってあるのですか?
Vaundy:美術系の大学に行く人は、受験科目でもあるのでデッサンをやるんです。なんでデッサンをするんだろうって考えたことがあって。最初は真似をして構造を理解する必要があるんです。手より目を使うんです。それで、触ってどんなカーブなんだろうとか、ここの影はどんなふうに光が差しているんだろうとか。いろんな見方をする必要があるんですけど、これは音楽と一緒だって思ったんです。僕の場合は、昔からそうしていたんですけど、音楽を聴くときにここのサウンドはどうなっているんだろうとか、理論づけて曲を聴いてみたり。
――おもしろいですね。もともと楽器を手にしたのは?
Vaundy:僕はカラオケが好きで。歌自体は小さい頃から歌っていたんです。楽器はギターとかもらったりはしていたんですけど、なかなかうまくできなくって。指が短いんですよ(笑)。僕はパソコン中心で音楽を作るので、でも、音楽に関わらずモノづくりが好きでした。中学校3年生から高校生までは、歌い手をやったりしていて。有名ではなかったんですけど。歌い手って、いろんなボカロPさんが作った新曲をいちはやく歌ってアップするかが大事で。そういう活動をやっているとジャンルレスだったり、声色を変えるとかに繋がってくるのかもしれないですね。
――それは、音楽を音楽として捉えるきっかけになりますね。
Vaundy:そんな間に、ミックスの技術だったりDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)のソフトウェアの扱い方を覚えて自分で使えるようになって、今の自分の音楽活動に結びついています。
――全部繋がってきているのですね。パソコンでモノづくりができる環境があったというのが大きそうですね。
Vaundy:親が小さい頃からパソコンを触らせてくれていたので。自分で考えて触ってみないと身につかないですから。
――ちなみに、Vaundyの人生を変えたような曲とかアーティストとかっているんですか?
Vaundy:あんまりそういうのが無くって。作品としてめちゃくちゃ好きとかはあるんですけど、順位をつけるとかしないんですよ。その時々といいますか。時期によって全然変わってくるんです。好きなジャンルとか入れ替わり立ち替わりで。映画も音楽もアニメも一緒で、モノづくりの参考になるかってことが大事なのかもしれないです。
――モノづくり自体が主なんですね。
Vaundy:人の作品を聴いて「この曲よくない?」っていうより、「俺の曲よくない?」って方が気持ちいいじゃないですか? そんなモチベーションで曲を作るようになったので。
――そういえば、「life hack」のミュージックビデオがまたかっこいいのですが、途中、電話のシーンでミュージックビデオと配信曲で受け答えのシーンに変化があるこだわりなどおもしろいなと思いました。

Vaundy:ははは(笑)。あれは、僕の解釈とミュージックビデオの監督のストーリーの解釈が違ったんです。僕はそれを尊重したいので、だったらちょっと変えてみたらおもしろいかなって。
――そこもストーリーがあるんですね。
Vaundy:十人が曲を聴いてくれたら、十通りの答えがあるように僕は曲を作れればと思っているので。そんな気持ちを掻き立てるというか、もう一度聴きたいって思ってもらえるようにしたいと思っています。
――「僕は今日も」という楽曲は、Vaundyのテーマソングのように感じました。
Vaundy:去年の頭ぐらいに作った曲で。他の曲は動画を出しはじめてから作った曲なんです。すべてが事実ではないんですけどパーソナルな曲です。人のちょっと暗い部分を自分なりに解決する歌です。

――とてもいい曲で。ちなみにアルバムの中で、今日時点でいちばんのお気に入りはどの曲ですか??
Vaundy:今となっては“アルバムよりもっといい曲あるよ”って思っていたり(笑)。僕、けっこう飽き性なので。アルバムの中で一番というと「不可幸力」ですね。歌詞的にもメロディの乗せ方もうまく表現できているんじゃないかなって思ってます。メッセージとしてもいろんな解釈で伝えられたんじゃないかな。

――そうですね。最近はどんなアーティストが好きとかありますか?
Vaundy:そんなに音楽を聴かないので。結局、作ること自体が好きなんです。作っている時間の方が長いかな。あえて言うなら、自分の曲を聴いているかもしれません。僕は、音楽家以前にクリエイターだと思っているので、音楽だけにかかわらず、デザインや服飾、絵を描いたり、声の仕事など、もっともっとやりたいことはいろいろあります。どんどん新しいことをやっていきたいです。
――Vaundyにとって、最近これやられて悔しいなって思えた作品やアーティストはいますか?
Vaundy:あ~、藤井風さんです。僕にはできないことをやられていると思います。自分が好きなものとピアノの技術力によって作品を作られていて、“ああ、やられたな”って思いました。
――そんな分析をすらっと言えるVaundyが好きですね。期せずしてほぼ同タイミングでアルバム・リリースとなって。新世代アーティストの活躍、そしてVaundyの躍進を今後も楽しみにしています。
Vaundy:ありがとうございます。

【取材・文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)】

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リリース情報

strobo

strobo

2020年05月27日

SDR

01.Audio 001
02.灯火
03.東京フラッシュ
04.怪獣の花唄
05.life hack
06.不可幸力
07.soramimi
08.Audio 002
09.napori
10.僕は今日も
11.Bye by me

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現代美術
大学のレポートを書くために調べました。現代美術を勉強してるんですけど、全然知らなくて、知る必要があるなと思って。それで、ほんとにおもしろいなって再確認したというか。僕がやっていることって何だろう、ってもう一回思わせてくれる作品が多くて。レポートが“現代美術をデザインの中にどう組み込んでいくか”みたいなテーマだったんですけど、僕がやっていることって本当にそれだなと思って、さらに考えが深まりました。



■ライブ情報

1st one man live「大人間前夜」
08/30(日)東京 SHIBUYA CLUB QUATTRO

2nd one man live “strobo”
10/10(土)東京 Zepp Haneda

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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