今年のSOUL POWERでも大好評だった「SING!!!!!」。大学時代、実はアカペラ・サークルに所属していたという前山田健一（ヒャダイン）が、ゴスペラーズの20周年を愛とリスペクトをもって切り取ってコラージュしたら、こんなヘヴィ級な軽やかさになっちゃいました的な、ある意味アヴァンギャルドなナンバーだ。巷に巻き起こった賛否両論でさえ「それが作品の華」と楽しんでいるゴスペラーズもまた、アヴァンギャルドそのもの。12月21日の「成人式」に向けて、「十代」最後の青き冒険はまだまだ続きそうだ。

EMTG：とある番組共演がきっかけで、前山田健一（ヒャダイン）さんにプロデュースをお願いすることになったそうですね。

黒沢 薫：そうなんです。ゲストで行った僕らのトークに涙を流して笑ってくれたということがありまして（笑）、そこで初めて、ヒャダイン君がアカペラ・サークル出身だと知ったんです。半分冗談、半分本気で、「僕らをプロデュースするとしたらどんな曲にしたい？」と訊いたら、「声質に合わせてアレンジを変えるようなことをやりたいですね」なんて言ってたりもしてた。僕らのことをそんなに詳しく知ってくれてるのかぁと感心するほど、愛情を持って接してくれたんですよ。

EMTG：「SING!!!!!」では、ゴスペラーズをめぐる重要要素が、素晴らしく巧みに網羅されてますもんね。

黒沢：歌詞から、歌い回し、歌い継ぎやハモりのラインの振り分けまで、ほぼ全部、彼のビジョンを僕らが再現しました。ジャジーなところは酒井（雄二）が歌うよね、歌詞が「永遠に」とくれば安岡（優）だよね、と、その采配にいちいち納得。自分たちだったらテレが出て、「そこまではやんなくていいんじゃない？」となるところを、ズバッとやりきれましたね。

EMTG：G20（＝20周年）だからといってヘンに落ち着いたものにはしたくない、みたいな投げかけはしてたんですか？

村上てつや：基本的には盛り上がる楽曲でと。「組曲的にいろんな要素があるなかで、バラード・タイムがあってもいいけど」という言い方はしました。

安岡 優：ザックリ言うと、組曲スタイルで「侍ゴスペラーズ」（2ndアルバム『二枚目』収録）のようなものを書いてほしかったんです。「永遠（とわ）に」、「ひとり」で僕らがブレイクしたあとくらいに大学でアカペラ・サークルに入り、ライブにも足を運んでくれたことのある彼なら、きっと僕ら自身では的確に表現できないゴスペラーズらしさを出してくれるんじゃないかなと。

北山陽一：「ヒャダインってゴスマニアだったんだ」と、ファンが認めてますからね。それはホント、素晴らしい才能だと思います。

EMTG：ワクワクしながらデモを待ったという感じでしたか？

酒井雄二：いつになく楽しみでしたね。舞台装置とか早替えがいるような、もっとスゴいのがきちゃうかなとも思ってたんですけど（笑）。

村上：そういう意味では、ドキドキでしたよ（笑）。

北山：初めてデモを聴いたとき、僕は正直不安でした。この曲調だと踊らないわけにはいかないけど、今までのひき出しからでは落としどころが探せないなと。ということもあって、今回振り付けをえんどぅさんという新たな方にお願いしたんです。ゴスペラーズのことをよくわかってくれてる方で、僕らが必死にジャンプすれば届くくらいの水準まで、うまく導いてくれましたね。

EMTG：立ち位置がどんどん変わるフォーメーションが要となってますね。

安岡：フリが難しいというより、記憶力の勝負だったりします（笑）。

酒井：後ろ飛びみたいな動きもあって。

村上：一拍間違うと、玉突き事故みたいなことになりかねないんですよ。

酒井：いい緊張感があります。

安岡：自分も周りも信じるしかない。いいグループ芸のひき出しをもらった感じです。

黒沢：そういうのを呼ぶ曲調なんでしょうね。一つひとつの言葉で、ここまでめまぐるしく変わり続けるのは初めてじゃないかな。

EMTG：それをG20のタイミングに持ってくるというのが、今のモードなんですね。

酒井：チャレンジですよね。やったことのないことをやるとこれまでの自分との軋轢が生じる。「あ~」「う~ん」とうなりながらも、まだ伸びてるんじゃないかと思えたりもして。

