SHE’Sが今、自由に鳴らしている音楽が詰め込まれた最新シングル『Tricolor EP』インタビュー
SHE’S | 2019.11.01
自分たちが好きな音楽を伸び伸びと鳴らしている。それが、いまのSHE’Sだ。バンドが好む洋楽のエッセンスや、現行のポップミュージックのトレンドを取り入れながら、あくまでもロックバンドとして4人の個性を生かした音作りを突き詰めている。そんなSHE’Sが、3ヶ月連続リリースの配信シングル「Masquerade」「Letter」「Your Song」を収録した5thシングル『Tricolor EP』を12月4日にリリースする。「赤、白、青」を意味するタイトルのとおり、異なるサウンドアプローチで完成させた3曲だが、そこには、ナチュラルに音楽と向き合えるようになったいまだからこそのバンドの核心がくっきりと浮かび上がった。
- EMTG:最近のSHE’Sは本当に自由奔放ですよね。
- 広瀬臣吾(Ba):あはは、それ、悪い方向に行ってるっていう意味じゃないですよね?
- 井上竜馬(Vo/Key):「ちゃんとリードに繋いどけよ」って感じですか?
- EMTG:いやいや、楽しそうに音楽をしてるのが良いなと思ってます。
- 井上:うん、それは間違いないですね。
- EMTG:このインタビューの時点では、対バンツアー(「SHE’S UNION Tour 2019」)が終盤ですけど、ライブの感じはどうですか?
- 井上:今回のツアーは良いですね。まだ終わってないですけど、パスピエ以外は、基本的に同世代なので、楽屋は楽しく、ライブはピリピリやってます。「こいつらに負けられないな」っていう気分でやってるし、逆に「お前ら、俺らのツアーに出てしょうもないライブするなよ」と思いながら。
- 服部栞汰(Gt):え、そこまで思ってたん(笑)?
- 全員:あははは!
- 広瀬:あと、いままではワンマンツアーでどんどん規模が大きくなるから、「気合いを入れてやらなきゃ」と思ってたんですけど、今回はナチュラルにやれてるんですよ。
- 服部:リリースがあってのツアーじゃないから、それも自由ですよね。
- 服部栞汰(Gt):え、そこまで思ってたん(笑)?
- EMTG:同時に、9月からは3ヶ月連続で配信リリースしてます。これはバンドとしては初めての試みだと思いますけど。
- 井上:そうですね。俺らはインディーズ時代からサブスクを解禁してるんですけど、新曲でもデジタルの土俵を作ることが、お客さんにとっても良いことなのかなと思うんです。新しい音楽を知るきっかけになるじゃないですか。もちろんCDで持っていたい人もいると思うから、フィジカルでも出す。そうやって選択肢が増えることに意味があるんじゃないかなと思ってて。俺らにとっても、デジタルシングルは曲の強度が重要視されるし。
- 広瀬:ふつうにいま気に入った曲をそれぞれの世界観で考えられるのがいいんです。
- 井上:良いスピード感で出せるしね。
- 広瀬:ふつうにいま気に入った曲をそれぞれの世界観で考えられるのがいいんです。
- EMTG:まさに今回のシングル『Tricolor EP 』は、バラバラの世界観の曲たちが1枚にパッケージされてますね。最近の曲作りはどんな感じですか?
- 井上:僕があんまり気を遣わなくなりましたね(笑)。勝手に好きな曲を作って、みんなに聴かせて、勝手に「没にします」って言ってるんですよ。
- 服部:いままでだったら、「どんな曲がほしい?」って聞いてきてたんですけど、最近ないですからね。ただ竜馬が好きな曲を書いてる。
- 井上:そこにみんなが納得できたら、いちばんハッピーやなって感じです。デモの作り方にしても、自分の趣味全開で作ったうえで、「これが嫌だったら、僕のデモよりええやつを作ってみせんかい!!」ぐらいのテンションでやってて(笑)。それが心地好いんですよ。
- 広瀬:こっちとしても、そのぶん意図がわかりやすくなりましたね。クラシックの演奏者が作曲者のニュアンスを汲み取れるような感覚に近いのかもしれない。
- 井上:めっちゃ覚えてるのが、初めて曲を作った2011年ぐらいのときに、「フレーズを決められるのが嫌や」って言われたんですよ。たぶん臣吾と栞汰に。
- 広瀬:俺、そんなこと言った?
