今こそ振り返るなきごとの2年、そして新曲「春中夢」「ラズベリー」の真意に迫る

ゆびィンタビュー | 2020.11.06

 結成2周年を迎えたなきごとが、2ヵ月連続デジタル配信リリースという初の試みにトライしている。10月4日リリースの「春中夢」は、静けさと激しさの共存するエモーショナルなスローチューンで、10月25日リリースの「ラズベリー」は、豪快なギターリフがリードする躍動感いっぱいのロックチューン。表情はまるで異なるが、どちらも“コロナ禍”というキーワードのもとに作られたいわば姉妹曲で、2020年春夏のリアルな感情を閉じ込めたものとして、聴けば聴くほど味わいが深くなる。今なぜこの2曲なのか? 水上えみり(Vo/Gt)と岡田安未(Gt)の胸のうちを訊いてみよう。
(取材日:10月中旬)

PROFILE

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なきごと


 2018年9月にボーカル&ギターの水上えみりと、ギター&コーラスの岡田安未の2人で結成した平均年齢22歳の東京出身2人組ロックバンド。ライブはサポートメンバーを迎え、4ピースバンドとして活動しており、水上の透き通りつつも力強い歌声と、岡田の女性らしからぬ超絶なギターテクニックが特徴で、見た目とは裏腹に、迫力あるライブパフォーマンスで観客を魅了する。女性2人組という部分で“ガールズバンド”と認識されがちだが、パフォーマンスを見れば“ロックバンド”という2人の確固たる意思が感じられる。
 結成直後に新曲「メトロポリタン」のMusic Videoを自主制作で公開し、再アップロードにも関わらず現在50万再生を突破。同年10月4日に新代田FEVERにて“初ライブ”を自主企画で開催し、同日に2曲入りの1st DEMO single「SIKI」を会場限定でリリースし、1,000枚の販売を経て現在は廃盤。その後、murffin discs主催の「murffin discs AUDITION 2018」にて、結成からわずか1ヶ月という異例のスピードで、総勢600組以上の応募の中から準グランプリを獲得。勢いをそのままにmurffin discs内に発足した「murffin Lab.」から、2019年4月17日に自身初となる全国流通シングル「nakigao」をリリース。オリコン週間ロック部門で10位を獲得し、各CDショップのバイヤー内で話題を呼んだ。全国デビュー後、初のライブとなったリリースツアー初日の下北沢SHELTERでの自主企画はチケットソールドアウトを記録。さらにレーベルメイト・osageとのツーマンライブで行われたツアーファイナルの渋谷eggman公演も300人を魅了し、チケットソールドアウト。そして、2019年9月18日に6曲入りのファーストミニアルバム「夜のつくり方」をリリース。SUPER BEAVER、sumika、Amelieを輩出したレーベル[NOiD]に土俵を変え、第4弾アーティストとしてリリース。TOWER RECORDSのバイヤーが自信を持ってオススメする“タワレコメン”や、SPACE SHOWER TV ヘビーローテーション「it!」に収録曲「メトロポリタン」が選出されるなど、各媒体からも注目を集める。全国ツアーもツアー初日の下北沢Daisy Barをソールドアウトし、全国各地で新人とは思えない動員を記録し大盛況。ファイナルとなった新代田FEVERもライブ当日を待たずしてソールドアウトを記録。
 ツアー以外にも、FM802主催イベントに多数出演を果たし、ROCK IN JAPAN主催の「JAPAN’S NEXT」のサーキットイベントでは、初出演にも関わらず5階に位置するTSUTAYA O-nestの外階段で1階までの長蛇の列を作るほどの入場規制を記録。
 2020年の年始に発表された日本テレビ「バズリズム」のバズるアーティストでは、12位を獲得した。勢いをそのままに、2020年3月25日に2枚目となる3曲入りシングル「sasayaki」をリリース。日本テレビ「バゲット」のEDテーマ担当や、DAM CHANNEL マンスリープッシュ、MUSIC ON!TV パワープレイなど数多くのタイアップを獲得。そして、結成当初から披露していた楽曲「癖」のMusic Videoの再生回数は、51万回を突破。
 しかしこのリリースタイミングで、新型コロナウイルスが猛威を振るい、全国ツアーは全公演中止。出演予定だった、自身初出演となるフェス「METROCK 2020」や「百万石音楽祭 2020」も相次いで中止となり、活動自粛を余儀なくされた。今回の配信リリースとなる「春中夢」は、コロナ禍の中でSNSを賑わせた[歌つなぎ]で出来た新曲。先の見えない状況の中で、なきごとは前だけを向いて、振り返ることなく突き進んでいく。

