“嘘”を描いた新作『BE ALL LIE』。『ES』と密接に繋がる物語の核心とは。

ゆびィンタビュー | 2020.11.18

 なぜ人は心に嘘をつくのか、愛を求め続けるのか。ユアネスが11月18日にリリースする通算3枚目となるEP『BE ALL LIE』は、そんな人間の不可解な心の在り処を繊細に描き出す1枚だ。1曲目のポエトリー「心の在り処」に始まり、暗号めいたタイトルを持つインストナンバー「G6HFREPE」、「二人静」「ヘリオトロープ」といった花の名前を散りばめた世界観からもわかるとおり、今作は、昨年11月20日にリリースされた2nd EP『ES』と密接に繋がる作品になっている。アニメ主題歌や坂本真綾への楽曲提供など、新たに活躍の場を広げたことによるバンドの進化が如実に反映されたという今作について、メンバー全員に話を訊いた。

PROFILE

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ユアネス


 福岡で結成された4ピースバンド。
 感情の揺れが溢れ出し琴線に触れる声と表現力を併せ持つヴォーカルに、変拍子を織り交ぜる複雑なバンドアンサンブルとドラマティックなアレンジで、詞世界を含め一つの物語りを織りなすような楽曲を展開。
 重厚な音の渦の中でもしっかり歌を聴かせることのできるLIVEパフォーマンスは、エモーショナルで稀有な存在感を放っている。

  • コロナでライブ活動ができないなか、最近のユアネスは次々に新しい活動を展開していますね。
  • 古閑翔平(Gt)

    正直、自分たちでもコロナの影響がここまで長引くとは思ってはいなかったんですけどね。去年の年末頃からいろいろなことを計画してたので、結果的にライブができない時期にも、バンドの活動が水面下にならない状況をキープすることができたんです。
  • ひとつずつ振り返ると、まず4月にTVアニメ『イエスタデイをうたって』の主題歌として、初めて「籠の中に鳥」を書き下ろしました。
  • 黒川侑司(Vo/Gt)

    アニメの主題歌って、僕たちがずっとやりたかったことなんですよ。
  • 田中雄大(Ba)

    みんなアニメが好きなので。お話をいただいたときはすごくうれしかったです。
  • 小野貴寛(Dr)

    『イエスタデイをうたって』っていう歴史のあるアニメ作品に関われたのも光栄でしたね。実際にテレビで流れたときは、ずっと画面に食いついて見てました(笑)。
  • 作中の登場人物の心境に寄り添った楽曲になりましたけど、作り方に違いはありましたか?
  • 古閑

    作曲や作詞は基本的に自分がいつも担当しているので、特に変わりはなかったんですけど、今回は初めてアゲハスプリングスさんに編曲のほうをお任せさせていただくということだったので、とても緊張していました(笑)。作曲を担当する自分からしたら、アゲハスプリングスさんはとても憧れの存在というかグループというか、自分の好きな作家さんたちも所属されてて数多くの名曲を世に生み出されていること、素晴らしいアーティストを育てあげてきているということも知っていたので、一緒にできるということがただ純粋にうれしかったです。アレンジを一緒にすり合わせしていくなかで、「あぁ、こういう発想があるんだ」とか「そういった展開もあるんだ」っていうのを毎度毎度実感させられて、楽曲制作をしてるんだけど、常に勉強をしていた感覚ですね。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
  • 8月には、スマートフォン向けRPG『Fate/Grand Order』第2部後期主題歌として、坂本真綾さんに楽曲提供した「躍動」が発表されました。これは決まったとき、驚いたんじゃないですか?
  • 古閑

    この話は、ライブの帰りに車の中でマネージャーに言われたんです。「あれ、これはヤバいことになるぞ」って思いましたね。
  • 黒川

    「すごいコンテンツに関わることになるぞ」って。
  • 田中

    (真綾さんは)みんながそれぞれ好きなアニメに必ず出てる方ですからね。
  • 実際のレコーディングで真綾さんとお会いする機会はあったんですか?
  • 田中

    今回レコーディングが2回あって、1回目がメンバーの演奏をレコーディングする日だったんですけど、そのときは真綾さんの出番がなかったのに、ご挨拶にお越しくださって。2回目は真綾さんの歌録りの際にメンバーがお邪魔させていただきました。
  • 古閑

    そのとき真綾さんが「私、この曲すごく好き」って言ってくれたんです。本当にうれしかったですし、真綾さんがお話されると場の空気が自然と暖かくなるのを感じて「包容力が凄い、凄まじい」と改めて感じました。今回のお話をきっかけに、自分は改めて真綾さんの歌の魅力にとても惹かれたので、またご一緒できるように頑張ろうと思うことができました。
  • バンドのための曲を作るときと比べて、何か違いはありましたか?
  • 古閑

