SASUKE、NHK Eテレ『アクティブ10 マスと!』のために書き下ろした新曲「Times」
SASUKE | 2020.07.31
昨年一気に活動の領域を広げ、気がつけばワイドショーレベルにまで広がりを見せている17歳のトラックメーカー(というよりマルチクリエイター)SASUKE。彼のいちばんの新しさと面白さは、その音楽の、一見自由なんだけどめちゃくちゃ高度なデザインだと思う。古今の音楽からおいしいところを的確にピックアップし、それを最適な形で組み合わせ、そこに普遍的なメッセージを乗せ、最高のポップチューンとしてリリースする。そこには超複雑な方程式がじつは隠れているが、それが超複雑な方程式であるということすら、おそらく本人は意識していない。そこがおそろしいし、彼の「新世代」たるゆえんだ。奇しくもNHK Eテレの数学番組のテーマソングとして書き下ろされた最新シングル「Times」はまさにそれがヴィヴィッドに出た最強曲。この曲をダシに、SASUKEという人の頭の中をちょっとだけ覗いてみました。
- ――今年に入ってから、マデオンのオープニングアクトとか、サッカーの「ゼロックススーパーカップ」のハーフタイムショーとか、出方としても大きなネタが続いている印象ですが、その中でスタンスや気持ちの変化は起きていますか?
- SASUKE:基本、音楽を楽しみたいというのと、あとはいただいた仕事はもう本当に本気で全力で挑戦するというか立ち向かうというか、そういうことはいつも意識しているというか、自分がやりたいといつも思っていることで。なので、何事も適当にはやらないというか、最初から最後まで徹底してやっているのは変わらないですね。
- ――SASUKEさんって便宜上「トラックメーカー」って言われることが多いと思うんですけど、実際にはもちろんトラックも作るけど、歌うし、踊るし、映像もアートワークも作るじゃないですか。そういう全体像って、自分自身で言葉で説明するとどういう言葉になるんですか。
- SASUKE:えっと……そうですね、「歌って踊れるミュージシャン」、というか「タレント」をプロデュースしている、またそれも自分っていう感じですかね。
- ――つまり、自分で自分をプロデュースしている感じもある?
- SASUKE:そうですね。
- ――実際作っていくなかでもそういうトータルプロデュース的な視点というのはあるんですか?
- SASUKE:先に全部のイメージができている場合もありますね。曲を作る段階で「こういう映像にしよう」とか「こういう踊りをしよう」とかっていうのができている場合もありますし、何も考えずに作って、そのあとでこういうふうに見せたら面白いかなと考えることもあるし。
- ――そういうやりかたにおいてシンパシーを感じるアーティストっています?
- SASUKE:ちょっと珍しいとは思うんですよね。近いところでいうと、ルイス・コールとかはやってることが近いなっていう感じはするけど、あんまりいないですね。日本だと難しい。
- ――そうですよね。非常に面白いなと思って見ているんですけども。今回の「Times」はどういうふうに作っていったんですか?
- SASUKE:最初に番組についての打ち合わせをして、そこで「だいたいこんな感じにしよう」みたいなことはもう決まって。完成した曲もそうですけど、おしゃれな感じというか、夜の街に合いそうな感じ。でも、華やかなところも入れつつ、昼でも散歩とかしながら聴けるような感じにしようっていう。それは僕の中で決まってました。そこにどういう歌詞を乗せるかっていうところで、意外とすぐ出てきたんですよね。
- ――数学記号を入れ込もうというアイディアが。
- SASUKE:はい、数学の番組なんで、もう「やろう」と。でも、いきなり思いついたものなので、できるかわからないんですよね、その時はまだ。アイディアとしてはあるんですけど、かなり無茶というか。でもやってみるかっていうことに決めてしまって、ちょっと頑張ろうと思って。それで作りながら固めていって、結構そこからすぐにできました。デモを出したんですけど、そこまで1日2日ぐらい。
- ――仕掛けもいっぱいあるし、今っぽさもあるし、そしてメロディもすごくポップっていう、すごく狙いすまして作り上げた感じもあるんですけど、最終的なアウトプットとして曲を出していくときに、SASUKEさんがいちばん重要視しているのってどういうことですか?
