クリープハイプ新作『一つになれないなら、せめて二つだけでいよう』スペシャル
クリープハイプ | 2014.12.03
ニューアルバムの全12曲 を、これまでの彼らの楽曲の歴史に照らし合わせて聴いてみよう。
メジャー・デビューして3作目、レーベルを移籍して初めてとなるアルバム『一つになれないなら、せめて二つだけでいよう』が、ついにその全貌を現わした。メジャー・デビュー以来、一瞬たりとも変化を止めないこのエネルギッシュなバンドは、新作でも新しいトライを次々に行なっている。そこで、ニューアルバムの全12曲を、これまでの彼らの楽曲の歴史に照らし合わせて聴いてみよう。
クリープハイプの楽曲は、今あるJ-ROCKのどのバンドとも似ていない。その最大の理由は、ヒットチャートをにぎわわせているアーティストやバンドたちが決して踏み込もうとしない“タブー”に、クリープハイプは敢えて挑戦しているからだ。ただし、クリープハイプはタブーを破るのが面白いからやっている訳ではない。自分たちが歌いたいことを歌ってみたら、それは結果としてタブーだっただけなのだ。
たとえばニューアルバム2曲目の「エロ」は、チャートに上がるシングル曲のタイトルとして、この単語は、まずない。その昔、サザンがずいぶん挑戦していたが、その後はほとんど見かけない。ちなみにサザンの1stアルバムに入っている「女呼んでブギ」は♪女 呼んで もんで 抱いて いい気持ち♪と歌う。このストレートな歌詞に、最初に桑田が歌うのを聴いたメンバーは、笑い転げたという。クリープハイプに話を戻すと、彼らの曲には赤裸々に20代男子の生理や欲望を吐き出す歌がかなりある。「エロ」の最後の歌詞は、こうだ。♪だってやってさよなら♪。尾崎は、情けない部分も含めて、男の性(さが)を、照れながらも正直に描く。もしこの曲をクリープハイプの“エロ・ジャンル”と呼ぶなら、初期の名曲「蜂蜜と風呂場」は“エロ・ジャンル”の最初の金字塔だ。また「ラブホテル」も、あり得ない曲タイトルの一つだろう。
そしてクリープハイプには、“エロ・ジャンル”の他にも、しばしば歌われるテーマがある。それは大部分が尾崎の性格や“世界観”に由来する。ひねくれていて、汚れていて、恋人とすれ違って、だから諦めの影があって、世間に反抗する。こう書くと尾崎がネガティヴな人間に映るかもしれないが、彼のソングライターとしての天才は、“ネガティヴを隠さずに、独特なポジティヴ感で歌ってみせる”ところにある。そこから生まれた歌たちは、“すれ違いジャンル”、“ひねくれ&反抗ジャンル”、“あきらめジャンル”などと呼びたくなる。
ニューアルバムから“すれ違いジャンル”を探してみると、「2LDK」、「ボーイズENDガールズ」、「大丈夫」、「寝癖」が浮上する。
「2LDK」は、一つの歌の歌詞の中に“男パート”と“女パート”が同居する、尾崎の独特なソングライティングで成り立っている。正直に言えない男と、口下手な女の組み合わせが多いのだが、この歌の女性は珍しく能弁だ。特に♪1秒毎に変わって行くあたしを許して♪の部分は、作詞家・尾崎史上、女性が最高に切れ味鋭い自己主張をしている。この女性のセリフは心変わりのことを言っているのではない。人間的成長を遂げつつある女が、男を置き去りにする、かなり怖いシチュエーションの歌なのだ。
クリープハイプには“すれ違いジャンル”の歌がたくさんある。代表格の「愛の標識」は、♪死ぬまで一生愛されてると思ってたよ♪と歌う。故郷に帰ってしまう恋人に、瀬戸際でこう言うしかなかった主人公がいる。
「ボーイズENDガールズ」は、「2LDK」とは対照的に、すれ違いながら恋人に依存して生きる女性の歌。ほとんど希望のない歌だが、もしこの歌の男と女を入れ替えても成立するのが、尾崎の歌の怖いところだ。逆に言えば、尾崎の歌詞は、“男=加害者VS女=被害者”という単純な図式には当てはまらない。だから、恐ろしくもあり、男女ともに共感を呼ぶのだろう。
「大丈夫」は、♪一つになれないなら せめて二つだけでいよう♪と歌う、アルバムタイトルに連なる曲だ。「一つになれないなら、せめて“二人だけ”でいよう」というなら、そこいらのJ-POPにもある表現だが、わざわざ“二つ”と歌っている点が尾崎の考えを表わしている。一個一個がばらばらなまま恋愛する。その一見冷たいすれ違いの切なさが、このバンドの特徴であり、魅力なのだ。
そして「寝癖」は、“すれ違いジャンル”の中でも非常に完成度が高い一曲だ。恋人二人は“気付いてない振り”ですれ違いながら、どちらも“髪が白くなるまで一緒にいたい”と思っている。ある意味、“落ち”を付けているのだが、そこに至る描写が痛いほどリアルなので、このハッピーエンドには心が温かくなる。
次のジャンルは、“ひねくれ&反抗”。クリープハイプのパブリック・イメージの一つになっているジャンルだ。レーベルに噛みつき、リスナーに噛みつき、世間に噛みつくバンドの姿勢は、痛快かつ爽快でもある。「社会の窓」とか、ちょっと心配なときもあるけど(笑)。