    女性のキーで作るっていう違いは考えました。それで逆に「黒川はキーが高いな」って気づいて、「俺、結構黒ちゃんに無茶を言ってるのかもしれない」って実感したんです。ユアネスでは女性キーで歌うような曲をやってることが多かったりするんですよ。でも低いところは低いから、すごくレンジが広い。今回、楽曲のキーの幅を意識したことは勉強になりましたね。
  • アニメやゲームのための楽曲を作ることで得たものがあるとしたら何でしょう?
  • 古閑

    すごく自信になりました。特に最近は海外の方のリアクションが増えてるんです。今まで日本だけのコンテンツとしてやってきたんですけど、これをきっかけに海外の人にも届けたいっていう気持ちは強くなりましたね。
  • たしかに、最近のユアネスのYouTubeのミュージックビデオに対するコメントが……。
  • 田中

    多国籍ですよね。
  • 黒川

    海外の方からのコメントが多いんですよ。日本語の曲なのに聴いてくれてて、すごく褒めてくれるんです。「Perfect Voice!」みたいな。
  • 全員

    あはははは!
  • 黒川

    生まれてきて良かったと思います(笑)。
  • 田中

    小野ちゃんなんかは、もともと洋楽も好きで、いろいろな国の曲を聴いてるから、現地の人から反応があるのはすごくうれしいよね?
  • 小野

    うん。コメントを見てると、外国の方って反応が素直だなと思いますね。
  • 黒川

    最近は歌詞を翻訳して表示してるんですけど。対応してない国の言葉で、「私には言葉が理解できませんが、これが素晴らしい作品だということはわかります」って書かれてたりするんです。たぶん自分たちが、「ジャスティン・ビーバー、何を歌ってるかわからないけど、めっちゃかっこいい」って思うのと同じで。そういう直感的なものでコメントしてくれるのは感じますね。
  • 特に海外を狙ったわけじゃないのに、その結果は喜ばしいですよね。
  • 田中

    本当にうれしいことです。
  • もうひとつ触れておきたいのが、古閑くんが始動したsouzoucityというプロジェクトについて。音楽的な実験の場であり、ユアネスの音楽を広げる間口になればという想いで始めたそうですけど。これに関しては、ほかのメンバーが客観的にどう見ているのか聞いてみたいです。
  • 黒川

    まだ1曲しかリリースしてないので、全貌はわからないけど。もともと(古閑は)ボカロP気質なんですよ。僕も、ニコニコ動画の歌い手とかボーカロイドの曲から音楽に入ったので、単純に「こういう曲を僕にも歌わせてほしいな」って思ってました。
  • 田中

    わかる! それ、めちゃくちゃわかる!
  • 古閑

    なるほど(笑)。
  • 田中

    僕も、最初はその気持ちで聴くかなと思ったんです。でも実際に聴いてみたら、やっぱり参加してる人たちの音が、その人にしか出せない演奏で録音されてるんですよ。(古閑は)その人のプレイスタイルをわかったうえでオファーしてる。楽曲のために人を選んでるから、すごくおもしろい音楽がどんどん増えていくんじゃないかなと思ってますね。
  • 小野

    ユアネスとは違うものとして、本当に自分の好きなことをやってるんだろうなって思うので。そこはもう「いいぞ、行け行け!」みたいな感じです(笑)。
  • 田中

    でも、souzoucityから好きになってくれた人に対しては、「ユアネスが(古閑の)本体なんだぞ」っていうことは、ちゃんと自分のプレイで見せたいですけどね。
  • ははは、いいですね(笑)。ちなみに、さっき話してもらった「籠の中に鳥」も、「躍動」も、今回リリースされる『BE ALL LIE』には収録されません。普通だったら、これだけの大型タイアップであれば、大々的に打ち出して収録するものですが。
  • 田中

    そういうのがセオリーではあるんでしょうけど(笑)。
  • ユアネスの作品はコンセプトありきだから、必然的に新曲のみで構成するものになると。
  • 古閑

    そういうことです。
  • 『BE ALL LIE』には、前作『ES』から連続するようなテーマも感じられますが、どういう位置づけの作品になるんですか?
  • 古閑

    実は『ES』を作る段階で、その次の作品のタイトルは『BE ALL LIE』にしようって考えてたんです。連続したストーリーにするつもりだったので。
  • 今作は“嘘”というテーマがより際立っていますね。
  • 古閑

