飛躍と覚醒の新作『黄昏STARSHIP』。ふたりの脳内を探る徹底インタビュー!

ゆびィンタビュー | 2021.05.17

 音楽というスターシップに乗って、夢のパラレルワールドを駆け抜けろ――。なきごとの2ndミニアルバム『黄昏STARSHIP』は、より多様性を増したロックサウンドに乗せて、リスナーを「現実逃避」という異次元へといざなうコンセプチュアルな作品だ。先行配信曲「ラズベリー」「春中夢」をはじめ、過去のライブで披露した曲や、アルバムのシークレット・トラックだった曲など、全7曲で作り上げた壮大なストーリー。その結末に待つものは?――水上えみり(Vo/Gt)、岡田安未(Gt)に話を訊いた。

PROFILE

sample dummy

なきごと


 2018年9月にボーカル&ギターの水上えみりと、ギター&コーラスの岡田安未の2人で結成した平均年齢22歳の東京出身2人組ロックバンド。ライブはサポートメンバーを迎え、4ピースバンドとして活動しており、水上の透き通りつつも力強い歌声と、岡田の女性らしからぬ超絶なギターテクニックが特徴で、見た目とは裏腹に、迫力あるライブパフォーマンスで観客を魅了する。女性2人組という部分で“ガールズバンド”と認識されがちだが、パフォーマンスを見れば“ロックバンド”という2人の確固たる意思が感じられる。
 結成直後に新曲「メトロポリタン」のMusic Videoを自主制作で公開し、再アップロードにも関わらず現在50万再生を突破。同年10月4日に新代田FEVERにて“初ライブ”を自主企画で開催し、同日に2曲入りの1st DEMO single「SIKI」を会場限定でリリースし、1,000枚の販売を経て現在は廃盤。その後、murffin discs主催の「murffin discs AUDITION 2018」にて、結成からわずか1ヶ月という異例のスピードで、総勢600組以上の応募の中から準グランプリを獲得。
 勢いをそのままにmurffin discs内に発足した「murffin Lab.」から、2019年4月17日に自身初となる全国流通シングル「nakigao」をリリース。オリコン週間ロック部門で10位を獲得し、各CDショップのバイヤー内で話題を呼んだ。全国デビュー後、初のライブとなったリリースツアー初日の下北沢SHELTERでの自主企画はチケットソールドアウトを記録。さらにレーベルメイト・osageとのツーマンライブで行われたツアーファイナルの渋谷eggman公演も300人を魅了し、チケットソールドアウト。そして、2019年9月18日に6曲入りのファーストミニアルバム「夜のつくり方」をリリース。SUPER BEAVER、sumika、Amelieを輩出したレーベル[NOiD]に土俵を変え、第4弾アーティストとしてリリース。TOWER RECORDSのバイヤーが自信を持ってオススメする“タワレコメン”や、SPACE SHOWER TV ヘビーローテーション「it!」に収録曲「メトロポリタン」が選出されるなど、各媒体からも注目を集める。全国ツアーもツアー初日の下北沢Daisy Barをソールドアウトし、全国各地で新人とは思えない動員を記録し大盛況。ファイナルとなった新代田FEVERもライブ当日を待たずしてソールドアウトを記録。
 ツアー以外にも、FM802主催イベントに多数出演を果たし、ROCK IN JAPAN主催の「JAPAN’S NEXT」のサーキットイベントでは、初出演にも関わらず5階に位置するTSUTAYA O-nestの外階段で1階までの長蛇の列を作るほどの入場規制を記録。
 2020年の年始に発表された日本テレビ「バズリズム」のバズるアーティストでは、12位を獲得した。勢いをそのままに、2020年3月25日に2枚目となる3曲入りシングル「sasayaki」をリリース。日本テレビ「バゲット」のEDテーマ担当や、DAM CHANNEL マンスリープッシュ、MUSIC ON!TV パワープレイなど数多くのタイアップを獲得。そして、結成当初から披露していた楽曲「癖」のMusic Videoの再生回数は、51万回を突破。しかしこのリリースタイミングで、新型コロナウイルスが猛威を振るい、全国ツアーは全公演中止。出演予定だった、自身初出演となるフェス「METROCK 2020」や「百万石音楽祭 2020」も相次いで中止となり、活動自粛を余儀なくされた。10月4日に「春中夢」、2020年10月25日に「ラズベリー」を立て続けに配信リリース。10月24日(土)には『1st Digital Single "春中夢" Release Live』と銘打って、渋谷CLUB QUATTROにてリリースライブを実施しソールドアウト。合わせて自身初となる配信ライブも行った。
 2021年4月7日に約1年半ぶりとなる7曲入りのミニアルバム「黄昏STARSHIP」をリリース。

