新たな居場所を求めて歩き出したKarin.、日々変化する価値観について語る。

Karin. | 2020.05.25

 シンガーソングライター・Karin.にとって初となるep作品「君が生きる街 - ep」がリリースされた。2ndアルバム『メランコリックモラトリアム』からわずか3ヵ月後のリリースとなる今作は、彼女が高校を卒業してから初めての作品。「卒業して、私はいい方向に向かっているのだろうか?」という不安を抱えつつも、様々な変化を積み重ねながら着実に歩み出した彼女の心境を、丁寧に浮き彫りにしている意欲作だ。今回のインタビューでは、「全部が主役級」と語られた新曲3曲と、過去の自分を引き連れて未来へと進むために必要だったと話す弾き語り音源を含めた4曲について訊いた。

――新曲3曲についてはいつ頃出来た曲なんですか?
Karin.:3曲あるうちの「痛みがわかれば」だけ、『メランコリックモラトリアム』を作っているときには出来上がっていました。ただ、当時はまだ世に出すべきではないと思って寝かせていました。ほかの曲は、「はないちもんめ」「君が生きる街」の順で出来上がりました。
――今回は初めてのep作品ということですが、この作品形態に挑んでみようと思ったのはなぜですか?
Karin.:「君が生きる街」に自信があったんです。リードとなる1曲が強くなきゃいけないと思うんですけど、今回は自分がいいと思える主役級の曲を、全部同じ強さで出したいという気持ちがあって、3曲とも違う色の曲で構成しました。寝かせていた「痛みがわかれば」は今なら出せると思いましたし、収録曲数が限られている分、その中でどれだけ自分の力が出せるのかをすごく考えて選びました。初めての形態だったのでワクワクしましたね。元々いろんなアーティストのepをたくさん聴いていたので、「ep」という名前にも憧れがありました。高校を卒業して初めてリリースする作品なので、その最初の一歩がこの作品で良かったなと思います。
――卒業してから心境の変化はありました?
Karin.:「もう戻れないなぁ」と思いましたね。過去の曲を聴いて、今の自分じゃもう書けないと思う気持ちが強くなりました。卒業間際は、高校時代に引きずられて「自分だけ置いていかれるんじゃないか?」と不安に思うこともあったんです。同級生のみんなは次のステップに進むための切り替えができているのに、「自分は大丈夫かな?」って。でも、別れはすごく寂しいけど、みんながそれぞれの道に進むために努力をしているから、私も新しい居場所を作れるように頑張ろうと思ったんです。そのときに「君が生きる街」が出来ました。音楽に費やす時間が増える分、これからはもっと自分の曲に愛情を持っていけるんじゃないかと思っています。
――「君が生きる街」は、まさに聴き手の顔が想像できる曲なんですね。

