まるでコンピューターやシンセで緻密に作り上げた音世界を、人力のみで構築する4人組ギター・ダンスロックバンド、HaKUが、6月5日にミニアルバム『wonderland』をリリースした。
　彼らの持ち味でもある4つ打ちのダンスロックナンバーを更に洗練させ、様々な音楽要素を盛り込み、バンドとしての幅を更に広げた本作は、サウンドはもちろん、そこに綴られた言葉達が力強くなっていることに驚かされる。“もう行くしかないと思った”と語る、楽曲の作詞・作曲を手がけている辻村有記(Vo.＆Gt.)に話を訊いた。

EMTG：ミニアルバム『wonderland』、かなり手応えがあったと思うんですが。

辻村：そうですね。今まではまっすぐそのままゴールに辿り着くことがなかったんですよ。いろんなところで枝分かれして、そこで悩んで考えて、また枝分かれして、結果的に良い作品が出来ていたんですけど、こういうアルバムを作りたい！っていう太い芯を持ったまま行けたというか。そういう手応えはありました。

EMTG：自分達が意図していた通りに落とし込めたと。どんな作品を考えていたんですか？

辻村：『Simulated reality』でHaKUのひとつの味が出せたので、今回はもうひとつそこから伸びたもの──バラエティに富んだ作品、入りやすくて出にくいものを絶対作りたいと思っていて。４つ打ちの曲ももちろんあるんですけど、それ以外にもファンキーだったりヘヴィだったり、サウンド面のバラエティさが一番表現出来たなと思います。

EMTG：バラエティさもそうですけど、磨き上げられた部分もありますよね。リード曲の「everything but the love」は、HaKUとしてのコール＆レスポンスを考えて生まれたシングル「masquerade」を、更に強化したような印象がありました。

辻村：そうですね。お客さんとの距離感を近づけたいと思って生まれたのが「masquerade」で、それを持ってツアーに出たらもっと近づけることを知って。そこに望まれているものがあるんじゃないかっていうのが分かったので、それを音にしました。歌詞も今まではネガティブなことしか書けなかったんですけど、すごくポジティブなことを書けていて。自分を叱咤するというか。

EMTG：サビ始まりの歌詞が＜蹴散らせ！＞だったり、＜負けず嫌いであれ！＞っていう言葉で締めていたり。

辻村：ビックリマークもあんまり使ったことがなかったですし、初めてと言ってもいいぐらい、今まで自分が使わなかった力強い言葉を用いていて。これまでは「これが正解だからお前らついてこい！」っていうものじゃなくて、問題を定義して、それに対して一緒に悩みませんか？ っていう歌詞が多かったんですよ。でも、もう行くしかないと思って。

EMTG：なんでまたそう思えたんですか？

辻村：25歳になったんですけど、なんか、“あと５年”って思ったんですよね。30歳で音楽を辞めるとかは考えてないんですけど、この5年で変化をもたらさなきゃいけないって。もちろん30からも素晴らしい人生はあると思うし、この5年間を短いと感じるか、長いと感じるかは人それぞれだと思うんですけど……僕は、良い意味で短いと思ったんです。東京に出てきて１年経って、いかに自分が小さいところにいたか分かったんですよ。今まで暗くてじめっとしていたところにいたんですけど、そことは違うものが見えて。そうやって視野が広がったことで見えた世界を、どんどん音楽に投影していきたいっていう気持ちが、存分に出ているというか。でも、これを言ってしまったからには、そこに責任が発するし、もう後には退けないですね。前に進むしかないなって。

EMTG：なるほど。『wonderland』は全6曲収録ですけど、面白いなと思ったのが「defiance」でした。“HaKUは昔、生音のR&Bバンドをやろうとしていた”って以前お話しされてましたけど、まさにそういうグルーヴ感の曲で。

辻村：そうですね。その流れはありました。昔はこういうループ音楽が好きでよくやってたんですけど、あるときから全然曲が生まれなくなっちゃって。もう頭になかったんですけど、今回改めて出来るんじゃないかな？と思ってやってみたら、すごく素直に出来たというか。

EMTG：この曲も、ノリは違えど「ダンスミュージック」ですよね。

辻村：そうですね。「踊る」のカテゴリーっていろいろあって、「身体が踊る」のもそうなんですけど、僕らは「心が躍る」のもダンスミュージックだと思うんで。

EMTG：そんな曲のタイトルの意味が「反骨」とか「反抗」っていうのも面白いです。

辻村：いろんなニュースだったり政治だったり、気づかなきゃいけない時代になってきたじゃないですか。今までは見て見ぬ振りをしてたんですけど、それが自分達の生活と関わってくることを知った……25歳ですよね(笑)。

EMTG：なるほど(笑)。ちなみに、「wonderland」っていうタイトルはいつ決めたんですか？

辻村：曲が全部揃ってからですね。アトラクションというか、テーマパークをイメージした作った作品ではあったので、この作品が「ワンダーランド」っていうテーマパークになればいいなと思って。楽曲の中で＜ワンダーランド＞って歌ってる曲もあるんですけど。

