言葉遊び×音楽、SAKANAMON本領発揮の新作『ことばとおんがく』に迫る!

ゆびィンタビュー | 2021.04.14

 「言葉遊び」と「音楽」をコンセプトにしたミニアルバム『ことばとおんがく』。全8曲それぞれで異なる言葉遊びをしていて、音作りでもユニークな手法をたくさん試みている作品だ。例えば、昨年『NHKみんなのうた』で放送されて、今作にも収録されている「丘シカ地下イカ坂」は、駄洒落の連発で和やかな音の響きを生み出しつつ、シカとイカのほのぼのとした日常を見事に描いている。その他の曲も独創的な遊びが満載なので、歌詞と音にじっくりと向き合いながら楽しむことをお勧めしたい。この作品について藤森元生(Vo/Gt)に語ってもらった。


PROFILE

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SAKANAMON


 上京と同時に組んでいたバンドが解散し一人で曲作りを続けていた藤森が、2007年11月専門学校の同級生である森野と出会い結成。「聴く人の生活の肴になるような音楽を作りたい」という願いからSAKANAMONと命名する。2009年4月より木村が加入。
 2012年12月にビクター内レーベル Getting Better Recordsよりメジャー1stアルバム「na」をリリース。2013年4月にメジャー1stシングル「シグナルマン」、6月には2ndシングル「花色の美少女」をリリース。その後も多数のフェスへの出演やZeppDiverCityでワンマンライブなど大成功を収める。
 2017年にshibuya eggmanのレーベルである「murffin discs」内に発足した新ロックレーベル「TALTO」へ移籍。
 2018年には結成10周年を迎え、フェイクドキュメンタリー映画「SAKANAMON THE MOVIE ~サカナモンはなぜ売れないのか~」の制作や、全国ワンマンツアー / 対バンツアーを開催し盛大に結成 10 周年を締めくくる。
 2019年1月から3ヶ月連続配信シングルをリリース。同年8月には通算5枚目となるミニアルバム「GUZMANIA」(ヨミ:グズマニア)をリリース。さらに、11月20日よりJR東日本「行くぜ、東北。SPECIAL 冬のごほうび」のCM曲の歌唱をVo.Gt 藤森元生が担当。
 2020年4~5月にはSAKANAMON書き下ろしによるNHKみんなのうた「丘シカ地下イカ坂」が放送され、その反響は大きく、2020年8~9月の「お楽しみ枠」でも再放送された。同年9月に配信リリースされた「ディスタンス」は、斎藤工が主導するリモート映画プロジェクト「TOKYO TELEWORK FILM」の第6弾となるリモート製作ドラマ「でぃすたんす」の劇伴となっており、SAKANAMONのMVやドキュメンタリー映画でタッグを組んだ清水康彦が監督と脚本を務め、斎藤工が脚本を担い、滝藤賢一、筧美和子、板谷由夏ら豪華キャストが集結して製作されたこの映画はイオンシネマ含む全国12箇所の劇場で全国上映された。また、TOKYO MXテレビで放送中のアニメ「最響カミズモード!」に、藤森元生が歌唱担当として参加。

 “サカなもん”というマスコットキャラクターを従え、独特のライブパフォーマンスを展開している。
 結成14年目にして、これまで以上に活動の幅を広げている。

  • 「言葉遊び」と「音楽」をコンセプトにした1枚ですが、この切り口で作ろうと思った理由は、何かあったんですか?
  • 藤森

    今回の3曲目の「鬼」は一昨年に配信で出した曲なんですけど、これがきっかけのひとつですね。僕らにとっても新しいジャンルの音楽を作れたなと思ってて。普通にかっこいいギターロックとかいうことではなく、少し遊びのある曲を配信リリースに持ってくるというところで頑張れたかなと。いろんな人たちからの評価もいただいたこの曲は、おかげさまで5曲目の「丘シカ地下イカ坂」にも繋がりました。


  • 『みんなのうた』で流れた「丘シカ地下イカ坂」の背景に、そういう経緯があったとは初耳です。
  • 藤森

    そうだったんです。「『鬼』みたいな曲を作ってください」と言われて、その結果「丘シカ地下イカ坂」も完成して、「やったー!」ってなって、「じゃあ、この感じでアルバム作ろうぜ」って。前作の『LANDER』の制作中からそういう話になってました。
  • 言葉遊びはもともと好きですよね?
  • 藤森

