尾崎裕哉、初のCD作品「LET FREEDOM RING」リリースインタビュー

尾崎裕哉 | 2017.03.21

 昨年、自伝「二世」の出版、デジタル音源のリリース、テレビ出演などによって、大きな注目を集めたシンガーソングライター・尾崎裕哉が、初のCD作品を完成させた。蔦谷好位置といしたわり淳治がプロデューサーとして参加。サウンドと歌詞の両面で、多彩な魅力が引き出されている一枚だ。収録されている4曲について本人にインタビューしたのだが、表現に対する視点が、とても興味深かった。音楽を社会貢献と結び付けて考えている姿勢は、今後の活動にも大いに活かされていくのではないだろうか。

EMTG:どういう一枚にしたいと思っていましたか?
尾崎:僕の中にあったテーマは“解放”です。“自分が世の中に伝えたいことや感情を解放していく”というようなイメージでした。
EMTG:1曲目「サムデイ・スマイル」は、すごく希望を感じました。理不尽な出来事の繰り返しの先にあるはずの光を示してくれる曲だなと。
尾崎:ありがとうございます。僕自身も葛藤を抱えてもがいてきましたし、苦しんだり、焦りも感じてきたんです。そういうのは曲に出ていますね。「サムデイ・スマイル」では♪僕らはいつの日か かならず幸せになれる その途中の 今日を生きてる♪とか、歌詞だから活きるフレーズというのも散りばめています。普段の会話とかで直接言えないことであっても、曲にすると自然に活きるんだなというのは、この曲を作って改めて思いました。
EMTG:言葉を使った表現は、子供の頃から好きでした?
尾崎:子供の頃から音楽は好きだったんですけど、言葉で表現するのはどちらかと言うと嫌いだったんですよ。
EMTG:意外ですね。
尾崎:目立つのが嫌いで、学校の授業でも発言をしないタイプだったんです。言葉で伝えることに自信がもてないまま育ってきたんですけど、ここ2、3年くらいで、ようやくある程度自信を持てるようになってきました。
EMTG:作詞にいしわたり淳治さんが参加していますけど、言葉での表現を考える上で良い経験になったんじゃないでしょうか?
尾崎:はい。いしわたりさんの意見には、必ず裏付けがありますし、はっきり意見をおっしゃってくださる方なので理解しやすくて、すごく勉強になりました。例えば、曲作りに関するやり方のひとつとして、「映画のエンディングテーマのようにとらえる。物語が展開したあとに流れる1曲を作る」というのをおっしゃっていて、すごくイメージが湧きました。
EMTG:「サムデイ・スマイル」のラップの部分は、ラッパーのSALUさんと作ったそうですが、これはどういう経緯だったんですか。
尾崎:元々フロウは僕が考えたものがあって、自分で歌詞を作る方向も検討したんですけど、ここはプロに考えていただきたいなと思ったんです。
EMTG:今回の作品は、一流のクリエイターの皆さんとのコラボレーション作にもなっていますね。
尾崎:そうですね。0から1とか10にする段階のモノづくりって、ひとりでしかできないんですけど、10を100にするような段階では、いろんな人の意見は幅を広げることに繋がるんですよ。皆さんのお力をお借りしたことによって、自分以上のことができたんじゃないかなと思っています。
EMTG:2曲目の「27」は、ある意味、お父さまである尾崎 豊さんとのコラボレーションのような印象がしました。お父さまの年齢を追い越したことへの気持ちが反映されていると感じたのですが。
尾崎:そうですね。父親の年齢を越えたタイミングで、“自分がどうしていきたいか?”と考えたときに、父親が見られなかった景色を見ていきたいと思ったんです。そういうことを素直に歌詞に書いて、自分のこれまでの葛藤の変遷もそのまま描いています。
EMTG:「“自分らしさとは何なのか?」を模索している姿が伝わってきます。
尾崎:そういうのも出ていますね。自分らしさってひとつじゃないとも思いますし。“多面性を持った自分らしさをいくつ見つけられるか?”というのが大事だと僕は感じています。
EMTG:そういう姿を描くフレーズのひとつとして♪僕が僕であるために♪(尾崎 豊「僕が僕であるために」の歌詞の一節)を使っているのが印象的です。
