誰も真似できないレベルへ上昇を続ける、藤井フミヤ、真のパフォーマー・スピリット
藤井フミヤ | 2011.03.16
藤井フミヤのライブにはいくつかのスタイルがあ る。まずひとつは、クラブ・ミュージックの要素を大きく取り入れて、徹底的にオーディエンスと踊るタイプのショーである。もうひとつは、 コーラスやストリングスをフィーチャーして、じっくり聴かせるタイプのエンターテイメントだ。その他、このふたつをミックスしたものや、10年間続いた“大晦日の武道館ライブ”など、バリエーションは多い。が、今回の“Sweet Groove”は、今までのどのツアーとも違うテイストがあった。
開場時に流れているBGMが、めちゃカッコいい。サックスをフィーチャーしたインスト・ミュー ジックで、ジャズやロックやR&Bを絶妙にブレンドした“不良で大人”な音楽だ。これを演奏しているのは “SLUG&SALT”というグループ。メンバーは屋敷豪太(dr)、有賀啓雄(b)、松本圭司(key)、藤井尚之 (sax)で、ライブやスタジオで大活躍しながらも、強烈な個性を持つミュージシャンが顔を揃えている。そして “Sweet Groove”は、フミヤが“SLUG&SALT”とでしか実現できない音楽に挑むというテーマが掲げられている。
黒のタートルネックにダークスーツ姿でメンバーがステージに現われ、続いてフミヤが深紅のシャツにグレーのスーツで決めて登場。屋敷がシンバル で4ビートを叩き、フミヤが大ヒット曲「女神(エロス)」をジャズのグルーブで歌い始めると、スリリングなライブがスタートした。
リズムも和音も、いつもと明らかに違う。歌のバックで鳴る和音に関しては、奥が深い複雑な響きが充満している。ボーカリストは、その複雑さを感じながら歌わねばならない。そうすると、いつも以上に繊細な感情を歌に込めることができる。フミヤはそんな“大人の世界”に堂々と 足を踏み入れ、この曲のセクシーさを見事に引き出すことに成功。
またリズムに関 しても、“SLUG&SALT”はいわゆる“横ノリ”が得意。フミヤはバラード・シンガーとして愛されているが、一方でチェッカーズ以来、ダンス・パフォーマンスの名手として君臨してきた。そのフミヤが全力を挙げてバ ンドの出す横ノリ・ビートを体で表現する。おそらくジャズのリズムをここまでポップに表現できるのは、今の日本ではフミヤひとりだろう。ヒップホップともハウスとも違うダンスの美が、そこにあった。
続く「ONE NIGHT GIGOLO」はロックとジャズの初期の融合リズムである“シェイク”。屋敷&有賀という最強のリズム・セクションが繰り出すグルーブに、フミヤの歌も踊りもシンクロする。特にポケットチーフを小道具に使ったダンスが凄かった。3曲目の「罪滅星」は、斉藤和義が提供したユニークなラブソング。これも超高速のジャズ・ビートで、しっかり決める。このアタマ3曲のブロックで、このライブがショーアップされた“レビュー”というスタイルであることが、即座に伝わってきた。
「今日が最終日と いうことで、完全に出来上がった“Sweet Groove”へ、ようこそ。っていうか、ライブはいくらやっても完成はしないんで。人生みたいに、どこで終わっても、それはそれ(笑)。今回は、“SLUG&SALT”のアレンジと演奏でやるとどうなるのかがテーマ。2階の端っこのキミの心にも届くように、盛り上がって行こうぜぃ!」。
そう、このツアーはニューアルバムを引っさげたものではなく、“SLUG&SALT”が奏でるスイートなグルーブがフミヤの音楽からどんな魅力を引き出すのかを楽しんでもらおうというもの。その意味でも、最初の3曲の印象は強烈だった。また、フミヤの言うように、それはツアーを重ねながら成熟してきたものなのだ。
以降、レゲエ・グルーブにリアレンジされた「INSIDE」、アコースティック・ギターを活かした「Another Orion」、尚之のソプラノサックスが際立つ”鉄腕アトム”に捧げたワルツ「BOY’S HEART」など、フミヤならではのレビューが進んでいく。どの曲にもボーカリストとして正面から挑み、インスピレーションに富んだバックの演奏の力を得て、オーディエンスのハートを芯から熱くさせていく。
ピークは「嵐の海」だった。奥田民生が提供したロッカバラードをフミヤが熱唱すれば、“SLUG&SALT”もそれに応えてこの夜最大の音圧で会場全体を鳴らす。その圧倒的なサウンドに、フミヤはマウスハープ(ハーモニカ)1本で鋭く切り込 んでいく。さらには、80年代から連綿と進化してきたダンスの粋をすべて集めた身体表現で、フミヤのすべてが音楽と一体になったシーンは本当に感動的だった。
「人生、いろいろ 考えることがあるけど、ひとつ分かったのは、『藤井フミヤは、藤井フミヤをまっとうすればいいんだ』っていうこと」というMCを、まさに体現したファイナルだった。
30年になろうとするキャリアを持っているのに、この時点でフミヤのパフォーマンスのレベルが格段に上がっている。自分をまっとうするという宣言の中身は、エンターテイナーとしての飽くなき向上心なのだ。今回のツアーは終了したが、機会があれば現時点でのフミヤのライブをぜひ見てほしい。
【 取材・文:平山雄一 】
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リリース情報
セットリスト
- 女神(エロス)
- ONE NIGHT GIGOLO
- 罪滅星
- SEVEN WONDERS
- INSIDE
- Moonlight magic
- Endless Snow
- Snow Crystal
- Another Orion
- BOY’S HEART
- 大切な人へ
- トワイライト
- TRUE LOVE
- 嵐の海
- キメゼリフ
- NANA
- JOIN TOGETHER
- エンジェル Encore
- ひとみ
- 今、君に言っておこう
- Blue Moon Stone