BLUE ENCOUNTが「ユメミグサ」に込めた想い――「大人になる」とは?
BLUE ENCOUNT | 2020.09.02
「大人になる」というのは、どういうことだろう。心をすり減らして、いろんなものを諦めて、生きてゆくことだろうか。今夏、住野よるの原作小説を映画化した『青くて痛くて脆い』が公開される。その主題歌を手掛けたのはBLUE ENCOUNT。9月2日にリリースされるシングル「ユメミグサ」の表題曲であり、こちらの楽曲においても「大人になる」というテーマが大きな問題提起として、歌詞から、バンドのサウンドから、溢れ出している。彼らがこの曲に込めたのは、どのような思いだろうか。住野よるとの長きにわたる交流、また両者が築き上げた信頼関係も引っくるめて、田邊駿一(Vo/Gt)、江口雄也(Gt)、辻村勇太(Ba)、高村佳秀(Dr)のメンバー全員に話を訊いた。
- ――新曲「ユメミグサ」は、キラキラとしたサウンドがありながら、どっしりとした聴きごたえで。歌詞も、後悔の念を抱えつつしっかりと前を向いています。曲調と歌詞が手を取り合って、しなやかさを感じる曲だと思いました。
- 田邊:そうですね。
- ――映画『青くて痛くて脆い』の主題歌なんですけど、これがまた運命的な巡り合わせというか。まずはその辺りの制作経緯から、伺ってもいいですか。
- 田邊:映画は、住野よる先生による原作小説の実写化なんですけど、この原作が発売される2年前に、BLUE ENCOUNTの「もっと光を」という曲をこの小説のテーマ曲にしたいんです、というお話を住野先生からいただいたんですね。で、住野先生とBLUE ENCOUNTの関係はそれ以前に遡るもので、もともとは江口が交流していたんですけど。
- 江口:僕が住野先生の『君の膵臓をたべたい』を読んでいて、先生をTwitterでフォローしたら、フォロー返ししてもらって。先生が、「ライブ行ってます」と言ってくれたんです。それからは、先生の新刊が出るたびに僕が感想を送って、先生はライブが終わるたびに感想を送ってくれるっていう(笑)。今回もそんなふうにして、一緒に何かやろう、という話になりましたね。
- 田邊:あるときは、先生がバンドTシャツとディッキーズの完全装備でライブにいらしてくれて、もうガチ勢というか。だから、お互いに信頼があって。「ユメミグサ」は、実はインディーズ時代の7年前に作っていた曲なんですよ。
- 江口:僕が住野先生の『君の膵臓をたべたい』を読んでいて、先生をTwitterでフォローしたら、フォロー返ししてもらって。先生が、「ライブ行ってます」と言ってくれたんです。それからは、先生の新刊が出るたびに僕が感想を送って、先生はライブが終わるたびに感想を送ってくれるっていう(笑)。今回もそんなふうにして、一緒に何かやろう、という話になりましたね。
- ――えっ、そうなんだ。
- 田邊:はい。機が熟すのを待っていたというか、世の中に出すタイミングをずっと窺っていた曲なんですよね。それでいよいよ、これは行くでしょ、というふうになって。昨年の「バッドパラドックス」や「ポラリス」でもお世話になったプロデューサーの玉井健二さんとまた手を組みまして、曲をブラッシュアップしていきましたね。
- ――曲の構想自体は7年前からあって、歌詞は『青くて痛くて脆い』の物語に寄り添う形で書いたということですね。
- 田邊:そうです。そこは、登場人物に焦点を当てるものになっていますね。
- ――1コーラス目のサビに<大人になんてなれやしないよ>というフレーズがあって、最後のサビで<これからやっと大人になるよ>というふうに変化・成長の過程を描いているのが、物語と綺麗にシンクロしているな、と思ったんです。
- 田邊:曲を作ったとき、まだBLUE ENCOUNTはアマチュアに毛が生えたような状態で、すごく希望や野望に満ち溢れていたんですね。雑誌に出るときは、ラウドロック的な扱いでやらせてもらっていたんですけど。もともと、BLUE ENCOUNTはラウドロックに限らず良いと思ったものをやる、という姿勢ではいたんですけど、ちょっと前に進みそうだ、という時期に浮かんだ曲なので、自分の中でメモリアルな意味合いがあったりもして。当時のメンバーとしては、こういう曲を出すつもりはまったく無かったんですけど、いずれは絶対に出そう、という希望があったんですよね。自分の中ではまさに、大人になる瞬間というか。インディーズでがむしゃらにやっていた頃から、この先の未来を予想してやっていかなければならない段階に入っていったという。僕もこの原作は大好きで。二十歳前後の人たちの心の描写というのはすごく分かるんですよね。その頃の僕はわりと世の中に対して斜に構えていたというか、「どうせみんな、俺らのこと馬鹿にしてんだろ」みたいな(笑)。