尾崎:これはあえてというオマージュ的な要素もありつつ、僕自身が考え続けていたことでもあるんです。この歌詞で書いている♪僕が僕であるために背負うことが多すぎた♪は、まさに僕が言いたいことでもありました。
EMTG:“僕が僕であるために”という言葉はシンプルな日本語ですけど、アイデンティティの模索を鋭く言い表す画期的な表現だったんだなと感じました。思春期って、そういうことにまさに悩むわけですけど、このフレーズを噛み締めながら過ごした少年少女は、80年代以降たくさんいるんだと思いますよ。
尾崎:僕もそういうひとりでした。あの曲が世に出てからここまで広まったというのは、そういうことだったんだなと。尾崎 豊を知らない若い世代もたくさんいる中、このフレーズが生き続けていくというのは、良いことじゃないかなと思います。
EMTG:お父様と比べられるようなことも度々あると思いますが、抵抗はあります?
尾崎:抵抗を感じたりはないですね。比べてもらえるのは、どちらかと言えば光栄なことですから。なぜなら自分自身が尾崎 豊のファンだからです。尾崎 豊に憧れを持っていたし、尊敬していましたし、父親の背中を見てきましたから、まだそんなに曲を書いていない自分が比べてもらえるのは、すごいなあと(笑)。
EMTG:なるほど(笑)。
尾崎:比べられるのはメッセージ、声、外見くらいですから、そこに関して抵抗を感じたりとかはなかったですかね。ただ、自分が自分自身と父親を比べることは多くなったかもしれないです。その理由は、やはり父親が憧れであり、アーティストとして正しい形だと思っていたからです。そこの水準にいくためには、まだ自分にはやること、学ぶこと、経験するべきことが全然足りていないというのは思っています。
EMTG:もっと早くデビューして経験を積みたかったというのは思います?
尾崎:あると言えばあるし、ないと言えばないという感じですかね。80年代とかとは時代が違うというのもありますし。もう父親が歩いていたのとは別の道を歩んでいるという感覚が、高校を卒業したタイミング辺りから芽生えています。僕が音楽を通じてやりたいことは、父親とは違うんですよ。僕は音楽を通じて世界を変えたい、社会貢献と結び付けたいと思ってやっているけど、父親はもっと自分の内面的なことを描いていたから、よりアーティストだったんですよね。僕はどちらかと言えば実業の世界も好きでやっていますから。
EMTG:音楽を社会貢献と結び付けて考えるというのは、尾崎さんのアーティストとしての柱にあることなんですね。
尾崎:アーティストというより、人としてという感覚なんだと思います。僕は“ルーム・トゥ・リード”という、途上国の図書館に本を寄付するNPOを立ち上げたジョン・ウッドを尊敬しているんです。彼はそういう活動をものすごく大きなスケールでやっているんですけど、その行為って絶対に善じゃないですか。高校生の頃に彼の講演を聞いて、“良いことを、こんなにもものすごいスケールでやれる人がいるんだ”というのを感じて、“僕も一生の間で世の中に良い影響を与えられるようになりたい”と思いました。そして、僕はたまたま音楽が身近にあったので、音楽によってそういう人間になりたいと思うようになったんです。
EMTG:例えばスポーツが得意だったらスポーツを通じてそういう道に進んだのかもしれないですけど、尾崎さんにとってそれは音楽だったということですね。
尾崎:そうです。僕がやりたいことを実現できるチャンスがいちばんあるのは、自分にとっては音楽だと思ったんです。だから僕にとって大事なことの根本は、メッセージや生き様なんですよね。それを表現する手段が音楽ということです。でも、音楽は絶対に続けていきますし、音楽を通じて表現することはなくならないと思います。
EMTG:魅力的な歌声ですから、ぜひ歌い続けてください。
尾崎:ありがとうございます(笑)。
EMTG:歌声は楽器のようにお金を出して買えるものではないですし、天性の部分も大きいですからね。もちろん、自分で磨いて確立するものではありますが。
尾崎:たしかに才能はお金では買えないですけど、才能を活かすのは努力ですから。