    前作は“死生観”がテーマだったんですけど、今回はそれを引き継ぎつつ、より“人の感情”にスポットをあてたという感じですね。嘘とか心、涙っていうものを表現したいなと思ったんです。
  • “死生観”というと抽象的ですけど、“人の感情”にスポットをあてたことで、自然と共感できる部分が多くなったように思いました。いかに人間は自分の心に嘘をつくのか、脳と心がチグハグな状態なのかっていうことを突きつけられるというか。
  • 古閑

    ああ、『ES』を作ったことで、メッセージを伝えるという部分は強化されたと思います。あとは、『イエスタデイをうたって』っていう作品に関わったことも大きいです。あの作品って、人生の後悔を描いたものなんですね。で、ちょうどそのあたりで『BE ALL LIE』を作り始めたので。1曲目の「心の在り処」のセリフも、実は『イエスタデイをうたって』から出てきた言葉だったりするんです。自分の人生を振り返りながら、自分に対してついた嘘とか、納得させるためについた嘘とか、そういうテーマを掘り下げたら、より共感性が増したというのはありますね。
  • そのタイトルトラックでもある「BE ALL LIE」は攻撃的でダークな曲調です。今までのユアネスにはなかったタイプかなと思いますが。
  • 古閑

    そうですね。「少年少女をやめてから」が近いんですけど。もしくは、初期のCDにもなってない曲には、こういうタイプの曲があったんですよ。
  • 田中

    ああ、たしかに。
  • 黒川

    めちゃくちゃ難しい曲だったよね(笑)。
  • じゃあ、原点回帰のような曲を目指してたんですか?
  • 古閑

    いや、というよりも、これは『Fate』の仕事をしたのが大きかったです。真綾さんの曲を作るにあたって、いろいろ勉強し直したんです。その流れで、どんどん転調にハマって。コード進行で色気を出せればいいなって考えてたので、それを「BE ALL LIE」に注ぎ込みました。
  • 楽器隊としては、タフな演奏が求められる楽曲ですよね。
  • 田中

    そこは、いちばん小野ちゃんが大変だったよね。
  • 小野

    単純に覚えるのが大変でした。今までの曲と比べて叩く情報量が圧倒的に多くて。まず手順を整理するのが大変なんですよ。1個ハズすと全部が壊れる、みたいな曲なので。
  • たしか『Ctrl+Z』で初めて取材をしたときも、古閑くんは、人間が叩けないようなレベルのデモを作ってくるというような話をしてました。
  • 田中

    そのときのピークを越えるものを要求されてるよね。
  • 小野

    断然越えてます(笑)。
  • 古閑

    ふふふ(笑)。でも「叩けるんだ」と思いますよね。難しかったら、削ってもいいやと思うぐらいのものを打ち込んで渡すんですよ。そしたら、やってくれるので。削らんでよかったって(笑)。
  • 小野

    そういうのがうれしいんですよ。
  • 黒川

    筋トレと同じだよね(笑)。
  • 田中くん、ベースに関してはどうですか?
  • 田中

    基本的に、僕の場合は、デモをもらってから自分でベースを考えるんですけど、今回は(古閑の)家に行って、ふたりでああでもないこうでもないってやりましたね。自分の中では、ある程度引き出しを作っていくんですけど、それを全部開けちゃった感じです。
  • 今自分ができることを全部やり切った?
  • 田中

    そう。「余裕をもって終われなかったな、くそー」みたいなところはありましたね。たぶん、前作の「ES」を聴いたうえで「BE ALL LIE」を聴くと、違う良さを感じてもらえると思うんです。「ES」ではたくさん引き算をしたけど、「BE ALL LIE」はやろうと思ったことを全部詰め込んだので。
  • 逆に「二人静」はピアノと歌のみのシンプルな楽曲になってます。バンドアレンジにしなかったのは、どうしてでしょう?
  • 古閑

    ピアノだけで歌うっていうのを、今までやってなかったなと思ったんです。EPの流れとして、「心の在り処」から始まって、いきなり「BE ALL LIE」にいくとびっくりしちゃうから、「二人静」を挟むことで、いい流れでテーマにいけるんじゃないかなって。
  • 黒川くんは、ピアノのみで歌うというのはどうでしたか?
  • 黒川