安岡：成熟だけではなく、現在進行形のゴスペラーズもお見せしたい。「やったことないことにまだ足突っ込むんだ、この人たちは」と言われたいんですよ（笑）。

北山：まとめじゃないまとめというのかな。成熟も現在進行も入っているその構造美が、この曲のスゴさだと思いますね。

EMTG：たしかに。《あんな坂　こんな坂》にしても、ずっとやってきて、これからも続く「坂ツアー」のことを指してたりしますもんね。また、あの部分の、腕を振ってガシガシ歩く振り付けが可愛いくて（笑）。

黒沢：あれは実はMVが先だったんです。それをえんどぅさんが観て、採用したいと。

北山：MV自体も好評です。

村上：監督は僕らのMVを最も多く撮っている人。長く関わってくれてる人、初めて組む人、さまざまな波がここでピタッと合い、ギュッと凝縮された気がします。

EMTG：いいタイミングだったんですね。

村上：これまで僕らは、プロデューサーの名前でどうのこうのというやり方はしてこなかったけど、さすがに「ヒャダイン」はその名前だけで食いつく人も多い。ならばこっちもそれに見合ったタイミングじゃないとね。

北山：いろんな人が、どうであれ感想を口にしてくれるっていうのは、「ヒャダイン効果」だなと思います。曲のあの細切れ具合については、賛否両論だったりするんですけど。

EMTG：それも含めて面白いですよね。

安岡：何かコメントせざるをえなくなるというのは、ヒャダイン君の作るものの引きというか、華というか。ゴスペラーズが一番必要としてた要素じゃないかなと思います。

EMTG：「Be shiny」は対照的にシンプルでとても落ち着ける曲ですね。

酒井：一時、「SOUL POWERに似合う曲をたくさん作りたい運動」を個人的にやったことがありまして（笑）、これもそんな時期に生まれました。いわゆるスイート・ソウル。女の子と見まごう裏声と流麗なストリングス、ドラマチックな転調などが特徴です。なかなか採用されずに「お蔵」ってたんですが、今回タイアップでイケる曲をということで急遽出させてもらいました。転調のギャップを、歌詞的に「でも」という意味合いに生かして、心細さと安心の対比が見えるようになってます。

村上：CMの絵を見せてもらったときに、女性目線の歌詞が似合うんじゃないかという話になり、MIZUEさんにお願いしました。たとえば「傘」を持ってくるにしても、《想いは見えないUmbrella》なんてタッチは他の曲にはあまりないんじゃないかなと。

安岡：ソウルの文脈の「傘」じゃなくて、『シェルブールの雨傘』的な「傘」だなと。

EMTG：CMでよく耳にしますよ。

村上：あそこだけだと、すごくJ-P0P的に聞こえると思うんですよ。

酒井：転調の部分まで流れないのでね。

村上：隠れた変化球が見えないから、単純に温かい曲だなと感じられる。それはある意味オイシイなと（笑）。

EMTG：ああ、そういう見方も（笑）。エレクトリック・シタールの音が印象的です。

酒井：スタイリスティックスなどにたっぷり入ってる具材ですよね。もう大好物（笑）。僕の好きな音楽ってこういうのなんだよねというやり口も、時には大いにアリなんじゃないかなと思う１曲でした。

EMTG：さて、9月にはニュー・アルバムも。

村上：タイトルは『The Gospellers Now』。

安岡：1stが『The Gospellers』だったので、20周年で再び自分たちの名前を冠したものにしたいとは思ってたんです。そこに、これ以上ない直球の「Now」。力強い、と（笑）。

黒沢：「SING!!!!! 」と一致するモード。

村上：前作が、長い時間の旅といったカバー・アルバムだったので、今回はできるだけ書き下ろしたいという気持ちも強くて、そういう意味の「Now」でもあるんです。20年やってきてようやく上の世代とも下の世代とも一緒にやれる時期にもなったので、そういったコラボもひとつ軸になってます。

EMTG：9月からは“ゴスペラーズの『ハモれメロス』”という11年ぶりのシアトリカルツアーも始まります。

安岡：そのサントラというセクションもアルバムにはあります。

村上：60年代という時代設定でやる舞台なので、「なんでこれがNowなんだよ」と突っ込むべき古いタッチの曲も入ってる（笑）。それも含めてゴスペラーズの「Now」。そんな内容になってますので、ぜひお楽しみに。

【取材・文：藤井美保】