大阪を活動拠点とする4人組バンド、感覚ピエロが6月9日に初の全国流通盤『Break』をリリースする。インディーズ時代の代表曲をコンパイルした今作。なかでも「O・P・P・A・I」（おっぱい）と題したおバカなダンスロックが笑えてかっこいいと話題を呼んでいる。作詞作曲を手がける横山直弘（Vo・G）は山崎まさよしや秦 基博の大ファンであり、聴かせたいのは感動できる「歌」だと語るが、彼はなぜ「O・P・P・A・I」に行き着いたのか？独自の切り口で活動する不可思議な集団、感覚ピエロにEMTG初インタビュー。

秋月琢登（G）：JIJI RECORDSの秋月と申します。よろしくお願いします。（名刺交換）

EMTG：バンドのメンバーと名刺を交換することはあんまりないんですけど。感覚ピエロは2013 年の結成と同時に、JIJI RECORDSという自主レーベルを始動してるんですね。

秋月：そうなんです。僕はずっとライブハウスで裏方の仕事もやってまして。いろいろ若手アーティスト、メジャーアーティスト、裏方の関係者諸々に感じることがすごくあって。感覚ピエロっていうアーティストを作るにあたって自分らを守れる何かがあったほうがいいと思って作りました。

EMTG：守れる何かっていうのは？

秋月：音楽業界の難しいことをわかったうえで進むのと、わからないまま進むのとは意味が全然違うと思ったんです。知ったうえで自分たちでできることなら、どんどんやったらいいなって。特にいまは大人じゃないと絶対にできないものがそんなにないと思うから。そうやっていまの世代の新しいものを作りたいんです。だからJIJI RECORSは感覚ピエロを自分たちでプロデュースするっていう意識で動いてます。

EMTG：メンバーはその「レーベル作ろうよ」っていう話にどう反応したんですか？

横山・滝口大樹（B）：オッケー！

EMTG：軽い（笑）。ふつうは「まずライブやってから」ってならない？

滝口：あったほうがかっこよくないですか？

横山：その「ライブやってから」っていう発想自体が何かに捉われてることだなと思うんです。自主レーベルもどうなるかわからないけど、やり始めるってことが大事で。新しいことを開拓していけるんだったら、見切り発車でも全然オッケーでしたね。

秋月：うんざりしてるんです。いろいろやり尽くされてる部分もあるじゃないですか。でも周りと違う結果を出すには、周りと違うやり方をしないとダメやと思うんです。いきなり自主レーベル、かっこいいやん、っていうのもひとつの答えで。

EMTG：なるほど。この「レーベルやろうよ」っていう発案に、「よし、やろう！」って迷わず言えることが、何かこのメンバーに共通するヴァイブスかもしれないね。

滝口：もともとメンバー全員に前進バンドがあって、それぞれがバンドを動かす立場だったんです。要はブレインが集まってるんですね。

秋月：もう世知辛いメンバーなんですよ。

EMTG：世知辛い？

秋月：そう。バンドの中心になって動かしていたけれども動けなくなってしまったから。みんなほんまはもっとこんなんやりたいっていうのがあったんですよ。

滝口：とりあえずPVを作るにしても、（他のメンバーが）「ごめん、ちょっと……お金がない」とか。「空けといて」って言っても「アルバイトを入れた」とか。

秋月：「用事が」「時間が」ってね。

EMTG：ああ、メンバー間に意識の差があった。

横山：だから、自分が前のバンドでやろうとしてたことをまずやりたい。誰かが1回やってて実はうまくいってないことだったり、やり始めた瞬間から結果が見えてることをどう変えていかなきゃいけないかで、ずっと悶々してたから。それで各バンドが終わって新しく始めたバンドでは同じようなことは二度としない。自分たちが今までやりたかったことを全部消化してやったら、どうなるか？と思って、がむしゃらに進んだ結果が……これですね。

EMTG：歯がゆかったんだね。

秋月：そう！歯がゆかった。そうなんです。だから、こういうメンバーが集まると、絶対に「あ、やろうよ」っていう結論に行き着くんです。

EMTG：なるほど。ここまで感覚ピエロは結成2年で4枚のミニアルバムを作ってるんだけど、その異常なスピード感の理由もわかった気がする。

西尾健太（Dr）：気合いですね。

秋月：僕らだけである程度できてしまうので。ボーカル（横山）がミックス、レコーディングをできるんですね。最初にマイクとか器材を買ってしまって、スタジオで曲ができたら、レコーディングのスケジューリングも全部自分らだけで組みますし。期限も先に決めてしまって自分らを追い込んでるんです。それがこういうかたちの話題に繋がったっていうのはありますね。