  • 今回はコンセプトアルバム、ですね。


  • 水上えみり(Vo/Gt)

    「現実逃避」をコンセプトにしています。アルバムのタイトルに通ずる部分で、「黄昏」という言葉の語源は「誰そ彼」、夕方になると人の顔が見えなくなって「あなたは誰ですか?」ということなんですけど、それって実は誰もがそうで、「誰もが誰でもなくなるんじゃないか?」と。そこで誰もが音楽というスターシップ=宇宙船に乗って、どこまでも現実逃避できるような、そんな1枚にしたいなと思いました。
  • 岡田安未(Gt)

    強いアルバムになったなと思います。個人的には『夜のつくり方』より好きだなというか、傑作だなって、鼻高になってしまうんですけど。まるっと全部好きです。
  • 同感です。ギターもすごくかっこいい。好きな人はわかると思うけど、1曲ごとにワウ、ディレイ、コーラスとか、エフェクターを変えてみたりして。
  • 岡田

    そこ、触れてもらえるとうれしいです。逆に「憧れとレモンサワー」はすごいシンプルに、何も色の着いた音を使っていなくて、ほかの曲でどんどん攻めていくというやり方をしました。
  • 水上

    今回は、歌詞もそうですし、1曲にストーリー性がすごくあるんです。アルバム単位というよりは曲単位で、1曲だけ聴いてもストーリーがちゃんとわかるようにアレンジしているので。
  • ちなみに、いちばん古い曲は?
  • 水上

    「連れ去って、サラブレッド」か「B」ですね。
  • 「連れ去って、サラブレッド」は、2019年7月に渋谷eggmanで、osageとのツーマンのときに「新曲です」と言ってやったのを覚えてます。
  • 水上

    じゃあ、そのくらいなのかな。曲のおおもとは2018年の冬、あるいは2019年の頭に作っていましたね。私が「連れ去って、サラブレッド」な時期だったんで(笑)。曲のまんまの出来事が起きていたんです。現実から逃げたいなとか思っていた時期ですね。
  • それは知らなかった。なきごとを結成して、盛り上がってる時期だと思っていたけれど。
  • 水上

    なきごとに対してじゃなくて、自分に対してですね。「もう嫌だなあ」と思っていて、いっそのことどこかに連れていかれたい…というときに書いた曲です。
  • 「B」は、『夜のつくり方』のシークレット・トラックだった曲の再録音。そもそもこの曲、なんでシークレットだったんだろう。
  • 水上

    あのときは、作りたてだったのかな。記憶が……。
  • 岡田

    「B」も2018年の冬か、2019年の頭にはあった気がする。
  • 水上

    (スマホで調べる)あ、2018年10月23日に歌詞を書いてる。じゃあ「連れ去って、サラブレッド」より前なんだ。それをなんでシークレットに入れようと思ったのか……記憶が遠いんですけど。
  • シークレットのときはピアノバージョンで、今回は相当にエモいロックバラード。かっこいい。
  • 岡田

    ローの効いた、いいベースが聴きどころです。ドロップDというチューニングで、ベースの山崎さんが持ってきてくれたのですが、なきごとで初めて用いてもらったので、貴重な曲だと思います。
  • 水上

    「B」は無理心中の曲です。元にあるお話を題材にして、その人の人生ってすごいなと思って書きました。自分は死にたくなるほど人を愛したことはないけれど、その人は本当に愛した人と死のうとして、すごいなと思ったので。その人の感情を昇華してあげられる曲を作れたらいいなと思って書きました。
  • 「憧れとレモンサワー」は、2019年11月、『夜のつくり方』ツアーファイナルで、SAKANAMONをゲストに迎えたライブで初披露した曲ですね。よく覚えてます。「レーベルの新年会で初めて会ったときに飲んでいたのがレモンサワー」と言ってました。
  • 水上

