『MASTERPIECE』と名付けたエレファントカシマシの最高傑作
エレファントカシマシ | 2012.05.30
エレファントカシマシの通算21作目のオリジナル・アルバムとなる『MASTERPIECE』は、「30年歌って来て自分の歌にまた新たな発見があった」、と宮本浩次が言うだけに、歌の力を改めて感じさせる傑作だ。抑えた歌から滲む豊かな感情や柔らかなラヴソングに潜む包容力など、45歳になった男達の横顔や背中が見えるような11曲。歌って来たことにブレはないが、今だからこそ歌えることがあるということだろう。いつにも増してアルバムの完成を喜んでいる宮本浩次に、新作についてたっぷりと語ってもらった。
- EMTG:シングル「大地のシンフォニー」についてお話を伺った時に、両A面の「約束」からこのアルバムは始まっているとおっしゃっていましたが、そこから完成までの流れを教えてもらえますか。
- 宮本浩次:今年の2月ぐらいに「大地のシンフォニー」「約束」のレコーディングが終わって、そこからアルバムがスタートして、ホントに毎日レコーディングしてたんですよ。去年出したシングルの「ワインディングロード/東京からまんまで宇宙」とかあるから、残り7曲を1ヶ月ぐらいでやって、ジャケットにビデオに、全部同時進行だったんです。(プロデューサーの)YANAGIMANとやった「大地のシンフォニー」「約束」は、すごく丁寧に歌が歌えたというのが自分にとって発見というと大げさですけど、こうやって年齢を重ねたベテランバンドが、ここまで自分の歌を再認識できるものかと感激しちゃいますよ。それがあったから自信を持ってレコーディングを進められたし、歌詞を丁寧に作るってことをもう一度思い出した。歌詞って直観みたいなものが大事だと思っていて、そのままで行くというのを敢えてやっていたものを、短い時間だけど推敲する。「世界伝統のマスター馬鹿」という曲の中でも、「馬鹿」というものをどうすれば、最終的に愛すべき肯定的な言葉、歌になっていくのかと考えて、その言葉からちゃんとクライマックスに行けるように、前半敢えてショッキングにして後半は肯定的にというのを、短い時間の中で推敲してる。「七色の虹の橋」は最後に出来たんですけど、『MASTERPIECE』というアルバム・タイトルが出て来た後に出来た曲で。
- EMTG:そうなんですか。歌詞の中に「Masterpiece」が出てきますよね?
- 宮本:はい。8曲ぐらいしか出来てない時に「タイトルの会議やります」って言われて。僕は『アヴァロン』というロキシー・ミュージックのアルバムが凄く好きで、タイトルがカッコいい。ある日レコーディング・スタジオ見たら、アヴァロンという機材が置いてあるんですよ。エンジニアの人に「これ何ですか?」と訊いたら、「エフェクターで何か変換するあれで」、とかって。それでアヴァロンって意味あるような、ないようなタイトルなんだって思って。じゃあ英語のタイトルもカッコいいなと思ったんですよ。しかもあまり意味がないようなものにしたいと思って、それで『MASTERPIECE』ってバーンとつけちゃったんですけど。つけてみると、「傑作」という意味も含まれるわけだし、堂々としてるし、みんなは「いいタイトルだ」と喜んでくれたんだけど、そこからまた悩み始めちゃって、自分の作品は勿論自信作ではあるんだけど、その時はまだそれを傑作ということが何となく腑に落ちなくて。ところが最後に「思い出はセピア色なんかじゃあない 明日へ向かう七色の虹の橋」という歌詞が出来て。俺達だって30年ぐらいやって来て、「ファイティングマン」もあれば「悲しみの果て」だってあるし、「俺たちの明日」があって、今も自分の歌にさえサウンドにさえ発見しながらいる。「七色の虹の橋」って実証できてるって思えて、「誰の人生だってMasterpieceさ」と、てらいなくストレートに入れられたことが繋がったんですね、タイトルと。
- EMTG:「大地のシンフォニー」で「人生はいつもページェント 自分が主役の」と歌っていることとも繋がりますね。
- 宮本:「大地のシンフォニー」は「シンフォニー」という言葉が最初にあって、だんだん肉付けしていくんですけど、そういうのが直観と、推敲が同時に進むということなんですねえ。
- EMTG:シングルの時に45歳の自分を表現したいとおっしゃっていて、そのテーマがアルバムでも貫かれていると思うんですが、大人の男としての自分を歌いたいということでしょうか?