    僕はアコースティックな感じで、フリーテンポで歌うのが好きだし、得意なんですけど。「二人静」に関しては手こずりました。難しかったです。こういう曲は声色が際立っちゃうから、(古閑から)結構ディレクションがあって。本当に細かいことなんですけど、「あ」っていう1音に対して、「ぅあ」って柔らかい感じで声を出すとか。そういうふうに詰めていきました。
  • 今回、すべての楽曲で思ったことなんだけど、黒川くんのボーカルの進化が凄まじいですよね。「二人静」みたいな曲だと、それが特に際立ってました。
  • 黒川

    あ、ありがとうございます(笑)。今回、自分でも調子が良かったなと思ってて。
  • 古閑

    良かったよねえ(笑)。
  • 田中

    すべての録音に関して良かったもんね。
  • 古閑

    だから全然時間がかからないんですよ。ボーカルがスムーズなのに、俺の時間がめちゃくちゃ長い。ギターは3日間ぐらいかかるのに、ボーカルは5時間で終わるっていう。
  • その進化の理由は何なんですか? ライブの場数を踏んだことなのか……。
  • 田中

    逆にコロナで休むことができたのが良かったのかもね。
  • 黒川

    久しぶりに大きい声で歌えることのうれしさもありましたね。あとは、せっかくこんなにいい曲を作ってくれたんだから、応えなきゃみたいな大人な気持ちも芽生え始めて。
  • 全員

    あはははは!
  • 黒川

    いや、本当にその気持ちが強かったんですよ。こういうコロナの状況になって、ライブもできないし、作曲してくれる人がいないと、僕は何もできない。弾き語りカバーをSNSにアップし続けるしかないなって考えたときに、作品を作る人へのリスペクトが強くなったんです。
  • なるほど。「二人静」というのは、花の名前ですね。
  • 古閑

    そうです。この花の名前は、能楽の静御前の話が元になってて。きれいな話だなと思ったんです。最初にその話を聞いたとき、霊体として静御前がふたりいるように感じられる、その心が美しいというか。現実味のない感じに惹かれて。それを含めた歌詞にしたかったんです。
  • 同じく、「ヘリオトロープ」も花の名前をタイトルに掲げています。
  • 古閑

    前作に続き、死生観をテーマにするうえで、花をモチーフに使いたいなと思ったんです。「ヘリオトロープ」は、花言葉が良かったのと、僕の誕生花だから入れてみようと思って。って言った途端、メンバーがみんな自分の誕生花を調べ始めましたけど(笑)。
  • 田中

    僕と小野ちゃんの誕生花は同じなんですけど、ちょっと曲に入らなそうな感じでした(笑)。
  • 「ヘリオトロープ」の花言葉は、“夢中”“熱望”“永遠の愛”といったものだそうですけど、どの意味合いで使いたいと思ったんですか?
  • 古閑

    “永遠の愛”ですね。死生観を考えるときに根底にあるのが、愛情だったりするのかなと思うんです。誰かを思うこと、誰かに思われること。どちらにしろ、愛がないと想いは続けられない。だからこそ、この花言葉で締めくくりたかったというか。自分の中で、こうあってほしいっていうものなのかもしれないです。互いに誰かを思い続ける人間であってほしいっていう。
  • 前作『ES』では、想いは忘れたほうがいいのか、過去のものとして断ち切ったほうがいいのか、というテーマを扱ってましたけど。やはり思い続けるほうが美しいと思いますか?
  • 古閑

    うーん……そこは五分五分なんですよね。自分でもどちらがいいかはわからないんです。そういう想いが、こういう作品に出てるんじゃないかなと思います。
  • ああ、なるほど。今の「五分五分の感情」という言葉で、『ES』と密接に繋がる『BE ALL LIE』とで、ユアネスが表現しようとしたことが見えてきた気がします。
  • 黒川

    忘れてもいい、忘れないでほしいっていう五分五分な感情っていうのは、僕もすごいわかるんですよ。たぶん、どっちのパターンの人間もいると思うし、どちらが正解でもないし。
  • 田中

    解釈によって違う捉え方もできるから、何回でも聴けるEPになってると思います。

【取材・文:秦理絵】

tag一覧 J-POP EP ゆびィンタビュー 男性ボーカル ユアネス

リリース情報

BE ALL LIE

BE ALL LIE

2020年11月18日

HIP LAND MUSIC

01.心の在り処
02.二人静(Piano ver.)
03.BE ALL LIE
04.G6HFREPE
05.ヘリオトロープ

お知らせ

■配信リンク

「BE ALL LIE」
https://yourness.lnk.to/BEALLLIE_EP



■コメント動画




■ライブ情報

ユアネス 東名阪 自主企画ライブ
12/02(水)愛知 JAMMIN’
12/06(日)大阪 Music Club JANUS
12/09(水)東京 渋谷CLUB QUATTRO

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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