高橋優 15thシングル「光の破片」への思いを語る。

高橋優 | 2016.08.23

 アニメ『orange』のオープニングテーマとして書き下ろされた「光の破片」。繋がったり離れたり、満たされたり傷ついたり、安らぎを感じたりすれ違ったり……当事者にとっては決して喜びにばかり満ち溢れているものではないが、かけがえのない美しさを紛れもなく秘めている人間関係を描いた曲だ。今作はその他にも3曲が収録されているが、これらもぜひ多くの人に聴いて頂きたい。高橋優のアーティストとしての本質部分にあるものに触れられると思う。彼はどのような想いを抱きながら、このシングルを完成させたのか? じっくりと語ってもらった。

EMTG:「光の破片」は、『orange』のオープニングテーマのお話を頂いて書き下ろしたんですか?
高橋:はい。『orange』は、誰かと誰かがくっついたり離れたりする姿が綺麗に描かれているんです。素敵な人たちなのに、すれ違ってしまう瞬間もあって。人間関係って主観で見るとややこしいことがいっぱいあるんですよね。「そういうことに似ているものが何かないかな?」と探した時に浮かんだのが万華鏡でした。別々の色で、歪な形のもの同士が集まったり離れたりするからこそ万華鏡って綺麗に見えますし、人間関係もそうなのかなと。
EMTG:万華鏡をモチーフにするというのが独特ですね。好きだったんですか?
高橋:実はそうだったんです。先ほど、別の取材で「万華鏡っていう表現、ロマンチックで女の子っぽい」って言われて、「そうなの?」って思ったんですけど、そういえば僕は姉が2人いて、家に普通に万華鏡があったんですよ。ほんと好きでした。この曲のリリースを間近にして、自分に女の子っぽい側面があったんだと気づいて、ちょっと恥ずかしい感じもあります(笑)。
EMTG:(笑)高橋さんがオープニングテーマを歌うというのは、『orange』の原作者の高野苺さんのご希望だったそうですね。
高橋:そうなんです。『orange』の中に登場する翔(かける)くんという男の子はいろんなことに悩んだりしているんですけど、そういう表現を描いている時に僕の「少年であれ」を聴いてくださっていたみたいなんですよ。楽曲は作るまでは自分のものだけど、歌ってしまったらもう聴いた方々のものになると思っています。聴いてくださった方の中に漫画家さんがいらっしゃったっていうことに喜びを感じています。自分が発信したものを受け取った方の中に、こんな素敵な作品を創られる漫画家さんがいらっしゃったんだなと。
EMTG:リスナーのみなさんそれぞれ、高橋さんの音楽から大切な何かを受け取っているんだと思いますよ。
高橋:そう考えると、いろいろ思うことがありますね。「何のために生まれてきたんだろう?」って思うことってありません?
EMTG:あります。
高橋:一説によると人間って最初は、お母さんのために生まれてくるんですって。とある映画で言っていたことなんですけど。でも、親は永遠ではない。じゃあ、「その後は何のために生きるの?」っていうと、「やっぱり誰かの役に立ちたくて生きてる」と。でも、「歌」っていうのはその点で難しくて……。「自分のために歌ってます」って言い切れたりもするものですから。「お客さんに観て欲しい」っていう願いがあるとしても、それは「お客さんに観てもらいながら歌いたい」という自分の願望でもあるので。だから「だったら自分のために歌ってるじゃん」って言われたらそれまでなんですよ(笑)。
EMTG:堂々巡りになりますね(笑)。
高橋:はい(笑)。とはいえ、誰かの幸せを願っていることにもなるのかなと。そういうことで、よく悩むんですよね。でも、結局「自分のために生きている」と言ってしまえばそれまでだけど、自分のために生きたことによってほんのちょっとでも誰かのためになればいいなっていうのは、ずっとありますね。「お前のためにやったのに!」とか、押しつけがましいことは言いたくないですけど、「あなたの歌のおかげで」とか言ってもらう日が来ると、「ああ生きてて良かったな」って思えます。
EMTG:なるほど。ところで、今回のシングルって、アニメをきっかけに手にしたリスナーに高橋さんの音楽を知って頂ける1枚にもなるのでは?