    そうなんです。(藤森)元生さんとその年の新年会でお会いしたときに、レモンサワーを飲みながら、「SAKANAMONの『君の〇〇を××したい』という曲の歌詞にすごく共感するんですよね」という話をして。その頃、自分の中で作曲について整理したい気持ちがあって、いろいろ聞いたんですよ。そしたらいろいろ教えてくれて、「今書きかけの歌詞なんだけど」って見せてくれて、「めっちゃSAKANAMONみたいですね! というか、SAKANAMONか!!」とか言って(笑)。「この状況、高校生のときの自分に教えてあげたい」と思ったりして。その出来事を忘れたくなくて、書いた曲です。
  • しかもその曲に、本人が降臨するということになっちゃいました。ゲストボーカル、藤森元生。
  • 水上

    本当に「憧れと」になってます(笑)。歌入れは別日だったんですけど、憧れが来ちゃいました。レコーディングのときに、いつも譜面台に歌詞を置いてるんですけど、その隣にSAKANAMONのデビュー当時のアー写が置いてあって(笑)。スタッフがわざわざプリントアウトして置いてくれて、その写真を見ながらギター弾きました。
  • 新曲「スプートニクになる」の、ハネるリズムで、軽やかに前進していくみたいな曲調って、今まであんまりなかった気がして。新しく感じました。
  • 水上

    これは、飼っていたハムスターが亡くなってしまって、その一周忌ソングです。自分が前に進めなかった部分があって、今言っていただいたみたいに明るく行進したくて、行進曲っぽくしてみました。私が送り出してあげなきゃダメだし、でも未練がましく「いつでも戻ってきていいよ」という、そんな感じです。
  • ああ、そういう歌詞だったのか……。
  • 水上

    スプートニクは衛星という意味で、衛星が宇宙で壊れてゴミになったときに、地球に戻ってくることがあって、そこで流れ星になるんですよ。そういうイメージも入れて、「スプートニクになる」にしました。
  • 岡田

    曲作りのときに、すごいアバウトな依頼をされたんですよ。ホワイトボードに、兵隊の格好をしたハムスターの絵を描いて、ギター、ドラム、ベースについて、「あなたは空に浮かぶ星で、あなたは風で」とか、情景にたとえてアプローチの依頼をされまして。
  • 水上

    岡田には「あなたは満点の星空で」と言いました。
  • “水上えみりあるある”ですね。具体的な音像ではなく、イメージで伝えるのは。宇宙つながりで言うと、ミュージックビデオが話題になってる「知らない惑星」は、何を考えて作った曲なんだろう。


  • 水上

    これが今回のミニアルバムを作るにあたって、コンセプトを決めるきっかけになった曲です。去年はステイホームで時間がたくさんあって、寝て起きて、を繰り返していて、夢をいっぱい見て、どっちが現実かわからなくなったんですよ。「さっきまでマックにいたのに、あれ?」みたいな。そこで「自分がパラレルワールドにいる可能性があるな」と。「人が見る夢はパラレルワールドの映像である」説があって、それも含めて、ひとつ選択が違えばパラレルワールドに飛んでいく、ということを書きたかったんですね。ひとつ選択が違えばどんな未来が待っているかもわからないから、今の選択を大事にしたいという思いを込めて書きました。
  • 1曲1曲は、ある意味バラバラ。でも通して聴くと、ちゃんとストーリー性が見えてくる。
  • 水上

    曲の流れとして、2曲目「春中夢」が<絶望の春の中見た白昼夢>という歌詞で終わって、次の「知らない惑星」が<目覚ましたら/どこか知らない地球で>で始まるところに、こだわってみたり。


