かりゆし58のニューアルバム『大金星』は、1人ひとりの人生に寄り添う愛ある1枚
かりゆし58 | 2014.10.08
- EMTG : 前回のアルバムが、主にライヴ向けの一体感や一丸性溢れる身近さを擁していたのに対し、今作は同じ身近さでも、人生や生き方といった、いわゆる<人に寄り添う形の身近さ>を感じました。
- 前川 : 今作で目指していたのは、まさにそこで。ミュージシャンであろうが、どこで何の仕事をしていようが、その人それぞれの人生じゃないですか。職種や生まれてきた場所も違う周りの友だちと話をしていると、みんな一様に自分の人生に勝負をかけて生きているんですよね。最近、改めてそのことに気づかされて。で、以前の自分だったら、それを羨ましく見ていたんだけど、最近は、その人はその人、自分は自分の生き方や人生があるってことに思い当ったんです。素直にそれらに対して、”お前のその人生最高だなぁ。俺たちは俺たちで楽しい人生を送ってるよ”って素直に表したり、歌に出来たのが今作かなと。実は作品のコンセプトは前回のツアー中には、既に出来てたんです。レコーディングに入る際には、歌詞も8割方出来てたし。
- 新屋 : 初めてって言っていいぐらい、今回はコンセプトや歌詞が先にあがってましたから。それもあって、今作は物語やビジョンがそれぞれに浮かびやすかったですね。あとはそこに向かって進むだけだったというか。毎度こんな感じだったらいいのに (笑)。
- 宮平 : (前川)真悟から初め、「次のアルバムは、こういったコンセプトでやりたい」って説明があった時は、正直、自分の中でも、まだそこまで考えが至ってなかったんですよね。だけど、キチンとやりたいことやビジョンが見えている人に委ねて、それをサポートするのが最適だろうと。なので、真悟の持つそのイメージや自信を、一緒に明確にしていった感じですね。
- 中村 : レコーディングも予定より巻き(短くてすむ)ましたから。あれも珍しかった。これまではホント、ギリギリまで制作していましたからね。今回はアレンジも、あえて味付け程度に徹しましたし。おかげさまでリラックスした環境の中、制作出来ました。
- 前川 : それらのコンセプトやイメージも、もちろん重要だったけど、今回は取り組み方を変えてみたのが一番大きかったかなと。
- EMTG : それは?
- 前川 : 今回はボツ曲が一切無いんです。どの曲にも良いところが絶対にあるので、そこを活かし、伸ばし、一曲として成立させていったんです。
- EMTG : なんか先生みたいですね。良いところを伸ばして、成績を向上させる、みたいな(笑)。
- 前川 : そうそう、まさにそんな感じで。例え今ひとつなところがあっても、それを上回るぐらいの良いところでカバーすればいいじゃないかって。それこそ自分の中では、”これだ!!”と思って作ったり、出来た曲たちですからね。それを愛でながら、それぞれ一人前にしていったんです。
- EMTG : その辺りはやはり、前川さんにお子さんが生まれたのにも関係していたり?
- 前川 : もちろんそれも含まれるけど、それこそ30数年生きてきた全てからですね。あとは、前作で自分の作る曲に感動できなくなったってところも大きくて。いやー、あれにはこれまでないぐらい深いところまで落とされました。それでも締め切りはやってくるわけで。その中でメンバーが奮起してくれて、なんとかアルバムは完成したんですけど、その時に、”本当にこれでいいんだろうか…?”と、凄く自分がイヤになったんです。そこからですよ。”よし、だったら曲の良いところを見つけて、引き上げてやろう”と思ったのは。そっちにシフトしてみたら、逆にどんどん楽になって、どんどん作品が良く映ってき出したんです。
- 宮平 : 正直、”真悟がそこまで言うんなら、信じて乗ってみよう!!”と思いながら今作は作ってました。それが一体感や一丸性に繋がったのかもしれないし。それらもあって今作は、これまでのライヴ感とはまた違ったバンド感を出せたと思うんです。
- 前川 : サッカーで言ったら、前作は全員がフォワードだったけど、今回はフォーメーションやポジショニングがしっかりできた感じで。
- EMTG : 全体的に音も生々しいですよね。
- 前川 : あえて後で揃える修正を施しませんでしたからね。当然お互いベストを尽くしたんだろうし、だったらこのテイクが最高だろうと。曲なんて結局はライヴを通して育っていくものだし。だったら、今回はあえてここまでにして、10年かけて育てて行こうって(笑)。
- 中村 : 自分のOKラインは、<楽しんで叩けているかどうか>でしたね。とにかくリラックスして叩きたかったんで、あえて半分ぐらいの曲は沖縄で録ったんです。スタジオも家から100Mぐらいのところだったんで、これまでになくリラックスして叩けました。やっぱり東京でのレコーディングと違うんですよね、環境も緊張感も。
- 新屋 : しかも各曲、今までよりもテイク数少なく出来たし。「生きていれば良い事あるみたいよ」は、優さん(同曲のプロデューサーのBEGINの島袋優)と一緒に、アコギ2本で一発録りをしたんです。この曲はより歌を大切に出来たし、ダイレクトに伝わってくれると思います。
- EMTG : でも、それだけ自分たちを信じてのレコーディングだったら正直プロデューサーさんも必要なかったのでは? 今回も自分たちを入れて5人のプロデューサーさんと一緒に作り上げてますよね。
- 前川 : 逆にこんな作品だからこそ、その曲たちが他の方のフィルターを通すと、どのようになるのかを見たかったんです。あと、編曲に時間を取られるなら、自分たちのプレイに集中したかったし。なので、今回までは色々な方にアイデアや方法論という宝をもらって、今後は、自分たちでやる選択肢もあるかな、と思ってます。
- EMTG : 個人的には、「E.D.O Dance」が白眉に感じました。これは電子音も入っていて、みなさんには珍しいアプローチですよね?
