「メビウスの行き止まり」は、スカ調のリズムで軽快にぶっ飛ばすアップチューン。チャラン・ポ・ランタンの楽しくてポップな魅力が、一気に花開いている。バンド“カンカンバルカン”とまわった前回のツアーを大好評のうちに成功させ、彼女たちの勢いは止まらない。それどころか、さらに加速しそうなムードだ。
　リズムもサウンドも歌詞もアイデア満載のチャラン・ポ・ランタンは、これまで“音楽の愉快犯”的な活動をしてきたが、そこから真っ直ぐにリスナーにアプローチする“本気モード”にチェンジした模様。
　ニューヨークでのライブから帰国した直後の小春とももにインタビューしてみた。

EMTG： ニューヨークはどうだったの？

小春：ジャパン・ソサエティっていう日本文化を広めている組織に呼んでもらったんだけど、ライブは盛り上がったよ。この新聞（ウォールストリート・ジャーナル）、見てよ。見出しが“ダイナミック・デュオ”！だよ。どういう意味なのかね(笑)。

EMTG：2人のたたずまいは確かにエネルギッシュだけど、ダイナミックは言い過ぎかも(笑)。

もも：若い女性のお客さんもかなりいました。ロリータ・ファッションの人が多かったから、クール・ジャパンが好きな人たちが見に来てくれたのかな。でも外国人だから、日本のロリータとちょっと違う。本物過ぎて、“海外のホーンテッド・マンション”みたいだった(笑)。

EMTG： あはは、今回の海外遠征も大成功だったんだね。ニューシングルのこと、忘れちゃったんじゃないの？

小春：そんなこと、ないよ！自信作だよ。

EMTG：7月に「貴方の国のメリーゴーランド」を出したばっかりで、もう次のリリースだね。すぐに作ってみたいテーマがあったの？

小春：テーマがあったわけではないんだけど、夏にあちこちのフェスに出て、他のバンドを見てたら、みんな決まって“掛け声”の曲がある。 「オイ！オイ！」とかね。

EMTG： あー、そういうの“アンセム”って言うんだよね。

小春：自分たちは“オイ！オイ！”に慣れてなくて、「みんな、怒ってるの？」とか思ったり。

EMTG： それはないない！

もも：参加式ライブっていうんですか、そういうの。

小春：自分たちにはそういう曲がないなと思って。まあ、チャラン・ポ・ランタンはサウンドも近いバンドがないし、自分たちになくて、他のバンドにあるものって、多過ぎてよくわからない。だったらまず“掛け声”のある曲を作ってみようかと思ったの。

EMTG： そういう発想から「メビウスの行き止まり」は作られたのかぁ。

小春：うん。「メビウスの行き止まり」は♪オイオイオイ♪の部分から作ったもん。

EMTG： ももちゃんはこの曲を初めて聴いたとき、どう思ったの？

もも：凄くストレートな曲だったから、意外だった！前回の「貴方の国のメリーゴーランド」は、曲の途中でリズムが変わったり、サーカスっぽかったり、妖しげだったり、凄くチャラン・ポ・ランタンっぽい曲が多かったでしょ。だから、これを出したらみんなにビックリされるだろうなと思ってました。

EMTG： そういえばチャラン・ポ・ランタンって、リズムが変わったり、変拍子の曲が多いよね。

もも：そうなんですよ。よく他のボーカルの人から「あんなにコロコロ変わる曲を、よく憶えられるね」って言われます。でも私は子供の頃から 小春さんが聴いてたプログレをずっと一緒に聴いてたから、自然に憶えられるんです。“スピード・ラーニング”みたいなものですかね。プログレのスピード・ラーニング(笑)。 むしろカバーで普通の曲をやる方が憶えられなかったりして。

EMTG： 面白いね。そんなスピード・ラーニング、聞いたことない（笑）。

小春：自分が曲を作るときって、すぐいろんなパートを作っちゃう。でも今回は、「途中に別のリズムをはさむのはヤメ！」って思った。チャラ ン・ポ・ランタンのカバー曲に「ムスタファ」っていうアラブ民謡があるんだけど、ずっと同じビートが続く曲で、みんなが喜ぶ。だったら ビートが変わらない曲を作ってみようって。