EMTG:尾崎さんは歌ももちろんですけど、こうしてお話をしながら発せられる言葉にもすごく力がありますね。
尾崎:いろいろ考えるのが好きなんです。あと、議論好き(笑)。
EMTG:(笑)今作は、「始まりの街(Soul Feeling Mix)」も収録されていますが、昨年の9月にリリースした曲の新アレンジですね。20歳の頃にお母様に言われた言葉がきっかけで生まれたそうですが。
尾崎:「パパがいなくて寂しい思いをさせてごめんね」と言われたんですよね。僕はつねに今という瞬間が人生のピークだと思って過ごしてきたし、何も悲しい思いをしていないと思ったから、そこをしっかり伝えたくて作った曲です。
EMTG:♪僕は幸せさ♪というフレーズが、シンプルだけどとてもグッときます。
尾崎:温かく育ててもらいましたから。母親には友達がたくさんいて、人に溢れた環境で育ったので、父親がいなくても寂しくなかったし、いつも幸せだったんです。親が好きじゃない人は、この曲を聴いて共感しないんだろうなというのも考えました。でも、“自分はこう思ってる”ということを伝える方が大事だなと思って書いた曲です。そして、聴いてくれる人それぞれが自分のことに置き換えてくれればいいなとも思っています。
EMTG:4曲目の「Stay by my Side」は、どんな背景から生まれた曲ですか?
尾崎:歌詞は♪ひとは何のためにひとを愛してしまうの♪という僕のアイディアをベースに、いしわたりさんと一緒に膨らませていきました。多分、人を愛することによってしか愛の意味はわからないと思うんです。愛は頭で考えるものじゃなくて育むものですからね。そういうのをこの曲でうまく表現できたのかなと感じています。
EMTG:「Stay by my Side」がまさにそうですけど、尾崎さんの音楽はソウル、ゴスペル、ブルースとかのフィーリングが漂いますね。
尾崎:ブラックミュージックは、日々聴いています。僕は小中高でクワイア、合唱をやっていまして。そういうのも出ているのかもしれないですね。
EMTG:この一枚についてじっくり語っていただきましたが、すごく濃い内容ですね。いろんな方々のエネルギーも注ぎ込まれていますし。
尾崎:これがデビューって、考えてみるとすごいですね(笑)。
EMTG:(笑)それだけいろんな人の期待が寄せられているんだと思います。
尾崎:いろんな方にプッシュしていただいて、なんとか作ることができました。でも、このEPは僕の一面なんですよね。今後、また別の面も出していきたいです。
EMTG:大学院でコンサートビジネスの研究をしていたそうですし、そういうのが活かされる活動も出てくるんじゃないでしょうか。
尾崎:“音楽業界をどうやって盛り上げよう?”みたいな視点で考えたりもしています。CDが売れない時代になっていますけど、その一方でライブの動員が増えているという状況とかを、全部考えないといけないなとも思っています。作品作りだけ考えるのではなく、もっと音楽業界に影響を与えられる人間になりたいという想いがあるんです。これだけ言っておいて“あれ?”という可能性もありますが(笑)。でも、大口を叩いて頑張ります。

【取材・文:田中 大】

tag一覧 男性ボーカル 尾崎裕哉

リリース情報

LET FREEDOM RING

LET FREEDOM RING

2017年03月22日

TOY’S FACTORY

1. サムデイ・スマイル
2. 27
3. 始まりの街 (Soul Feeling Mix)
4. Stay by my Side

お知らせ

■コメント動画



■ライブ情報

LET FREEDOM RING TOUR 2017
03/24(金) 新潟LOTS

ARABAKI ROCK FEST.17
04/30(日) エコキャンプみちのく

秋のライブツアー
10/6(金) NHK大阪ホール
11/3(金・祝) 東京国際フォーラムホールC

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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