  • 本当だ。今気づいた。
  • 水上

    「ラズベリー」と「春中夢」の配信2曲が頭にあって、寝て、覚めて、「知らない惑星」でどっちが現実かわからない世界へ飛んじゃって、それならいっそのこと「連れ去って」くれと。その先に「憧れ」の存在がいて、幸せになるんですけど、でもやっぱり「スプートニクになる」で大事なものを失って、最後は「B」で落ちていく。でも「B」はバンドアレンジのかっこいい曲なので、結局は「音楽に救われてるな」ということになる――そんな流れです。「スプートニクになる」から「B」の流れは死守したかったんですよ。これを並べないと、聴こえ方として、どっちの曲の意味もぼやけちゃうなと思ったので、そこはこだわりました。


  • すごい納得。なかなか今、アルバムとして流れを作らないというか、聴く側がそういう姿勢ではなくなってきてるけど、これはちゃんとアルバムだなあと思います。
  • 水上

    サブスクで好きな曲をポンと聴く、というのが今の主流だと思うんですけど、そこまで読み解いてもらえたらうれしいです。「知らない惑星」にも通ずる部分だと思うんですけど、一つひとつの選択が重なり合うことによって生まれる力は、すごく大きいと思っていて。たとえば岡田と私が出会ったことも、なきごとのスタッフチームと出会ったことも、こういうふうにインタビューしてもらうのも、一つひとつの選択をしていなかったら、ここに集まることはないじゃないですか。それが必然であっても偶然であっても、私はそれを大事にしたくて。だからこの7曲が『黄昏STARSHIP』というもので良かったなと思います。『黄昏STARSHIP』を作るためにこの7曲があるし、この7曲だから『黄昏STARSHIP』になったんじゃないかなと思います。
  • 納得です。パラレルとか、選択の結果とか、そういうことを考えるのはすごく面白いですよね。
  • 水上

    『ドラえもん』に出てくる例え話なんですけど、たとえば大阪に行こうと思ったときに、飛行機、新幹線、車、深夜バス、いろんな方法があるけど、大阪に行く目的は変わらない。その目的がずれなければ、途中がどうであってもつじつまが合うようにできている、と。たとえば岡田が誰かと結婚するとなったら、その人は実は最初から決まっていて、すべては途中経過であったりとか、そこにたどり着くために操作されるとか……そういうことを考えるのが好きなんです。
  • いいアドバイス、もらいました。
  • 岡田

    今後の恋愛の参考にします(笑)。彼氏ができて、付き合って、別れたとしても、「その過程なんだ」と思えば、「まいっか」と思える(笑)
  • 水上

    本命に出会うための、ね。
  • 岡田

    なるほど。
  • みんなが『黄昏STARSHIP』に乗っているわけだ。運命の人に出会うために。
  • 岡田

    まとめてくれた(笑)。
  • 水上

    そういうことを考えるの、すごい好きなんです。この記事を読んで、同じように思ってくれる人がいたらうれしいです。

【取材・文:宮本英夫】

tag一覧 J-POP ミニアルバム ゆびィンタビュー 女性ボーカル なきごと

リリース情報

黄昏STARSHIP

黄昏STARSHIP

2021年04月07日

[NOiD] / murffin discs

01.ラズベリー
02.春中夢
03.知らない惑星
04.連れ去って、サラブレッド
05.憧れとレモンサワー
06.スプートニクになる
07.B
【初回限定生産盤DVD収録内容】
なきごと 1st Digital Single “春中夢” Release Live
2020年10月24日(土) 渋谷CLUB QUATTRO
01.合鍵
02.セラミックナイト
03.さよならシャンプー
04.ヒロイン
05.連れ去って、サラブレッド
06.忘却炉
07.ユーモラル討論会
08.メトロポリタン
09.ラズベリー
10.のらりくらり
11.癖
12.ドリー
13.春中夢
En1.Oyasumi Tokyo
En2.深夜2時とハイボール

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

2nd mini album “黄昏STARSHIP” Release Tour 2021
05/22(土)愛知 名古屋SPADE BOX
06/17(木)福岡 福岡BEAT STATION
06/18(金)広島 広島CLUB QUATTRO
06/25(金)大阪 心斎橋club JANUS
07/22(木・祝)東京 渋谷CLUB QUATTRO

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る