- 江口:ああ(笑)。
- 田邊:だから、映画のテーマを踏まえたというのはもちろんあるんですけど、自分の中ではどうも他人事ではない楽曲になったというところがあって。あの頃の自分と向き合って書きましたね。わりと、自分たちのことも赤裸々に伝えていて。
- 江口:ああ(笑)。
- ――うん。これはBLUE ENCOUNTですよね。だから、もともと住野先生が「もっと光を」を原作のテーマ曲に構想していたというだけあって、「ユメミグサ」は単にBLUE ENCOUNTが提供した映画主題歌ではないんですよね。お互いにフィードバックになっているわけじゃないですか。
- 田邊:はい。だから歌っていて、今のところ単に映画の主題歌ではないなというのが、すごく良い手応えとしてありつつ。
- ――でも、7年前に作られた曲と聞いて、僕はちょっと意外だったんですよ。大人のBLUE ENCOUNTになっているじゃないですか。
- 田邊:そうですね。だからこそ、世の中に出すタイミングをすごく探っていたんです。世相のタイミングというよりも、自分たちが出来るか否かのタイミングだったんですよ。当時は、曲を着こなせなかったんです。
- ――江口さんは、ギタリストとしての手応えはどうですか。
- 江口:もともと7年前に、桜をテーマにした曲だったんですよ。そのときのイメージが強く残っていて、それを活かしたいなと思っていたので、桜が散っていくさまとか、出会いと別れを背景にして、ギターの味付けをしていきました。サビの中で鳴っている音とかは、桜が散っていく様子をギターで表現したらどうなるかな、というふうに作って。曲の中に、風景画を描いていくイメージでしたね。
- ――なるほど。辻村さんは、どうですか。
- 辻村:上モノにストリングスとかも入ってくるんで、ボトムはしっかり押さえておかなきゃな、と思って。7年前だったら、ベースのフレーズをもっと動かしたりしていたと思うんですけど、それをやらなくて良かったな、って。
- ――だから、そこが大人なんじゃないの。
- 辻村:そうですそうです。昔も、自分は大人だと意識していたはずなんですけど、やっぱり7年前に思うことと、今思うことでは価値観も全然違って。いろいろやった上で大人になったねっていう。でも、そこに味があれば今の自分は納得できるし。こういうボトムの支え方を、自信をもって出来るようになったなって思います。
- ――フレーズを派手に動かさなくても、自信の持てるベースプレイになっているんですね。高村さんは、どうでしょう。
- 高村:7年前に、田邊が弾き語りのデモを持ってきて、すごくいい曲だなっていう印象があったんですけど、そこにドラムを入れたら、普通だったらもっと良くなるはずなのに、いまいちしっくり来なかったんですよね。なんかモヤモヤするところまでしか行き着かなくて。でも今回、玉井さんに入っていただいて、自分も7年分の経験の積み重ねがあって、この曲にもっと合うアプローチをようやく見つけることが出来たというか。昔のままのアレンジだったら、全然グッと来なかったと思うんですよ。それを脱却するのに、7年間は必要だったのかもしれないです。この曲を活かすアレンジを、みんなで作れたかなっていう手応えがありますね。
- ――なるほど。じゃあ田邊さん、シンガーとしての向き合い方は、どうでしたか。
- 田邊:昨年の作品から、玉井さんには僕の新しい引き出しを次々に開けていただいて。それを経てからの冬フェスとか今年にかけて、歌が楽器として繊細になってきた手応えがあります。「エモいライブ」というだけで押し通さないような、声の作り方になっているんですよね。今年に入ってからの「ハミングバード」とか今回の「ユメミグサ」は、そういう勉強が出来たからこその曲になっていますし、歌っていて楽しい曲だな、と思います。
- ――やっぱり、皆さんの演奏ひとつひとつの響き方にしても、腑に落ちるものがあるんですよね。大人のBLUE ENCOUNTによる、名曲だと思います。では、この奥ゆかしい楽曲タイトルについて、説明してもらってもいいですか。