  • 2018年10月4日の初ライブから、ちょうど2年。2周年おめでとうございます。
  • 水上

    ありがとうございます。あっという間だったんですけど、それ以上に内容の濃い活動ができたと思うので、「もう2年か」と「まだ2年か」のどっちもあります。
  • 岡田

    早かったけど、一つひとつの出来事をつい先日のように鮮明に覚えているという感じです。

  • えみりちゃんの、最も記憶に残るシーンというと?
  • 水上

    いろいろ覚えていますけど、やっぱり前回のツアーファイナル、SAKANAMONとのツーマンで、「マジックアワー」の最後の部分を「愛してるぜ、なきごと!」に替えて歌ってもらったことと、「メトロポリタン」のカバーをしてもらったことは、めちゃくちゃ泣いちゃいました。ずっとイヤホン越しに聴いていた人が、自分のバンドの名前を呼んで、自分が作った曲を歌っていることに感動しました。


  • いい話。安未ちゃんの、2年間のベストうれしいシーン大賞は?
  • 岡田

    ……ないかもしれない。
  • 水上

    えー!(笑)。
  • 岡田

    うれしいポイントはたくさんあるんですけど、飛び抜けてこれですというものはないかな。例えで言うと、私は食べ物の好き嫌いがなくて、飛び抜けて何が好きということがないんですよ。そういう感じ。
  • 水上

    直近だと何かある?
  • 岡田

    直近だと……FM802のばんちゃんさん(板東さえか)っていうパーソナリティーの方がいて、その番組で「春中夢」を初オンエアしたんですけど、「なきごとはいいね。えみりちゃんの歌声も歌詞もすごい落ち着くし、何より安未ちゃんのギターがいいね」と言ってくれて、その言い方がすごくうれしかったです。「こもってるな」という感じで。
  • それもいい話。そして、1stミニアルバム『夜のつくり方』からはちょうど1年経ちました。あの作品を今振り返ると?

  • 水上

    すごくいいCDだと思っています(笑)。最近CDプレイヤーを買い替えて、自分のCDを一番最初に聴きたくて、『夜のつくり方』を聴いてみたら、最高にいいCDだなと思いました。
  • 岡田

    私は、Apple Musicの「2020年に一番聴いた曲ランキング」で、1位から8位までがなきごとの曲で、すごい恥ずかしかった(笑)。
  • 水上

    なきごと大好きじゃん。
  • 自分のバンドの曲が大好きって最高じゃないですか。じゃあ次の作品は、『夜のつくり方』を超えなくちゃ。
  • 水上

    超えないといけないですね。
  • 岡田

    超えそうだなと思っています。
  • 水上

    頑張ろ!
  • そして今年は、コロナのせいでツアーが中止になったりして、大変な年になってしまっていますが。

  • 岡田

    コロナがなければ、その時期にレコーディングするはずだったんですよ。
  • 水上

    そして8月からツアーを回ろうみたいな。
  • 岡田

    本来であれば、今回のリリースのタイミングで、次のリリースの発表もしていたはずなので。
  • スケジュールがずれ込んじゃったんですね。その、バンド活動が止まってしまったステイホーム期間中は、どんな気持ちで過ごしていました?
  • 水上

    そのときの気持ちだけ切り取ると、言葉にするのが野暮なくらい、いろいろ抱え込んでいたなと思います。ツアーがなくなってしまったこともそうだし、すごく楽しみにしていたイベントがことごとくなくなって、受け止めきれないぐらい落ち込んでいましたね。情報過多というか、何が本当で何が嘘なのかが混在していて、明日何をしていいのかすらわからない状態だったと思います。
  • そこから気持ちを切り替えて、上がっていくきっかけはあったんですか。
  • 水上

    きっかけは、岡田が「リモートで曲を作ろうよ」と言い出して。それまで「自分はバンドマンじゃないんじゃないか?」と思うぐらい、強制的に音楽と隔離されていたんですけど、そう言われたときに「私、バンドマンだった」ってハッとして、そこらへんでスイッチが入って、いろいろ曲を作り出しましたね。必要最低限の宅録ができるように、機材を買ったりとかしてました。
  • 安未ちゃん、ナイスアドバイス。
  • 岡田