    はい。でも、通好みの遊び方をずっとしてきて、そういうのが濃いファンの間でだけ知られているのがかっこいいと思ってたんです。今回はいよいよそうじゃなくて、「こういうところを知ってください! こんな面白いことしてるんだぞ! 言葉で遊んでます!」って、あざとく見せるくらいの気持ちなんですよね。SAKANAMONも、もう13年目。卑屈でアンダーグラウンドな感じの良さは、もうわかってもらえたと思うので(笑)。だから、もうちょっと這い上がりたかったんです。
  • 「鬼」はライブの中での存在感も、どんどん増してきていますよね?
  • 藤森

    そうなんです。初めてライブを観る人にも「なんだこのバンドは?」って思ってもらえる大きい武器になってるので。かっこいいメロディと、素敵なことを歌ってる歌詞との融合で美しく聴かせるだけじゃないものを届けられる曲です。「鬼」を書いているときから「子供とかも反応できるような音の遊び方を見せられるっていうのが、今のこの時代で逆に個性になるんじゃないかな?」と思ってました。
  • 「なんかわからないけど、この曲いいよね?」って、実は魅力的な音楽の形のひとつですよね?
  • 藤森

    僕もそう思います。「鬼」も、鬼が怖いだけの曲なので(笑)。この曲を書いてる頃、僕、スランプだったんですよ。「いい曲、いい曲」って考え続けて嫌気がさしてまして。「そういうことじゃない形のいい曲っていうのもあるよね?」って。いわゆる「いい曲」っていうのだけ考えると、音楽の可能性を狭めてしまうと思ってました。もちろん僕の中でもいいことを言わせてもらってる曲もあるんですけど、何かの二番煎じみたいにもなるのも嫌でしたし。つまり、「鬼」みたいな曲を作ってみたいと思ってもらえるくらいの、新しいムーブメントになりたい欲が常にあるんです。
  • 「丘シカ地下イカ坂」も粋な言葉遊び、音遊びができている曲だと思いました。

    NHK『みんなのうた』内、「丘シカ地下イカ坂」紹介ページ
    https://www.nhk.or.jp/minna/songs/MIN202004_04/
  • 藤森

    ありがとうございます。『みんなのうた』は長年の夢だったので。結構たくさんの人たちが観てくれたんですよね。姫田真武さんが作ってくださったアニメーションも素晴らしかったです。
  • この曲の歌詞は似た音の響きの単語で遊ぶ、いわゆる駄洒落を追求していますね。
  • 藤森

    はい。もともと男女の歌にしてたんですけど、NHKのスタッフさんが「もっと遊んでいただけますか?」と。最初は結構美しく書いちゃってたんで、吹っ切って思いっきり遊びました。
  • 今作は曲それぞれで、遊び方の切り口が異なるのも面白いです。言葉遊びの種類についてもいろいろ調べたんじゃないですか?
  • 藤森

    はい。でも、「レ点」に関しては、結構前からネタだけはあったんですよ。
  • レ点って、漢文とかで使う、文字の前後が入れ替わる記号ですよね?
  • 藤森

    そうです。ほかの言葉遊びも、いろいろ調べましたね。別々の遊び方をしたほうがコンセプトアルバムとして旨味が出るかなと思って。「コンセプトがあることによって、今までのSAKANAMONの流れで聴けないものになるのはどうなんだろう?」っていうのは心配したんですけど、思っていた以上にバランスのいいものになりました。
  • 「この言葉遊び、音遊びで作ってみたい」というのがあったことによって、新鮮な曲を作れた手応えもあるんじゃないですか?
  • 藤森

    ありました。それはめちゃくちゃ助かりましたね。言葉遊びはもともと好きですし、「それしかしちゃいけない」ってなると逆に自由な感覚でした。やることがわかってるから、すごく考えやすくて。
  • 例えば「ことばとおんがく」だったら、ハニホヘトイロハ=ドレミファソラシドで表される音名と実際に鳴らす音をリンクさせる作り方ですよね?
  • 藤森

    そうです。言葉と音楽を合わせることでしかできない表現の曲という点で、このアルバムの総括ですね。今回、言葉遊びありきでいろいろ広げられたから、制作のスピードも速かったです。でも、すぐに作れたと同時に、1年くらいかけられたのも良かったです。当初の予定よりもリリースが遅れたこともあって、じっくりと練って作ることができました。
  • 今回の作品、ミュージシャンからの反応も多いと思います。「面白い作り方! こういう技法で俺も作ってみたい!」というような。
  • 藤森