EMTG：今回のアルバム『Break』に収録されている「O・P・P・A・I」という曲はすでにYou Tubeでは40万PVを記録してるわけで。

横山：おっぱい、おっぱい言ってて、バカバカしい曲ですけど……。

EMTG：でも、これラブソングじゃない？

横山：……いや、ただ乳が揉みたかっただけです（笑）。

全員：あははははは！

滝口：俺、揉まれへんかったの覚えてる。2回目のライブのときに、こいつ（横山）が酔っぱらってライブハウスにいる女の子全員にカップ数を聞いていったんですよ。

横山：じゃんけんで5回連続で勝ったら乳が揉めるっていうのをやって。

滝口：で、負けたんだよ。

EMTG：バカだねー（笑）。

横山：っていうのがもとで、仮歌で♪おっぱい?って歌ってたんです（笑）。まあ……ざっくり…ものすごくストレートに言うと、めっちゃ流行りものの音楽じゃないですか。だからあの曲調に小難しい歌詞だったり、まっとうなラブソングみたいな感じにしたら、どうせ「また出てきたよ」みたいに思われる。だったら、おっぱいでいいやっていう。で、さらに「A-Han!!」っていう曲は4つ打ちミュージックなんですけど。そこはあえて、《4つ打ち待ってちょうだい》って歌ってみたりして。まあ、基本は僕がひねくれてるので……あんまり相手にしないほうがいいと思います。

EMTG：いやいや（笑）。たしかに作品を通して聴くと、作詞作曲を手がけてる横山くんのひねくれ具合はすごく伝わるけど。

横山：見たまんまですね。

EMTG：でも、ひねくれ者を自称するなら、いまのシーンの流行は無視して、もっと難解な方向に持っていくとかしそうだけど？

横山：たしかにこれまでのミニアルバムでは若干そのテイストが入ってる曲もあるんです。ただ流行りの音楽に対して、アンチなわけじゃないんですよ。4つ打ちミュージックも好きだからやってみる。ただ自分たちがやりたいものはダンサブルにフロアを踊らせたいだけじゃないくて。それも込みで歌をガッて聴かせたいんです。だって、「O・P・P・A・I」と「メリーさん」は対局だと思うんですよ。曲調的には。だから、流行りも、自分が良いと思うものも、うまいこと中和していけたらいいなと自分では思います。

EMTG：なるほど。いま出てきた「O・P・P・A・I」と「メリーさん」、わたしは対局だと思わないけど。どちらも勢いのあるバンドサウンドで、歌詞にパンチがあって。

横山：でも考え方はちょっと切り替えてやりましたね。「O・P・P・A・I」は振り切ろうと思ったし、「メリーさん」は自分がかっこいいと思うものをやったから。そこに差はあるんですよ。もちろん「O・P・P・A・I」もかっこいい要素はあるんですけど。

EMTG：うん、わかる。「O・P・P・A・I」は面白いけどかっこいい要素があるし、逆に「メリーさん」はかっこいいけど面白い要素があって。

横山：そういうふうに受け止めてもらってるってことは、どちらも感覚ピエロのサウンドとしてまとめられてたってことですかね。

秋月：真面目にかっこいいだけも良いんですけど、なんか面白くありたいし、でもかっこよくもありたいし。良い意味で気取ってみたり、チョケたりしてるんですよ。そこを振り切って、ちゃんと曲で泣かせるエンターテイメントでありたいっていうか。音楽でもあり、ショーでもあり、ライブバンドであり……。

EMTG：それが感覚ピエロですよね。しかし、「O・P・P・A・I」はPVをよく作ったね。

横山：「なんでこの曲でPV撮るん？やめとけや」ってめっちゃ言われたんですよ。でも蓋を空けたら、ざまあみろ！言ったとおりじゃないか（ドヤ顔）って感じじゃないですか。でも、僕らに対するイメージとして「O・P・P・A・I」が先走ってるのは感じてます。それはもともと狙ってたところではあるので、ひとつの結果として受け止めてはいるんですけど。だから、『Break』を聴いてもらって、「O・P・P・A・I」だけじゃねえよ、と。むしろ「O・P・P・A・I」なんて飾りだぜって言いたいですね。

秋月：かっこいい~！

【取材・文：秦理絵】