EMTG：「眠れぬ夜にライトを当てて」に出てきますね。

辻村：こういうリアルな情景が見える楽曲も今まではなかったんですよ。東京に出てくる前までは──もちろん、今もですけど(笑)、車でずっと東京と大阪を行き来していて。関西の僕らからして、東京に向かって発進するときは、何が何でも結果を残さなきゃいけないっていう戦闘態勢でいくわけですよ。だいたい夜中に出て、音楽を聴きながら、後部座席に座って月を見ながら、頑張らないとなって。そのときの気持ちがずっと残ってたんで、それをそのまま歌詞にして、うまく音に乗せれたらなと思って。今までこういう曲がなかったっていうのは、こういう歌詞を書きたくなかったっていうのもあるんですけどね。全部バレちゃいそうで恥ずかしくて(笑)。でも曝け出してもいいかなって。

EMTG：音も言葉が力強くなっている中、ラストの「優しいモノと複雑なモノ」に驚きました。音数がかなり少ないですね。

辻村：自分の声と向き合ってみようと思って、この曲に関してはコーラスワークを入れてないんですよ。歌詞を届けなくちゃいけないっていうところで、マイクを変えたりしてみたんですけど、自分の声一本で出来る楽曲を作ってみたいと思って。自分がボーカリストとして向かい合うキッカケにもなったし、自分の声もこういう表現が出来ることに挑戦してみたくて。

EMTG：歌詞は孤独感がすごい強いですね。＜なんで僕を見つけるんだ？＞っていう言葉が印象的でした。

辻村：でも、この曲は「お前もっと行けよ！」っていう気持ちが一番強いんですよ。めそめそした言葉を羅列してるんですけど、これを書くことによって自分が歌うときに「お前は本当に幸せ者なんだからな？」って言い聞かせているというか。前に進もうと思っていても、やっぱり下がってしまう自分もいるんですよ。そういうときにこの曲があったら、また上がれるんじゃないかなと思って。

EMTG：1曲目の「ショウガイレンサ」にある＜救ってやれ＞も、自分自身に言い聞かせてたり？

辻村：そうですね。自分もそうだし、他の人もそう思わないのかなって。最近街に出ることが多いんですけど、面白いものでいろんないざこざに出会うんですよ。で、うわぁ大変そうだなって(笑)。そこからその人の先のことを考えちゃうんです。家に帰ってからすごい落ち込むんだろうなぁとか。そういう人に影なりのエールを送るというか、そういうときに救ってあげられる曲があればいいなと思って。

EMTG：辻村さん、優しいですね。

辻村：それヤバイっすね。一番恥ずかしいかも(笑)。

EMTG：いや、人の痛みが分かるというか、たまたま見かけた人の先のことまで想像出来る人って少ないと思うんですよ。

辻村：あぁ。でも、これすごく難しい問題だと思うんですよ、「痛みが分かる」って。痛みって、同じレベルの痛みを受けた人しか分からないから、僕より痛い思いをしてる人の痛みを、うまく感じられないというか。今も悩んでることなんですけどね。良い意味でも、悪い意味でも、もっといろんなものを見なきゃいけないって思うことが……やっぱりあったじゃないですか、この2、３年って。

EMTG：そうですね。

辻村：地震や台風があって、そこに対して痛みがあった。そこと向き合って書くんですけど……軽いんですよね。うまく書けなくて。気持ちはすごく思っているのに、書けないんですよ。言霊がないというか。それが分からないと、本当の意味で向き合うことができないんじゃないかって。

EMTG：30歳を超えても、ずっと見続けて行かなきゃいけない部分かもしれないですね。

辻村：そうですね。一生続くと思います。でも、それにいつ気付けるかで大きな違いはあると思っていて。音楽っていうものが間にあるけど、今気づけたのは良かったんじゃないかなと思います。

EMTG：辻村さんの心境の変化が色濃く出た作品になりましたけど、メンバーの皆さんに“変わったね”とか言われたりしました？

辻村：あぁ……“曲がポジティブになったね”って(笑)。でも、こういうところかもしれないですね。僕らは音楽で繋がっているので、音楽にすると自分が変わったかどうか分かると思うし、それに合わせた音を入れてきてくれるし。だからすごいラクではありますよね(笑)。メンバーも同じ方向を向けていたから、こういう作品が出来たんだと思います。

EMTG：すごく良いモードでツアーに入りますけど、久々の海外公演も決定していて。

辻村：楽しみですね。またここでキッカケを見つけてこなきゃいけない緊張感はあるんですけど、バンドの状態も今が一番良いし、何も臆することなく出せる作品が出来たし、向かって行く気持ちは前以上にむしろあるので、やれるだけのことをやって、また次に進めたらいいなと思ってます。

【取材・文：山口哲生】