高橋:僕もそう思っていました。だから2曲目と3曲目をこうしたんですよ。初めて聴く方々に、こういう面も見て欲しかったので。
EMTG:僕、2曲目の「TOKYO DREAM」を聴いて改めて思ったんですけど、高橋さんの歌の根本に少なからずあるのって、やはり「怒り」なのかなと。
高橋:「TOKYO DREAM」は、そうですよね。
EMTG:街の風景に見出した歪さとか、世相に対して覚える違和感が、すごく反映されていると感じました。
高橋:そういう感情が消えていないというのは、僕にとっての1つのバロメーターというか。これからも活動を続ける上での1つの指針になると思っているんです。
EMTG:僕が初めて高橋さんの歌を聴いたのは、たしか「こどものうた」だったんですけど、あの時に感じたのは、「この人、怒りの人だ」っていうことだったんですよ。MVも指から血を出してすごかったですし。
高橋:あの時はパワーの出し方をいろいろ間違っていたようにも思いますが(笑)。僕、「怒りに任せてむき出しの感情でやってる」って言われた時期があったんです。デビュー当時は特に「高橋優はむき出しのことを歌ってる」と。でも、最近は「当時のあれはポーズ。世に出ていく作戦だったわけで、今は売れたいからバラードをやるのね?」って思っている人もいるというのを、最近、何度か感じる経験があったんですよ。でも、「TOKYO DREAM」を書いて、「やっぱ俺、むき出しなんだな」って思いました。そして「怒り」もありますね。
EMTG:高橋さんは、日常生活の中では周囲に怒りを悟らせないタイプですよね?
高橋:そうだと思います(笑)。僕は中学校か小学校くらいの頃から、そういう感情を隠すのが非常に上手になってしまったような気がするので。でも、僕はそういう出来事や感情をものすごく記憶しているところがあって、それが気がつくと曲になっているんですよね。「怒りに身を任せてはいけない」という冷静な自分がいながらも、心の中にはすごく破綻している自分がいるように思います。「怒り」って言うとかっこいいですけど、それよりももっと破綻した感情ですよ。そういう感情、「心」という形のない存在を、自分はたまにこうして曲の中に投影している気がします。
EMTG:3曲目の「誰かの望みが叶うころ」にも激しい想いがこもっているのを感じます。世相を深く抉っている曲だなと。こういう作風も高橋さんの一面ですね。
高橋:「政治とか世相とかに対して物申すようなシンガーとして見られることについては、どう思いますか?」と訊かれることもあるんですけど、僕は意外とそういうことは考えていないんですよね。語弊があるかもしれないですけど、そう見られてもいいし、見られなくてもいい。ただ歌っていたい。どれだけ腹黒くなったりしたとしても、歌だけに関してはピュアでいたいので、僕は見たまんま歌う。感じたまんま歌う。ただ、そのことによって人を傷つけたくはない。傷つけるより誰かを鼓舞するものになったらいいなと思っています。
EMTG:「誰かの望みが叶うころ」は、いろんな捉えられ方をするでしょうね。
高橋:僕の中で思い描いていることはいろいろあるんですけど、賛否が生まれることに対して否定もしないし肯定もしないようにしようと思っています。歌はできるだけ自由に受け取って欲しいという願いがあるので。
EMTG:誰もが満たされて幸せになるのが望ましいはずなのに、現実はそうではないという皮肉。誰もが心に秘めているのかもしれない暴力願望を描いた曲として、僕は受け止めました。
高橋:誰の心の中にも破壊願望とか悪意ってあると思うんです。でも、そういうことだけで殺し合っちゃいけないし、何も関係ない子供を巻き込んじゃ駄目だよと思うんですよね。こういうのって、身近なところにもあると思います。実際、僕のすぐ近くでもありましたから。心の傷を負ったお子さんがいる女性なんですけど。その女性がトイレにこもって子育てを放棄してしまった時期があったことが、お子さんの心の傷の原因になったようなんですよね。この曲の《差し伸べられるのは温もり?それとも鉄の塊?》は、「お子さんを受け止めてあげるのではなくて、トイレのドアノブしか用意してあげなかった」という捉え方もできるんじゃないでしょうか。
EMTG:なるほど。今日、こうやってお話をしながら、アルバムタイトルに掲げたことがある「リアルタイム・シンガーソングライター」という言葉を思い出しました。