このジャンルでまず取り上げなければならないのは、「本当」だろう。♪捻じくれた気持ちで真っ直ぐ歩く♪や、♪正直に言えば「正直に言えない」♪というフレーズは、このバンドの本質をズバリ突いている。僕がいちばん好きなフレーズは、♪邪魔になって捨てた後で必要になる傘みたい♪。そう、クリープハイプのひねくれは、こんな感じ。社会のみんなが浮かれて、いつの間にか金持ちや政治家の策略に引っ掛かってひどい目に遭いそうなとき、警鐘を鳴らしてくれるのがロックの重要な役割なのだ。クリープハイプは、そんなロックの大事な役目を忘れていないバンドなのだ。
それを証明しているのが、「そういえば今日から化け物になった」だ。♪段違いに馬鹿馬鹿しくて笑っちゃうけど 世界を救うために生きてる♪は、ロックバンドとしてのプライドのフレーズだ。
「社会の窓と同じ構成」は、もうタイトルからしてひねくれている(笑)。「社会の窓」と同じく、レーベルやリスナーなど、自分たちの音楽と深く関わる対象への、油断のない構えが見えてくる歌だ。
“あきらめジャンル”は、「百八円の恋」だろう。クリープハイプのラブソングは、ほとんどがうまくいかない恋の歌だが、「痛い」と「居たい」を掛け言葉にするこの歌は、一層苦しい気持ちが伝わってくる。♪愛しのブスがあんたにも居たんだろ♪と歌う「傷つける」と並ぶ、オリジナリティの高い“あきらめソング”だ。
今や名物の“かおなしジャンル”は、「のっぺらぼう」。もう一人のボーカル&ソングライター長谷川カオナシの手になるナンバーだ。「火まつり」、「かえるの唄」と、アルバムやライブにアーシーなアクセントを付けてきたが、今回は♪僕は嘘ついた口でキスをした♪と描写がこれまでより一歩鋭くなった。尾崎にはない種類のロマンティシズムは、今後、優れたラブソングを生むかもしれない。
クリープハイプには“作り手側ジャンル”というのもある。“もしこれが自分の作る最後の歌だったら”という思いを込めた名曲「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」などの、アーティストならではの歌である。今回のアルバムにはもろにこのジャンルの歌はないが、しいていえばラスト・ナンバー「二十九、三十」がこれに当たる。♪いつかはきっと報われる♪なんてセリフを、尾崎から聞くとは思わなかった。思い切り照れながらの言葉にしても、「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」にあった絶体絶命からすると、クリープハイプはずいぶん遠くに来たと思う。いや、この歌の♪前に進め♪というフレーズ通り、前に進んだと思う。弱い自分と汚れた打算を認めながら、捻じくれた気持ちで真っ直ぐ歩くバンドを、ますます応援したくなる全12曲だ。
【文:平山雄一】
リリース情報
[Suck a Stew Dry] N/A【完全生産限定盤】
発売日: 2016年05月25日
価格: ¥ 2,900(本体)+税
レーベル: ラストラム
収録曲
1.GOEMON
2.インナーワールド
3.トロイメライ
4.レフストアンブルフィ
5.失恋、失恋。
6.空に星が降る夜は
7.冷たいリグレ
8.F.O.M.H.
9.一人じゃ生きれないわけでもない
10.ヒーローになれずに
11.ユースフル -used-
※「夢中でがんばれない君へエールを」恵比寿LIQUIDROOM公演ライブ映像付き
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リリース情報
お知らせ
一つじゃつまらないから、せめて二つぐらいやろう 前編
2015/01/22(木)本八幡 The 3rd Stage
2015/01/25(日)甲府 CONVICTION
2015/01/29(木)東京 Zepp Tokyo
2015/01/30(金)東京 Zepp Tokyo
2015/02/03(火)大阪 なんばHatch
2015/02/04(水)名古屋 Zepp Nagoya
2015/02/07(土)新潟 LOTS
2015/02/11(水・祝)福岡 DRUM LOGOS
2015/02/13(金)長崎 DRUM Be-7
2015/02/20(金)高知 キャラバンサライ
2015/02/22(日)広島 BLUE LIVE
2015/02/27(金)札幌 FACTORY HALL
2015/03/01(日)青森 Quarter
一つじゃつまらないから、せめて二つくらいやろう 後編
2015/03/21(土・祝)千葉 市川市文化会館
2015/03/28(土)岡山 倉敷市民会館
2015/03/29(日)滋賀 びわこホール
2015/04/03(金)福岡 福岡サンパレスホテル&ホール
2015/04/05(日)静岡 清水マリナート
2015/04/10(金)札幌 札幌市民ホール
2015/04/12(日)宮城 仙台サンプラザホール
2015/04/16(木)大阪 オリックス劇場
2015/04/17(金)大阪 オリックス劇場
2015/04/19(日)愛知 名古屋センチュリーホール
2015/04/24(金)愛媛 松山ひめぎんホール・サブ
2015/04/28(火)栃木 栃木県総合文化センター
2015/05/07(木)東京 NHKホール
2015/05/08(金)東京 NHKホール
2015/05/10(日)長野 ホクト文化ホール・中ホール
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。