- 井上:言ってた。そっからシンプルに渡すようになったんですけど、また一周したんですよね。それはメンバーが成長したからこそできるようになったことだと思います。今回、打ち込みのドラムがあるんですけど(「Your Song」)、ほぼデモからイジらなかったもんな。
- 木村雅人(Dr):デモの段階で完成してたからね。
- 井上:そうやって、俺が気を遣わなくなると、メンバーも気を遣わなくなるんですよね。
- 服部:いままでだったら、「どんな曲がほしい?」って聞いてきてたんですけど、最近ないですからね。ただ竜馬が好きな曲を書いてる。
- EMTG:なるほどね。過去のインタビューでは、竜馬くんが曲作りに悩みまくって、どん底にいた時期もあったから、それを考えると、すごくピュアに音楽に向かってますよね。
- 井上:うん。こういうふうにやれるようになったのも、1年ぐらい前に曲作りで悩んだ時期を経たからですね。「売れたい、でも、売れるための曲とは……?」とか考えてて。でも、そんなことを考えるのは不健康だし、もう考えるのが疲れたってなって吹っ切れたときに(前作アルバム)『Now & Then』を作れて、いまもそのモードが続いてるんです。
- EMTG:なるほど。では、9月に配信リリースされた1曲目の「Masquerade」から詳しく話を聞ければと思います。アイリッシュですね。
- 井上:ずっとアイリッシュをやりたかったんですよ。2年ぐらい前から……俺がエド・シーランを好きになった頃から、何回かチャレンジしては没にして、を繰り返してたんです。曲を作るときはインストのアイリッシュ民謡を聴き込みました。
- EMTG:最近は海外の音楽シーンでも、この手の曲は増えてますよね。
- 井上:もうちょいラテンよりであれば、いまのトレンドですよね。ショーン・メンデスとか、カミラ・カベロと一緒にやってたし。クリーン・バンディットもそうだし。もともとアイリッシュを作りたかったけど、ラテンの雰囲気が出てるのは、たぶんそういうのを聴いてるからやと思います。意識はしてなかったけど。
- 木村:最初、ドラムは、竜馬にもらったデモよりもラテンっぽくしたんだけど、「それはやりすぎやわ」って言われたんですよ。パーカッションっぽい跳ねるリズムですね。
- EMTG:「Masquerade」は訳すと、「仮面舞踏会」ですけど、サウンドのイメージから歌詞も組み立てていったんですか?
- 井上:踊ってるような景色が見えたんですよ。今回はいままでより邦楽的な歌詞の作り方をしてないんです。日本人って歌詞を聴く人が多いじゃないですか。洋楽は歌詞をリズムとして捉えるから、そういう手法で書いたんです。“タンタタン”と“虎視眈々”とか、“合戦”と“滑稽”とか、そういうリズムのノリで言葉を選んでるから、楽しかったです。
- EMTG:“時代に乗れたら満足かい”っていう皮肉っぽいフレーズもあって、いつもよりエッジの効いた歌詞になってるようにも感じましたが。
- 井上:そういうお年頃なんですよね(笑)。
- EMTG:27歳が?(笑)
- 井上:あははは。いや、まあ……これも、サウンドのイメージが強かったと思います。イントロのバイオリンが怪しいマイナー進行で、ふだん素直にいく進行をハズしてるから。歌詞も素直ではないかなって。他人に対して「これってどうなん?」って思うことを書いたし、それは自分に対して、「自分もそうなってないか?」って問いかける曲ですね。
- EMTG:2曲目は、10月にリリースされた「Letter」です。いままでの歌い上げるようなSHE’Sとは一味違って、ただそこにポツンとあるような平熱感が新鮮でした。
- 井上:淡々としてますよね。地声の低いところとファルセットが共存するような曲を作りたかったんですよ。美しいメロディで儚い曲が好きなので。こんなふうに囁くように噛みしめて歌う曲はなかったから新しいと思います。
- EMTG:ただ美しいだけじゃなくて、栞汰くんのハードロックなギターが、この曲の焦燥感みたいなものを掻き立てるんですよね。
- 井上:SHE’Sじゃなかったら、こんなギターソロ入れないよな(笑)。