高橋:今回のシングル、そういうものになっていますよね?
EMTG:はい。「リアルタイム・シンガーソングライター」って、箭内道彦さんが考えた言葉でしたっけ?
高橋:そうです。「高橋は今思ったことを今歌うから、高橋の歌は古くなって切り捨てられる。それでいい。ただ高橋は衝動的に書き続けるだろう」ということをおっしゃったんです。「なんてこと言うんだ! 一生懸命書いた歌を捨てないよ」と思ったんですけど(笑)。でも、「こどものうた」とか、まさにそうなんですよね。「この歌は早く過去になって、恥ずかしい歌になればいい」と思ったんですよ。《セクハラ先生》とか《暴力ママ》とかいう言葉が「そんな辛い時代があったよね」という風に何年後かになると思って書きましたから。でも、この曲から数年経って何かが変わったかといえば変わっていなくて、むしろもっとひどくなっている気がします。「TOKYO DREAM」と「誰かの望みが叶うころ」に関しては、そういうことを自分なりにフラットな気持ちで描きたかったんです。
EMTG:今回シングルはメガネツインズ(亀田誠治とのユニット)の「視力検査」も収録されますし、違う角度から放つ高橋さんの本質が4曲それぞれに反映されていますね。
高橋:「光の破片」というストレート球、「TOKYO DREAM」という変化球、「誰かの望みが叶うころ」というナックル。そして、「視力検査」というちょっとおちゃらけた自分(笑)。いろんな自分をこめられたシングルって、今までに意外となかったんですよ。デビュー当時の感じに近いかも。『素晴らしき日常』のカップリングは、ラブソングの「8月6日」でしたから。あれはなかなか変わったシングルでしたけど、それにまた1周回って戻ったような感じが僕の中ではあります。
EMTG:「視力検査」まであるわけですから、幅の広さは過去最大級でしょうね。メガネツインズはもう第3弾。このまま行くとアルバムまで作っちゃうんじゃないでしょうか?
高橋:アルバムはメガネツインズの野望なんです。この野望を話すと周りの人間が沈黙するんですが、僕と亀田さんの中だけは「ワンマンをやろう!」とか「アルバムを出そう!」とか「サングラスを作ろう!」とか、話は尽きないんですよ(笑)。
EMTG:ノリノリじゃないですか(笑)。
高橋:次のシングルでメガネツインズの曲がなかったら、それはアルバムへの布石かも。「メガネツインズは本気になったぞ!」と(笑)。
EMTG:(笑)このシングルを出した直後にもお楽しみが待っていますね。『秋田CARAVAN MUSIC FES 2016』が開催される予定ですが。
高橋:これは僕の人生きっての大イベントになると思います。今年は最初の年ですから、一番大変でしょうね。雪玉で喩えるならば、今年はないところから雪をかき集めて雪玉を作るようなもの。来年以降はその雪玉を転がして大きくしていく作業になりますけど、その核となる雪玉を作るのが大変なんですよ。まずは1年目、どれだけいいものをやれるのか? 勝負です。そしてキャラバンなので、回を重ねながら秋田の全部の市を回るものにしていきたいと思っています。

【取材・文:田中 大】

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リリース情報

光の破片[通常盤]

光の破片[通常盤]

2016年08月31日

ワーナーミュージック・ジャパン

1、光の破片 (MXTVアニメ『orange』オープニングテーマ)
2、TOKYO DREAM
3、誰かの望みが叶うころ
4、視力検査/メガネツインズ(高橋 優&亀田誠治)

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■ライブ情報

秋田CARAVAN MUSIC FES 2016
2016/09/03(土) グリーンスタジアムよこて
2016/09/04(日) グリーンスタジアムよこて

風とロック芋煮会2016
2016/09/18(日) 白河市しらさかの森スポーツ公園

※その他のライブ情報・詳細などはオフィシャルサイトをご覧ください。

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