- 宮本:「七色の虹の橋」で出てくるボードレールの「パリの憂鬱」は、19世紀の詩人の作品ですよ。でも男心にストレートに響いてくるんですね。『悪の華』という詩集の序文ひとつとっても、「僕らは弱虫同士の同類だろ、どうだ兄弟、偽善の友よ」とか、言ってくれるんですね。スパーン!と来るじゃないですか。2500年前の孔子の「論語」でも、「先生、何が大事ですか」「やっぱり人に対する思いやりは難しいね」みたいなこと言ってたりするんですね。そうかやっぱり、って感動しちゃって。「化ケモノ青年」(04年のアルバム『扉』に収録)という歌で、「19世紀以来今日に至るまで この国の男の魂はいつだって右往左往」って歌ったんだけど、時代も国も違うけど同じようなこと言ってる。1億年昔も1億年後も今も、同じように僕らは、大人でもあり子供でもあるというか。それとは別に、若い時はラヴソングって歌えなかったし、例えば「ココロをノックしてくれ」では「コンビニでサンドイッチでも買ってさ あの場所まで駆け抜けろ!!」みたいなことを、てらいなくストレートに歌ってる。今一番歌いたいことは、蓄積によって歌えること。それを形にしたいというのが、大人の表現だと思うんです。
- EMTG:経験を重ねたからこそ表現できること、でしょうか。
- 宮本:「ファイティングマン」で「正義を気取るのさ」と歌ってたけど、でもラヴソングを歌いたいなとずっと思っていて。それはたぶん失恋したりとか、いろんな経験を経たことで、それを大人と言えば、15歳とか19歳の人だって、失恋するしいろんな哀しみを持ってるんだけど、それを経て、契約も切れてみたいなこともあって(苦笑)へコんだけど、「人生はいつもページェント自分が主役の」じゃないけど、ずっと進んで来て、という観点を、45歳だからやれるところもあるじゃないですか。そういう意味で、自分の歌声であるとか歌詞の内容であるとか、俯瞰してストレートに出せることがかえって大人っぽいというか。人間は変わっちゃいないんだけど、表現に混じりっ気が減っているというかシンプルになってったところが、大人っぽいかもしれないですね。もちろん反省点はいっぱいあるんですけど、シンプルな歌・シンプルな歌詞・シンプルなサウンドというところに関して、最後まで集中して歌い上げられたことは、ある種大人というかプロフェッショナルという気がしてます。
- EMTG:「Darling」は、共に時を過ごして来た人へのラヴソングかと思いますが、それも今の宮本さんならではの歌と言えますか?
- 宮本:そういうことをストレートに、素直に、しかもアルバム2曲目という大事なポジションに入れられたこと自体が、このアルバムを素直に作ってるというところを象徴している気がします。この曲は金原(千恵子)さんと笠原(あやの)さんがストリンスグスを綺麗に入れてくれて、1カ所も叫ばないで丁寧に歌えて、という風に考えると、集中力と別の大人感みたいなものを象徴してる曲かもしれない。
- EMTG:こういう曲があるから「世界伝統のマスター馬鹿」も成立するのかなと思いますが。
- 宮本:ずっと僕は、自分が男だから男をテーマにした曲を作っていて、「地元のダンナ」という曲でも、もっと昔の『奴隷天国』というアルバムの「浮世の姿」とか、最近だと「おかみさん」て曲もそうだけど、おかみさんは南向きに布団を干してる、でも男は月を見て涙を流してる。それで悦に入ってる男達の顔が、自分もそうだけど、滑稽で好きじゃない。「世界伝統のマスター馬鹿」で、高慢ちきなおじさんが新聞の間から尻をちらちら見ていて、「お前が全てだ」って言ってて、でも誰だっていいんじゃねえかって。それは化けの皮を剥がすじゃないけど、人間なんて化けの皮を剥がしたら骨も皮も残らないみたいなギリギリのバランスで生きてるんだけど、いつになっても馬鹿だぜって。それも真実で。バンドもそうだけど、単体ではうまいミュージシャンがいっぱいいて、何でバンドで一緒にやってるんだって言われたら、わかんないじゃん。でもバンドでやるのがよかったりするんですよね。理由なんかわかんないんだけど。バンドの方がカッコいいからっていうのも理由だし、ずっと一緒にいるのも大事だからと思うし、最終的には。でも一方で、破壊的な自分の中ではさ、誰でもいいんだし、いっぱいそういう逃げ道はあるわけだ、世の中には。でもそれも含めて、ギリギリのバランスで生きている。というところですよね。
- EMTG:そうして生まれた作品だからこそ、自信を持って『MASTERPIECE』と名付けられたんですね。
- 宮本:『MASTERPIECE』の他に『ホームラン王』というタイトル候補もあって、「それは流石にわけわからない」ってみんな笑ってくれたんです。それもだんだん意味が分かってきたんですけど、子供の頃、王貞治がヒーローだったんですよ。そういうヒーローと僕らも同じ存在として、人生は自分が主役というところで、ホームラン王とMASTERPIECEを同じ意味で使ってたことに後で気付いたんです。みんなMASTERPIECEなんですね。
【取材・文:今井智子】