- 服部:もともとデモの段階でギターソロは入ってなかったんですけど、あそこの転調で曲の雰囲気をガラッと変えたかったんです。ボーカルの声と一緒に、メロディがしっかりあるギターソロが入ったら気持ちいいんじゃないかなって。
- EMTG:リズム隊はどうでしたか? この曲に関しては。
- 広瀬:逆にベースとドラムはいかに存在を消すかでしたね。
- 木村:いかに邪魔しないか。手数で勝負するんじゃなくて、1音1音を大事にして、柔らかさを出すことで、きれいにメロディがのっかっていけばいいなと思ってました。
- 井上:ふたりはひたすら我慢大会やったと思います。「静かにしとけよ」って。
- 木村:いかに邪魔しないか。手数で勝負するんじゃなくて、1音1音を大事にして、柔らかさを出すことで、きれいにメロディがのっかっていけばいいなと思ってました。
- EMTG:でも、派手さはないけど、ベースの低音はこの曲の内省的なムードのなかで大事な存在感を担ってるなと思います。
- 広瀬:そうなんですよ。たとえば、(山下)達郎さんの「クリスマス・イブ」っていう曲あるじゃないですか。あれは、エイトビートのベースを弾き続けてるんですけど、それがめっちゃかっこよくて。ああいう存在感になりたいですね。
- 井上:ずっと淡々とやってるのがエモいよな。
- EMTG:歌詞は、「Masquerade」にも近いような気がしました。自分らしい生き方と、そこに付随する他人との関係性であったり、距離感を摸索するような。
- 井上:たしかに、続き感はありますよね。次作アルバムを意識しながらの制作だから、必然的にそうなったんだと思います。
- EMTG:「Letter」のいちばんのポイントは、“僕らは大切な人から順番に/傷つけてしまっては”というフレーズだと思います。
- 井上:これは、「せやな」と思いますよね。前々から歌いたかったことなんですよ。相手に対して歌うのではなく、自分を顧みながら、ぼそぼそと語りかけるように、手紙を読み上げるように書いたので。だからタイトルが「Letter」なんです。
- EMTG:「Letter」が淡々とした自問自答の曲だとしたら、11月に配信リリースされる3曲目の「You Song」は、燃えるような情熱を歌い上げるSHE’Sの真骨頂じゃないかと。
- 井上:SHE’S節ですよね。大きなリズムがスケール感を出してて。サウンドとかコードの移動感もすごくSHE’Sらしんですよ。もともとシングルを作るつもりで書いたので。
- 木村:さっきの「Letter」とは真逆ですね。派手にいくところはいって、歌を聴かせるとこは聴かせてっていうメリハリがよくできたと思います。最後のサビでギターソロが入るところは、どれだけ派手にいけるかが勝負だったし。
- 服部:あそこは上手くいったな。
- 井上:そのなかで、サビとBメロでエレクトロも共存をしてるっていうのが、いまのSHE’Sのモードです。
- 木村:さっきの「Letter」とは真逆ですね。派手にいくところはいって、歌を聴かせるとこは聴かせてっていうメリハリがよくできたと思います。最後のサビでギターソロが入るところは、どれだけ派手にいけるかが勝負だったし。
- EMTG:「歓びの陽」あたりからトライしてることですよね。4~5年前はできなかったことだから、「SHE’Sらしさ」はどんどん更新されてるんだなと、改めて思いました。
- 木村:たしかに。
- 井上:こういう曲が、俺らのスタンダードになればいいかなと思います。
- EMTG:歌詞は、“僕らの選び方”で 寄り道しよう“っていうフレーズがよかったです。
- 井上:選択肢がいっぱいあるよっていうことは、ずっと思ってたんですけど、歌にしたことがなかったんですよ。応援歌ですね。自分がしんどかった時に救われた音楽があって、それと同じように、自分たちの曲がそうなったらいいなと思ったんです。
- EMTG:これ、タイトルは「Your Song」だけど、竜馬くんの「My Song」のようにも聴こえるんですよ。
