2種の違ったアイデンティティが会場を魅了した、長澤とスガの競演!!
長澤知之 | 2011.04.06
アコースティックギター1本で伝えようが、バンド編成でパワフルに迫ろうが、長澤知之の魅力は、ちょっとハイトーンな歌声から放たれる、市井の人たちの裏も表も描く物語性と、その向こうに窺える背景や生活感だったりする。なので、彼の歌はドキッとするし、ズキンとくるし、グサッとなるし、チクンとする。そして、時にそれは、愛おしさや、美しさや、狂おしさとなり、共有の喜びとして我々に伝えられる。
この日の彼のライブも、前半のアコースティックスタイル、後半のバンドスタイルと、演奏メゾッドは異なれど、それぞれに長澤が描くところの、市井の人=いつかの自分や、いつの日にかの自分を会場いっぱいに放っていった。
この日は、長澤の主催イベント「ライド」。毎回彼所縁のバンド/アーティストを迎え行うライブイベントだ。その5回目に当たる今回の会場は恵比寿LIQUIDROOM。共演者は「オフィスオーガスタ(2人が所属する音楽事務所)の中で最も長澤のことを可愛がっている」と自称するスガ シカオだ。
この日のイベントは3部構成。1部が長澤のアコギ1本による弾き語り、2部がアコギ+エフェクター類を加えた、スガ シカオの弾き語り、そして第3部は、長澤がバンドを率いてのスタイルにて挑まれた。
まずはステージ中央にアコギ1本を持ち、長澤が登場。手拍子の中、デリケートなギターストロークに乗せ、「ねぇ、アリス」を歌い出す。そして、曲に込められた感情の起伏をトリッキーなギターカッティングで表わし、ファルセットを交えながら歌った「植木鉢」、4/6発売のファーストアルバム『JUNKLIFE』から「俺はグビ」を、アグレッシヴなギターカッティングに乗せ、痛々しくも勢い溢れるスタイルにて歌唱。この「俺はグビ」では、ギターのピックアップの調子が悪かったのか?途中音が途切れ、飾りと化したギターを背中に回し、会場の手拍子と歌のみでつなぎ、それが逆に会場に興奮感を生む。ライブは持ち直されるどころか、火に油を注ぐかのような盛り上がりに発展した。
続いて、これまたアコギ1本を持ちスガがステージに登場。奇しくも、この日はデビュー14周年の記念日。それを祝う言葉がフロアのあちこちから、ステージに向けられると、「こんな記念の日に、出来の悪い後輩に誘われちゃってさ(笑)」と語りつつも、その表情は嬉しそう。そのデビュー曲である「ヒットチャートをかけぬけろ」を弾き語り始める。固めのアコギの音がファンキーなカッティングと相交わり、会場に煽り気味な興奮感を生み出す。「花粉症なので、いつもよりデカい声で歌うよ」とスガ。続いて、セクシーで艶めかしい雰囲気で場内を満たした「19才」、会場全体を惹き込むように聴き入らせた「ひとりぼっち」、原曲とは違ったスタイルでよりダイレクトに響いた「サヨナラホームラン」、発売されたばかりの新曲「約束」や、1人サンプリングでビートやエレクトロなウワモノのループ作り出し、スガの歌がステージもフロアも一体にした「午後のパレード」を歌う。
アコギ1本でも充分に変わらないノリや演出が出来ることを、あえて立証するかのようなステージであった。
続いてはリードギター、ベース&シンセ、ドラムを従え、長澤が再びステージに。先程とは打って変わり、オルタナで先鋭性のあるサウンドと歌とが会場を支配する。「ファッキングレイト、よろしく」とは最初の長澤の会場への挨拶。それを呼び声に、フィードバッグノイズの中はじまった、オルタナ感バリバリな「片思い」が場内に襲いかかる。途中からのテンポアップには場内も熱狂。先程の一人弾き語りと違い、なんだか強い味方を得、100人力のようにイキイキとしたステージングを見せる。続いてシンセベースを交え、妙なサイケ感とイキそうでイカない上昇感も印象的だった「ラヴソング」、痛々しく、誰にでも思い当たるグサッとくるフレーズが会場を刺した「左巻きのゼンマイ」が歌われる。
前述したが、4月6日にはファーストアルバム『JUNKLIFE』をリリースする長澤。この日は一足早く、その中から彼のレパートリーの中でも最速であろう疾走感溢れる「MEDAMAYAKI」、勢いや熱量を持ちながらも変拍子や変態性たっぷりの「THE ROLE」、ニューアルバムのタイトル曲「JUNKLIFE」が連続でプレイされる。続いて、ジワジワとした広がりがたまらない「24時のランドリー」、日昇感を有した「茜ヶ空」、韻を踏んだ歌詞も印象的な「明日のラストナイト」、そして、モータードライブ感溢れる「零」の10曲が会場を支配。彼らがステージを後にしたのちには会場に"凄かった!"の印象が残された。
アンコールではスガが呼び込まれ、スガの「あまい果実」を共演。1番を長澤、2番をスガが歌いつつ、サビでのハモリやユニゾンが私を含めた会場を魅了する。そして、スガがはけ、長澤とバンドとで、彼のデビュー曲「僕らの輝き」が鳴らされる。なんだか遠くの輝く星を一緒に見ているような雰囲気が会場に満ち、ラストは神々しい光が我々を包んでいく。
ダブルアンコールでは、再びスガも登場。2人により「真夜中のミッドナイト」が放たれる。長澤とスガのアコギのツインギターと、サビの部分ではフロアもクラップで呼応。スガもアコギにディスト―ションを効かせたギターソロをプレイ。合間合間に見せる2人の力強いストロークは、まるで真夜中を切り裂いていくようであった。
同じ事務所内でも違ったスタイルながら、どこか共通項を感じる、長澤とスガ。ライヴを観ている最中に、それが何なのか?をずっと探っていたのだが、ライヴが終わり、ようやくそれが見つかった。それは、各々が放つ、”自分は自分というアイデンティティ”。片や確固たるものを持ち、それを音楽から滲みださせるスガと、未だそれを探し、探り、手にしたそれと思しきものを”これか?””これなのか?”と、あえて音と歌に乗せ、放ち、問いかけてくる長澤。長澤よ、いつまでも、その都度その手にしたものを放ち、突きつけ、叩きつけてくれ。それは時に、それを待っている者たちの糧になるのだから…。と心から思った1夜であった。
【 取材・文:池田スカオ和宏 】
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リリース情報
セットリスト
長澤知之(弾き語り)
- ねぇ、アリス
- 植木鉢
- 俺はグビ
スガ シカオ(弾き語り)
- ヒットチャートをかけぬけろ
- 19才
- ひとりぼっち
- お別れにむけて
- サヨナラホームラン
- 雨あがりの朝に
- 約束
- 午後のパレード
長澤知之(バンド)
- 片思い
- ラブソング
- 左巻きのゼンマイ
- MEDAMAYAKI
- THE ROLE
- JUNKLIFE
- 24時のランドリー
- 茜ヶ空
- 明日のラストナイト
- 零
- あまい果実/長澤知之+スガ シカオ
- 僕らの輝き/長澤知之 Encore1
- 真夜中のミッドナイト/長澤知之+スガ シカオ