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ビデオコメント
リリース情報
MASTERPIECE(初回限定盤)
2012年05月30日
ユニバーサル シグマ
ディスク:1
1. 我が祈り
2. Darling
3. 大地のシンフォニー
4. 東京からまんまで宇宙
5. 約束
6. ココロをノックしてくれ
7. 穴があったら入いりたい
8. 七色の虹の橋
9. ワインディングロード
10. 世界伝統のマスター馬鹿
11. 飛べない俺
ディスク:2
1. ワインディングロード (Music Video)
2. 東京からまんまで宇宙 (Music Video)
3. 大地のシンフォニー (Music Video)
4. 約束 (Music Video)
5. 穴があったら入いりたい (Music Video)
1. 我が祈り
2. Darling
3. 大地のシンフォニー
4. 東京からまんまで宇宙
5. 約束
6. ココロをノックしてくれ
7. 穴があったら入いりたい
8. 七色の虹の橋
9. ワインディングロード
10. 世界伝統のマスター馬鹿
11. 飛べない俺
ディスク:2
1. ワインディングロード (Music Video)
2. 東京からまんまで宇宙 (Music Video)
3. 大地のシンフォニー (Music Video)
4. 約束 (Music Video)
5. 穴があったら入いりたい (Music Video)
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■マイ検索ワード
ヴァルター・ロール
ヴァルター・ロールというラリーのチャンピオンがいるんですよね。昔の、というか60歳すぎてると思うんですけど、ポルシェ911とか開発している、ラリーのドライバーなんですよ。運転がうまいんですよ。当たり前ですけど。うまいの比じゃない。神業。そのビデオをね、代官山のTSUTAYAに行ったらずっと流していて。こないだ行ったら流れてなかったんで、なくなっちゃったのかなと思って、調べたんですね。そしたらまだ売ってたんですね。それで、YouTubeとかにないかなあと思って調べたんですね。見ましたねー。運転は、好きですね。ドライブが好きなんです。今回のアルバムに入ってる「ココロをノックしてくれ」の、コンビニでサンドイッチでも買ってさ あの場所まで駆け抜けろ!!っていうのは、車に乗ってどこまでも行きたいっていう歌なんです。それをストレートに書けてよかったなあと思ってるんです。コンビニって言葉をつかえたのも、僕嬉しかったんですけど、実際にコンビニでサンドイッチ買って、でもどこまで行っても日本だなあっていう閉塞感もあるんだけど。ヨーロッパとか羨ましいなあと思います
■ライブ情報
エレファントカシマシ CONCERT TOUR 2012 “MASTERPIECE”
2012/06/07(日)Zepp Sapporo
2012/06/23(土)新潟LOTS
2012/06/24(日)Zepp Sendai
2012/06/27(水)Zepp Tokyo
2012/06/28(木)Zepp Tokyo
2012/06/30(土)Zepp Fukuoka
2012/07/01(日)広島CLUB QUATTRO
2012/07/06(金)Zepp Namba(OSAKA)
2012/07/07(土) Zepp Namba(OSAKA)
2012/07/09(月)高知BAY 5 SQUARE
2012/07/13(金)Zepp Nagoya
※その他ライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。
ヴァルター・ロール
ヴァルター・ロールというラリーのチャンピオンがいるんですよね。昔の、というか60歳すぎてると思うんですけど、ポルシェ911とか開発している、ラリーのドライバーなんですよ。運転がうまいんですよ。当たり前ですけど。うまいの比じゃない。神業。そのビデオをね、代官山のTSUTAYAに行ったらずっと流していて。こないだ行ったら流れてなかったんで、なくなっちゃったのかなと思って、調べたんですね。そしたらまだ売ってたんですね。それで、YouTubeとかにないかなあと思って調べたんですね。見ましたねー。運転は、好きですね。ドライブが好きなんです。今回のアルバムに入ってる「ココロをノックしてくれ」の、コンビニでサンドイッチでも買ってさ あの場所まで駆け抜けろ!!っていうのは、車に乗ってどこまでも行きたいっていう歌なんです。それをストレートに書けてよかったなあと思ってるんです。コンビニって言葉をつかえたのも、僕嬉しかったんですけど、実際にコンビニでサンドイッチ買って、でもどこまで行っても日本だなあっていう閉塞感もあるんだけど。ヨーロッパとか羨ましいなあと思います
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