- SASUKE:なんか勢いというか……テーマによって分かれてくるんですけど、リード的に出す曲と、やりたいようにやって出す曲っていうので僕の中では分けていて。リード的に出す曲は誰が聴いても面白い曲―――いい曲というよりは面白い曲っていうのを意識していて。1個アイディアが浮かんで、それだけじゃなくてほかにも、ダンスとか映像とか、それによって生まれる何かを見つけられた時に「これ出そう」ってなることが多いですね。そこはわりと厳しく見てます。好きな音楽をやる時はもう本当に、自然に体から出てくるもので作るっていうことをやってますけど。
- ――「Times」についてはまさにそのリード的な曲、ですよね。
- SASUKE:そうですね。でも、歌詞も曲調も番組に合わせようとはしていたものの、僕の好きなものが入っているし、編曲というか、骨組みを作って仕上げていく段階では体に任せるようにしました。
- ――よくよく聴けばディープですもんね、音楽的に。
- SASUKE:そうですね。だからいい意味で両方をミックスした感じというか。マニアックな僕のやりたい音楽と、タイアップっていうかリードみたいなものをうまいこと合わせられたかなっていう。音楽好きの人も、何か面白いものを探している人も気になる曲になったかなと思いますね。今までは面白い曲を作ったら次は本当に作りたい曲というかマニアックな曲を作りたくなって、それを作ったらまた面白いのに行ってみようかっていう順番だったのが、何か感覚が変わったというかズレた感じはあります。今後また変わっていくのかなと思いますね。
- ――うん。歌詞の作りも音も、かなり技ありの曲だと思うんですよ、これは。でもそれがものすごい普遍性を持ったものに着地してるっていうところが、これまでの楽曲とはちょっと違うなと思って。
- SASUKE:歌詞でいえば、記号が入るということで、ストーリーっていうか、歌詞を見ずに聴いたらいちばん最初に入ってくるメッセージはできるだけ分かりやすい言葉というか、どこかで聴いたことあるかな、くらいの言葉で伝えるっていうことをしていきましたね。あとは、サビにできるだけみんなが知っているような記号を入れて。
- ――ルールが厳しい(笑)。
- SASUKE:そうなんですよ。なのでサビ以外は本当によくわかんないのとかも入ってるんですけど、サビだけはちょっときちっとして。あと、曲中に記号いっぱい出てきますけど、「×」だけ6回出てくるんですね。中学で習うと思うんですけど、負の数を偶数回かけるとプラスになるというのがあるので、6回「×」を入れて「マイナスをプラスに変えていこう」というのを表わしてたり。記号が入ってわからなかった人のために、一応そこで伝えたかったことを言ってるっていう。
- ――すごい(笑)。そのポジティブなメッセージ性、「プラスに変えて進んでいこうよ」みたいなテーマというのはそもそもあったものだったんですか?