もも：リズムが変わる曲は、私たち的には難しくないけど、今回はヤメて。

EMTG： “オイ！オイ！”を入れて(笑)。

小春：そうそうそう(笑)。

もも：もう一個、驚いたのは、歌詞の最後が♪ありがとう♪だったこと。だって小春さんて、普段、絶対「ありがとう」って言わない。

EMTG： そうなの？

小春：「ごめんなさい」も言わない。

もも：私はライブで「みんな、来てくれてありがとう」ってちゃんと言ってるんですけど。

小春：ももちゃんは、おじいちゃん似だから(笑)。

EMTG： あは。「ありがとう」って歌詞、小春ちゃん、なんかあったのかな？

もも：もう、ほんと、心配です(笑)。

小春：♪ありがとう♪を入れるか、正直、迷った。でも、普段は言わないけど、歌詞にしたら言えるかなって。

EMTG： やっぱり、何か思うところがあったの？

小春：今まで歌詞を書いてきて、それほど共感してもらえないなと感じてたんだよね。みんなは私と同じことを思ってないのかなと思って。

EMTG： デビュー曲が「親知らずのタンゴ」だけど、親知らずを歌にする人って珍しいかも（笑）。

小春：なのかな~（笑）。 チャラン・ポ・ランタンって「なんか怖い」って思われてたり。だったら楽しい歌詞を書いてみようって。

EMTG： 少し開き直り（笑）。

小春：そう言えば、過去にカナダツアーで面白かったのは、「人生のパレード」って曲で盛り上がったこと。この歌には♪終わりのない憂欝♪って歌詞があって、日本だと“暗い曲”って思われがちなんだけど。かなり歌詞に引っ張られることが多い。

EMTG： 確かに日本のリスナーは歌詞を中心に聴くことが多いよね。

もも：小春さんは、それでインスト・バンドをやってたんだもんね。

小春：でも海外だと、音楽全体で聴いてもらえるので、この曲を楽しんでくれるのが嬉しかった。

EMTG： それは嬉しいね。

小春：いつもだと「ありがとう」の後に「なーんてね」って書いたりするんだけど、今回は「ありがとう」を最後の歌詞にして、その後は何も言わないようにした。

EMTG： ももちゃんは歌ってみて、どうだったの？

もも：するっと歌えて、楽しかった。もうライブでやってるんですけど、お客さんも一緒に♪オイオイオイ♪って歌ってくれる。喜んで参加してくれる。やっぱり「こういう曲を待ってたのかな」って思いますね。

EMTG： 一気に突っ走る曲の中で、サックス・ソロとかもかっこいい！あれはカンカンバルカンのメンバー？

小春：そう、オカピ！ツアー中にレコーディングしたから、ライブの勢いが出てると思うよ。ライブの“やっちゃえ感”というか疾走感というか。

もも：フジロックとかもあったから、バンドのグルーヴが出てる。「今の私たちの力はこれだ！！」っていうのが出せたと思います。

EMTG： 確かに出てるね。カップリングの「戦う女」は？

小春：小泉今日子さん原作のドラマの主題歌で、自分たちの曲ではないんだけど、歌ってくれないかって頼まれたの。

EMTG： チャラン・ポ・ランタンの曲みたいに聴こえる。

小春：私の曲じゃないけど、こういう曲って好きなんだよね。でも自分では♪酒飲んで　脚広げて♪っていうような歌詞は書けないので、楽しかった。ライブの定番になってもおかしくない曲ですね。

EMTG： ギターとアコーディオンだけのアレンジも凄くいいね。

小春：ギターは“蜜”っていうバンドの橋詰遼さん。

もも：実はチャラン・ポ・ランタンにギターが入るのは初めてなんですよ。

EMTG： そうなんだ。

小春：オラオラ系のギターって大嫌いだから。でもこの曲はよかった。

EMTG： 凄く吹っ切れてて、いい感じ。なんか、チャラン・ポ・ランタンが大爆発しそう！！

小春：そして、凄いアルバムが出来ました！来年1月6日に出るので期待しててね。

もも：『女の46分』っていうタイトルで、楽しいアルバムですよ。

EMTG：“46分”って、もしやカセットテープで出すの？

小春：CDだよ。でもイメージはカセットに近いかも（笑）。ツアー“女たちの120分”もやります。

EMTG： 楽しみだぁ！　ありがとう。

【取材・文：平山 雄一】