奄美大島出身の個性派ユニット、カサリンチュの2ndアルバム『カサリズム2』が完成した。格段に音楽性の幅を広げた作品ながら、彼らならではのセンスと暖かさで統一感はバッチリ。さらに、地元の方言を組み込んだり、ヒューマンビートボックスを駆使する持ち前の手法はもちろん、ストレートなバンドサウンドを大胆に取り入れたりと、ふっきれた自由さも際だつ。彼らにいったいどんな変化があったのか？　そのあたりも含め、じっくりとインタビューに答えてもらった。

EMTG：今作『カサリズム2』は、1stアルバム『カサリズム』とはまた違ったいろんな楽曲が揃いましたね。

タツヒロ：そうですね、前作にはなかったカサリンチュを新しく出せたらいいなっていうのが大きなテーマとしてありました。

コウスケ：カサリンチュはタツヒロのボーカルとギター、僕のヒューマンビートボックスとボーカルからなる２人組なので、今回はそこをより一層、突き詰めていった感じですかね。

EMTG：タツヒロさんが10年間勤めていた会社を辞めて音楽１本にしたことで、これまでの制作とは変わった部分もありましたか？

タツヒロ：今までレコーディングは、奄美大島で僕らが録音した音を東京に送って、アレンジャーさんやディレクターさんが他のいろんな音を足してくれて、僕たちはその音を聴いて歌やヒューマンビートボックスを入れてたんですけど。仕事を辞めて音楽１本にしたことで、例えばストリングスなどの他の楽器のレコーディングに立ち合えるようになったんですね。どれだけの人が関わってるとか、そういう現場を観られるだけでも歌入れに対する気持ちの持っていき方が今までと違いましたね。

コウスケ：他のミュージシャンの方と“せーの”で一緒に録るスタイルもできて、そこでの楽しい感じも出てると思いますし。あと、より新しいことをしたいなと思って作った曲も入ってますね。それこそ１曲目の「あなたがそばにいるだけで」もそうですけど、意外とカサリンチュにラブソングってなかったんですよ。

EMTG：１人の人との人生を描いた優しいラブソングですね。

コウスケ：「ラブライバル」のような遊んだ感じのラブソングはあったんですけど、こういうストレートなラブソングは意外になくて。

タツヒロ：１曲目に持ってくることで、“これまでのカサリンチュとは違うな”っていう部分が出せてるのかなって思います。

EMTG：「New World」はTVアニメ『宇宙兄弟』のエンディングテーマでもありますが、まさしく音楽１本に決めたカサリンチュの心境とリンクしていますね。

タツヒロ：漫画の原作を読みつつ歌詞を書いたんですけども。その制作期間と、たまたま僕の音楽１本でやっていく……新しい世界に踏み出すっていうところとリンクしてたので、いい意味で自分に向けても書けたかなと思います。

EMTG：新しい世界に踏み出す感じがヒューマンビートボックスでも表現されていますね。

コウスケ：アップテンポな曲なんですけど、せかせかしてるわけではなく、徐々に前に行くようなサウンドになったと思います。

EMTG：「自力本願」もまた今までのカサリンチュにはないヒップホップ色の強いアップチューンですね。お２人のラップでの掛け合いも新鮮でした。

タツヒロ：ライブではお客さんとも掛け合いができたら楽しいなと思ってますね。

EMTG：“Do it by myself！”からの英語の部分も、タツヒロさんの声とヒューマンビートボックスの絡みもスリリングでした。

コウスケ：そうなんです！ そこは曲のフックになってると思います。

EMTG：「イントゥマヤ」はコウスケさんワールド炸裂ですね（笑）。

コウスケ：“イントゥマヤ”というのは島の方言で“犬と猫”、犬猿の中という意味なんですよ。タツヒロとコウスケ、２人をイメージして書き始めました。途中の三味線は“六調”と言って、奄美の伝統の、例えば宴会の最後のシメで踊るんです。先輩の中孝介兄に三味線を弾いてもらい、エレキギターはタツヒロが弾いてます。激しいゴリゴリのロックサウンドに、無理やり島んちゅを入れたみたいな（笑）。ライブではみんなに“ワンワンニャンニャン”言ってもらいたいですね（笑）。

EMTG：「正月ベイビー」はタツヒロさんワールドですね（笑）。

タツヒロ：僕、10月生まれの正月ベイビーなんです。奄美大島の自分の周りに10月生まれが結構いて、“正月ベイビーだね”っていう話を前からしてて。そういうテーマの曲があっても面白いかなと思って作りました。大きく言うと“愛の歌”なんですけど（笑）。

EMTG：サウンドはグルーヴあってすごくカッコいいのに……（笑）。

タツヒロ：そうなんです！ レコーディングのときもバンドのメンバーさんには“歌詞の内容は一切聴かず、曲に集中してカッコいい感じでお願いします！”と言って臨んでいただきましたね（笑）。

EMTG：「Happy Birthday」はタイトル通りバースデーソングですが、女性コーラスが印象的でした。

タツヒロ：とある広告代理店の方なのかな、グリコ『ZEPPIN』CMソングなんですけど、先方から“こういう感じで歌われたらどうですか？”っていう案として女性の声が入ってて。それに近い形にしつつ自分の声で歌ったんですけど、“いい声ですね”っていう話からコーラスで参加してもらうことになって。改めてレコーディングしてもらったんです。

コウスケ：まあディレクターとタツヒロが楽しそうだった（全員爆笑）。その女性の方のレコーディグがすぐ終わって、“えっ、もうOK!?”みたいな。俺いつも何回も録り直してるのに（全員爆笑）。“絶対に（ジャッジ）甘いでしょ？”って思ったら、上手でした（笑）。

EMTG：「トンネルぬければ」はアルバム最後を飾るに相応しい感動的な曲ですね。

タツヒロ：誰でも不安になったりすることもあると思うんですけど、聴いた人が少しでも前向きになったらいいなっていう思いで作りましたね。

コウスケ：やっぱタツヒロの声は、バラードが最高に合いますよね。こういう歌がアルバムの最後にきてしまったかなって思います。

タツヒロ：最後に「正月ベイビー」とか持ってこれんもんね（全員爆笑）。

EMTG：改めて『カサリズム2』はどんな作品になったなと思いますか?

コウスケ：本当ごちゃ混ぜの鍋みたいな感じですかね？ いろいろつついて好きなものを食べてくれよっていう。ライブでどうなるのかなって楽しみですよね。

EMTG：ライブと言えば、12月1日 奄美大島を皮切りに“あなたの笑顔にやめとま感謝祭2013?千秋楽になっちゃうかもツアー”が行われていますね。

コウスケ：これまで仕事の関係で２箇所とかだったんですけど、こうやってツアーとして全国を廻れるのは嬉しい限りで。

EMTG：サブタイトルの“千秋楽になっちゃうかも”が気になりますね？

タツヒロ：もともと『あなたの笑顔にやめとま感謝祭』は、僕がさとうきび工場で働いてて年明けにカサリンチュができなくなるので、年末に“今年もありがとうございました”という意味も込めて始めたのが発端なんです。今年、仕事を辞めたので、“あれ!? もう年末に限ることないんじゃないか？”っていうところから“千秋楽になるかも”ってつけまして。これ長い話なので端折って、“大忘年会です！”と言ってるんですけど（笑）。

コウスケ：大忘年会ですので、カサリンチュの部屋に缶ビールを持って鍋を食いにくるつもりで、もう自由な気持ちで楽しんでください。

【取材・文：牧野りえ】