EMTG：まず今回のベスト・アルバムについて……。

TOSHI-LOW：だから、ベストアルバムじゃないって。

EMTG：あっ、そうでした。なんと言えばいいですかね？

TOSHI-LOW：トイズの人が選んだ曲だよ（笑）。

EMTG：わかりました（笑）その２枚組の作品については追って聞きます。まず映画『ブラフマン』を試写会で観たんですが……。

TOSHI-LOW：最後は横山健が真っ二つになって、地球も割れるというＳＦ映画だったでしょ？

EMTG：いやいや、どこでそんなことを考えるんですか（笑）。映画自体はBRAHMANの始まりをテーマにした切り口が興味深かったです。

TOSHI-LOW：あの発想はもともと箭内（監督）にあったわけじゃないからね。話が広がらないかなと思い、心配になっちゃって、余計な情報をあげたの。何も変化しないスタジオの様子ばかり撮ってるからさ。観てる人も辛いだろうなと。

EMTG：では、内容自体はある程度予想できました？

TOSHI-LOW：いや、それはないよ。そうしてほしいというわけでもなかったし、いままで振れてなかったこんな話もあるよって感じで話しただけで。

EMTG：かなり踏み込んだ内容でしたね。

TOSHI-LOW：結果ね。自分は知ってる人ばかりだけど、知らない人はどう思うのかなって。

EMTG：２時間全く中弛みせずにスクリーンに食い入るように観ました。

TOSHI-LOW：俺もKOHKI（Gt）が無言になってるときは息を飲んだけどね（笑）。

EMTG：僕は岡本太郎が好きで、「昔があるから今があるのではなく、今があるから昔があるんだ」と言ってて。今の気持ち次第で、昔の思い出は活かされもするし、殺されもする。映画を観ながら、その言葉を思い出しました。

TOSHI-LOW：全くその通りだと思う。「其限」を作るのはそういう作業だったから。20年間を振り返るというより、20年前のことを振り返るというね。映画にも20年前のことが出てくるわけでしょ？　ある人にとっては恨みを買うものになるかもしれないけど、受け止めるのは生きてる今だからね。今はこうなって良かったと言えるのか、やっぱりあいつのこと許せねえ、ぶっ殺してやるという気持ちで20年を過ごすのか……それは岡本太郎の言う通りだと思う。「其限」の歌詞の作業自体が、20年前の自分をいかに説得できるかという歌詞だったから。20年前に否定していた日本語だったり……そういう自分に対して、40歳の自分がどう説得できるかという作業だったから。それはそれでキツかった。

EMTG：相当キツいでしょうね。

TOSHI-LOW：過去は変わるわけじゃないけど、向き合うことで変われたのは自分なんだよね。当時の自分を見て、「其限」の歌詞を書き終えたときに、今の自分は変わったんだなと認識できた。それは変わらない過去があるからなんだよね。けど、変わらないわけではなく、今の自分によって変わることもわかった。それって凄いことだなと。20歳の自分が今の俺をものすごい勢いで全否定してくるからね。結局、いろんなことを誤魔化していたんだなと。でも蓋を開けてしまった以上、そこに向き合うしかない。そのときに小難しい言葉を並べてもしょうがないからね。

EMTG：結果論かもしれませんが、シングル「其限」、映画『ブラフマン』もこのタイミングだからこそ、生まれたものかもしれませんね。

TOSHI-LOW：俺はすべて結果論だから。やってるときは狙ってできない。ただ、出来上がったものが後で意味を成してくるんだよね。昔の自分が今を予見してるんだよ。

EMTG：なるほど。ここでアルバム『尽未来際』の話に移りたいんですが、特に１枚目は荒々しく、生々しくて、同時にすごくポップですよね。

TOSHI-LOW：若いってポップじゃん？　青春ってポップでしょ？　おじさんおばさんみたいにドロドロしてないわけだから。自分ではそういう意識がなくても、こういう形で並ぶと、ヘンにキラキラしてるし、嫌だなと思うこともあるけどね。

EMTG：ポップだし、ものすごく直球だなと。

TOSHI-LOW：当時はすごいヘンテコなことをやってるつもりだったし、受け入れてもらえないかなと思っていたけど。それがストレートと言われると、何なんだろうね？

EMTG：誰もやらないド直球みたいな勢いで。

TOSHI-LOW：はははは。ここから飛び降りてみろ！と言われたら、今なら躊躇するけどさ。何も知らなければ、飛び込んじゃうでしょ。初期って、そういうことなんじゃないかな。自分の限界も知らないわけだから。だけど、初めから腹を括っていたところはあったかな。レースに例えるなら、ずっと１位か、ずっとビリのどちらかでいいかなと。ずっと自分たちを笑い飛ばしてるところもあるから。これ誰もやらなくね？　ダセえなって、曲作りすることもあるしね。ダサい、いなたい、その中に何かがあるんじゃねえかと。最近、ライヴや曲作りで何をしたいのかと言われたら、グッと来たいんだよ。文字にすると、アホみたいな言葉だけどさ。でもグッと来たいの。自分が何を求めてきたかと言うと、グッと来たいし、人にもグッと心に来てほしい。

EMTG：映画『ブラフマン』でもメンバー４人が膝を突き合わせ、１歩１歩確認し合いながら曲作りするシーンが映されてましたね。あのシーンもすごく印象的でした。

TOSHI-LOW：もっと作り込んでくる場合もあるけど、「其限~sorekiri~」はああいう形だったからね。

EMTG：ああいうシーンを見せることに抵抗はなかったですか？

TOSHI-LOW：いままではそれに価値があると思ってなかったから、見せてなかっただけで。見られていい気持ちはしないけど、見たければどうぞって。どこを切ってもあけっぴろげな自分を作っておかないといけないから。自分の狙いはもっと上に置かないと、人には通じないしね。

EMTG：わかりました。8月は下北沢シェルター、下北沢Club251、新宿アンチノックを皮切りに、全国ツアーを経て、最後は幕張メッセ２デイズが控えてます。

TOSHI-LOW：20周年で幕張２デイズだけやるのはウソになるし。最初のライヴハウスは、20年前にBRAHMANが始まった日の３日間なんだよ。1995年の8月9日に初ライヴをやったからね。まあ、20年前のライヴハウスがまだあるのも凄いし、対バンもなるべく当時のメンツを呼んで。やりたいことはすべてライヴハウスに落ちてるから。ワクワクしてもらえたらないいなと。

EMTG：幕張メッセ２デイズに関しては？

TOSHI-LOW：それは今回の作品と連動してるんだよね。90年代の流れと、2000年代の流れ……仲良くなったバンドも全然違うしさ。１日目は90年代を知ってる人は楽しいんじゃないかな。これ何ジャムじゃん！みたいな……。当時のメンツが揃うよ。

EMTG：えっ、そうなんですか！　それはめちゃくちゃ楽しみです。90年代、2000年代と20年間の歴史を跨げるのもバンドをずっとやり続けてきた証ですよね。

TOSHI-LOW：どうせなら、大きく跨いだ方が面白いじゃん。２日間で20年を体感できるんだからさ。絶対観に来てよ！

【取材・文：荒金良介】