- SASUKE:あったんですよね。基本僕の曲の内容ってそんな感じなんですけど、現実を見ながら前を向いていく感じというか。とくに今回は数学の勉強の番組ということで、同い年の子たちとか、同じ世代の人がたぶん見ると思うんです。だから、学んでいくっていうことに対して「失敗もあるけどそれを踏まえて頑張っていこう」みたいなことを伝えられたらいいなっていうのは、お話いただいた時から書こうと思っていたことでしたね。
- ――その音楽のメッセージ性みたいなところって、SASUKEさんはどういうふうに考えているんですか? つまり、音楽で何かを伝えたいっていう気持ちがどれぐらい大きいものなのかっていう。
- SASUKE:まあ、伝えすぎずっていうのはありますけど。やっぱりいちばん面白いのは個人の解釈なので、伝えるために説明が多くなってしまって音楽がおろそかになるのも良くないって思うし。曲として聴いて気持ちいいのを軸として考えて、その範囲内でどれだけ伝えるかっていう縛りプレイみたいなことをしていますね。
- ――うん。だからうまいことカモフラージュしたり、混ぜ合わせたりしているけど、じつは世の中とか人間に対して言いたいこととか訴えたいことがはっきりとあるのかなと感じたりもするんですよね。
- SASUKE:そうですね、あると思います。でも僕は音楽のことしか考えてないので、みんながどういう生活をしているかみたいなところを体験したことないんですよね。変な人なんですよ(笑)。音楽を単純に楽しみたいっていうのがまずあって、それを大事にしていきたいし、聴く人にもそれを大事にしてほしいなと思っているんで……じつは難しいことやってるんですよね。今気づきましたけど(笑)。時事ネタとかも入れますけど、それをどちらかというと外側から見てるような感じ。外側から見て何か気になったことをちょっと指摘できたらなぐらいの感じで思っていますね。
- ――そのメッセージって誰に向けてのものなんですか? たとえば「Times」は教育番組の曲だから、ある程度ターゲットが絞られていますけど、それ以外の曲だと。
- SASUKE:そうですね……やっぱり全員ですかね、ざっくりしてますけど。若い人から、僕の両親ぐらいの世代まで、意外と聴けるものなんじゃないかなと思ってて。実際に資料とかを見たら、そのぐらいの広い層が聴いてくださっているんです。それは意識してますね。若者の言葉とかも僕は結構調べるタイプなんですけど、その使い方を、若者とはちょっと違うように――。
- ――「若者」って(笑)。
- SASUKE:ついていけない部分もあるんですけど、意味を調べたりして(笑)。精神年齢というか、本当は大人なんじゃないかってよく言われるんです。「おじさんなんじゃないか」って、音楽の趣味とかも含めて。でもできるだけ若い人にも好かれるというか気になってもらえるように、ちょっと耳につくような言葉も入れつつ、内容は誰もが分かるようなことで、音楽はマニアックな人が好きな感じで、っていう、それをミックスしてるというか。だから結局全員に向けてということになるんですけど。
- ――射程が広いんだ。じゃあ、たとえば紅白歌合戦みたいな思いっきりマスなところにもどんどん出ていきたいんですっていう感じですか?
- SASUKE:そうですね、行ければいいですよね。オファーが来たら絶対受けます。だから何でもありっていったらあれですけど、左右どちらにも行けるというか、どっちかって決めるよりはいいかなって思う。紅白出て、次の日にマニアックなフェスに出ているとかでもいいと思うし。ブレないのがいい、みたいな人もいると思うんですけど、僕はブレた方がかっこいいと思っているんで。どっちにも行くし、思いついたことをすぐそのままやる。それがいいと思って今までやってきましたし、これからもたぶんやっていくと思います。
- ――なるほど。さっき「自分はおっさんなんじゃないか」という話がありましたけど、とかく「新世代」って言われると思うんですよね。まあ実際そうなんだけど。
- SASUKE:言われると思い出しますよね、自分が新世代だってことを(笑)。でも意識しないといけないなと思ってるんですよ、一応。そういう枠とかプレイリストに入れてもらったりとかもあるし、意識していないといけないと思う。別に僕は新しい音楽もかなり掘るから、そういうものも全然できるんですけど、やっぱり変なこだわりというか、長年やってきた人のこだわりみたいなのもあったりするっていう。頑固なんですね。
