大好きな彼との初めてのお泊まり。ドキドキと胸が高鳴って、テンションはもう最高潮！　……のはずなんだけど、怖くて不安で逃げ出したくもなる――。そんな女子ならではの繊細な気持ちが描かれた、chayのニューシングル「好きで好きで好きすぎて」。リアルな描写の数々に、同世代女子は共感すること間違いなしのキュートな歌謡ポップスに仕上がっている。ここ最近の彼女のイメージとして定着しつつあるレトロな世界観、そして自身が歌謡テイストを歌うことへの意味も含め、chayの現在地に迫った。

EMTG：新曲「好きで好きで好きすぎて」は、自身最大のヒットとなった前作「あなたに恋をしてみました」（6thシングル）の路線を引き継ぐ歌謡テイスト。なぜ2作連続でこのようなシングルに挑戦したのですか？

chay：まず、「あなたに恋をしてみました」は月9ドラマ（「デート~恋とはどんなものかしら？」）の主題歌ということもあって、反響がすごく大きかったんです。聴いてくださる方の層が今まで以上に広がって、ライブにも同年代の方だけではなく親世代や家族連れでも来てくれるようになって。それが本当にうれしかったので、次回作も幅広い方に聴いてもらえるような、耳なじみのいい曲を作りたいと思ったんです。そのためにはやはり「あな恋」のレトロ感や昭和歌謡のテイストが重要だと思い、「次はもっとそこを追求した曲にしたい」という話を制作チームの皆さんとはしていました。

EMTG：手元の紙資料には「テーマは“リスペクト・筒美京平さん”」という文言があるのですが、今作にはchayさんから筒美さんへ向けた敬愛も込められているとか。

chay：そうなんです。歌謡テイストをより突き詰める…という話になったとき、“歌謡曲といえば筒美京平さん”という共通認識が私とプロデューサーの多保さん（孝一／元Superfly）の中にあって。私は両親の影響で幼少期から色んな音楽を聴いてきたのですが、「あな恋」制作時に改めて色んな昭和歌謡を聴いてみたら、“これも筒美さん、あれも筒美さんの曲だったんだ”ということがわかり。知らず知らずのうちに筒美さんの曲に慣れ親しんでいた……ということで、リスペクトを込めたオマージュのような作品を作ることで、歌謡曲の魅力をまた次の世代へ伝えていけたら、という想いも込めています。

EMTG：サウンド面では、生音のダイナミズムを活かしたオケも豪華で迫力がありました。

chay：音作りはすごくこだわりました。「あな恋」からほぼ生音で作っているのですが、生音ならではの豪華な感じや音の厚みが衝撃的で、最初に聴いたとき鳥肌が立ったんです。「あな恋」はストリングス隊だけでも10数人が参加してくださったオーケストラ編成で、それを肌で感じたとき本当に素晴らしいと思ったので、今回もそういう音作りを目指しました。

EMTG：打ち込みやEDM全盛の昨今、そこにあえて逆行するようなアナログの良さを再確認させてもらいました。

chay：生音になるとこんなにも違うんだということが私も驚きだったので、その魅力を皆さんにも味わってほしいなと思います！ ちなみに多保さんは音の細部にもこだわっていらっしゃって、例えばマスタリングした音を一度テープに落として……ということもやっているんです。アナログ感を出すために。マイクも色々な種類を試して、一番しっくりくる響きのものを使いました。

EMTG：そして、そんなサウンドに乗るのはchayさんの乙女心満載の歌詞。彼との初お泊まり前夜の気持ちが、超絶リアルに描かれています。

chay：ありがとうございます。「あな恋」は恋の魔法にかけられた女の子が主人公だったのですが、今回はその恋が実って、お付き合いをしていく中で一番ハラハラドキドキする瞬間っていつだろう？ と考えたときに、初お泊まりや初旅行だと思ったんです。

EMTG：では、「あな恋」の続編として聴いてもいい？

chay：はい。その主人公の女の子の恋をさらに進めた物語を書きたいと思ったので、続けて楽しんでもらえたらうれしいです。

EMTG：先ほども言いましたが、歌詞には初お泊まり前の“あるある”が満載で。“わかるわかる”と頷きながら聴いてしまいました（笑）。

chay：「あな恋」のときはまず体験をバーッと書き出したんです。そして今回は友達や周りの方に聞いたお泊まり“あるある”を箇条書きにして、そこからピックアップしていったので、リアルはかなり追求できたと思います。