Karin.:そうですね。歌詞について今まででいちばん凝ったというか、言葉に緊張感を持つようになった気がします。音楽を始めてから、今まで受け取った言葉を使って、今度は自分が誰かの気持ちに寄り添えるようになりたいと思ってこの曲が出来たんですけど、出来上がった当時は「この曲を聴いた人がいいと思わなかったらどうしよう?」という不安のほうが大きかったです。
――今までは、誰かに届くかどうかよりも、自分のために歌いたいという気持ちのほうが大きかった?
Karin.:そうですね。今までは「もしかしたら私はこれ以上曲が作れないかもしれない」というプレッシャーを抱えながら曲を作ってきたんですけど、今回は自分のことよりも「聴いてもらえなかったらどうしよう?」という気持ちが真っ先にあったんです。自分の曲を客観視して聴けるようになったんだと思いました。例えばYouTubeで公開した動画に付く誰かのコメントを見て、「ああ、そういう考え方もあるんだな」と受け入れられるようにもなったし、最初は理解してもらえないことが悲しかったりもしたんですけど、今は正解を設けるのではなく、聴く人がそれぞれ自分の生活に合わせて聴いてもらえるのがいちばんいいなと思えるようになりました。
――冒頭の<傷つけ合うことで成り立つ方程式/それは愛なんじゃないか>という歌詞からも、許容範囲の変化を感じました。前回のインタビューで、愛の解釈については映画『愛がなんだ』の影響を受けたと仰っていましたが、この部分もそうですか?
(参考記事:高校生活を終えるKarin.が今こそ歌っておきたかったこと、そのすべて。https://music.fanplus.co.jp/special/202002148412aca75)
Karin.:そうですね。相手のことを知るためにわざと傷つけたり嫉妬させたりして、その反応で自分への愛情を確認するという行為を『愛がなんだ』を観て知って、「悲しいからこそ感じられる幸せもあるんだ」ということを書きました。
――歌詞にある<「君は自分中心で世界が周って良いね」>というところは、Karin.さんが実際に言われたことなんですか? こうして話している感じだと、自己中な印象はないんですけど……。
Karin.:これは友達から本当に言われたんですよ(笑)。私自身もそんなことないと思っていたんですけど、友達から相談をされたときに、自分なりに考えたことを伝えると「おまえは恵まれているからそう言えるんだろ」的なことを言われたんです。でも、そうじゃないとは言い切れない感情もあって、そのことをそのまま歌詞に書きました。
――なるほど。次の「はないちもんめ」は、どういう状況で生まれた楽曲なんですか?
Karin.:この曲は「青春脱衣所」とまったく同じコード進行なんです。「同じ進行でもう1回曲を作れるのかな?」と思って作ったんですけど、出来るんだなぁってびっくりしました。好きなアーティストの楽曲に“はないちもんめ”をモチーフにした<あいつが欲しいって言わないところが欲しい>っていう歌詞があって、それを聴いたときに「これはどういう感情なんだろう?」と思ったんです。それをきっかけにいろいろ調べていくなかで、「この遊びでどちらも満足のいく状況って生まれるのかな?」と思ったときに、そんなことないよなぁという考えに至ったんですよ。「誰かが傷ついてしまうのならやめたほうがいい」という自分なりの想いを込めてこの曲を作りました。あと、音楽を始めたことがきっかけで今のような人生を送っているからこそ、例えば自分が過去に戻れるのだとしたら、自分のことを認めてあげることがすごく嫌いだった過去の自分にこの歌を贈ってあげたいという気持ちを込めた曲でもあります。だから、この曲が出来たときはうれしいというよりも、出来てしまったな、という悲しみもありました。
――どうして悲しかったんですか?
Karin.:曲が完成してしまったことが、ですね。でも、未来の自分が過去の自分にすがりつくことで曲が出来るのなら、それはそれでうれしいなとは思いました。今までは、昔のことを書くのに抵抗があったんです。
――これまで、日常的にも過去を振り返るという作業をしてこなかったんですか?
Karin.:はい。もう失った人生を語ることが嫌いだったんです。それをすることで今の自分のことが嫌いになってしまう気がして。でも、「過去も愛せるようになったら人生について楽に考えることができるんじゃないかな?」と思って、変わろうとしています。まだ全然慣れないですけど。今までは新しいことを学ぶことに必死だったので、復習も苦手だったんですよ。だけど、今になって過去を振り返ることの大切さを知り始めましたね。
――Karin.さんって、すごくポジティブな方ですよね。
Karin.:あはは! 明るい根暗なんですよ(笑)。昔は自分に期待しないことが正義というか、それが楽だと思ってたんです。でも今は、自分を認めるからこそ相手のことを考えられるんだと気づいたんです。例えば人の話を聞くことひとつとっても、それができないと人って成長しないと思うんですよ。だから最近は、いろんなことに耳を傾けられる人になりたいなと思っています。
――そう思ったきっかけは、デビューして今まで以上にいろんな人と話したり、ファンの人からのコメントを目にしたりする機会が多くなったからですか?
Karin.:そうですね。特にこういうインタビューでは、私に質問を投げかけてくれるじゃないですか。前は「いったい誰が私の話を気にしているんだろう……本当に求められているのか……」と思っていたんです(笑)。でも以前、インタビュアーの方に「どうして初対面の人に対して、そんなに訊くことができるんですか?」と尋ねたときに、「人と話すのが楽しいから」と返ってきたんですよ。自分が話すことというよりも、人から話を訊くことが面白いと仰っていて、考え方が変わりましたね。人の考えに触れることで得るものがあったり、自分の考えがまとまったりすることに気付けたのはとても良かったです。
――じゃあ、音楽を始める前のKarin.さんは、あまり人に対して興味がなかった?
Karin.:まったくなかったですね。というより、興味がある人/ない人の分類がはっきりしていたんです。興味がない人とは話している時間が無駄だと思ってました(笑)。中学生の頃は、自分のことでいっぱいいっぱいだったんですよね。現実的というか、心がなかったというか。でも高校3年生の頃、朝井リョウさんの『ままならないから私とあなた』という本を読んだんです。その中で需要の在り方と考え方の違いが描かれている部分があって、そこに感銘を受けたんです。自分は今まで需要の有り無しについて意識し過ぎていたんだなぁと思いましたし、その判断は私の主観でしかないんですよね。もっと広い世界で物事を見られるようになったら、「やってよかったな」と思えることも増えるだろうし、新しい発見もあるはずだなぁ、と。その意識の変化もあって、2ndアルバムでバンドサウンドを深めたりしたので、やっぱり失敗を恐れずに挑戦することは大切だなぁと思いましたね。
――「はないちもんめ」の話に戻すと、歌詞の中盤で「私」と「貴方」のふたりが出てきたときに、「私=今の自分」「貴方=過去の自分」なのかな?と思ったのですが、ここでの人称変化は意識的なものですか?
Karin.:そうですね。過去のライブ映像を観たときに、その中の自分が生きるのに必死過ぎてすごく苦しそうで、そのイメージを歌詞にしたんです。朝になると、私はまだ昨日のままの気持ちで生きているのに、周りの人は切り替えてその日を生きているっていう違いが浮き彫りになるから、朝がすごく苦手なんです。でも、<朝が嫌いな貴方は夜の延長線>という歌詞は、自分でもよく書けたなぁと思いますね。何かが憑依したような感覚です。
――「痛みがわかれば」は以前からあった楽曲とのことですが、当時はどういう心境で作ったんですか?

