ソロ・デビューから20年。杏子がソロ活動20周年記念アルバム『Sky’s My Limit』を放つ。いまみちともたか、OKAMOTO’S、TRICERATOPS、来門（smorgas）、山崎まさよし、秦 基博他、豪華ゲストとのコラボレーションなど新録音源7曲を含む全14曲。そこには20年という確かな軌跡を重ねてきた杏子の“今”がしなやかに力強く提示されている。そして、その中心をまっすぐ貫いているのはロックだ。
　時にチャーミングに、ぶっちゃけトークを交えながら、今作の制作秘話や現在の心境を、杏子が飾らず自然体で語ってくれた。

EMTG：まずは20周年、おめでとうございます！

杏子：ありがとうございます。あんまり実感はないんですけどね(笑)。でも改めてソロになってからの軌跡を考えると、やっとミュージシャンとして独り立ちして、迷いながらもちゃんと進んできたなぁという気はしていますね。

EMTG：今“迷いながら”という言葉が出ましたけど、迷いつつも20年間、ミュージシャンをやめようと思ったことはなく？

杏子：い?や、私はすぐ逃げるタイプだから(笑)。私ね、海外で日本語学校の先生になりたいとずっと思ってたんです。自分のアイデンティティを知りたくて、そのためには海外で日本のことを教えたら、日本人としての自分というものも分かるんじゃないかなと思って。で､前に一度（事務所の）社長に「実は私、いろいろ考えたんですが、留学したいんです」って真剣に言ったら、「は!?　何考えてんの？」と一蹴されて(笑)。

EMTG：はははは。そんなこともあったと(笑)。そういえば昔、某誌で杏子さんの連載をさせていただいてた時には、「早く結婚したい」っておっしゃってましたよね？

杏子：え？　そんなこと言ってました!?　私、”結婚したいと思った時期がなかったなぁ…”って自分ではずっと思ってたんだけど。えーっ!?　あったの私!?(笑)

EMTG：ありました、ありました(笑)。

杏子：あははは！　なんか逃げたかったのかなぁ(笑)。あ?、でもね、ソロでスタートする時……”私はバービーボーイズがあってプロになれたから、バービーがなくなる=OLに戻ろう”と思った時があって。とはいえ、でも、”やっぱりライヴをやりたい”っていう想いがあったので、“よし、じゃあやりたいことをやってみよう！”と。その時初めて自分で決めて、ソロとしてスタートしたのね。でも実は“ダメだったらお嫁に行けばいいな”って括弧付きで思ってたの(笑)。

EMTG：“これからソロとして頑張るぞ！（でも、もしダメだったらお嫁に･･･）”と。

杏子：そうそうそう(笑)。でも私、そんなこと言ってたんだ？　おっかしぃー！(笑)

EMTG：ははははは。じゃあ、ソロとしてスタートした当初は20年もやるとは……。

杏子：あまり思ってなかったですねぇ。ただ、オーガスタ（事務所）の存在は大きかったかも。ヤマ（山崎まさよし）が来て、（スガ）シカオくんが来て、（元）ちとせが来て……っていう流れがあって。だから、私がミュージシャンになれたのはバービーボーイズのおかげで、ミュージシャンを続けて来れたのはオーガスタのおかげだな、と思ってます。

EMTG：そんな杏子さんの20周年記念アルバム『Sky’s My Limit』。豪華ゲストとの新録コラボをはじめ、20周年にふさわしい濃い内容になってますね。

杏子：もう、やりたい放題やらせてもらいました(笑)。最初、去年の年末にスタッフから「来年はソロ20周年だからアルバムを出しましょう」って言われた時は、“8年前にバービーから数えての20周年をやったから今回はナシでいいかな”って思ったんで、事務所の20周年と重なると思ったら、“やっぱりGO！”となり。選曲のキーワードは、私の音楽を続けるきっかけや理由である「ライヴ」にしようと決めたんです。そうなると必然的にライヴでやってるカバー曲もレコーディングしようってことになって。そうこうしている時に……これがまたタイミングなんだけど、TRICERATOPSのライヴに呼ばれて、一緒にやったらそれが素晴らしくいい感じで。一緒にレコーディングできないかなぁとオファーしたら、OKが出て。それでレコーディングしてたらトライセラがOKAMOTO’Sを紹介してくれたり。しかも、ちょうどOKAMOTO’Sがその少し前にYouTubeでバービーボーイズを見て、彼らの間でバービーがブームになってる時だったんですって。で、彼らもすごい忙しかったんだけど、「この日ならぜひ！」ということで実現しました。そういう偶然がいっぱい重なって、今回の作品につながったんですよね。