    私もバンドマンの火が消えていたので。「一緒に火種を起こそうよ」と思って、“わしゃわしゃ!”って。
  • 今の手つき、原始人的な(笑)。
  • 岡田

    今、キャンプが流行っているじゃないですか。火打石で火を起こすやつ。
  • 水上

    だいぶアナログなんです(笑)。
  • 10月4日に配信リリースされた「春中夢」は、あの時期に流行っていた「歌つなぎ」がきっかけになったと聞いていますけれども。

  • 水上

    そうですね。歌つなぎが流行ったのが4月だったんですけど、私は友達が少なくて、回ってきたのがかなり後半で(笑)。ちょうどその時期に「リモートで曲を作ろう」という話になったので、なきごととしては岡田の言葉が大きくて、水上えみりとしては歌つなぎのきっかけが大きくて、という感じですね。
  • 「春中夢」は、歌つなぎが回ってきたときに、すぐに思いついた曲ですか。
  • 水上

    そうですね。ぼんやり窓から外を眺めている時間が多くて、そういうときにふっと頭の中から出てきた感情を、そのまま書き起こした感じです。全体的に、感情を比喩で話している部分が多いですけど、パッと見たときに情景が浮かびやすい曲だと思います。
  • あの時期に誰もが感じていた、もやもやとした感覚がそのまま描かれていると思います。
  • 水上

    ちょっとずつそこから抜け出していって、光は見えているんだけどまだここにいる、みたいな感じだと思います。歌詞のとおりなんですけど、<止まない雨はない><明けない夜はない>とか、そういうポジティブな言葉よりも、自分が雨の中にいるときのほうが大事な時間だったりするよな、って。そのときはどうしようもないぐらい落ち込んでいるけど、春が来たら、春が来たことすら忘れてしまうなと思って。でもそれを忘れたくないから、その気持ちをここに置いて、これ以降はコロナ関係の話はあまりしないようにしようという感じです。
  • ああ、なるほど。しっかりと曲に閉じ込めて、封をする。そして前に進む。
  • 水上

    そうです。歌詞の全体にコロナのことが散りばめられていると思います。今思うと、病みすぎてるなぁとも思うんですけど、みんな被害者なのに自分が一番の被害者みたいに思い込んでいたところがあって。そのなかで明るいことを歌ってくれる人の大切さも今はすごくわかるし、という気持ちです。
  • 安未ちゃんは、「春中夢」について。
  • 岡田

    音的には優しいんですけど、歌っていることははっきり意志を持って伝えに行っている印象があります。
  • この曲はアレンジが面白くて、ギターの音が左右のチャンネルにパンしたり、リズムが急に途切れてブレイクしたり、最後のほうでリズムが変わって激しくなったり。たぶん歌詞のストーリーに沿って、えみりちゃんが指示したのかな?とか思ったんですよね。いわゆる「えみり語」で。
  • 水上

    いや、今回はわかりやすかったと思いますよ。
  • 岡田

    え、あったでしょ。「23歳のつもりで」って。それは「ラズベリー」だっけ。
  • 水上

    あぁ、そうそう(笑)。
  • なんですかそれ。23歳って。
  • 水上

    「ラズベリー」の、最後のほうのカオスになるところ、サポートドラムのよっち(河村吉宏)さんに「もし23歳だったらこう叩く、というフィルを叩いてください」と言って、ちょっと困りながらやってもらったんですけど。1回叩いてもらって、「それは18歳ぐらいなんで、もうちょっと成長した感じで」とか、すごく失礼なんですけど(笑)。
  • 面白い(笑)。23歳というのはつまり、ふたりと同じ年齢に合わせてほしいということ?
  • 水上

    そうです。年齢差があるから面白いこともあるんですけど、よっちさんが23歳だったらどんなフィルを叩くのかな?と思ったので。それを意識してもう1回「ラズベリー」を聴いてみると、「あぁ、23歳だ」って思います。
  • 「ラズベリー」の話はまたあとでします(笑)。じゃあ「春中夢」には、そういう特別な指示はなかった?
  • 水上

    そうですね。楽曲的な指示というよりは、ストーリー的にお昼寝をイメージした楽曲なので、「保育園のお昼寝の時間に、ぼんやりと上を見て、カーテンからの木漏れ日がふわーっとなっていて、というサウンドを意識してください」という感じで。
  • 結構言ってるじゃないですか(笑)。
  • 水上

    ギターはキラキラした光の感じで、ベースは扇風機のぬるい風みたいで、ドラムはおふとんみたいに包まれる感じで……。
  • 岡田

    要は、いつもどおりの無茶ぶりです。
  • 水上

    今回はわかりやすいかな?と思ったんだけど(笑)。
  • 岡田

    でも、みんな体験したことのある情景を例えで言ってくれたから。
  • 感情と演奏がくっついてて、情景が浮かぶ曲だと思います。そして10月25日に配信リリースされるのが「ラズベリー」。この曲はどんなふうに?
  • 水上

