歌だからこそ広げられる映像イメージでいっぱいな松任谷由実の新作
松任谷由実 | 2011.04.07
そもそも“映像的”であること自体、この人の作品の根幹を成す大前提。とはいえ、ユーミンこと松任谷由実、2年ぶりのニュー・アルバムのタイトルが『Road Show』だと知った時には、その思いきりのよさにさすがに驚いた。
シネコンでも3Dシアターでもない“ロードショー”。どこかノスタルジック。アナログな中にも贅沢さの記憶が漂うそんな言葉を、2011年の今、あえて表題に掲げたところに、「歌だからこそ広げることができる映像イメージがある」。クリエーターとしての覚悟をうかがわせるそうした思いが、そこには込められてもいるようで・・・・・・。キャリア39年目にして、やっぱりユーミンはすごい。改めてそう、実感させられてもいる。
オープニングに置かれた「ひとつの恋が終るとき」で繰り広げられる、マルチ・アングル的な“別れの風景”の切り取り方から、ラスト、文字通り映画のエンディング・ロールにも似た、しみじみとした余韻が伝わる「ダンスのように抱き寄せたい」まで、全11曲。その1曲1曲が、独立した短編映画のよう。歌われる風景に、聞き手もまた、自らの“心象”を重ね合わせることができる。目に映るものと心に投影されるもの、いずれをも立体化してみせるこんな“3D効果”。世界中のどんな映画館を探しても、他にない。
- 松任谷 : 曲を作り始めた段階から、映画的なアルバムになりそうな予感はありました。それこそ3D的というのかな。「ひとつの恋が終るとき」も、アレンジが出来てきた時点で、今まで以上に奥行きを感じさせる雰囲気になっていたんです。それに引っ張られるように、歌詞のシノプシス、筋書きも映画的に展開していった。
- EMTG : 歌の中の視点の動きや切り替えが、完全にカメラアイ的だと思うんです。
- 松任谷 : “前も見えない雨が/それぞれの道/照らしてた”のくだりとかね。フロントシートに二人が座っていて、その眼前を2本のヘッドライトが並行に照らしている。そんな映像が、完全に見えてましたね。
- EMTG : ヘッドライトが交じり合わないところがミソですよね。
- 松任谷 : そう。その後やって来る“別れ”を暗示している。別れと言っても、すべてが悲しいだけじゃないんですけどね。あえて“ひとつの恋”と言っているくらいで、アナザーがあれば、ひょっとしてアザーズもあるかもしれない(笑)。恋が終わるということに対して真剣ではあるんだけど、それですべて終わりじゃないところに人生のポジティヴさがある。だからこそ悲しい、という。
- EMTG : 別れの描き方がつくづく贅沢。
- 松任谷 : 映画にことよせて言うと、1950年代終わり頃のアメリカ映画がそうだったと思うんです。先日亡くなったエリザベス・テイラーの主演作とかね。アメリカ映画でありながら、ファッションにしてもライティングにしても、どこかヨーロッパ的な要素が入り込んでいる。ストーリーの割り切れなさも含めてね。
- EMTG : ただ、めでたし、めでたしで終わるのじゃない、どことなくせつない幕切れとか。
- 松任谷 : 今回のアルバムも、私の中では前半がヨーロッパ的で、徐々に後半、アメリカンになっていって終わる。そんなイメージなんです。
- EMTG : そう思うと2曲目の「Mysterious Flower」も、ひねりのあるトロピカルというか。
- 松任谷 : 最初書いた時点では、もっとフレンチ・ポップっぽい曲だったんですよ。プロデューサー(松任谷正隆)がリズムをレゲエ調にしたことで、フレンチ・コロニアルというか、リゾート・アイランドに似合いそうな曲調に変わっていった。プロデューサーいわく、“フラワーと言っても実際の花じゃないんだ”って。魔性の花というか、主人公の心を惑わす、妖しい存在をイメージしていたみたい。
- EMTG : 当初、ニンテンドー3DS(『レイトン教授と奇跡の仮面』)のエンディング・テーマとして発表された曲ですよね。松任谷さん自身、3Dに対する興味というのは・・・・・・?
- 松任谷 : 『アバター』みたいな意味合いで言うなら、それほど興味はないんですよ(笑)。ツイッターもやってないしね。そういう意味で、私自身はどこまでもアナログ的。調べものをする時でも、愛用している辞書を開いて、たまたま指にくっついてきたページに、探していたインスピレーションがあったりする。そういう感じかな。
- EMTG : 「コインの裏側」に、そうした“五感”ならではの繊細な感覚が、発揮されていると思うんです。
- 松任谷 : エンジニアのアル(・シュミット。トミー・リピューマ他AOR系の大物とのコンビで名高い)が、すごく気に入ってくれた曲なんですよ。
- 松任谷 : “雪が降りそうな/銅色の空よ”という歌詞と、メランコリックな演奏との兼ね合いが、なんとも絶妙で。「私の過去の作品で言うなら「中央フリーウェイ」に近い世界ですよね。ドライバーの視点で描いているし。今年の冬、東京近郊で雪模様の日が何度かありましたよね。雪が降り出しそうな夕刻の空って、コッパー(銅)だったりアンバー(琥珀)だったり、どこか黄色味がかった色をしているの。
- EMTG : 気がつかなかった。次の冬、雪が降り出しそうな日には、絶対空を見てみよう(笑)。黄色つながりということで言えば、10曲目「バトンリレー」には“黄昏”という言葉が出てきます。
- 松任谷 : キャサリン・ヘプバーンとヘンリー・フォンダが老境の夫婦を演じた、映画『黄昏』からのイメージですね。
- EMTG : 松任谷さんなりの表現で、“生命の連鎖”を歌った作品だと思うんですが・・・・・・。
- 松任谷 : 私自身、“黄昏”が他人事じゃない年齢になってきちゃったからね(笑)。
- EMTG : でも、けっして表現が湿っぽくない。肯定的な視線が伝わるところが素晴らしいと思うんです。
- 松任谷 : デビュー39年目だからこそ、書くことができた歌ではありますよね。映画のほうの『黄昏』も、年を重ねることにまつわるネガティヴさ以上に“ゴールデン”なイメージ。そういう印象が、映像的にもあるんですよ。
【 取材・文:真保みゆき 】
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リリース情報
INFORMATION
♪T-POINT presents 松任谷由実コンサートツアー2011 Road Show
◆4月15日(金)、16日(土)
よこすか芸術劇場
◆4月19日(火)
大宮ソニックシティ
◆4月27日(水)
宇都宮市文化会館
【上記公演に関するお知らせ】
計画停電の影響により、上記公演に関して変更が出る可能性がございます。
また、4月29日(金祝)、30日(土) 仙台サンプラザホール公演に関しましては、公演中止が決定しております。
チケットの払い戻し方法などの詳細は、オフィシャルHPでご確認ください。