Karin.:この歌詞を書くときのキーワードが“学校”と“空気”だったんです。当時は空気も見えてしまうくらいに周りを気にしていたんですけど、相手の痛みに気づいていたらそんな必要がなかったかもしれないと思いつつ、たとえ自分が傷ついたとしても人には見せたくないという矛盾した気持ちがあったんです。それを突き詰めると、結局は相手のためと言いながら、全部自分のためなんだなぁと思って、その気づきを曲にしたかったんです。
――「自分の痛みは言いたくないけど、相手の傷は癒してあげたい」という想いは、当時と変わらずにありますか?
Karin.:「自分の悩みを打ち明けたことで誰かが苦しんでしまうのなら、つらいのは自分だけでいいな」と思う気持ちは今もあります。自分がつらくても、誰かに迷惑をかけるくらいなら我慢しますし、むしろそのつらさを乗り越えた先に自分の成長があるんだと思っています。とはいえ、言葉にしなきゃわかってもらえないと知っていても、それでも苦しさに気づいてほしいという想いはやっぱりありますし、その矛盾はそのまま歌詞になっています。
――Karin.さんの普遍的な部分についての矛盾や葛藤がありのまま描かれている楽曲なんですね。ラストに収録されている「青春脱衣所」は弾き語りバージョンですが、この曲を選んだ理由は何だったんですか?

Karin.:この曲は、高校を卒業するときに行われた謝恩会の中で、弾き語りで披露したんです。いろんな人から「弾き語りを聴きたい!」と言ってもらえたし、「青春脱衣所」を演奏すると決まったときにはみんなが喜んでくれたんです。自分を知ってもらっていることと同時に、「青春脱衣所」という曲がみんなに愛されている曲なんだと初めてリアルに感じることができたんです。それに、この曲がなかったら、もしかしたらデビューもできていなかったかもしれないなと思うんです。だから、この曲が出来たときの空気や色が写真みたいに浮かんでくるし、ライブで歌ったときも当時の映像や匂いや会話が頭を駆け巡るんです。歌うたびに過去の情景を思い出すことが不思議で面白いなと思いますし、そういう過去があるからこそ、新しい一歩を踏み出した今の自分がこの曲を弾くことに意味があるんだと思って、今回この曲を入れました。
――ありがとうございます。最後に、過去を振り返る術を得て、卒業をきっかけに身を置く生活環境も変わった今、Karin.さんにとって歌うこととはどういうものですか?
Karin.:音楽を始めたのは居場所を作るためだったので、アーティストになれなくてもいいと思っていたんです。どこに居場所を見つけたとしても、別の場所に憧れる想いはきっとあるし、現状に対して永遠に満足できないという考えがあったんですよね。でも今は、何かに憧れるということは無駄な感情ではないんだなと思っています。歌うことに対する想いに変わりはないですが、今まで以上に心にゆとりを持って考えることができていると思います。

【取材・文:峯岸利恵】

tag一覧 EP 女性ボーカル Karin.

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リリース情報

君が生きる街 - ep

君が生きる街 - ep

2020年05月22日

ユニバーサルミュージックジャパン

01.君が生きる街
02.はないちもんめ
03.痛みがわかれば
04.青春脱衣所 -弾き語り-

お知らせ

■配信リンク

「君が生きる街 - ep」
https://karin.lnk.to/Kimiga_Ikirumachi_ep



■マイ検索ワード

ガムランボール
自分の好きなアーティストが「幸せになれるもの」として挙げていたんですよ。インドネシアの鈴みたいな伝統楽器なんですけど、外国では「ドリームボール」って言われるくらい、邪気を払ってくれたり幸せを運んでくれるらしくて、その音が素敵だったので最近聴いて癒されています。検索しても自転車に付けるようなちっちゃいのしかないんですけど、大きければ大きいほどいい音が鳴るのでとびきりデカいのが欲しくて、探しています。



■ライブ情報

初ワンマンライブ&ツアー
「最終章おまえは泣く」振替公演

2021/04/03(土)茨城 水戸LIGHT HOUSE
2021/03/27(土)大阪 梅田Shangri-La
2021/03/28(日)愛知 名古屋ell. FITS ALL

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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