- 井上:あ、そうなんです。「Our Song」やし、「My Song」やし。でも、この曲を聴いてくれる「あなた」がいて、俺がいるから。この曲が、あなたのテーマソングにもなればいい、という意味で、「Your Song」にしたんです。
- EMTG:で、今回のシングルには、オリジナル曲に加えて、初めてカバー曲「She Will Be Loved」(マルーン5)が収録されます。
- 井上:これは単純に配信した3曲だけやったら面白くないなと思ったんです。
- 広瀬:盤の特別感よね。
- 井上:これ、最初は「Time After Time」(シンディ・ローパー)をやりたかったんですよ。でも、ハナレグミとCharaがやってるのを聴いて、「俺らは無理です」ってなって(笑)。候補として、スティーヴィー・ワンダーの「Isn’t She Lovely」もあったんですけど、メンバーみんなが通ってきたマルーン5がしっくりきたんです。
- 広瀬:盤の特別感よね。
- EMTG:マルーン5のなかでも、あえて初期の曲を選んでるのがSHE’Sらしいです。最近の打ち込みとかヒップホップやR&B主体の曲ではなく。
- 井上:そう、初期のマルーンの曲は、生の楽器を使ってるシンプルな曲が多いから、SHE’Sに合うかなと思ったんですよ。いま、「Sugar」(2014年の楽曲)をやるのは俺らじゃないですよね。
- EMTG:あえて初期曲を選んだことに、ギター、ベース、ドラムの個性を大切にするSHE’Sのロックバンドとしての気概を感じたんですけど、そこを伝えたい意図もありましたか?
- 井上:それがないとは言い切れないと思います。この4人が生きるのは、やっぱりバンドサウンドだと思うんです。SHE’Sは人力プレイで面白い化学変化を生む4人だから。
- EMTG:アレンジはかなり大胆に変えてますよね。
- 井上:でも、リズムとかスピード感はあんまり変えてないんですよ。ちょっと原曲のほうが遅いくらいで。エイトビートの推進力をわかりやすく作ったんです。あと、原曲はオルタナティブな雰囲気もあるから、俺らは、よりサビにスムーズに移行するように意識して、爽やかで明るいポップスに仕上げたっていうところはありますね。
- 服部:ずっと昔から聴いてる曲だから、けっこう崩すのは難しかったんです。かと言って、寄りすぎると面白くないから、自分らしさも出すようにしました。
- EMTG:最後に声が重なってゆく終わり方にしようと思ったのは?
- 井上:これはBLINK-182(アメリカのパンクバンド)の「Feeling This」っていう曲の終わり方なんですよ。これを聴いたときの衝撃が忘れられなくて。俺らの「Voice」でもやってるんです。今回、美味しいメロディがいっぱいある曲だから、それをがっつり入れられそうやなと思って。こういう編曲の作業はおもしろいですね。
- EMTG:もっとSHE’Sのカバー曲を聴いてみたくなりました。どんな曲でもSHE’Sっぽくなるシリーズ、みたいな感じで。
- 服部:あはは、芸人のネタみたい。
- 井上:毎回、声で終わっていくっていうね(笑)
- EMTG:(笑)。今回のシングルは、カバーも含めて、デビューから3年経ったSHE’Sが、いま自分たちがどうあるべきかをちゃんと示せた作品になったんじゃないですか?
- 井上:うん。それは出せたと思います。でも、なんかね、いま、俺らがやらなきゃいけんことは何だろう?って頭を使って考えるよりも、野性的な感じてやってるだけなんですよ。純粋に出てくる音楽が良ければ出したいっていうのを楽しんでますね。
- 服部:内面から勝手に出るくるものを出せてるんです。
【取材・文:秦 理絵】
リリース情報
Tricolor EP
2019年12月04日
ユニバーサルミュージック
01.Masquerade
02.Letter
03.Your Song
04.She Will Be Loved
02.Letter
03.Your Song
04.She Will Be Loved
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