45歳の自分を等身大で描いた、エレファントカシマシの壮大なシンフォニー

エレファントカシマシ | 2012.05.01

 結成30年を超えても若々しいイメージのエレファントカシマシだが、43枚目のシングルとなる「大地のシンフォニー/約束」は、今までにない落ち着きと壮大なスケール感がある曲だ。いつものように感情のこもった身ぶりたっぷりに宮本浩次は、「この2曲で45歳の男を等身大で描きたかった」と言う。そう、彼は45歳。このシングルに込めた思いは、まさに今の彼自身なのだ。ありふれた情景や誰もが抱える悩みに人生の重さや厚みを重ね、飄々と力みのない歌を聴かせる宮本からは、”いちロック歌手”という謙虚さと、30年を共に過ごして来たバンドの仲間たちとの揺るがない信頼が伝わってくる。45年の人生を歌う宮本の今の熱い思いを語ってもらった。

EMTG:「大地のシンフォニー」は、とてもスケール感と落ち着きのある曲ですが、どのように生まれたんでしょう?
宮本浩次:この前のシングル、「ワインディングロード/東京からまんまで宇宙」は、ある種爽やかさを求めた曲だったんですけど、今回は中年であることとか、男であることとか、そういうことも含めてストレートに表現していきたくて。カップリングの「約束」の方が先に出来たんですけど、45歳が夢を持っていたり傷ついたり、毎日そういう思いで生きていることを、ちゃんとそのままストレートに歌いたかった。「大地のシンフォニー」も、以前から曲はあったんですけど歌詞がなくて。それを今年に入ってからプロデューサーのYANAGIMANと打ち合わせをしながら作っていったんです。
EMTG:前作も手掛けた蔦谷好位置さんから、3年ぶりにYANAGIMANさんとやられてみていかがでした?
宮本:YANAGIMANは今50歳ぐらいで、僕より5歳ぐらい年上なんですけど、今回の曲を、大人の距離感と言うか、自分より年上というところで、多分中年の思いなんかを実体験として持ってる人で。YANAGIMANだったら、きっと分かってくれると思ってましたから。
EMTG:「シンフォニー」という言葉がキーワードのようですが、これの意味するところは?
宮本:地下鉄の駅から地上に上がる際に、ふと上を見ると階段の上に空がフワッと広がっていくじゃないですか。回りにはお年寄りや若い人、赤ちゃん連れてる人も風邪ひいてる人もいて、僕もいて。みんな悩みを抱えている。その、それぞれがメロディなんですよ。自分と全く違うメロディ。それは、俺が何しててもずっと鳴っているシンフォニーみたいな言い方も出来るのかなと思いまして。そんな毎日があるということが、孤独のシンフォニーであり、俺の心の中のシンフォニーであり、大地のシンフォニーであり…。
EMTG:その状況を歌では「人生はいつもページェント」と例えたと?
宮本:それもあるけど、その次の「自分が主役」というところが大事で。みんないろんな顔を持ってるし、傷ついてる時と元気な時の顔の見え方が違うし、1人の中でもいろんな主役があって、1日の中でもいろんなメロディが心に中に流れていて、それが繋がる瞬間があって。僕も99%は45歳のオヤジだけど1%のロック歌手が精一杯歌ってるというところで、僕もみんなと同じ主人公の一人だなと。
EMTG:宮本さんに中年のイメージは無いですけど、落ち着いた歌い方は大人っぽいですね。それにしても、ロック歌手が1%とは…(笑)。
宮本:わかんないですけど、普段は”自分は中年のオヤジだな…”と思うことが多いです(笑)。歌は、「ガナラないで歌ってくれ」とYANAGIMANからは言われていて。「宮本さんはすぐガナルから、メリハリがない」とか(笑)。僕は30年歌って来て、自分ではベテランだと思ってるんだけど、その自分にそうやって言ってくれるYANAGIMANの熱さというか。言われて口惜しいってことは、たしかに力で持って行こうとする自分もいるわけだし。それをほぐしてもらいながら、丁寧に歌ってみると、ホントに入り口のところなんか囁くようにしか歌ってないのに、こんなに力強く歌えてる自分がいることを認識できたんです。前ならガナりたてるところを、ただ歌っていくだけで、自分の歌を歌ってたと。以前にも直感的にわかって歌ってる時もあったんだけど、意識的に自分の中に刻まれたのは今回初めてでしたね。これはホント、すごいでかい経験でした。
EMTG:抑制した歌声が、ドキリとするほど存在感があります。
宮本:YANAGIMANに「小さい声で歌ってもマイクを通せばちゃんと通る」って言われて(笑)。家で弾き語りで歌ってる時なんかは、すごい小さい声で歌ってたりするんですよ。ところがステージとかで張り切っちゃうと、もう(笑)。でも写真でも、ふとした表情が一番素敵だったりするじゃないですか、歌もそんなもんで。あと技術的なところで言うと、『ライフ』というアルバム以来だったエンジニアの平沼さんが、「宮本君、もちろんハンドマイクで歌うんだよね」って言ってくれて。ハンドマイクはライヴでも慣れてるし、家でもハンドマイクで歌ってるから、それもあったと思います。
EMTG:30年歌ってきても、まだ発見があるということでしょうか?
宮本:そう。それは日常、僕らが生きてることもそれなんです。発見と同時に答えがここにあって。それがわからないから、もどかしいんだけど、自分の中に答えがあるんです。それが立証できたことは、スカッとする経験でした。自分の中に答えがある、それを歌を通じて声を大にして言えるのが嬉しかったです。自分で自信の持てる歌だったし、それによって自分に自信が持てましたから。
EMTG:レコーディング全体はどんな雰囲気で?
