レビュー
高橋優 | 2016.03.09
高橋優
「さくらのうた」
高橋優は「さくらのうた」を早くみんなに聴いて欲しいとひたすら思っていたに違いない
やりたい放題、しかもハイクオリティのシングルだ。タイアップ曲「クラクション」を差し置いて、タイトル曲とした「さくらのうた」は高橋優史上、最高にロマンティックなシーズンソング。またラストを飾る「メガネが割れそう」は亀田誠治との深い絆で結ばれた“メガネツインズ”名義でのパフォーマンスだ。聴いて欲しい曲が書けている自信と、やりたいことにあふれているアーティスト・スピリットが、今の高橋のコン ディションの良さを表わしていて頼もしい。
「さくらのうた」は非常に攻撃的な構成を持っている。中低域の声を豊かに響かせて歌うAメロ、伸びやかなBメロ、非常に重みのあるCメロ、切なく畳みかけるDメロ。これだけ多くの種類のメロディが、イントロからたった1分半で一気に繰り出される。こんな贅沢な曲はあまり前例がない。しかも高橋自身が手掛けるアレンジ(池窪浩一との連名クレジット)も、ムダなくドラマティックに楽曲を盛り上げている。桜の下で再会を誓い合った仲間との思いを歌ったリリックも、とても高橋らしい。この時期に桜の歌を出すのは何か“狙い”があるのではと勘繰りたくなるが、「さくらのうた」の素晴らしい出来映えを聴くと、高橋が「この歌を早くみんなに聴いて欲しい」とひたすら思っていたに違いないと確信する。
一方、ラストの「メガネが割れそう」は、高橋のアコース ティック・ギターと、亀田誠治のベースというシンプルな編成のラブソング。♪度入りのメガネで見てよ 反射防止で見つめ合おう♪というシャレたフレーズがあったり、亀田がベース・ソロを披露したり、追っかけコーラスをしたり、“音楽の遊び”に満ちた内容で楽しませてくれる。
デビューして6年目の高橋は、どの歌にも“反骨精神”を含ませながら活動してきた。EDMの時代にアコギ1本で勝負を挑むその姿勢は、“孤高”と言っていい強さを持っている。
そして今回の「さくらのうた」は、反骨と孤高とは少し異なるニュアンスがある。ポップな曲調は、より幅広いリスナーたちに受け入れられる可能性が高い。しかし僕は「さくらのうた」の中に、形を変えた高橋の反骨と孤高が息づいていると感じる。それはたとえばリリックの中のほんの小さなフレーズに潜んでいるように思う。あの震災から5年を迎える直前にリリースされることにも、意味があるように思う。
今年の桜が咲く頃に、この歌はどこで流れているだろうか。 多くの人に聴かれることを望みたい。
【文:平山雄一】