- 前川 : これは(宮平)直樹が作った曲で。この曲があることでアルバム全体の風通しも良くなり、リラックスしたところや遊び心も入れれたと思ってます。
- 宮平 : 僕の場合、歌詞はほとんど意識せず、メロやオケ重視で作ってますから。言葉が無い分、メロやサウンドでアピールするというか。やっぱり作った以上は、印象に残って欲しいし…。歌詞が無い分、逆に色々と別なところに変化をもたらせてみました。ギターソロもあえて古い感じで、90年代のJ-POPを意識して弾いたし(笑)。昔の感じもありつつ、今のEDMも交えてみたんで、面白い楽曲になったんじゃないかな。
- 前川 : この曲、最初は「東京」ってタイトルだったんです。直樹が都会の孤独をイメージして作ったみたいで。で、色々とタイトルを練っているうちに、「江戸」になり、「E.D.O Dance」にしようと。「EZ DO DANCE(TRFの大ヒット曲)」にもかかってます(笑)。
- EMTG : だからこの曲は、間に一緒に声を出せるところがあるんですね(笑)。
- 前川 : お約束ですからね、その辺りは(笑)。バブリーな時のJ-POP的な要素も入れてみました(笑)。
- EMTG : それにしても、「RRC」のテンポも速いですね。
- 中村 : ライヴが心配です(笑)。この曲はアルバム中、最もテンポの速い曲なんですが、叩いている間にケツがズボンに擦れすぎて、ケツから血が出ちゃいました(笑)。
- 前川 : 今回のアレンジャーさんは、ギター弾きの方、シンガーソングライター、ベースの方と、それぞれでドラムの捉え方が違ったんですよね。そのぶん(中村) 洋貴には、それぞれ過酷な要求がなされて(笑)。
- 中村 : 4種4様に鍛えていただきました。おかげさまで歌や歌詞を支えるドラムの叩き方を、それぞれで学ぶことが出来て。今作は、より他の楽器も歌も聴きながら叩きましたね。
- 新屋 : ラストの「大洋と太陽のBBQパーラー」は、一発録りだったんですけど、みんなでアイコンタクトを取りながら弾いたので、よりライヴに似た感じも出せたし。まっ、その分、自分が失敗したら、そのせいで、みんなが一からやり直しという、変な緊張感もあったけど(笑)。おかげさまで独特の良いノリが生まれました。楽しさも表れていると思うんで、是非聴いてもらいたいですね。
かりゆし58のニューアルバム『大金星』は、まさしく全肯定アルバム。作品全体に擁されたテーマと、人に寄り沿うような身近さ溢れているところが印象的だ。その人、一人ひとりの生き方や人生、過ごし方を、あえて肩の力を抜いて、<その生き方も正解>と言ってくれるかのように、光を当て、物語として綴ってくれている。また、4人のプロデューサーを交え、各人の演奏はもとより、一丸性溢れるコーラスやメンバーが持ち寄った遊び心溢れるアイデアや共作も、作品に新しい風を吹き込んでいる。
地元沖縄でのレコーディングも含め、これまで以上にリラックスした環境や精神状態のなか制作されたと言う今作。きっとこれまで以上に聴く者の心を大らかにし、明日への活力を与えてくれるにちがいない。
【取材・文:池田スカオ和宏】
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2015/02/07(土)熊本 B.9 V1
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。
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