宮本:YANAGIMANの非常に厳しい監督のもと…やはり「宮本の歌をどこまで活かせるか。バックをシンプルにして、無駄な音が一つもないところにしか宮本の歌は活きない」というすごく真っ直ぐなコンセプトがあったんだと思うんです。だからバンドにとっては凄い厳しいレコーディングでしたね。他のメンバーは、”ミヤジ(宮本)はギャアギャア言うけど友達だから…”と、受け流すことも出来る。でもプロデューサーのシビアな眼で、<これはシングル曲にしなくちゃいけない、沢山の人に聴いてもらう>という厳しさは、友達の僕が、メンバーに言うのとは違う。全く騙せない厳しさだったと思うなぁ。
EMTG:歌詞にも厳しいご指導があったとか?
宮本:まさに「大地のシンフォニー」なんですけど、僕の心の弱さで、歌入れの前に、YANAGIMANに「この歌詞でいいですよね?」って確認をしたわけですよ。だけど、自分で本当に良いと思っていたら訊かないと思うんですよね。訊くってことは、叱咤激励して欲しいからであって。そうするとYANAGIMANは「最後の2時間まで考えましょう!」って。それで僕も帰り道からずっと考えて。なにしろYANAGIMANは「歌詞が出来ないとアレンジできない!!」と言うんで、「早くしろ!!」って催促の電話がかかってくるんですよ。だから僕も夜中でも出来たら送っちゃう(笑)。するとYANAGIMANからすぐ返事が返って来るっていう。
EMTG:どの辺りを直されたんですか?
宮本:<最後の2時間>の宿題が出た時に、「本当の自分の場所っていったい何処にあるんだろう」この言葉が出て来て。その後に自分の中に答えがあることにスパーン!と繋がったんですよ。曲に凄く厚みが出来た。みんなが思ってる何でもないフレーズなんだけど、これはきっと自分の中で答えを探してるだけ。それが歌えたのが本当に嬉しかったです。
EMTG:両A面の「約束」にも通じるテーマでしょうか。
宮本:僕は等身大の歌を歌いたいと思ったわけですから、僕が生きていく理想としたもの、うまく行くこともあれば思い通り行かないこともいくらでもあるわけで。人によって違うかもしれないけど、例えば学校や会社で張り切って活動しているのも自分だけど、ひとりぼっちになった時に、”ホントの自分はこれなのかな…?”、と思うわけです。ボロボロになった時に、ふと浮かんだ顔。愛とか絆って言葉はみんな大好きなんだけど、具体的なものじゃないからわからないんだけど、そういうものは、「愛」って名づけていいんじゃないかと。というところの、傷ついた人の歌です。今回のシングルは、短いレコーディングの中ですごい密度の濃い時間を過ごしたことで、30年、45歳の自分をちゃんと、この2曲に収められたかなと。
EMTG:前シングルの2曲と今回の2曲が、5月30日発売のアルバム『MASTERPIECE』でどういう位置づけになるのか興味がわきますね。
宮本:その4曲を基本にしてアルバムを作ってみると、明快に答えをちゃんと言っていて、厚みを増したストレートな表現が出来たと思います。そのスタートが「約束」で。最初は答えが書けてなかったんだけど、「ベイビーベイビー」の後の「知らなかったよ」が今年になって出てきて、その答えがはっきりした時から、アルバムに向けてのエンジンがかかった気がしたんです。
EMTG:初回限定盤には、1月の渋谷公会堂2daysから7曲入りのライヴ音源がつきますが、これの選曲基準を教えてください。
宮本:これはホーン・セクションとストリングス・チームが入った豪華なステージだったんで、それをみんなに聴いて欲しいなと。「リッスントゥザミュージック」は蔦谷君のキーボードに加え、ストリングスも入って、本当に素敵な曲になったなあ、と。「笑顔の未来へ」とか「旅」は、リズムがどうとかじゃなくてバンドとしての波動、一つの塊としてエネルギーの極みを感じていて。日によって、関わるメンツによって変わっていくライヴの面白さ、新春ライヴの楽しさを、すごく表しているなあと思った7曲です。

【取材・文:今井智子】

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リリース情報

大地のシンフォニー/約束(初回盤)

大地のシンフォニー/約束(初回盤)

2012年04月25日

ユニバーサル シグマ

ディスク:1
1. 大地のシンフォニー
2. 約束
3. 大地のシンフォニー (Instrumental)
4. 約束 (Instrumental)
ディスク:2
1. おかみさん
2. Soul rescue
3. リッスントゥザミュージック
4. 旅
5. 笑顔の未来へ
6. 桜の花、舞い上がる道を
7. パワー・イン・ザ・ワールド

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お知らせ

■ライブ情報

エレファントカシマシ CONCERT TOUR 2012
2012/06/01(金)Zepp Tokyo
2012/06/02(土)Zepp Tokyo
2012/06/09(土)Zepp Nagoya
2012/06/10(日)高知BAY 5 SQUARE
2012/06/17(日)Zepp Sapporo
2012/06/23(土)新潟LOTS
2012/06/24(日)Zepp Sendai
2012/06/30(土)Zepp Fukuoka
2012/07/01(日)広島CLUB QUATTRO
2012/07/06(金)Zepp Namba(OSAKA)
2012/07/07(土)Zepp Namba(OSAKA)

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