EMTG：歌詞には入り切らなかった“あるある”もありますか？

chay：いっぱいあります！　“普段はTシャツで寝るけど、かわいいパジャマを買いに行く”とか（笑）入れたかったんですけどね~。

EMTG：全部入ったバージョンもいつか聴いてみたいですね（笑）。でもこれ、共感する世の女子が続出だと思いますよ。

chay：お泊まりって、普段のデートでは隠せている自分のダメな部分が隠しきれなかったりしますよね？ そこを見せたら嫌われちゃうかも……と不安がどんどん募っていくのは、やはり女の子ならではの気持ちなのかなって。その日に向けてダイエットを始めたり、美容院にも行ったり、でも空回りしちゃって、なぜか当日ニキビができちゃって……みたいな。

EMTG：めっちゃ分かります！（笑）

chay：ですよね（笑）。聴いてくださった方からもすでに共感の声をたくさんいただいていて、こういうのはみんな一緒なんだなーって思いました。でも、男性には理解しがたいらしいんですよ･･･（笑）周りの男性スタッフさんはみんな“そこまでする？　あり得ない”って。

EMTG：あはははは（笑）。

chay：すっぴん風メイクを研究するとか、意味が分からなかったみたいです。“夜、メイクを落とせない”とかも、（作詞共作の）いしわたり（淳治）さんに「肌、大丈夫？」って心配されました（笑）。でもそうやって男性に引かれるくらいのエピソードのほうが入っていて面白いんじゃないかなって。

EMTG：女の子はいかに大変か、というのをこの曲で男性に知ってもらいたいですね。

chay：好きだからこそ嫌われたくなくて頑張っちゃう、という健気な乙女心です。1番のサビでは、心配しすぎて荷物がどんどん増えていくんです。そのカバンが膨れていくさまを、自分の“好き”が溢れていく様子とリンクさせていて。気付いたら“好き”もカバンもどんどん膨らんでいって……っていうイメージです。

EMTG：カバンといえば、MVにも大きなカバンのセットが登場。中に作られたお部屋で、お泊まりの準備をするchayさんがとてもチャーミングな映像になっています。

chay：レトロ感が満載の、私も大好きなMVになりました。「あな恋」のMVに続き今回も70 ~80年代を意識したものになっているのですが、あの時代の歌手の方って本当にキラキラしていて。存在自体がポップというか、アーティスト本人も含めて目でも楽しませられる存在に憧れるんです。

EMTG：以前からchayさんは「目でも耳でも楽しませられるアーティストになりたい」とおっしゃっていますもんね。

chay：はい。今までずっと“自分らしさを確立させたいけど、それって何だろう？”って模索していたんですが、「あな恋」をリリースして、あのレトロ感に新たな自分らしさを発見できた気がしていて。もともとレトロなファッションが大好きで、そういう格好をしてレトロな曲を歌うってことが今のchayのスタイルとして確立できればいいなって。

EMTG：じゃあ今後もレトロな世界観を続けていく？

chay：それしかやらないわけではないのですが、自分の中では、ひとつ続けていきたいことではありますね。

EMTG：そういう作品を自分の色にしていくことで、リスナー層がさらに広がればうれしいですもんね。

chay：はい。今回の曲でいえば、筒美さんの曲をリアルタイムで知っている人には“懐かしい”と思ってもらえるだろうし、逆に今の世代には“新しい”という感覚で受け入れてもらえるのかなと。最近、SNSに「『あな恋』をお母さんが歌ってました。私も好きです」のようなコメントをいただいて。そうやって家族の中で私の歌を共有してもらい、コミュニケーションの媒介になれていることが本当にうれしいんです。

EMTG：家族を繋ぐ会話の中にchayさんの歌がある。それって、歌手冥利に尽きますよね。

chay：本当に。そういうコメントをいただいてから、この仕事へのやりがいをさらに感じるようになりました。

EMTG：最後に、12月17日からはクリスマスライブツアーがスタート。どんなステージになる予定でしょう？

chay：クリスマスツアーは初めてですし、とことんクリスマスらしいライブにしたいなって。衣装や演出も含めて、非現実を味わってもらえるような、目でも耳でも楽しめるステージにしたいです。頭の中にはすでにたくさんのアイデアがあって、考えているだけでもどんどん夢が膨らむので、それをできるだけステージに反映させたいですね。月並みではない、私だから見せられるものも入れていく予定なのでぜひ遊びに来てほしいです。

【取材・文：川倉由起子】