EMTG：TRICERATOPSとコラボしている「Silly Scandals with TRICERATOPS」はゾクゾクするほどグルーヴィーだし、来門さんのラップが入った「悲しきは…feat.来門」はより切ない曲になっているし、イマサ（いまみちともたか）さんの曲をカバーした「BUSU」(※プロデュースもいまみち氏)は言葉の強烈さとは裏腹に泣きたいほど愛情深い歌になっていて。

杏子：「BUSU」は前から、”いい曲だなぁ…”と思ってたんです。これって私は究極の恋愛ソングだと思っていて。で「ねぇ、もっと」も狂気まで行ってる恋愛の歌なので、アルバムでは2曲並べて、究極の恋愛ソング2連発にしました。

EMTG：ぐっと来ますよね。そして、スペシャルな新録コラボの中でも特に“おっ！”と思ったのが、杏子さん初のバービーボーイズ・セルフカバー曲「タイムリミット with OKAMOTO’S」で。

杏子：バービーをリアルタイムで知らない世代のOKAMOTO’Sとやれたっていうのがすごいなと思うし、彼らと一緒にやったことで曲がちょっと違うベクトルのエロティックな方に振れたのも面白いなって。

EMTG：うん、すごく新鮮でした。で、この「タイムリミット with OKAMOTO’S」はMVにもなっていて、杏子さんのパフォーマンスも見所ですよね、セクシーで。

杏子：ただ、OKAMOTO’Sとスタッフはずっと走ってて、かなり大変だったと思います(笑)。あれね、１カメ（ワンカメ=カメラ1台のみ）で撮ってるんですよ。だから私が歌いながら部屋から部屋へ練り歩いてる間に、OKAMOTO’Sはカメラには映らないように別の階段を使ってダーッと移動して、私が着くとまたそこにOKAMOTO’Sがいるっていう。でも（カメラ）テストの時は移動が全然間に合わなくて、『ビートルズがやってくるヤァ！ヤァ！ヤァ！』みたいに、みんなジャンプしながら走ってきて“ヒヤッホー！”みたいな(笑)。それがすっごく可愛かった(笑)。初回限定盤のDVDにはそのメイキングも入っているのでぜひ観てほしいですね。

EMTG：ジャズあり、ブルースあり、バラードありの全14曲。多彩でありながら、その中心にはロックという軸があって、1本スジの通ったアルバムになってるなと思いました。

杏子：そうですね。バービーの時は“ロック”って大声で言うのが照れくさかったんですけど(笑)、でも今、バービーを含めてソロになってからのことを考えると、やっぱり自分の核にあるのはロックだなって。今回改めてそう思ったし、ロックでありたいとも思ったし。そこから派生するジャズだったり、デジタルサウンドだったり、いろんなことをこれからもやっていきたい。だから『Sky’s My Limit』……“天井知らず”というこのアルバム・タイトルには“やりたい放題”って意味も含まれているんですけど、ロックを軸にやりたい放題、天井知らずでやっていこうかなって。

EMTG：自分はロックである、と。それ以外にも20年やってきて再確認したことはありますか？

杏子：やっぱりライヴが好きだっていうのと、あと、もう戻れないのかなって。私は普通のところを残しておきたいっていうのが常にあって。前はそれこそ日本語学校の先生とか、ちゃんとした奥様とか、いつかそういうところに戻れると思ってたんです。でも、もうここまで来たらダメだなぁって(笑)。もう戻れないところに来ちゃったし、この先もたぶんずっと、ミュージシャンなんだなぁって。

【取材・文：赤木まみ】