3月にメジャーデビューした雨のパレード。そのサウンドはポップスともロックとも明確に定義しがたく、電子音とバンドサウンドを巧みに融合させ、最低限の音数でクールな響きを生み出している。そんな新世代バンドが、7月20日にメジャー1stシングル『You』をリリース。本作は歌そのもののエモーショナルさが際立っており、なおかつそれを聴きやすく仕上げているところが彼らなりの流儀である。今回のインタビューからはその秘訣が伝わってくる。

EMTG：3月にメジャーデビューしましたが、その実感はいかがですか？

福永浩平（Vo）：やっていることはずっと変わらないので、実はあまりないんです。これからも自分たちが曲げたくない部分は貫いて、それでいてメロディと歌詞は多くの人へ届くように意識しながらやっていきたいですね。

EMTG：さっそく「You」のお話へ入りたいのですが、福永さんは「辛い状況にある人を救える曲を書きたいとずっと思っていた」とコメントしていますね。そのきっかけは？

福永：玉置浩二さんの「田園」とかキリンジさんの「Drifter」とかって、グッとくるものがあるなと思っていたんです。だから僕もいつかこういう曲を書いてみたいなと。「田園」は、よくよく歌詞に注目すると《生きていくんだ それでいいんだ》と歌っていて、それって真理に近いというか。でも僕はまだ若いし説得力がないから言えないなと思うんですけど、今言える精一杯のことを言えたのが「You」ですね。

EMTG：本当に大切にすべきものを大切にしたいという強い想いをシリアスに書いています。説得力がないと感じつつもその想いを楽曲にし、発表しようと思ったのはなぜですか？

福永：メジャー1stシングルという、このタイミングで試してみたかったというのはあります。オケも本当に納得のいくものができたし、メロも好きだったので、この曲でこのテーマに取り組んでみたいという気持ちがありました。この曲の挑戦として、間奏がないんですよ。だから歌詞も多くなったので、今までで一番苦労したかもしれないです。レコーディングする前の日から書き始め、14時間半ぶっ続けで仕上げ、10分の睡眠を経てレコーディングするという。

EMTG：その追い詰められた状況によって、歌がさらにエモーショナルになっているのかもしれないですね。

福永：特にCメロは、寝ないことによって良い声のニュアンスが出たかもなと思います。

大澤実音穂（Dr）：たしかにね（笑）。

EMTG：山崎さんは「You」に対してどうアプローチしました？

山崎康介（Gt）：ざっくり言うと質感ですね。クリーンのきらびやかな質感を大事にしました。あとはシンセもところどころ弾いていて、わりと最近導入したものなんですけど、それもうまく入れ込めたなと。

EMTG：大澤さんはどうでしょう？

大澤：特にハットとかは音を選ぶのが大変なんですけど、この曲はすぐに決まったというか。

福永：最初からスナップ（指をパチンと鳴らすこと）を使いたいっていうのがあったよね。僕らの好きなエレクトロ・ハウスやR&Bは、けっこうスナップでリズムを刻む人も多いんですよ。やってみたらめちゃめちゃハマって。

大澤：うん、あとはサンプリング・パッドを2つ置いてるんですけど、どっちも使っていて。私、電子音のタムの音が好きなんです。それを使えたというのが私的にはうれしくて、「気持ち良いー！」と思いながら録りました。あと2番ではハイハットじゃなくクラベスで裏打ちしてるんですけど、これがハマるっていうのも発見でした。逆にサビは生ドラムだけでやれたのも大きかったですね。

EMTG：生ドラムや木製打楽器からサンプリング・パッドまでを駆使するところがこのバンドの懐の深さだと感じます。ベースに関して、是永さんにしてはシンプルなプレイだと思いました。こだわった部分はどこでしょう？

是永亮祐（Ba）：フレットレス・ベースを使ってみたらすごくハマりましたね。でもプレイというよりは、どちらかと言えば音色押しの曲ですね。

EMTG：改めてこの曲はどんな人に聴いて欲しいですか？

福永：本当に多くの人に聴いて欲しいですね。これが僕らのポップスだと思っているので。ポップスって更新していくものだと思っていて、僕らは全力で良いメロや良い歌詞を書いて、大好きなサウンドを詰め込むだけ。そうやって自分たちのポップスを更新していきたいです。

EMTG：実際、この曲のサビのコード進行はJ-POPのヒット曲に通じるものですが、そこは意識しました？

福永：いや特に意識しなかったですけど、王道的な進行だということですよね。そのほうがメロを作りやすので好きです。僕らが魅せる部分は、アレンジや歌だと思っているので。

EMTG：では2曲目の「In your sense」についてですが、どのように作ったのですか？

福永：2、3曲目はキャンペーンやアニメに書き下ろした曲で、「In your sense」は、オケ自体のアイディアは前からあったんです。

EMTG：ギター・リフが耳に残りますね。

福永：ネタ作りの時にできたって感じですね。ザ・ジャパニーズ・ハウスというバンドがいて、それこそ80年代っぽいコーラスの感じが聴こえたりするんですけど、そういう雰囲気を意識してギターの音作りをしたよね。

山崎：はい、だから久々にコーラスをかけて、ちょっとノスタルジックにしました。

EMTG：3曲目の「morning」は歌詞が素朴で、アレンジも極限まで引き算をした弾き語りのような楽曲です。

福永：そうですね、新しいことをやりたかったのでピアノで弾き語りっぽくしてみました。

EMTG：ピアノの演奏は山崎さん？

山崎：はい、ピアノ経験ゼロの人間が、スタジオのすごく立派なグランドピアノを弾くというシュールなレコーディングでした（笑）。

福永：矢野顕子さんお気に入りのピアノだったんだよね（笑）。すごくシンプルな曲ですけど、レコーディングとミックスで伸びたなと思っていて。声はラプスリーを意識したりしていて、その感じが気に入ってます。これまで歌はコーラスを重ねることが多かったんですけどこれはシングルで、それがハマったなと思いますね。

EMTG：なるほど。9月にワンマンツアーを控えていますが、ワンマンツアー自体は前回が初でしたよね。今回はどんな姿を観せたいですか？

福永：前回はその前の列伝ツアーから近かったこともあって、戦う相手がいないと燃えない感じもあったので（笑）、今回は自分たちだけで最大限のパフォーマンスを出せるようにしたいですね。

大澤：やっぱりただステージを観せるだけじゃなくて、1曲1曲お客さんに伝わるようなライブができればと思いますね。

EMTG：4月のツアーファイナルは、特に冒頭はみなさんの緊張感が伝わってきたのですが、大澤さんだけは自然体のように感じました。

大澤：笑ってたからですかね（笑）。最近、ちゃんと伝えるために顔を観せることって大事だなと思うんです。ただ叩いてるのを観るだけだとつまらないかなと。

EMTG：よりお客さんに向けたライブをしたいと。

是永：そうですね。本当に前回はセットリストをやり切ることに精一杯だったところもあって、もっといけたなと思うんです。だから次はお客さんの想像をはるかに超えていきたいですね。

福永：もっと1曲1曲に緩急をつけて、最高のものを届けたいと思います。

【取材・文：秋摩竜太郎】