- 田邊:はい。“夢見草”は桜の異名・別称ということで、桜の花が散る儚さが夢に似ている、という由来らしいんですけど。一時期、僕の中ですごい花言葉ブームがあったんですよ(笑)。今でも調べるのは好きなんですけど、わりと早いタイミングで夢見草という言葉に出会って、いつかこれをタイトルにしたいなと思っていました。とは言え、このリリース時期に桜って!という問題もあり、桜という言葉を一切使わない歌詞も書いたんです。でも、どれもしっくり来ないというか、みんなの琴線にも触れなくて。「やっぱりこれ、桜でしょ。7年間、桜って言い続けたんだから」という話になって、じゃあ、夏の終わりや秋の初めに桜って言うにはどうしよう、というふうに考えて、あの日に帰る、という意味を歌詞に込めたんです。夢の儚さ、野望や自信が空回りしてしまう季節が映画の中でも描かれているので。だったらいよいよ「ユメミグサ」だなって思いました。
- ――素晴らしいです。では次に、カップリング曲の「1%」についてですが、こちらは曲調もメッセージもストレートな、かっこいいロックナンバーになっていて。
- 田邊:本当に「ユメミグサ」とは二律背反で、久々にライブを意識して作った曲ですね。スポ根です。
- 江口:インディーズのときに使っていたギブソンのレスポールがあるんですけど、敢えてそれでレコーディングをして、フレッシュさを出そうと思いました。普段は座って録音することが多いんですけど、この曲は立って演奏して、スポ根でフレッシュな感じになりましたね。
- 辻村:僕は、デモを聴きながらずっとランニングをしてましたね。テンポが速すぎると疲れちゃうし、この曲はなんか丁度いいんですよね。後は、夏フェスでプレイしているときに、自分がどういう弾き方をしてみんなと楽しむだろう、ということを意識していました。結局、今年の夏フェスは無くなっちゃいましたけど。
- 高村:「ユメミグサ」とは逆に、ヤンチャに、5歳ぐらい若返った気持ちでいいのかなと思って。アレンジもレコーディングも、頭を空っぽにしてやりましたね。
- 江口:インディーズのときに使っていたギブソンのレスポールがあるんですけど、敢えてそれでレコーディングをして、フレッシュさを出そうと思いました。普段は座って録音することが多いんですけど、この曲は立って演奏して、スポ根でフレッシュな感じになりましたね。
- ――うん、「ユメミグサ」があるからこそ、ヤンチャに弾けられるという曲ですよね。残念ながら、予定されていたホールツアーは開催中止ということになりましたけど、7月のライブ生配信「STAY HOPE」では、2021年4月18日に横浜アリーナでのワンマンライブを行うことが発表されました。今の段階では、どんな意気込みを抱いていますか。
- 田邊:もし、このときが久々のライブになったとしたら、なんかいろんなものがダダ漏れになりそうな気がしますよね。お客さんは1音目から泣いてくれてるでしょうし、僕も下手したら1音目から泣くだろうし。
- 江口:みんなそうなる可能性あるよね(笑)。
- 田邊:スタッフさんもみんなね。だから予告をするならば、1曲目から相当に思いの強い曲をぶつけていきたいですし、噛みしめたいですね。武道館や幕張メッセは、若く経験が浅い時期のアリーナ公演だったので、今度はどっしりとしたものを見せられると思います。アーティスト=BLUE ENCOUNTを見せないといけないですし、何をやろうともいいライブにするからこそ、残るものにしたいですね。「ブルエンの横アリってやっぱり凄かったよね」っていうふうに。
- 江口:みんなそうなる可能性あるよね(笑)。
【取材・文:小池宏和】
「ユメミグサ」Music Video
リリース情報
ユメミグサ
2020年09月02日
Ki/oon Music
01.ユメミグサ
02.1%
03.ポラリス(TOUR2019「B.E. with YOU」@Zepp Tokyo2019.11.21)
02.1%
03.ポラリス(TOUR2019「B.E. with YOU」@Zepp Tokyo2019.11.21)
お知らせ
■コメント動画
■ライブ情報
BLUE ENCOUNT LIVE@YOKOHAMA ARENA
2021/04/18(日)神奈川 横浜アリーナ
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。
■ライブ情報
BLUE ENCOUNT LIVE@YOKOHAMA ARENA
2021/04/18(日)神奈川 横浜アリーナ
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。