    言われたい(笑)。SUPER BEAVERのやなぎくん(柳沢亮太/Gt)が、「鬼」をめちゃくちゃ気に入ってくれてるんですよ。「murffin night」で一緒だったとき、この曲をやったらSUPER BEAVERのメンバーたちが大笑いしていて。ツアー中の車の中でも「鬼」が流れているらしいですよ。すごく褒めてくれてうれしかったです。
  • 今回のほかの曲に対しても、様々な方々からの反応があると思いますよ。先ほど少し話が出た「レ点」も見事ですし。<馬鹿 レ カバ>とか、レ点によって音がひっくり返るところで音名の「レ」が鳴るというのも洒落が利いています。逆にすると面白い言葉って、いろいろあるんですね。<猫 レ コネ><笑み レ 見栄><利子 レ 尻>とか。
  • 藤森

    その発想ありきで作りたかったんです。こういう遊びもミュージシャンにしかできないやり方だと思います。
  • この曲、FM802 のDJ、仁井聡子さんに参加していただいたんですね。
  • 藤森

    はい。ナレーション感が欲しくて。ちなみに男の声はキムさんです。彼も結構ナレーションっぽい声をしてるので。
  • 「いろはうた」もすごいですね。イロハの47文字を2度使わずに、ちゃんと意味が通る歌詞になっているじゃないですか。
  • 藤森

    これは大変でしたね。何回も試したんですけど、歌詞はこれしか作れなかったです。バカリズムさんもひらがな47文字でコントとして成立するものを作っていらっしゃるんですけど、僕も音楽として成立するものを作りました。そういうやり方で頑張って作ってることを描いた歌詞になってます。最後の<ことのは>は決め打ちでいきたくて、ほかのところを考えていったんですけど、「は」がもう使えなくて悩んだり。あと、「み」とか「む」が余るんですよ。普段使わない脳みそを使いました。
  • 「OTOTOTOTONOO」も見事です。この言葉遊びって折句(おりく)って言うんだと初めて知りました。いわゆる「あいうえお作文」ですね?


  • 藤森

    そうです。縦読みとかができるあれです。
  • 歌詞の頭の文字だけ縦読みすると、「サウナ」「水風呂」「ロウリュ」とか、サウナに関連した言葉が出てくるのが面白いです。歌詞自体はサウナとライブがテーマになっているんですね。
  • 藤森

    ライブハウスで「うわー!」ってなって、汗かいて、「楽しかったあ」ってなって、ストレスがなくなったりする一種の心の安らぎは、サウナと共通するものがあるんです。それを無理やりくっつけました(笑)。ミュージシャンもサウナ好きが多いんですよね。だから共通する何かはあるんだと思います。
  • 藤森さんにとって、サウナとの出会いは大きかったですか?
  • 藤森

    大きいかもしれないです。前回の『LANDER』を出したときは、もうサウナが好きになってて、明るい曲が増えましたからね。


  • 「こんな面白いことしてるんだぞ!」って積極的にアピールしたくなった前向きさも、もしかしたらサウナが影響しているのかも。
  • 藤森

    たしかにサウナと地続きかもしれないですね。僕、一気にハマってすぐにやめるタイプなんですけど、サウナは続いてますし。趣味であると同時に、健康のためにやらなきゃいけないこと、牛乳を飲むようなことなんです。
  • サウナでリラックスしているときに曲が浮かんだりすることはあります?
  • 藤森

    それはどうかな(笑)。でも、シャワーを浴びてるときに思いつくっていう話は、よく聞きますよね。僕の場合、「鬼」がそうでした。「早く風呂から上がってボイスメモ録んなきゃ!」ってなってて(笑)。
  • 健康的な近況だからこそ、今作は自由な発想にあふれているのかもしれないですよ。「PACE」も切れ味がいいですし。この曲でやっている地口(じぐち)というのは、<果報は起きて待っても良い>みたいに、ことわざとかをアレンジする洒落なんですね。
  • 藤森

    そうです。最初と最後のブロックの部分の歌詞は、言葉遊びの部分を作る前に出来ていて、そこをいじらずに完成させたかったんです。Aメロ、Bメロでいかに遊ぶかが大変でした。
  • 「発想の転換で可能性は広がる」とか「もっと自分のペースでいろいろ自由にやっていいんじゃない?」というメッセージも感じる曲です。
  • 藤森

    そうですね。ちゃんとSAKANAMONの応援ソングとして成立させる上で、言葉遊びもするっていうのが大事だったんです。そういうところを意識しながら作って、上手くいったかなって思ってます。
  • このメッセージは、今回の作品全体でも示せていますよ。
  • 藤森

