ラッパーSALUの恐るべし才能が堪能できる、格好の入門盤が登場!!
SALU | 2013.05.31
- EMTG:『In My Shoes』のリリース以降、周囲からのリアクションや環境の変化はありましたか?
- SALU:いろいろ変わりましたね。仕事面の人もそうですし、地元(神奈川県厚木)の人間との関わりも変わってきてるし。
- EMTG:地元の人間の反応はどんな風に変わりました?
- SALU:「あ、こいつ本気なんだ」っていう(笑)。今まではどこそこでライブやるんだって言っても「あ、そ」ぐらいの反応だったんですけど、最近は「すごいね、頑張ってるね」って向こうから来る感じになって。逆にこっちが気圧されて「はぁ…」みたいな(笑)。
- EMTG:そういう変化に伴って自分の心境にも変化があったりする?
- SALU:ありますね。『In My Shoes』とか「I Gotta Go」のときの自分って結構迷ってるというか。自分がやりたいことははっきりしてるんだけど、それをどういう手法でやるかっていうことだったり、あと仕事に行きたくないけど行かなきゃっていう曲を書いてたり、迷いとか揺れがあったなって思うんです。でも、今はなんとなく「こっちに行くしかねぇな」っていう心持ちに変わりつつあるっていうか。一歩、歩を進め出したっていうところですね。
- EMTG:今回のミニアルバムのタイトルの由来は?
- SALU:『In My Shoes』は、自分がいる世界を自分の斜め上方から見ているような視点で書いてたんですね。だから自分の姿も見えてるし、自分がどんな場所に立ってるかを含めた書き方をしてた。だけど、今回は自分の姿は見えていなくて、自分の目を通して見えてる世界を書いてる。そういう主観で人生観を書いているから、『In My Life』というタイトルにしたんです。
- EMTG:新曲の「In My Life」はどんな思いを書いたんですか?
- SALU:先のことってみんなわからないじゃないですか。不確定だし、そこに対する恐れが今までの人生は強かったんですね。知らないものは怖いし、わからないから怖い。でも、未来がわからないこそ、過去の人間はチャレンジを繰り返して成功を勝ち取ってきたわけで。誰にもわからないことをやれるからこそ人生は楽しいなっていう風に思えるようになったんですよ。というか、そう思うようにしなきゃと自分で仕向けていったんですけどね(笑)。そういう心の変化を書いたのが「In My Life」です。先がわからない恐怖心に打ち勝って、不確定だったものを自分で確定させていく喜びっていうか。そういうものを表現したかったんです。
- EMTG:「In My Life (Remix)」にPESを迎えたワケは?
- SALU:去年、あるテレビ番組でPESさんと対談させて頂いて、そのときに初めてお会いしたんです。僕は中学生の頃に「STEPPER’S DELIGHT」とかを聴いて以来ずっと好きで。その対談では好きな映画とか好きなPVとかを話したんですけど、それをきっかけにPESさんとは同じようなことを考えていそうだなって勝手にシンパシーを感じて。で、この曲ができたときに「これはPESさんに歌ってもらいたいな」って思ったんです。
- EMTG:もうひとつの新曲「Changes feat. Mummy-D」はどんなきっかけから作られたんですか?
- SALU:一番のきっかけは法事で生まれ故郷の札幌に帰ったことですね。いろいろ用事が済んで、明日朝イチの飛行機で帰るまで数時間っていうときに、17、18歳の頃、一緒にクルーを組んでたヤツとよく遊んでた公園をひとりで歩いてたんです。そのときに「やべえ、全部変わった」と思って。同じ場所なんだけど、誰もいないし、あの人も死んでしまったし、あそこにあった遊具もない。「同じ場所なのに何も同じことがないな。いや、同じことはある!」と思って、そいつに電話して呼び出しちゃったんですよ。で、2人で話してたんですけど、そいつがすごく悲観的で落ち込んでいて何もやる気がないように見えて。でも、僕の前だから取り繕って元気にしてるのは見え見えで、どこでこんなに変わっちゃったんだろうなと思って。その帰りの飛行機でこの歌詞を書いたんです。
- EMTG:今、彼は何をやっているの?
- SALU:普通に働いてるみたいです。でも職場を転々としていて。音楽はもうやってない。
- EMTG:その「変わること」とか「変わらないこと」をこの曲ではどんな風にアウトプットしたかった?