    最初は2曲入りのシングルにする話もあったんですけど、この時期にリリースする曲がもう1曲欲しくて、それで作った曲です。「razbliuto」という言葉があって、日本語にはできない言葉なんですけど、読み方がわからないから「ラズベリー」にして、花言葉を調べたら「後悔」「嫉妬」が出てきて、それと絡めて書こうと思いました。
  • 謎の言葉から曲が出来たと。
  • 水上

    そうです。razbliutoは、「あなたがかつて愛していた(今はそうではない)人へ抱く感傷的な気持ち」という意味らしいです。
  • 岡田

    情っていうこと?
  • 水上

    情ではあるのかもしれない。感傷的な、エモーショナルな気持ちを書き起こしたいなと思って。もうあなたとの関係を振り返ることはないけど、やっぱりあの時間は大切だったな、ということを歌っています。そこにも少しコロナのことを含めていて、<身に纏うには暑すぎて>はマスクのことだったり、最後の<粉かぶるノートに殴り綴った 秘密の言葉を>も、「塵かぶる」にしようかとも思ったんですけど、「コロナ禍」という音をサブリミナル的な感じで入れてみました。なんで<粉かぶる>なんだろう?って、何年後かに気になってくれる人がいいなと思いながら。
  • ほかに、歌詞を文字で読まないとわからないけれど、<宝物>と書いて「ごみのやま」と歌ったり、<塵山>と書いて「たからもの」と歌ったり。凝ってますよね。
  • 水上

    人にとってはゴミでも、自分の中では宝物だったり、逆のパターンもあるし、その人にしかそのものの価値はわからないよということを、揶揄しているんですけど。あの時期、音楽に限らず娯楽系のものが不用品みたいな扱いを受けていたなって、そういう思いも絡めながら書きました。
  • 岡田

    メロディだけを聴いた印象は、青春系の漫画の主題歌にありそうだなと思いました。そこからだんだん歌詞が頭に入ってきて、「これはそんな爽やかなものじゃねえぞ」と。
  • 水上

    甘酸っぱいというよりは、渋酸っぱいみたいな。
  • そして最初に言ったように、ドラムは“23歳のフィル”が聴きどころ。今日話を聞いてわかったのは、「ラズベリー」と「春中夢」は全然曲調は違うけれど、コロナ禍で感じたことを書いたという意味ではすごくつながっている2曲だということで。
  • 水上

    そうですね。「ラズベリー」も春から初夏にかけてのものなので、「春中夢」と並べて、「これだな」と思いました。
  • いろいろあったけれど、今は音楽を作る人として、心は健康ですか。
  • 水上

    わりと健康になりました。それまでは、曲を作ってリリースして、せかせかしていたんですけど、一旦お休みして、夏休みが終わって9月から新学期みたいな気持ちになれたので、心も体も健康に近づいたなと思います。もともと人混みが嫌いなので、過ごしやすいです。ソーシャル・ディスタンスが。
  • 岡田

    なきごとは、「疲れ切った日常にほんの少しのなきごとを」というコンセプトをもとにやっているんですけど、これじゃあ自分たちが「疲れ切った日常にほんの少しのなきごとを」だなと、コロナになる前は思っていたので。それがコロナのお休みで、ふっと一息つけた感じです。
  • 10月24日には、渋谷CLUB QUATTROで久しぶりの有観客ライブをやります。対バンはthe quiet room。
  • 水上

    中学のときから聴いていたバンドなので、また泣いちゃいそう(笑)。涙腺の準備はばっちりです。ずっと好きで、ライブも見て、グッズも買ってたし、「いいんですか?」っていう感じ。着々と、好きなバンドをコンプリートさせてもらっていて、逆にすいませんという感じです。
  • 岡田

    最後はスピッツだね。
  • 水上

    ヤバい! それはちょっとヤバい!
  • 11月7日には、その日のライブを再構成した配信もやります。
  • 水上

    ライブを見に来てくれた人も、配信を観て「これはこうだったんだ」と思ってくれたらうれしいです。2度おいしいものになると思います。

【取材・文:宮本英夫】

tag一覧 シングル ゆびィンタビュー 女性ボーカル なきごと

リリース情報

Degital Single「ラズベリー」

Degital Single「ラズベリー」

2020年10月25日

[NOiD] / murffin discs

01.ラズベリー

リリース情報

Degital Single「春中夢」

Degital Single「春中夢」

2020年10月04日

[NOiD] / murffin discs

01.春中夢

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

なきごと 1st Digital Single “春中夢”
Release Live

11/07(土)20:00~配信
※11/08(日)23:59までアーカイブ配信あり。

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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