    そうだといいですね。それがしたかったので。「こういうやり方もあるんだよ」というのが個性の1個にもなっていたらうれしいです。
  • MVが公開された「かっぽじれーしょん」も、遊び心の塊ですね。もっささん(ネクライトーキー)と会話する藤森さんが次々聞き違いをして、ディスコミュニケーションが展開する様が猛烈に面白いです。


  • 藤森

    ありがとうございます。この曲はぷりぷりしたかわいい声が良くて、「もっささんでしょ!」と思いました。
  • 藤森さんのパートの聞き間違いが実にひどいです。<お醤油取って?>に対して<ドジョウ掬って?>とか。
  • 藤森

    ちょっとどうかしてるんです(笑)。「似たような音を探す言葉遊びにしなきゃいけない」って考え出したら嫌になって、「全然違ってていいや。こいつの耳めちゃくちゃおかしくして、いかにおかしなことを言わせるかを考えよう」って思ってました。
  • <映画見に行こう>に対する<平和にニート?>とかも、ひどいですねえ。
  • 藤森

    そんなこと言うわけないですよね(笑)。
  • (笑)今回の作品を聴いて、SAKANAMONがものすごく独創的でクリエイティブなバンドであることを再確認しました。
  • 藤森

    ありがとうございます。そう思われたくて作りましたね。このアルバムには勉強させてもらいました。「何かテーマがあったほうがいいんだな」っていうことと、「また別の切り口で音楽の提示の仕方ができたらいいなあ」っていうことも思ったので。
  • 森野さんと木村さんの反応はいかがですか?
  • 藤森

    どうなんでしょう? 相変わらず「いいんじゃない?」っていう感じです(笑)。
  • (笑)「ウチのソングライター、すごいなあ」って改めて思っているはずです。
  • 藤森

    直接は言われてないですけど、森野さんは「名盤」って言ってましたから、名盤なんだと思います(笑)。2020年は、これを作れたっていうのが大きかったですね。やりたかったことを十分詰め込むことができました。
  • この作品を出したあとは東名阪ツアーですが、ワンマンツアーは久しぶり?
  • 藤森

    はい。ライブ、もっとやりたいんですけど。新江ノ島水族館でやった配信ライブみたいな、なんかちょっと変わり種のライブもまたやってみたいと思ってます。あと、まだいつ出すかとかはわからないですけど、自分たちの中でのコンセプトがある作品を作ろうとは思ってますが……どうなるのかはわかりません(笑)。

【取材・文:田中大】

tag一覧 J-POP ミニアルバム ゆびィンタビュー 男性ボーカル SAKANAMON

リリース情報

ことばとおんがく

ことばとおんがく

2021年04月14日

TALTO

01.ことばとおんがく
02.かっぽじれーしょん feat.もっさ(ネクライトーキー)
03.鬼(Album ver.)
04.レ点 feat.仁井聡子(FM802 DJ)
05.丘シカ地下イカ坂
06.いろはうた
07.OTOTOTOTONOO(読み方:オトトトトノオウ)
08.PACE

<初回限定盤DLカード収録内容>
SAKANAMON 2020~2021 配信ライブ総集編『おうちとおんがく』全10曲収録
01.ロックバンド(2020.3.13. フライデーナイト)
02.夏の行方(2020.5.17 お家で居酒屋肴者~ぼくらのテレワーク~)
03.YOKYO(2020.6.25 お家で居酒屋肴者~今こそ演奏会~)
04.SECRET ROCK’N’ROLLER(2020.7.26 全国“着陸”ワンマンツアー オンライン振替公演~君の家まで~)
05.ミュージックプランクトン(2020.9.26 ENOSUI×SAKANAMON “COOL AGE NIGHT”)
06.お祭りランドスケープ(2020.9.26 ENOSUI×SAKANAMON “COOL AGE NIGHT”)
07.ディスタンス(2020.9.26 ENOSUI×SAKANAMON “COOL AGE NIGHT”)
08.SAKANAMON THE WORLD(2021.1.11 Go To SAKANAMON THE WORLD)
09.ONE WEEK(2021.1.11 Go To SAKANAMON THE WORLD)
10.TOWER(2021.1.11 Go To SAKANAMON THE WORLD)

お知らせ

■配信リンク

『ことばとおんがく』
https://big-up.style/Ed1Qms5SCo



■コメント動画




■ライブ情報

SAKANAMON ONEMAN LIVE 2021
『OTOTOTOUR』

07/10(土)名古屋 池下CLUB UPSET
07/11(日)大阪 心斎橋Music Club JANUS
07/30(金)東京 渋谷CLUB QUATTRO


hoshioto’21
05/29(土)岡山県井原市青野町 葡萄浪漫館

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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