- ――でもそれが要するに新世代ってことなんだと思うんですけどね。古いものも新しいものもサンプリングして、組み合わせて音楽を作っていく、その幅の広さはもちろんですけど、そこからおいしいところをピックアップしてくる精度がものすごく高いっていう。
- SASUKE:僕がもともとサンプリングビートから入ったというのもあるかもしれないです。どこかから雰囲気だけ持ってくるとか、この時代のこういう感じを持ってくるとかっていうのは得意なほうというか。
- ――しかもそれが、「これが好きだから」という理由だけじゃない気がするんです。それが今の時代に出すものとして正しいのか、あるいは普遍性を持ってるのか、みたいな視点で自然とフィルタリングしている感じがする。
- SASUKE:そうですね。なんか最近は真面目にというか、本気で音楽をやってる感じはあるんですよね。たとえばデザイナーさんって、この範囲って決まっているところにいろんな要素を詰め込むわけじゃないですか。色を決めたりとか、何かを切り抜いて持ってくるにも、この場所にハマるものを切り抜いてこないといけないとか。僕が音楽を作るのに使ってるDAWのソフトの画面もそうですけど、ピースがきっちりハマってて、あるべきところで鳴ってくれてっていうのはすごい意識はしています。今流行ってるもののなかで合うものはどれかなって考えて持ってきたりするとか。でも基本、僕が最近の雰囲気を入れるのは後からです。もともとやりたいことがあるので。
- ――味をととのえる、みたいな感じですか。
- SASUKE:そうですね。基本的にやりたいことは、昔からあるもの、マーヴィン・ゲイとかモータウンサウンドだったりとか、そこら辺が好きなので。あとはジェームス・ブラウンとか。それが軸にあって、そこにトラップを入れるなり、ダブステップみたいなものを入れるなり、EDMみたいなものを入れるなり、とかっていうのをやってるだけですね。
- ――でも、モータウンをやりたかったらモータウンをそのままやればいいんだけど、SASUKEさんはそうしないですよね。そこにちゃんと違う視点でアリかナシかのジャッジが入って、その上でデザインしている感じ。
- SASUKE:そのままやっちゃうと「モータウンだ」って言われちゃうんで。そう言われたほうがうれしい場合もあるんですよ。僕が作るときでもあるんですけど、その時はもう、作る前からそれを選んでます。完璧にオマージュするべきなのか、オリジナルを入れるべきなのか。
- ――わかりました。将来的に、どういうアーティストになりたいと思っています?
- SASUKE:今ですか? それは逆にどうなっていくのか気になっているところでもあります。時代が結構変わり目で……なんていうんですかね、僕はもともとはブルーノ・マーズみたいになりたいと思っていたんです。
- ――へえ!
- SASUKE:ブルーノは楽曲にも携わってプロデューサーたちと一緒に作って、自分でドラム演奏したりギターを弾いたりしながら、踊って歌ってっていう感じなので、結構僕がやりたいことに似てるなと思って。今もそこは目指してるんですけど、でもそれってだいぶ先のことじゃないですか。もしかしたらブルーノ・マーズみたいな人は今後誕生しないかもしれないし、そういう世界じゃなくなるかもしれないし。なので、今のなかですごいことというか、人が見てやばいと思うものとか面白いと思ってくれるものとか、そういうものを作れたらいいなと思っています。自分で言うのもなんですけど「目が離せない」っていう。期待という意味ではなく、本当にどうなるかわからないという意味で(笑)。
- ――なるほど。ブルーノはライブも素晴らしいエンタテインメントになっていますが、SASUKEさんはライブについてはどうですか?
- SASUKE:ライブは好きです。やっぱりダンスから入ったっていうのもあって、人に見られてパフォーマンスすることが好きなんですよね。ステージが大きければ大きいほどテンション上がるし、お客様が多ければテンション上がるしっていう。緊張もしないので。
- ――「SUPERSONIC 2020」への出演も決まりましたけど、ああいうフェスはどう?
- SASUKE:超テンション上がってるんですよ(笑)。決まった時から本当に楽しみで、いろいろやらないといけないこともあるんですけど、ずっとそのことを考えてます。同じ日に(石野)卓球さんがいたり、リミックスで何度かご一緒したm-floさんにも久々にお会いすることができるし。
- ――ジャンル横断でいろんなお客さんがいるフェスこそ、SASUKEの真価が発揮される場かもしれない。
- SASUKE:そうですね。どんどん出たいので、言われればどこでもすぐ行きます!(笑)
【取材・文:小川智宏】