“生きる歌”を追求するplentyの最高傑作が到着
plenty | 2013.06.05
- EMTG:文句なしの最高傑作だと思います。江沼くん自身の手応えはどうですか?
- 江沼:そうですね……納得はしているけど、まだ冷静には捉えられない感じですね。アルバムの感想とは話が逸れるかもしれないんですけど、前作(『plenty』)に引き続き、今作もマスタリングはグレッグ・カルビ先生にやってもらって。
- EMTG:音、素晴らしいですね。
- 江沼:ありがとうございます。さすがですよね。ニューヨークのマスタリング作業にも立ち会わせてもらえたんです。
- EMTG:いいアルバムができたご褒美で?(笑)。
- 江沼:ニューヨークに行くこと自体はご褒美的なところもありつつ(笑)、目の前でマスタリング作業を見てみたかったんですよね。実際、すごく勉強にもなって。とにかくグレッグ先生が細かくこだわってくれて。マスタリング前の音源を聴いてもらった段階から“今回はいろんなタイプの曲があるから、細かくやろうと思う”って言ってくれていたんですけど、全曲ケーブルを換えながら“この曲はこのケーブルがいいと思うんだけど、どう思う?”って聞いてくれて。そういう作業を10曲分じっくりやってもらえたのはすごくうれしかったです。それだけのことをやってもらえるアルバムを作れたのかなとも思えたし。
- EMTG:江沼くんのなかではどういうアルバムを作りたいという思いがありましたか?
- 江沼:最初から全体像がどうとか、そういうことよりも、ただただいいアルバムを作りたいということだけ考えてましたね。これまでもずっとそう思っていたんですけど、前作をリリースしたあとからは特に強くそう思うようになりました。そういうモードのなかで生まれた曲をEPに入れたり、入れなかったりして。
- EMTG:EPの曲をアルバムに入れなかった理由は?
- 江沼:そんなに深い理由はなくて。EPの曲も含めて、いろんな曲のなかからこの10曲で1枚のアルバムを構築しようと思ったときに、無理矢理EPの曲を入れる必要はないなと思ったんですよね。売り方を考えるなら、リスキーな面もあるかもしれないですけど(苦笑)、それよりもトータルの作品性を重視したかったんですよね。
- EMTG:そのトータリティの核になったのは?
- 江沼:さっぱりしているとか、静かに燃えている感じというか。ライブ映えとかそういうことは考えずに、渇いている感じがほしかったんですよね。
- EMTG:それが、いまの江沼くんが求めているロックソングだった。
- 江沼:うん。僕にとっての“いい歌”ってメロディには情感があって、歌詞には奥深さを感じられるもので。リスナーが何年経っても聴けるものでもあり。だから、感覚的には演歌やフォーク、童謡を作っているような気分でもあるんですよ(笑)。
- EMTG:ロックバンドのフォーマットでそれを追求するという。
- 江沼:そうそう。だから、西洋のお皿におにぎりを乗っけているみたいな感じなんですよね。
- EMTG:その喩えは面白いですね。
- 江沼:カレーを作るならどういうカレーを作りたいと思うのか。僕はやっぱり日本の家庭的なカレーを作りたいので。それを踏まえてサウンドの幅を広げることにも挑戦して。これまで聴いていなかった音楽にも触れて研究しましたね。たとえばヒップホップとか。
- EMTG:ああ、それは興味深い。どんなことを感じましたか?
- 江沼:ドラムの音色とか、自分が作る音楽とは遠いというイメージがあったんですけど、実際に聴いてみたら全然そんなことなかったというか。なんというか……音楽そのものは人を選ばないんだなと思いましたね。だから、僕もバンドとして必要な曲というよりも、曲に必要なことをしたいとより強く思ったし、曲が求めているアレンジはどういうものなのかすごく考えましたね。
- EMTG:音楽家として消費に抗うような普遍的な歌を作りたかったということですよね。
- 江沼:それはすごくある。いまの時代ってサラッと消費される音楽が多いと思うんですけど。リスナーのなかに留まらずにすぐ忘れ去られてしまうような。それは仕方のないことかもしれないけど、やっぱり音楽家としてはその流れに抗いたいと思うんです。そういう意識をもっていないと未来に残っていく曲は作れないと思うから。だから、このアルバムは右から左に流れていくような音楽に慣れている人には難しいと感じるかもしれないですね。あるいは地味だと思うかもしれない。
- EMTG:いや、そんなことない。このアルバムに連なっている楽曲は、歌としてすごく強いと思う。
- 江沼:ああ、そうだとうれしいですね。
- EMTG:歌のテーマもまた普遍的であることの視座に立ったもので。それは、人間であり、命であり。
- 江沼:そう、“今回も”かもしれないですけど、歌のテーマになっているのは人間や命なんですよね。地元にいる友だちが結婚して子どもができたり、これまで以上に人間や命というものに対していろいろ考えることがあって。自分もいつか結婚しなきゃいけないのかなあとか(笑)。
- EMTG:9曲目の「よろこびの吟」は象徴的な曲ですよね。
- 江沼:うん、そうですね。「よろこびの吟」は自分なりの生命賛歌ですね。脆くて、儚ないけど、強くもある表裏一体の命と、そこにある希望を歌いたかったんです。それはこのアルバム全体のテーマにも直結しますね。
- EMTG:アルバム完成後も新曲は生まれているんですか?
- 江沼:書いてますね。でも、書いては、敗北してます。いい曲を書くために、もっと音楽に敗北しなきゃいけないって思うんですよね。毎日、敗北しながら明日を迎えてます。
plentyのニューアルバム『this』が完成した。文句なしの最高傑作である。ポップソングの“宿命”に抗うように、plentyの歌はリスナーから消費されることを徹底的に拒んでいる。その歌は、たとえば誰かの人生に決定的な影響を与えることを“宿命的”に望んでいる。その有り様に、心底感動する。全曲のソングライティングを担っている江沼郁弥(Vo&Gt)に話を訊いた。
【取材・文:三宅正一】
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リリース情報
お知らせ
plenty 2013年 梅雨 ワンマンツアー
2013/06/02 (日)松山 サロンキティ
2013/06/04 (火) 長崎 DRUM Be-7
2013/06/06 (木) 鹿児島 SR HALL
2013/06/08 (土) 熊本 DRUM Be-9 V1
2013/06/09 (日) 福岡 DRUM LOGOS
2013/06/14 (金) 新潟 LOTS
2013/06/15 (土) 仙台 Rensa
2013/06/19 (水) 長野 CLUB JUNK BOX
2013/06/21 (金) 名古屋 ElectricLadyLand
2013/06/22 (土) 岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
2013/06/28 (金) 札幌 PENNY LANE24
2013/06/30 (日) 郡山 CLUB #9
2013/07/06 (土) 大阪 オリックス劇場
2013/07/13 (土) 東京 渋谷公会堂
2013/07/14 (日) 東京 渋谷公会堂
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。