- SALU:その「あ、全部変わっちゃった」と思って電話したときの気持ちは、「あいつに会いたい」とか「会ったらまた普通に笑えるでしょ」っていうものだったんです。っていうことは目に見えてるものは全部変わるけど、気持ちは変わらないんだなと思って。物質的なものはすべて変わっていくけど、精神とか心、ソウルなものはすべて自分次第だなって。それで、「だから大丈夫だよ」とは言えないんですけど、「だからそこで止まってんなよ」って言いたかったんですよね、彼に。あと、それってすごく音楽と通じると思ったんですよ。音色や曲調は時代で変わるけど、魂を音楽に乗せるという行為や思いは変わらないなって。
- EMTG:この曲にMummy-D(from ライムスター)を迎えた理由は?
- SALU:僕が最初に書いた曲のトラックがライムスターの「ウワサの真相」のインストだったんです。以来、ライムスターはずっと追っかけてて。で、曲を書くきっかけになった友達はDさん(Mummy-D)にまったく関係ないけど、その公園で遊んでたときにライムスターの曲をよく聴いてたことを思い出して、「これを繋げたら絶対面白い」と思って。音楽でそういうことができたら、そいつも「おっ」って言うだろうし、自分にとってもここまでやってきたっていうスタンプみたいなものになるなと思って。
- EMTG:Mummy-Dのラップの最後には、SALUくんに向けたエールとも取れる歌詞が入ってて、なんて粋なんだと思いました。
- SALU:そうなんですよ。うれしかったですね。そこを初めてスタジオで聴いたとき何も言えなかったですもん、言葉にならなくて。
- EMTG:ところで、今現在、曲を作る際に心掛けていることは?
- SALU:最近はどんな些細なアイデアでも、会話の途中に思いついたら携帯電話を出してメモするようになりました。相手にどんなにウザがられても(笑)。で、それを探しにいろんな人に会いに行ったり、いろんなところをスケボーで滑ったり、行ったことのない街にひとりで行ったりすることを心掛けてますね。そうやっていても、出てくるのは自分の内にあるモノだけだと思うんですけど、外的な刺激との摩擦でその表面が変わって見えてくるかもしれないなって。
- EMTG:最近探しに行ったものは?
- SALU:僕、お酒がダイッキライだったんですよ。体質的にあまり飲めなくて。だから飲み会に行っても楽しくなくて寝ちゃってたんですけど、最近は体質の改善はできないですけど、マインド的には楽しめるようになってきて、今まで断ってた飲み会とかに行くようになりました。そしたら、みんな結構、普段見せない表情や自分が本当に思ってることを言ってるんだなあと思って。「いただきます」つって、その会話をネタにもらってます(笑)。
- EMTG:最後に、今後活動していく上でどんなことに一番注力していきたいですか?
- SALU:作詞ですね、やっぱり。僕は今、ライブがすごく好きなんですよ。バンドでやらせてもらったり、一緒に歌ってくれるお客さんが出てきたりして、すごく楽しいんですけど、そこで何かをインプットしたら、必ずアウトプットをしたいんです。新しい曲を書いてそれを披露させてもらう。披露させてもらうために曲を書くっていう流れを常に作らないと。作詞ができなくなったら、たぶんSALUの命が終わるときだと思っていて。けど、それまではずっと作詞を続けていきたいなと思ってます、ライブをするためにも。
SALUのラップは食感がクセになるグミみたいだ。フロウはにゅるんとしてるんだけど、歌詞は知的で噛み応えバッチリ。心の揺れを真摯に切り取る表現は独特のブルーな色味を帯びていて、彼の佇まいには孤高感や何かをやってくれそうなカリスマ性が宿る。事実、2011年に数曲の客演仕事をこなしただけでシーンの話題をかっさらい、翌年3月にリリースしたファーストアルバム『In My Shoes』で一気にブレイク。今やロックファンやオシャレ女子からも支持を集める今年一番の注目株に成長した。メジャーデビュー第一弾作品となる本作『In My Life』は、『In My Shoes』以降に発表したシングル曲に2つの新曲とリミックス1曲を収録。SALUの恐るべし才能に触れるには格好の入門盤だ。
【取材・文 猪又 孝(DO THE MONKEY)】
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